竹中一雄氏に聞く『ホットなロシア経済』

■竹中一雄氏に聞く『ホットなロシア経済』

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ロシア東欧貿易会の「シベリア・ウラル訪問団」に参加され、6月6日帰国し たばかりの元国民経済研究協会会長竹中一雄氏に最近のロシアについて『印 象』をうかがった。

●Q:今回の訪問団は新日鉄今井氏を顧問・団長に三菱銀行高垣氏を据え、伊 藤忠・物産・住商・商事などの幹部や・大手エンジニアリング会社などを揃え、 役所からも人を出し、人数も40名と「大型訪問団」なのですが狙いはシベリア パイプラインの「ナオトカルート」決定を目指そうというものでしょうか。
○A:団の編成・タイミング・イルクーツクとチュメニ中心の日程などを見れ ば、そう受け取られますが、私個人はソ連時代から何回もつづけているロシア 経済の「定時観測」に行ってきた心算です。

●Q:最近のロシア経済は原油高のために好調だと伝えられますが現地の状況 をどのように感じられましたか。
○A:ここ数年の経済成長率は高く、今年5月の年次教書でプーチン大統領は 実質国民所得が「過去4年間で1.5倍」になったと報告しています。私が指摘し たいのは、たしかに原油高は好調の一因ではあるが、それよりも「国民一人一 人が自分の頭でものごとを考え行動するようになった」という発想の転換が、 ここ5年ぐらい年率5%程度の高い経済成長を実現した原動力ではないかと言 うことです。それはソ連体制の崩壊に伴って起きた10数年にわたる大混乱の経 験から国民が学んで自分の会社・自分の生活は自分で守るというように意識を 変えたのだと思います。 したがって、これからのロシア経済は曲折もあるでしょうが未来は基本的に明 るいと言えるでしょう。

●Q:ロシア経済の混乱期を敗戦後の日本の状況と重ねて議論する例があるの ですが。
○A:私の経験でもそういう意見は日本の官庁エコノミストに多く、そしてロ シア経済の再建には日本で成功した傾斜生産方式が必要だというものです。 これについて、私はもし比べるならば敗戦後の日本ではなく、日本の明治20年 30年代ではないかと考えます。勿論技術レベルからすれば大変な違いなのです けれど民法も商法もなく、民法はドイツから商法はフランスから持ってくる。 法律を作っても守られないと四苦八苦しながら国を創った段階とほぼ見合うの ではないか。ボターニンとかブレジンスキーとかの所謂オルガルヒ(新興財 閥)は岩崎弥太郎なんかに非常に良く似ている。彼等も2代目3代目になれば洗 練されるのだろうが、初代のやったことは日本で三井・三菱がまず石炭などの 資源を押さえたのと同じで彼等もアルミとか石炭・油などの資源を相場の10 分の1位で手に入れ、それがさらに10倍位に値上がりすると言う調子で儲け る。その金でマスコミを握る。日本でも郵船なんかただで貰った上に一隻当た りの補助金まで受け取っている。政治への金の使い方も同じです。そして汚職 の摘発もなかった。新聞条例なんか作って反政府側を弾圧する。  プーチンはマスコミを押さえ込むが少しは汚職の摘発もする。似たようなも のです。

●Q:政治・行政・企業など各界の指導層が非常に若返っているようですが。
○A:昔はエリートが党官僚になったものですが今はとくに優秀な若者が実業 の世界に向かっています。それから、行政面でも、つい数年前までは、州知事 などに会うとわれわれにはこういう資源がある、日本も早く来ないとバスに乗 り遅れるぞと判を押したようでしたが今は、如何に資源の付加価値を高めるか を論じています。 私は以前から彼等に資源は持っているだけでは駄目で如何に使うかだ。日本も 韓国も何も持っていないのに豊かさを実現していると話してきたのがやっと通 じた思いです。  

●Q:ロシア社会ではロシア正教が大きい役割を果たすと言われますが。
○A:モスクワでもイルクーツクでも全国いたるところで寺院の建設に大変な お金を使っています。ロシア正教が持つ社会的な力は非常に大きい。皆が金を 持ち寄って寺院をつくるという行為は将来のロシア社会のバックボーンを創る でしょう。特にロシア正教の特徴は「寛容の精神」だと言われます。こういう 考え方が信者でなくても生活慣習のなかに染み込んでゆく社会は健全なものに なる可能性があります。

●Q:プーチン政権はKGBが支える強圧政治だと言う人がいますが。
○A:たしかに政権内の要所にKGB出身者はいますが、同時にサンクトペテル ブルグ市役所時代の改革派やガイダールにつながる弟子達も大勢働いていま す。ですからプーチンはプラグマチストで、いわば「強いロシア派」かも分か りません。エリチン時代とは明らかに違っています。引き継いだエリチング ループを4年かかって掃除しています。

●Q:ロシアにとって中国はどのように映っているのでしょうか。
○A:ロシアにとって兵器・航空機などを買ってくれる大事な御得意さまとい う感じです。よく極東では中国人の人口圧力と言われますが、今は受け入れ枠 を決めてやっていますね。例えば沿海州だと1万5千だとかその範囲なら企業 の申請で許可しています。

●Q:2003年度の日ロ貿易総額は前年比41.8%増の60億$になり、今年 の1-4月期も前年同期を大幅に上回っていますがロシア経済にとって日本はど ういう位置でしょうか。
○A:急速に伸びているのは乗用車で前年比77%増です。後は家電製品で しょう。ロシア経済の好調につれ、モスクワを中心に消費ブームで沸いていま す。ロシアにとって、シベリアパイプラインのナオトカルートは日本・韓国・ 台湾・アメリカなどに売れるのだから大慶ルートより望ましいでしょう。日本 も熱望しています。ただ、西シベリアの油量だけでは足りないのと建設に金が かかりすぎることです。日本はまだ東シベリア油田開発に乗り出すまでは決断 していません。 これも、日本政府が自分で戦略を決められず、まずはアメリカの意向を伺うと いうお寒い姿勢ではないでしようか。 (この記事は加藤宣幸がお聞きしたものを大幅に要約したもので文責は編集部 にあります。)