■ 海外論潮短評【番外編】            初岡 昌一郎

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 エコノミスト誌8月1日号が、社会主義インター(SI)が7月にギリシャで開
催した世界大会を論評しているので、以下に紹介する。西欧社会民主主義のアキ
レス腱は目指す所得の公正再分配がパイの拡大期には比較的に容易だが、現下の
ような不況期に困難となるので、経済成長を保守党と競う傾向にあることであろ
う。これが第三の道とか、ブレア路線といわれるものの正体だ。この路線は現在
困難に逢着しており、従来の支持基盤からも疑問を投げかけられて支持を失って
いる。また、成長路線と決別できないことの反面として、環境政策で保守党との
区別化がはっきりと出来ず、グリーン政党に食われている国がすくなくない。し
かも、グリーン政党を自然的同盟軍とみなしてきたが、最近は向こう側が社民政
党を必ずしもそうみなさなくなっている。


◇不満を戦闘性に転化する挑戦


 ほとんどの欧州諸国では、穏健左派は悪質な後退の波をかぶっているが、他の
地域では状況がはるかに有望と見える。

 SI議長ジョージ・パパンドレウ(ギリシャ最大野党の党首)が、エーゲ海岸
でのSI世界大会開会を宣した時の雰囲気は高揚しており、会議は近来になく盛
り上がった。オプティミズムは開催地ギリシャから吹いてきた。ギリシャの加盟
政党は保守党を現在世論調査で圧倒しており、パパンドレウが来年の総選挙で勝
利し、父と祖父のあとを襲って首相に就任する可能性が強い。

 SI副議長セゴーヌ・ロワイヤルは、自分の地元で参加型政治が躍進したと述
べたが、仏社会党は全国的にはカオス状態にある。他の欧州諸国でも穏健左派は
喜べる状態にない。ギリシャを例外として、6月の欧州議会選挙では社民政党が
不振だった。

 世界の他地域では悲喜混在だ。進歩派を名乗る政治家は、財源の縮小、環境の
悪化、全般的な悲観論、ナショナリズムの復活などの共通課題に直面している。

 だが、中道左派はもっと伸びてしかるべきだ。国内での難題が山積していても
、国際的にはオバマ効果を期待できる。バラク・オバマが現状維持批判派を勇気
づけ、真正保守派の心胆を脅かしている。オバマは民主主義が真の変化をもたら
せ得ると主張するものを激励し、近年のあらゆる欠陥にもかかわらず、アメリカ
が民主主義と自由の砦であるのを左翼に理解させるのに役立った。

 しかし、多くの有権者は左翼が言った通りになったと繰り返し、状況に適応す
る努力をしていないのを納得していない。一部の国では、保守派が彼らの着物を
奪い、アングロサクソン型資本主義批判に合流している。フランスがその例で、
サルコジは左翼の言辞と構想を借用している。それと対照的に、不満が様々な極
端に漂流したり、無気力に陥るにつれて、中道左派から大量流出が続いている。


◇マルクス主義者の時


  言ったとおりになったと主張するグループで成功を収めているものがあるとす
れば、より慎重な人々を資本主義秩序の共犯者と弾劾する、マルクス主義者をは
じめとするラジカル左派である。その例がドイツで、中道政党がまだ有力ではあ
るが、左翼党が票を伸ばしている。ヨーロッパ中道左派政党の苦労の一部はこの
大陸に特殊的なものであり、世界経済における欧州の地盤沈下とそれに伴う福祉
制度をまかなう資力の低下を反映している。

 2007年に地滑り的勝利を獲得したオーストラリア労働党ケビン・ラッド首相は
公約を実現し、環境保護を徹底するのに難航しているのにもかかわらず、その人
気が衰えていない。かれは欧州の友党にない利点を持っている。10年以上におよ
ぶ好況とオーストラリアの資源を買う中国の復調の兆しによるクッションが、そ
れである。

 ラテンアメリカでは、中道左派がかなり上手く不況を乗り切ろうとしている。
労働者出身のルーラ・デシルバ大統領のプラグマティックな諸政策は成否相半ば
している。社会主義インター事務局長ルイス・アヤラの母国、チリは雇用保護を
目的とする包括的対策が連立政権の人気を高めている。政権参加の主要3政党は
いずれもSIに加盟している。有権者が貧困者保護政策を歓迎しているので、中
道左派の連立与党は来る大統領選に勝利するだろう。同じ理由から、今秋の総選
挙で中道左派連立政権がウルグアイでも続くものと見られている。メキシコでも
、最近の議会選挙で保守与党を圧して勝利したのは、ラジカル左派政党ではなく
、中道左派の巨大政党、制度革命党であった。

 ラテンアメリカでは不況によって厳しい打撃を被っている人々にとって、極左
派はあまり魅力的なオプションではないようだ。ヨーロッパよりも、有権者は極
左派の実験とその結果に経験をもっている、


◇グリーンは新しい政治色か


  北の疲れた旧工業社会においても、また南の資源豊富な新興経済国においても
、左翼穏健派にとって共通のジレンマは環境によって提起されている。ことに西
欧における中道左派政治とその関心は地球温暖化問題に彩られている。例えば、
パパンドレウなどは、社会主義インター綱領の民主主義と社会的公正という中核
的理念に環境保護主義を結合させるのを望んでいる。彼はこの構想を自国で取り
入れ、エーゲ海開発に反対する運動の先頭に立つ、若い環境活動家を入党させて
いる。これが、社会党支持者を含む既存権益を脅かしている。
 
しかし、他の国では、社会民主主義とグリーンの連携は不確実なものになって
いる。長年、保守政党と連立を組んできたドイツ社民党(SPD)は、最近の欧州
議会選挙において僅か21%の記録的低得票で惨敗した。他方、緑の党は着実に伸
び、12%を獲得した。中道左派政権唯一の可能性は、1998-2005年までのよう
な“赤・緑”連合にあるが、緑の党がその条件を安売りしないだろう。SPDは
内紛と指導力欠如で、どの党と組むか腰が定まらない。

 赤・緑政党を自然的なパートナーと見る人に、最近のハンブルグで連立政権を
保守党と組んだ緑の党が冷や水を浴びせた。緑の党が他の政策で中道によること
に将来を見出そうとしているので、支持基盤が社民と競合を強める。ヨーロッパ
の最近の選挙では、グリーン派が中道両派を脅かしており、旧来の左右政党の対
立が真の選択肢を示していないと見る声も上がっている。

          (筆者はソシアルアジア研究会代表)

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