破滅に瀕する茨城有機農業

■農業は死の床か再生のときか  濱田 幸生

破滅に瀕する茨城有機農業

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 茨城有機農業は危機的状況にあります。世間では風評被害はとうの昔に終わっ
たと思われている今もなお、その打撃から立ち直っていません。いやむしろ、打
撃は構造化し、日常化しているとさえ言えます。

 その状況は、先日の「ガンバロウ、茨城有機生産者の集い」準備会合で持ち寄
った情報によればおおよそこのようなところです。

●米・・・有機米は生産者により9割減。
     アイガモ農法米・注文数9割減。23年度米の在庫が今年の稲刈りま
  で持ち越される見通し。

●野菜・・・流通の西日本、九州シフトが止まらないためにシェアが回復せずに
  3.11以前の8割で固定されてしまった。価格も安い傾向がある。

●自然卵・・・東日本離れが固定してしまった。3.11以降、流通が山梨、西
  日本、九州へ産地シフトしてしまい、3.11以前の注文量の半分以下に激
  減。

 このように、茨城の有機農家は軒並み経営基盤がすさまじい逆風にさらされて
います。

 私自身のことをお話すれば、3.11以前と較べて注文が6割減りました。3.
11直後はぱったりと途絶え、その後必死のお願いで徐々に回復してきたものの、
「東日本のものは食べたくない」という消費者の声が上回ってしまったようです。

 ある流通は、山梨に生産拠点を移動し、突然注文数を半分にしました。別の流
通は、ずるずると崖を滑り落ちるように注文数を減らし続け、今や最大時の10
分の1ていどになっています。

 私事で恐縮ですが、私の農場は5棟あるのですが、今やそのうち生産している
のはわずか2棟のみ。残りの3棟は遊休しています。5発エンジンの飛行機が2
発で飛んでいるようなものです。したがって、飼養羽数は3.11以前の6割減
となり、まさにミニマム。これ以上注文数が下がると採算分岐点を突破し倒産し
ます。

 今は、農業収益はほとんど経費で消えて、蓄えで食べている状況です。その蓄
えも、去年の震災による母屋の損壊の修理などで減り続けています。

 このような茨城の有機農家の惨状はまったくマスメディアで報じられません。
福島は報じられる事があっても茨城はたいしたことはなかったのだろうという勝
手な先入観で意識の外に追いやられています。

 しかし、そうではありません。今、茨城の有機農家はゆっくりと破滅の淵に近
づいているのです。原発より先に農家のほうが先に潰れてしまうというのがわが
茨城の有機農業です。

■県への陳情行動のてんまつ

 このような苦しい状況を行政に訴えるべく「ガンバロウ、茨城有機生産者の集
い」は県庁に要請行動をしました。対応は大変に真摯で好意的。そして収穫はと
いえば、まったく、なしでした。

 官僚は自分の書いたフィールドでしか発想そのものをしません。あれこれの県
の観光イベントがありますよと県内催し一覧表を下さる。
 それについて主催すればウン十万円、参加ならウン万円補助いたしますよ。こ
この市にはどこそこにアンテナショップがありますよ。お話されたらいかがでし
ょうか。
 あるいは、去年の売り上げ減には、仮に安い価格で売っても東電から補償され
ますよ・・・。

 つまりは、県は事前に私たちの状況を知らせていたにもかかわらず、なにひと
つ具体案を持ってこなかったのです。ありきたりの県のイベント紹介とそれに対
する助成でお茶を濁してお引き取りねがう、これが県の思惑でした。
 そんなものは、いつも彼らはフォルダーにしこたま蓄えているし、さっと拡げ
てニコニコできるのです。私はこれを官僚アリバイ目録と呼びます。

 なんなんでしょうね、この官僚の当事者意識の欠落は。しょせん他人ごとなの
です。
 官僚は支援しかできない、政策誘導ていどが限界だということなのでしょうが、
ここまで農家が危機に陥っていて、下手をすれば潰れる所すらでようというのに、
支援カタログを拡げてとおり一遍です。彼らのルーチン・ワークにあてはめてお
終い。

 私は席を蹴って中座したくなりました。時間の無駄です。しょせんお役人には、
私たち農業現場の悲鳴などは届くはずもない。
 3.11があろうとなかろうと、録をはめる官僚になにがわかりますか。茨城
の有機農家がみんな首をくくっても地位が保証される彼らになにが分かりますか。

 これは県に対する批判ではありません。そうでしかありえない官僚システムに
幻想を多少持っていた自分に対する怒りです。
 このような逆風の中でも、私たちは歩んで行かねばなりません。このような危
機にあえぐ茨城有機農家にご理解をお願いします。

 (筆者は茨城県・行方市在住農業者)

■■ 資 料 ■■

「いばらきの有機農業」の苦境
  「ガンバレ いばらき有機生産者の集い」からの緊急アピール

 3.11から1年4ケ月が過ぎ、茨城県農業を襲った福島第1原発事故の被害
は一段落したかと見られています。しかし、それは真実ではありません。

 「安全性が証明されていても農産物が売れない」という被害はいまも深刻に続
いています。科学的根拠のない風評によって、「東日本農産物は、なかでも福島
産や茨城産はすべて怖い」という消費者心理は増幅され、安全性が証明されてい
ても、農産物が売れないという大打撃が茨城農業を襲いました。
 ことに茨城の有機農業は極端な販売不振の中でいまだ苦しんでいます。

 東京電力からの補償は原発事故の直接的被害によるものに限られ、その後1年
有余にわたる農産物販売の壊滅的状況を補償するものにはなっていません。

 なかでも「安全・安心」、「畑と顔が見える関係」という産直原則を忠実に守
ってきた有機農業者ほど受けた傷は深く大きいのが現状です。特に有機米生産者
の状態は厳しく、昨年産米は7~8割程度がまだ売り先が見つからず、まだ蔵に
積まれたままになっています。いま田んぼで育っているお米の販売計画もまった
く立たないという状況です。

 有機野菜の場合も、流通組織の多くで産地を関西、九州方面に変更する動きが
止まっておらず、今年の作付けは例年の8割程度で、しかも価格は安いという状
態が続いています。このままではせっかく苦労して続けてきた有機農業を断念せ
ざるを得ないような状況なのです。

 きびしい農業情勢の中で「いばらきの有機農業」は、微力ながら、元気な地域
農業、元気な茨城農業の牽引役を果たしてきました。その有機農業がいま、根拠
のない放射能の風評被害によって壊滅しかねない苦境のなかにあるのです。

 そんな苦しさの中で私たちは去る7月8日に茨城大学に集い、互いの状況を交
流し合い、力を出し合って何かの行動をおこしていこうと話し合いました。

 とりあえずの緊急課題は、有機米の販売です。食べてもらえる見通しの立って
いない昨年産の有機米を食べてくれる消費者を募りたい、そして今年のお米の売
り先についても見通しを立てたいということです。
 しかし、どうしたらよいのか具体的な方策は見つけられておりません。

 そこで、茨城農業を愛し、日頃からご支援、ご支持を頂いている消費者のみな
さん、流通団体のみなさん、行政のみなさん、研究者のみなさんに、ぜひ、私た
ち有機農業者がこの苦境から脱していくためのお知恵とお力を貸していただけな
いかとお願いすることにしました。
 また、同じような苦しさの中にある有機農者の方々のご参加もこころから呼び
かけたいと思います。ぜひ私たちの集いにご参加ください。

 2012年7月8日
「ガンバレ いばらき有機生産者の集い」
  代表 中島紀一(茨城大学名誉教授)

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