第110号(2013.2.20)

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メールマガジン「オルタ」110号(2013.2.20)
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 ◎ 貴重な『平和国家』ブランドを守り育てよう。          
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どのような日本に「戻る」のか    荒木 重雄

「日本を、取り戻す」をキャッチフレーズに掲げた政党が圧勝した昨年12月の総選挙であった。民主党への失望と景気対策への期待、日本社会の行く末への不安感、さらにメディアに煽られた「決められる政治」という決断主義への脅迫観念、そしてなにより多様な民意を死票にする小選挙区制のカラクリがその背景に指摘されるが、ともかく、こう主張する政党が衆院の過半数を占め、連立与党で3分の2を超えたのである。 では、いったい、どのような日本を取り戻そうというのだろうか。「アベノミクス」などと喧伝される経済政策は、かつての自民党政権の、公共事業と金融緩和、新自由主義路線の拡大コピー。だがそれが、進行する世界経済の構造変化や日本の産業構造の変化を前にいまだ有効な処方箋なのだろうか。道路特定財源復活にみられるような業界と族議員が跋扈する利益誘導政治へ復帰のおまけまでつく。一方、「自助」を主張するこの政党の政権下では、かつて生活保護申請者を自治体の窓口ではじく「水際作戦」が社会問題化したが、いままたすでに決まった生活保護費の引き下げに加え、年金や医療補助、就学援助の削減も取沙汰されている。高齢化に加え、新自由主義下の雇用規制緩和で不安定就労が増加している状況において、安全網の縮小は社会の根底を崩しかねない。「絆」などという言葉でとうてい補いうるものではない。
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日本の政党政治を根底から変革するために ―ヒントとしての「緑の党」―     白井 和宏

2012年12月の衆議院選挙で、多くの市民は「脱原発」を推進する政党が多数派になることを願ったが、自民党の圧勝と、維新の会、みんなの党の躍進という期待とは真逆の結果に終わった。民主党だけでなく、「卒原発」を掲げた未来の党も大敗した。 他方、3.11以降の欧州では「緑の党」が勢力を拡大し、脱原発が加速している。ドイツでは緑の党の支持率が急上昇し、「次期首相には緑の党の可能性もあり」という世論調査の結果を受けて、メルケル首相は脱原発戦略を打ち出した。フランスでも緑の党が社会党との連立政権に参加。今や「緑の党」は、アフリカ、はてはアジア・太平洋、中南米と世界90ヶ国に広がり、世界大会も定期的に開催されている。ドイツ、フランス、アイルランド、フィンランド、ベルギーなどでは連立政権に参加した。EU議会では「欧州緑グループ・欧州自由連盟」という会派を組み、55人のEU議員が所属。中道右派、社会民主主義、自由主義に次ぐ第4の勢力に成長している。 福島原発事故を教訓にして脱原発に向かう欧州と、さらなる原発推進に向かう日本とは何が異なるのだろうか。
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朴槿恵大統領の誕生とこれからの韓国      丸山 茂樹

2012年12月19日の韓国大統領選挙で勝利したセヌリ党の朴槿恵女史が2013年2月25日に大統領に就任する。その日から2018年2月までの5年間、韓国は朴槿恵時代となる。この原稿は2月初旬に書いているので大統領就任演説を紹介することはできないが、これまでの選挙公約や発言から大凡の方向は明瞭だ。 本論では韓国と東アジアの今後を展望するために、最初にこの政権が誕生した政治的・社会的な背景と韓国の野党(中道左派・左派)の状況について述べる。そして今後の韓国を左右するだろう社会運動(労働運動、市民運動、生協運動など)の動向についても私見を述べることにしたい。
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脱原発のための6のパラメータ        濱田 幸生

脱原発は、もつれた糸玉のようなものです。焦らずに、ひとつひとつ丁寧に解いていかねばなりません。一見迂遠ですが、結局それが一番の近道ではないでしょうか。 私は脱原発について考えるための6ツのパラメータを挙げてみました。優先順位ではありません。(1)環境問題(2)原発をなくした場合のエネルギーの安定供給源(3)代替エネルギーの普及・経済効果とその財源 (4)使用済み核燃料の処分(5)国民生活・国民経済への影響(6)原子力規制機関のあり方 
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≪連載≫海外論潮短評(65)

失速し始めた新興経済諸国(BRICs)―グローバルな経済統合は神話―                  初岡 昌一郎

21世紀に入ってから世界経済を牽引してきたBRICs諸国、すなわち、中国、インド、ブラジル、ロシアの経済にこのところ変調が顕著になり、その高度成長の失速が始まった。これは、国際問題専門誌として定評のある『フォーリン・アフェアーズ』2012年11/12月号の表紙に取り上げられた主論文の論調である。 「バラバラになったBRICs」という表題のこの論文の筆者、ラヒール・シャルマはモルガン・スタンレー投資運用会社のインド人経済分析専門家である。以下はその要旨。アメリカきっての投資顧問会社専門家の目を通してみる世界経済の展望は興味深い。
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≪連載≫宗教・民族から見た同時代世界    

アルジェリア人質事件に見えた歴史のトラウマ   荒木 重雄


1月にアルジェリアで起こった天然ガス施設人質事件では、事件発生から僅か2日目にして軍が急襲し、日本人10名を含む多数の外国人犠牲者を出しながらイスラム武装グループの壊滅を優先した、人命軽視の強硬策が衝撃的であった。併せて、情報相が、外国からの協力申し入れについて「わが国はフランスの植民地支配から独立を勝ち取った主権国家であり、外国の部隊が一歩たりとも足を踏み込むことはあり得ない」と述べたこともまた衝撃的であった。すなわちこの事件とその処理には、アルジェリアの国家形成過程での誇りでもありトラウマでもあるナショナリズムとイスラムの複雑な関係が重苦しく影を落としているのである。 なにごともアルカイダと関連づければ事足れりとするような近視眼的なメディアによる表面的な報道が一段落したところで、改めてこの事件の背後にあるものを歴史に遡って見詰めたい。
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≪連載≫落穂拾記(18)

自殺はどこまで減るものだろうか(上)       羽原 清雅

警察庁の発表によると(2013年1月17日付)、2012年の自殺件数は大きく減った、という。 2012年は2万7766人で、ピークだった2003年の3万4427人にくらべると、たしかに大きく減っている。3万人台に増えたのは1998年以降だというので、15年ぶりにこの大台を割ったという。 歓迎すべき結果だが、でも1日平均でみると、ピークでは94人だったものが76人に減った程度だ。 1時間に日本のどこかで3~4人ずつ消えているのだから、すごい。 ちなみに、人口の自然の増減を2012年の統計でみると、1時間に118人生まれ、142人が死んで、人口は1時間に24人ずつ減り続けていることになる。以前、「門司新報」のマイクロフィルムを調べた際にスクラップしておいた「自分で死ぬ人 一年に八千の命」という記事(明38=1905=年8月11日付)と比較してみたい。ちなみに、この新聞は門司港で発行され、九州一体はもとより海外の朝鮮、中国、台湾などにも送られたので、全国的な記事も多く、発行部数もかなりのものだった。
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■【横丁茶話】

体罰選択制論                西村 徹

またしても翻訳のことでかわり映えしないが、気になることは気になるので、落語のマクラよろしく、書き留めておくことにする。細かいことをいうようだけれど、細かいことに徹底してこだわる完ぺき主義は日本の技術者のお家芸、不良品をひとつでも出すまいと神経を研ぎ澄ますのがものつくり日本の真骨頂である。それが翻訳となるとケンチャナヨ、きれいさっぱり笹子トンネルではどうにも腑に落ちないのだ。
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■【北から南から】

中国・深セン便り 

『春節・張家界旅行記、その前に』  佐藤 美和子

春節好! 2013年の春節(旧正月)は、例年より幾分遅めの2月10日にスタートしました。 ここ数年は寝正月ならぬ寝春節を決め込むことが多かったのですが、今年は友人に誘われて、久しぶりに旅行することにしました。 目的地は、広東省の北部に隣接する、湖南省の張家界市です。険しい峰が連なるカルスト地形の奇観で知られ、またその風景区(景勝地の意味)は、ユネスコの世界遺産に登録されてもいます。さらに、2009年公開の映画『アバター』の舞台モデルとなったことでも有名になりました(これにはかつて中国国内で論争が勃発しており、安徽省の黄山がモデルだとする説もアリ)。 

フランス・パリ便り(その6)

フランスの老人ホーム事情 鈴木 宏昌

多くの先進国と同様に、フランスは人口の高齢化が進み、高齢者福祉のあり方は大きな社会問題となっている。まず、フランスの高齢化をいくつかの指標で見ておこう。たとえば、平均寿命を見ると、2005-2010年(平均)で、フランスは81歳(男性77.2歳、女性84.3歳)であり、日本の82.7歳(男子79.3歳、女性86.1歳)には及ばないまでも、先進国の中でもトップ集団の一角にある。 人口全体に占める65歳以上の人の比率(老年人口)は2010年に16.8%(日本22.7)だが、2050年には24.9%になることが予測されている。したがって、今後、医療の発達、健康への配慮から高齢化が進み、社会全体として、高齢者、とくに加齢による障害を持つ高齢者の福祉をどうするかは大きな問題である。在宅介護を充実させるのか、あるいは老ホームなどの施設を拡大させるのかは、財源問題とも絡み、難しい選択となる。


ビルマ/ミャンマー通信(2)      中嶋 滋

民主化の進展とそれに対応した欧米の「制裁解除」によって、ビルマ/ミャンマーへの海外投資は、確かに急増しています。NHKの海外向け放送でも時々取り上げられていますから、日本でもよく報道されているようですが、「最後のフロンティア」との位置づけなのでしょうか、ここヤンゴンにいて投資ブームの高揚は感じられます。昨年11月に改正・施行された「外国投資法 = Foreign Investment Law」を印刷したパンフレット(英語版とビルマ語版)が車の間をぬって物を売り歩くストリート・ベンダーの手によって販売されていて、驚かされています。そんな中、年頭に、麻生副総理・財務相がビルマ/ミャンマーを訪れ、テイン・セイン大統領、ウィン・シェイン財務・歳入相等の要人と会見するとともに、首都ヤンゴン近郊のティラワ経済特区開発地域を視察しました。約5,000億円に上る延滞債務問題の解消(3,000億円の帳消しが中心)と、新たな円借款500億円の供与も表明されました。官民一体となった経済協力・支援の強化の表明は、民間企業の取り組みに「お墨付き」を与える効果をもちます。 
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■【投稿】

右傾化という言葉が流行であるが…       三上 治

過日、安倍政権の成立とともに流行の感のある右傾化をめぐって右翼の論客とテレビで討論した。安倍政権の成立とともに外政あるいは内政に対して打ち出したこわもての言動にたいして、国内のみならず外国からも右傾化という警戒の声がでている。これは対外的には民族主義的で国家主義的な、そして対内的には強権主義的な色彩の濃い政策が打ち出されていることへの懸念である。 


民主再生は可能か。無党派層と脱原発票の行方。   仲井 富

民主党が03年以来、衆参選挙で約2100万票の安定した比例区票を獲得できたのは、都市無党派層の支持を得たことにある。とりわけ政権獲得時の09年衆院選挙の選挙区投票で約2900万票を獲得した。投票時の民主党支持率は25%で自民の支持率は37%だった。しかし無党派層20%のうち、民主は実に58%を獲得し、自民は24%だった。加えて自民支持層の29%が民主に投票した。自民支持層で自民に投票したのは58%だった。これが民主党大勝の原因となった。要するに無党派層の圧倒的な支持と、自民支持者の離反が民主党の圧勝を呼んだのである。
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■【エッセー】

身辺雑常(2)           高沢 英子

体の深部で、ひそかに起こっていることに、人間はなかなか気がつかないものらしい。娘の場合も、また最近のわたしの発病のケースでも、リュウマチによる異変は突然現れた。しかし、そこに到る経緯については、今思うと、思い当たる節がいろいろあった。だから、要するに、わたしたちが頑固で迂闊だっただけで、そうした微かなサインに、なかなか応えようという気を起こさなかっただけかもしれない。 今から40年も前、まず、母親のわたしは、重度の緑内障をわずらっていた。その2、3年前から兆候はあったのだが、慎重な対応を怠ったのがたたり、ある日突然友人宅で、強度の痛みで昏倒し、口も利けなくなり、救急車で、大阪のその方面では最も進んでいるといわれていた病院に運ばれた。眼圧が70を越している!と微かに聞こえていたのを憶えている。手術可能なところまで、眼圧を下げるのに2週間かかり、手術を受けた。40年前のはなしである。 
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■【書評】

『緑の政治ガイドブック─公正で持続可能な社会をつくる』  岡田 一郎

本書はイングランド・ウェールズ緑の党元主席議長でイギリスにおける緑の政治運動の指導者であるデレク・ウォール氏が、世界各国の緑の政治運動の現状や緑の政治の哲学についてコンパクトにまとめたものを、神奈川ネットワーク運動元事務局長の白井和宏氏が日本語に翻訳したものである。(巻末にはジャーナリストの鎌仲ひとみ氏と人類学者の中沢新一氏の対談が収録されている。) 日本においては緑の政治運動といえば、一般的にドイツ緑の党の存在が創立当初から注目され、早くも1983年には講談社現代新書から永井清彦『緑の党』が出版されている。また、現在でもドイツ緑の党やドイツ緑の党が誕生する背景となった1968年の学生運動に関する重厚な研究も多数、日本で発表されている。
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■【俳句】   富田 昌宏

立春や割る鶏卵に黄身二つ  啓蟄や土工顔出すマンホール 
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【川柳】   横 風 人

脱原発 続け脱米 脱テロまで  新春に 絵餅蔵出し 永田町
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■【追悼】

河上民雄先生の思い出             杉本 美樹枝

私は河上丈太郎先生の最後の秘書でした。丈太郎先生のご長男である河上民雄先生は、当時、アメリカのコロンビア大学留学から戻り新進気鋭の政治学者として大学教授をされながら、丈太郎先生の政策立案や演説原稿を書かれるなど、表面には立たず父上を支えていらっしゃいました。私が河上丈太郎先生の秘書になったのは、ほんの偶然でした。 当時の女子大生は今よりずっと就職難でした。社会学部にいた私は、就職前に英語を少し勉強しようと、知り合いの紹介で丈太郎夫人の経営する河上英語塾に入りました。担任は民雄先生の姉上、伊集院和子さんでした。その伊集院さんから、丈太郎先生の秘書さんがお嫁にいらっしゃるので、その後任秘書にとお話をいただきました。 

山本満先生に感謝します            加藤 宣幸

私が山本さんと始めてお会いしたのは‘60安保闘争が終わってしばらくたった頃だから、ほぼ50年がたったことになる。本来、山本先生とお呼びすべきなのだが、そのころは優れたジャーナリストとして皆は敬意をこめて山本満(マン)さんと呼んでいたので、しばらくお許しを願いたい。 山本さんはジャパンタイムスの外務省担当記者として国会で日米安保条約審議を取材され、外務省記者クラブのメンバーとして共同・朝日・毎日・東京などの有志と各社の枠を超えて協力し、安保に批判的な立場から野党・社会党議員に協力されていたようである。
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【編集後記】

◎さきの総選挙では自民党が『日本を取り戻す』と叫んでともかく大勝し民主党は惨敗した。ただ自民党の得票率は比例区で27.6%(57議席2増31.7%、小選挙区で43%(237議席79%)であり、まさに民主党の自滅であったが、与党は衆院で三分の二を制し憲法改正への足掛かりをつかんだ。 彼らが目指すものは何か。集団自衛権の容認、国防軍の創設に見るように尖閣を好機として平和憲法をなし崩そうとすることで、現行憲法の『国民主権。基本的人権尊重。非戦平和』三原則への挑戦である。私は、安倍の云う『戦後レジユームの脱却』とは『右傾化』というより『逆コース』の制度化と言いたい。