■北から南から 北の便り (12)(北海道)     南 忠男

町づくりに参加する子どもたち

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 子どもをめぐる問題はますます深刻になってきている。いじめや不登校など教
育現場の問題、凶悪犯罪から子どもを守る環境の問題等々、山積する具体的問題
に対して政府は全く無策であるばかりか、教育基本法の改正の提案に見られるよ
うな、とんでもない道を歩もうとしている。教育の憲法と言われる教育基本法の
改正問題は、憲法の改悪と同根であり、許してはならないことである。

 1999年成立の国旗国歌法の審議の際の論議で政府は「児童、生徒の内心にま
で立ち入って強制しない」と言明していたにもかかわらず、学校の現場では事実
上の強制がすすみ、大きな混乱を招いている。今回の教育基本法の改正案で問題
になっている「愛国心」「郷土愛」「公共の精神」の問題は、「国旗・国歌」の問
題と同じく法で縛ることのできない人間の内面を法で縛ろうとする、民主主義を
否定する、明治憲法への回帰である。

 郷土を愛する心、公共の精神などは、外から強制される問題ではなく、内発的
な心から必然的に育まれる問題である。
 そもそも、「公共」とは何か?市民が集まって「公」をつくる~「市民的公共」
~があってはじめて、公共の精神が生まれる。換言すれば、住民自治の土台の上
にはじめて公共の精神が生まれるものだと思う。
 
 標題の「町づくりに参加する子どもたち」は、北海道の奈井江町の取り組みの
事例紹介である。郷土を愛する心、公共の精神は外から強制される問題ではなく、
内発的な心から必然的に育まれるものとしての実践例として紹介するものであ
る。
 
 奈井江町は、北海道空知地方の中心部に位置する(高速自動車道で札幌市まで
68キロ、旭川市まで68,8キロ)。06年3月末の人口6,926人。かつて、石炭鉱業の
盛んな折には、「奈井江炭鉱~三井系」で栄え、当時は1万8千5百の人口を擁
していたが、石炭の没落ともに過疎化がすすみ、現在は農業・水田を主産業とし
つつも、メロンその他の特産物で多角経営をめざしている。
 
 奈井江町は、町長 北良治氏のリーダーシップのもと、「子どもの権利に関す
る条例(02年4月1日施行)」「奈井江町まちづくり基本条例(05年4月1日施
行)」や、合併問題に関する住民投票の実施など、全国に話題を発信している。
 「奈井江町まちづくり基本条例」は住民自治を基調にし、奈井江町の最高規範
(町の憲法)と位置づけ、北海道では、ニセコ町のそれと並んで大変ユニークな
内容となっている。
 
 「子どもの権利に関する条例」では子どもの権利を、生きる権利・育つ権利・
守られる権利・参加する権利とし、参加する権利は「町づくりへの参加」である。
大人たちの町民参加の組織として「まちづくり町民委員会」があるが、子どもた
ちにも、「子ども会議」を常設機関として組織している。この「子ども会議」の
メンバーは公募で行われ、小学5年生から高校生まで自由参加となっている。子
ども会議には町長も参加して子どもの自由な意見に耳を傾けている。
 
 子どもの意見は、最近の事例として「町村合併問題で」いかんなく発揮された。
この合併問題は、情報提供、住民協議、住民意向調査、住民投票と段階を踏んで
行われたが、情報提供では、小・中学生、高校生用にそれぞれ特別のものが作成
され全校の児童生徒にわかりやすい内容のものが配布された。また、11の地域
で住民説明会が行われたが、子どもたちには小・中・高校の学校毎に開催され、
全ての学校に町長が参加して説明が行われている。
 
 町村合併問題に関する「町民懇談会」が設置されたが、地域住民組織の代表各
2名、小・中・高校各校の代表各2名で構成され、24名中なんと8名の児童生
徒が参加している。
 
 住民投票でも児童生徒に投票の門戸が開かれた。03年10月に実施された「合
併の是非を問う」住民投票は地方自治法の規定に準拠した住民投票であったが、
これとは別に子ども投票も行っている。
 5年生以上の小学生、中学生、高校生及び20歳未満の者を対象にした住民投
票である。つまり、住民で満10歳以上の公職選挙法上の選挙権をもたない年代
層を対象にしたものである。
 
 住民投票の結果は次のようになっている。
 
 大人(満20歳以上・公職選挙法上の有権者)の部
 投票資格者数       6,109
 投 票 率        73,01%
 合併しない        3,258(73,05%)
 合併する         1,168(26,19%)
 無効等           34(0,76%)
 
 子どもの部(満10歳以上20歳未満)
 投票資格者数         516
 投 票 率         87,21%
 合併しない        378(84,00%)
 合併する         71(15,78%)    
 無効等           1(0,22%)
 
 町はこの住民投票の結果を尊重し、かつ子ども投票の結果を参考に
して、合併ノー、自立の追及に邁進している。同時に奈井江町は、単
に合併反対だけではなく町の行政改革を積極的に取り組んでいる。と
くに奈井江町の北町長が周辺市町村によびかけて取り組んでいるのが
「広域連合」である。これは先の地方自治法の大改正で制度化された
もので、複数の自治体が集まって広域連合を組織し自治体の特定の事
務を協同ですすめようと言うものである。
 
 北町長のリーダーシップで結成された「空知中部広域連合」は1市5町が参加
し、介護保険制度の諸事務を協同ですすめているが、将来は国民健康保険事務も
併せて取り扱いたいと言う構想をもっている。参加自治体の個性と自治を堅持し
ながら、機械的事務は協同化によりスケールメリットを追求しようと言うもので
ある。
 
 さて、話は元に戻るが、紹介した奈井江町の実例のように、子どもの権利を
守ることを町政の基本にすえ、町づくりへの参加の機会が開かれることによっ
てはじめて、子どもの心に郷土愛が育まれ、川や公園のゴミ拾いに自発的に参
加し、町を綺麗にする運動から自然保護など地球規模での課題への取り組みに
発展することになる。またこのような取り組みと発想は地方自治のなかではじ
めて生まれるものである。(筆者は旭川市在住・元旭川大学非常勤講師)