■統一地方選挙を前に――報告と提言

神奈川県知事の政策モデルについて   力石 定一

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 地方自治の強化という民主政治の課題は環境や異常気象、地震の危機の時代に
ふさわしい内容をもっていなければならない。またそれらの危機に立ち向かう仕
方にも十分考え抜かれた政策思想の理論的裏付けがなければならない。
 都市の建築思想の選択、交通体系のモーダルシフト、森林の植物生態学的管理、
水質汚濁浄化法の選択、エネルギー革命の洞察等々学際的知識を動員し判断しな
ければならない問題が山積している。
 タレント族や永田町政治学で特訓された塾生のように不勉強な人達にまかせて
いるわけにはいかない。日本を地球の「統治能力」をひそませているような政策
を地方政治の力で展開してもらうことである。


I 太陽電池


 
 大抵災害時の避難所に指定されている県立高校の屋根に90kWの蓄電池付
の太陽電池をつけることにし、中学校と小学校もこれにならうよう基礎自治体に
呼びかける。さらに、高知、熊本、島根、三重、宮崎、千葉などの各県にも同調
を呼びかけ、量産効果によるコストの大幅低下をはかる。
これによって、次の景気上昇期をリードする技術革新の波をかきたてる。


II みなとみらい地区の中層ビル街への改装


 
 みなとみらい地区の超高層ビル群は、高いスチール柱と梁を立てた骨組みに、
軽金属、ガラス、プラスチックのようなカーテンウォールをかぶせて出来上がる
柔構造になっている。そのため来るべき大地震に際して、大きく揺れるけれども
決して倒れないよう造られているから大丈夫というわけだ。しかし、内部の人員
は、振幅で投げ飛ばされたりして、恐ろしくなって早く外に逃げようとするが、
エレベーターは止まっているので、階段に殺到する。大勢が先を争うので将棋倒
しが起こると、パニックになって悲惨な事故が予想されるのである。設計者は建
物の倒壊を避けることが関心事で人間のことは「自己責任」だといわぬばかりの
冷酷な設計思想である。生命への無関心という退廃はゆるされないと、みなとみ
らい以外の伝統的な中層ビル街の落ち着いたたたずまいと比べながら県民の多
くが、批判的に眺めている。大地震に間に合うよう、中層ビルへの改装計画の議
論を進めるべきである。

 <注> みなとみらい地区の超高層ビル街は三菱造船所の跡地に造成した敷地
に計画された。当初建設ビルは少なく、広大な空地をかこっていた。近年、県は
補助金を用いて誘致を行って一定の成果をあげたので松沢県政の功績とうたっ
ている。
   共産党推薦の候補者は進出大企業の利潤額と補助金の額を並べて、こんな
に利潤をあげている大企業にこんなに税金をくれてやるとはあきれたことだと
批判している。補助金の誘因で本社ビルが進出したことによって法人県民税の増
収が相当あったことにはまったく触れないでこんな風に云うのはあいかわらず
単純な論法だ。
   迫り来る大地震のことを考えないで超高層ビル計画に盲進する頭も単純
でどっちもどっちである。


III 扇島国際空港


 
 羽田空港の拡張のような場当たり的な計画は、東京港の海上輸送航路や漁民の
権益、千葉県民の騒音被害とかち合うなど問題が多すぎる。このままでは、国際
空港はソウルということになりそうだ。
 川崎沖の扇島に本格的な国際空港をつくることだ。扇島に翼状の埋立地を付け
加えて、長さ3500~4000mの4本の滑走路---主軸となる3本と横風
用1本の計4本をつくる。扇島と羽田空港の距離は7kmだから、国際線用と国
内線用の双子空港として機能させる。この案は岡崎前知事によって支持されてい
た。この案を堅持するべきである。


IV 京浜工業地帯の再生


 
 京浜工業地帯の空洞化に対しては、まず、土壌汚染の問題を旧土地所有者に責
任をとらせて解決する。そして、空港利用と結びつきの高い業務機能を有する企
業を東京から誘致し、緑の多い低層のオフィス街をつくる。


V 貨物新幹線


 
 東名高速道路の慢性渋滞を緩和するために第二東名が建設されているが、土地
買収と建設工事はまだ中途段階にある。
 横浜市から愛知県東海市に至る第二東名自動車道のうち、神奈川県下では海老
名市中野から山北町西の静岡県境までの約36kmのルート(厚木市、伊勢原市、
秦野市、松田町を通る)が決まっているが、これも土地買収の初期段階にある。
高速道路を増やせば自動車がすぐ増えて悪循環、事故や公害も増えるだけだ。こ
の際京都議定書の大義の旗をかかげて発想を転換し、第二東名の建設済みの橋脚
や取得済みの土地をそのまま利用して、貨物新幹線を通す計画に変更すべきだ。
第一東名のトラック貨物の長距離輸送分はコンテナ化し、貨物新幹線にシフトさ
せることによって、沿線の公害を軽減し、交通事故の減少も期待できる。
 沿線の各県知事を糾合して政府に要求するのは神奈川県知事の仕事である。こ
れができれば、名神にまで延ばす。地方の整備新幹線の旅客ダイヤは、比較的す
いているから、その間に貨物コンテナのダイヤを入れて、つないでやれば貨物新
幹線の全国ネットワークができるのである。


VI 緑のダム


 水資源を保護するための水源税が先頃県議会を通った。神奈川県の森林の総面
積は9万5415ha。そのうち国有林が1万0936ha、民有林が8万44
79haである。民有林のうち人工林面積は3万1936haで38%を占め、
天然林が4万8516haで57%、その他竹林無林地が4027ha
(5%)である。人工林の間伐対象樹齢に達したもののうち、間伐の実施されて
いるものの割合は50
%で全国平均と同じ水準である。間伐が実施されないと針葉樹は陽樹なので互い
に日照をさえぎり合ってもやし状になる。浅根性なので嵐で倒れ易いし枯れてし
まうものもでてくる。林業家は輸入材との競争にならないと投げ出して、間伐を
放棄しているのであるが、その結果水害に見舞われ易くなる。針葉樹の落葉には
リグニンという物質が含まれて土壌生物がこれを嫌うので落葉の分解が十分に
行われないために土が硬くなり、フワフワのスポンジ効果のある土壌にならない
ので、雨水は表層をすべって川に流出する。間伐をやって樹間に日光が入り、広
葉樹の潅木の実生が生じるようにしてやればその落葉はスポンジ状の土壌を形
成し、雨水は、一度表土に貯えられたあとで、地盤のスキ間から地下水に向かっ
て浸透していく。このために河川への雨水の到達は時間をかけて行われ、洪水が
避けられる。

戦後の拡大造林政策で、人工林を不適地にまで植え過ぎた。不適地というのは急
斜面や尾根部水辺のように地盤の不安定なところだ。古老たちは年輪をかさねた
自然植生の地盤安定化作用を尊重して、これの保全に努めたのであるが、拡大造
林は、ブルドーザー、チエンソー、索道といった「三種の神器」を用いて地盤の
危険性という制限を無視して強行したのである。人工林の弱点は、暴風に直面し
たとき、この不適地で真っ先にあらわれ、土石流を伴う災害を頻発した。
この不適地では、間伐による潅木の実生を待つのでなく、宮脇昭方式で間に間伐
材を用いて土留めをして有機質の盛り土を行った上に潜在自然植生の広葉樹の
ポット苗を植栽するべきである。ポット苗は一年で活着し、あとは急速に成長す
る。針葉樹の日影のもとでも陰樹である自然植生は、平然と成長し、陽樹の針葉
樹の上を覆うような拡大をとげ、やがて針葉樹は枯れるから、除伐は容易で完全
な樹種の交替が行われるのである。
 
このように間伐による広葉樹の潅木の実生と、不適地の積極的な樹種交替と二つ
の広葉樹林化が行われることによって前述した人工林比率38%は23%以下
に低下し、天然林比率57%は約72%に上昇する。森林の保水力は、大幅に強
化されるだろう。以上は県全体でマクロ的にみて森林の保水力を強化する政策を
述べたものである。
 
 次にもう少し立ち入って考えてみよう。
第一に、人工林の不適地における間伐を行ったときに間に植える自然植生のポ
ット苗は、標高750m以下のところでは、シイ、カシ、タブが選択される。人
工林から常緑広葉樹林に転換されるわけである。 第二に、標高750m以上の
ブナ林帯は尾根筋の地盤の不安定な地域であり、人工林の適地は存在しない。全
面的に不適地であるから、人工林の間伐は、ブナ林への樹種転換を土壌侵食のお
それのある皆伐を避けて漸進的に行うためのものである。ブナ林へのポット苗を
追加的に拡大植栽し、それ自体の持つ深根性と直根の安定作用を発展させること
であって、水源税の使途で言っているような土砂崩れに対して土木的保護策は問
題にならない。
第三に、標高750m以下の二次林、落葉広葉樹の主なものはコナラである。
コナラはかつて農家の薪炭林として20年毎に切って炭焼きをし、切株が「株立
ち」して20年たつと成木になる、また切るといった具合に輪作が行われていた。
戦後石油燃料が入って来て、農家はこの薪炭林の作業をやめてコナラ林を放置し
てきた。コナラ林は蔓や蔦が巻き付いてジャングル状になっており、まきつかれ
たコナラは日照をさえぎられて弱っている。台風による倒木や枝折れなどを減ら
すには、蔓や蔦を切り取る手入れを行って活力を取り戻してやることが必要であ
る。コナラは「浅根性」であるが、針葉樹の浅根性と違って、横につっかい棒の
ように張り出す根をしているので針葉樹よりは倒木しにくい。しかし激しい暴風
雨に直撃されるとシイ、カシの自然植生のようにビクともしないという訳にはい
かない。枝が折れたり、根ごと倒木するリスクもある。これが地下5mに達する
長い直根とたくさんのひげ根で岩盤にしがみついている深根性のシイ、カシとの
違いである。

 コナラの落葉は、針葉樹の落葉のようにリグニンという物質を含んでなく土壌
をやせさせることはなく、フワフワの有機質の腐蝕土をつくるので、降った雨を
スポンジ効果で一次保留する力があることは確かである。しかし葉をみると常緑
広葉樹の場合、暴風雨が直接土をたたくのを防ぐように、分厚くしっかりと傘を
張っているのに対し、コナラ二次林の広葉は厚みも薄く張力がずっと弱く、土壌
がたたかれるのを防ぐ力は、はるかに弱い。秋深く落葉期が近づけば一層そうで
ある。土壌が豪雨にたたかれると泥水となって流れ出し、折角のスポンジ効果も
失われてしまうのである。コナラの浅根性とシイ、カシの深根性の違いは、雨水
の地下浸透を誘導する作用の相違において顕著にみられる。シイ、カシの葉、枝、
幹や土壌周辺に降った雨水はシイ、カシの地下5mに達する直根に沿って地下に
導かれ、さらにたくさんのひげ根が通っている土壌のすき間を伝って地下水近く
まで下りてゆき、地下水の毛細管現象と連携作用をしている。これに対して浅根
性のコナラの根にはこのような雨水を地下深く導く作用は存在しない。

 コナラ林のもつこの弱点を補うために何をするか。
コナラ林の斜面に、間伐材を用いて土留めをおこなって盛土をし、シイ、カシ
のポット苗を植え付けた常緑広葉樹林地区を防波堤状に横につないで築いてゆ
き、水害の予防線とする。予防線は中高線と低高線と二本とするのである。
今回発表された水源税の使途についての解説は以上のような生態学的な森林
保水力の強化のメカニズムを軸心において組み立てられていない。在来の林業家
や土木業者の言い分に追随して特別会計資金をばらまいているようにみえる。


VII 下水道問題に残された課題


 都市の公共下水道の普及率は約100%に達している。しかし、建設初期に作
られた雨水と汚水の合流方式の部分は、西欧のように降雨量が少なく、傾斜がゆ
るやかな都市で行われている方式をそのまま踏襲したものであった。日本のよう
に降雨が、しばしば豪雨の形態をとり、つよい傾斜地形にそっている場合には、
しばしば汚水処理場が受入れ困難な量に直面しなければならないことになる。そ
こで、処理場はその場合受け入れ不可能な量を河川や海に直接放流せざるをえな
い。未処理の汚水が年間何十日分か放流されることによる河川や海の汚染を、く
やしく眺めているわけである。
1970年代にはこの弱点に当局も気付きその後の下水道建設は、雨水、汚水
の分流方式を採ってきているが、初期の合流方式部分が「間違いであった」こと
をはっきりと公開し、この部分を「分流方式にやり直す」という方針を採用する
とはしていない。このような断固たる決断を避けているために、水汚染問題の軸
心が抜けているので色々と対症療法をしてみても、抜本的解決には、ほど遠い。
 今一つの残された汚水処理問題は、住居が点在している地域で、各戸屎尿処理
槽が使われ、屎尿以外の汚水(台所や風呂場などの排水)が未処理のまま家庭か
ら放流され川や海に入っていることである。

新築の場合には合併浄化槽が法的に義務づけられ3分の2の補助金が出るこ
とになっている。しかし既存の住宅については、各戸処理槽を合併浄化槽に転換
することが法的に義務づけられていない。「いずれ公共下水道ができる予定だか
ら、それまでは」といった気分で、先送りが続けられているのである。これは、
はっきり法的義務付けをおこなうと同時に3分の2の補助金を支給することに
するべきである。


VII 東京湾に原子力艦船入るべからず


 現在、横須賀において原子力空母母港化反対の住民運動が進められている。
それは原子炉装置の事故による放射能流失の危険のリスクの重大さを主として
問題にしている。これに加えて、原子炉の通常運転の間にも、気付かないうちに
放射能物質の危険が進行している。ヨウ素131やセシウム137、ストロンチウム
90などが、冷却水の中に流れ出していることである。
 横須賀の原子力潜水艦が停泊する区域では、海底から自然放射能レベルの10
倍のセシウム137が検出されたことがあるなどは、そのような事実を裏付けて
いる。
先程原潜の周囲の海水中からコバルトも検出された。原子炉の稼動に伴って、
微量放射能が流出していることは、国際的にどこでも認められている。問題はこ
れが自然放射能と比べて、微量であることから、それ以上に追求しないという態
度が大抵とられてしまうことである。
 
 たしかに自然放射能のレベルと比べて微量である。しかし、宇宙の彼方や地殻
の底にある放射能物質から照射されてくる放射線は原子そのものとは違う。生物
によって濃縮されることはない。これに対して、セシウム187やストロンチウム90は原子そのものである。プランクトンが水の2,000倍、魚は水の40,000倍というように生物濃縮される。
またセシウムはカリウムの代わりに、ストロンチウムはカルシウムの代わりに
という具合に良く似た構造の生体にとりこまれて、細胞を破壊してゆくことになる。
 放射性物質が生物の中を移動したとしても、こうしたサイクルから出ていくこ
とはほとんどありえない。したがって、放射能の半減期が長い場合は、長期間に
わたって、多くの害を及ぼすことになる。(セシウム137の半減期は30年、ス
トロンチウム90のそれは29年である。)これが自然放射能と異なるところであ
る。
 
 二次冷却水から海水に移転される微量放射能の問題は横須賀に原子力空母が
入ってくる以前において、およそ予想することができる。港内外にはすでに多数
の原子力潜水艦や原子力駆逐艦の運航が行われているから、これらの原子炉から、
前述した経路辿って、魚をよく食べる現地の人々の身体にセシウム137やスト
ロンチウム90がどれほど蓄積しているかを調べてみることだ。それは放射線医
学の専門家の仕事である。
その蓄積量と原子力発電所から遠く離れた地域の人々の場合と比較してみる
のである。
 
 千葉市にある放射線医学総合研究所では、ホールボデイーカウンターという人
間の体内に摂取された放射性物質の量を体外から測定する装置によって、体内に
ある放射線の測定を行っている。ここに測定を依頼する。測定された数値から、
原子力空母ジョージ・ワシントンの原子炉2基が加わった場合をおよそ予想する
ことができる。
セシウム137やストロンチウム90を体内に含んだ魚は三浦半島の周辺、東京
湾や相模湾の海域を自由に遊泳している。漁業者に捕獲され、住民に食べられて
いるわけである。
 現在、発展途上国の人々は原子力発電の導入を熱心に望んでいる。彼らの多く
は、先進工業国住民の肉食傾向に対して、魚食傾向を示しているから、原子力発
電問題は技術的に原爆保有に転移するという難しい問題ばかりでなく、社会的な
発癌要因という難問をかかえることになる。魚食民族を代表して、東京湾周辺の
市民が全世界に警告を発信するわけである。

注(1) 微量放射能はどのようにして発生するかについて触れておこう。原子炉
  を構成している金属の性質が高温と強力な放射能のために変質してしまう
  こと、冷却装置の壁において、とくにこれが顕著である。普通より変質し
  にくい金属を用いるように努めているが、依然として、可燃性の金属の外
  皮が割れたり、ひびが入ったりする。専門家によって中性子照射による原
   子炉の脆化、配管の応力腐食割れなどと言われる現象である。
 (2) 微量放射能→生物濃縮→人体の癌形成という道を辿らない為には「原子
   炉」からジーゼル炉に返る以外にないわけである。J・F・Kennedy号のよ
   うなジーゼルの空母を修理して配置する方法がまだいくつも残っていると
   専門家は証言している。
 (3) アメリカの環境団体シエラクラブに同調を呼びかけ、民主党が支配して
いる新しい上院外交委員会で取り上げて貰うようにすれば、ネオコンが没
落した現国防省の「方針転換」を実現させることは2008年まであれば可
   能である。
    現在の横須賀市長や神奈川県知事は原子力空母問題は国の外交問題であ
るから地方自治体が関与できないとしてアメリカの言い分をうのみにする
スタンスをとっているが、かって池子問題で逗子市民が行ったような形で
の市民的国際外交のシナリオが存在することを三浦半島の市民ははっきり
と憶えているのである。


IX 総合交通体系整備特定財源


 道路特定財源は国と地方とを合わせて年間6兆円に達する。これをすべて道路
整備に使う目的税方式はアメリカですら1973年の交通法で否定され、ガソリ
ン税の税収の一部を公共的な都市交通機関の建設に向けることができることに
なった。西欧先進国ではどこでも、総合交通体系整備のために用いるのが当たり
前となっている。
 日本ではすべて道路へ投入するか、すべて一般会計へ入れるかのどちらかで論
じられている。地方の「開明的」な知事もこの点でははっきりしない。
神奈川県知事は西欧型の解決策をもって、この点を啓蒙する必要がある。この財
源を用いれば、たとえば、神奈川県では東海道線や横須賀線の駅間隔を短くし、
運転ダイヤも増やして急行と鈍行を走らせる事などが可能となる。エレベータや
エスカレーターなどの駅整備の改善を進めれば自動車利用から電車利用へのシ
フトを引き起こすことができる。さらに商店街も一極集中から駅数が増えればそ
れだけ多極化し、道路の渋滞緩和にもなるのである。


X 横浜国立大学を総合大学に


 神奈川県の人口は850万人で東京都に次ぐ日本第二の人口規模の地方自治体
なのである。
県庁所在地横浜の人口は350万人で大阪府の中心都市大阪市の人口250万人を
100万人も上回っている。
大阪市には大阪大学という総合大学があって理学部、工学部、基礎工学部、医学
部、歯学部、薬学部、文学部、人間科学部、法学部、経済学部の10学部で学際
的で創造的な研究を行っている。京都大学と並ぶ総合大学の陣容を整えている。
横浜と似た関西の港都神戸市を見よう。人口は150万人で横浜より200万人
少ないが神戸大学は総合大学として経済学部、経営学部、工学部、理学部、医学
部、農学部、法学部、文学部、国際文化学部、発達科学部、海事学部の11学部
をもっている。
 
 横浜国立大学は後れた地方県の新制大学が旧制高校と師範学校と高等専門学
校を合わせただけで国立大学と称してきたのと同じような形で、工業と経済二つ
の名門専門学校を基礎に師範学校をあわせてつくられている。
 首都圏の大学は政府が財政支出で国立の総合大学を整備することをできるだ
け避け教育費をもっぱら家計費負担に委ねる私立大学中心の発展に放置してき
たのである。この方針は教育と福祉への財政支出を抑えて経済発展を進めるとい
う(先進工業国中で例外的な)土建国家型成長モデルである。
 
 横浜国立大学のこのようなステータスを問題にし、これを変革しようとする声
が神奈川県内からあげられたことが、かってなかったことである。横浜国大の教
授が知事に選出されていた時を含めてそうなのだからあきれてしまう。土建国家
型成長モデルの理論的な批判の声は大きく叫ばれたが、横浜国大が総合大学でな
いのはおかしい、これを改革しなければならないという意見は全然聞かれなかっ
たのである。
 新世紀の学制改革の波を足下から巻き起こし、原理主義的民営化論の反革命的
風潮を日本列島から消滅させてゆくように努めることである。
 
 横浜国立大学に文学部、理学部、農学部、法学部、医学部、国際文化学部、海
事学部を新設し総合大学に発展させるには県とその周辺の私立大学に散在して
いる優れた教員スタッフを吸収し、移転利用できるキャンパス用地などについて
大いに論じるべきである。


XI 歴史的建造物の保存と活用


 
 県内には湘南地方の別荘建築をはじめ、文化的な価値の高い歴史的建造物が数
多く存在している。それらの建物が現在各地で取り壊しの危機に直面し、保存と
活用にむけた住民運動が始まっている。県および県教育委員会は歴史的建造物の
保存を積極的に支持し、保存に協力するよう基礎自治体を励ますべきである。

 以上、神奈川県の政策選択は中央政府の政策を左右する管制高地の位置を占め
ていることを県民は知ってほしい。
                 (筆者は法政大学名誉教授)

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