【催し案内】

◆ 第7回日韓社会的経済セミナー ◆

ソウルで第7回日韓社会的経済セミナー
~文大統領の「新政府が目指す社会的経済」に焦点

柏井 宏之


●「社会的企業の社会的価値創出の事例」をテーマに

 第7回日韓社会的企業セミナーは、12月1~2日、韓国ソウル市で「革新パーク」を会場に、「社会的企業の社会的価値(社会的課題の解決)創出の事例」をテーマに開かれることになった。
 2009年から始まった日韓社会的企業セミナーは、当事者組織の実践的、法制化運動を支援する社会的連帯会議の市民組織の二重ループ的ネットワークによって一挙に韓国社会に社会的連帯の気運を培養してきた。

画像の説明
  開設されたばかりのソウル市社会的経済支援センターで講演するイ・ウネセンター長(第5回日韓セミナー/2014.10)

 この日韓セミナーは2007年に始まった韓国社会的企業育成法の成果を確認しつつ、日韓双方で福祉ではないさまざまな社会的不利な立場におかれている脆弱階層と障害者就労の道が発展することを実現すべく開かれてきた。この間、韓国には2012年協同組合基本法ができ、ソウル市に引き続いての国レベルでの社会的経済基本法を制定すべく運動が発展してきている。今年は韓国の障碍友権益問題研究所の創立30周年を記念してソウルで開催される。

 日本では、民主党政権の挫折によって法制化への気運はへし折られてきた。共同連では、福祉の「中間的就労」に位置づけられた「生活困窮者自立支援法」の見直し議論の中に、「社会的事業所法」の制定を盛り込むべくワーカーズコープ、ワーカーズコレクティブらの協同組合とホームレスやダルクなど当事者組織とネットワークしながら再チャレンジに取り組んでいる。

 2014年の第5回セミナーでは、できたばかりのソウル市社会的経済支援センターで就任したばかりのイ・ウネセンター長に迎えられ、様々な実験がブースごとに試みられているのを目の当たりにした。今回はその後の地域社会につくりだされた社会的企業や社会協同組合、労働者協同組合の具体的進展がみられるのが楽しみである。

 今回の基調発題はムン・ジェイン大統領の「新政府が目指す社会的経済の方向」でチェ・ヒョクチン氏(青瓦台社会的経済秘書官)、「都市の発展と社会的経済の事例」でキム・ヨンぺソンブク区長、また「障害者労働総合型の社会的企業が社会的価値創出の及ぼす影響」でナム・ヨンヒョン氏(障害者雇用公団研究室長)、「障害者労働統合型の社会的企業が障碍者の労働環境に及ぼす影響」でパク・クァンオク氏(聖公会大学)が発表することになっている。
 これに対し日本側は、法制化が実現していない事情を反映して以下の報告を予定している。基調発題は「大規模災害とソーシャルエコノミー:東北と熊本の経験から」で花田昌宣氏(熊本学園大学教授)、「現代日本の労働統合型社会的企業の展開」で米澤旦氏(明治学院大学准教授)、「社会的事業所としての障害者就労事業をめぐって」斉藤縣三(NPO法人共同連事務局長)、「ワーカーズ協同組合法の動きと連帯型の社会的事業所への試み」(柏井宏之(NPO法人共生型経済推進フォーラム理事)が発表をおこなう。

●福祉の「自活センター」から労働統合型の「社会的連帯経済」へ

 「脆弱階層」という新しい規定で「社会的企業育成法」が成立して以来、私たちは「日韓社会的企業セミナー」として7回の会合を重ねて交流してきた。そこで私たちがつぶさに見てきたのは、日本の市場一辺倒、地域社会の自営業の衰退や市民事業の危機に比べて、韓国での国と地方レベルでのサードセクターへのめざましい取り組みで協同事業と市民事業が活発にとりくまれた。最新の報告で彼らは誇らしく言う。

 「ここ数年、韓国の社会的経済は驚異的なペースで成長し、世界中から注目されている。2010年末には501社に過ぎなかった社会的経済組織の数は、2012年に協同組合基本法が制定されてから11,421に達するまでに指数関数的に増加している(認定された社会的企業は1,506社、協同組合は8,551社、社会貢献企業1,364社)。つまり、韓国の社会的経済は、参加者や企業の数でみると、韓国政府より政策支援が提供され始めてから5年足らずで22倍以上になっている。リハビリ事業、農村地域会社、重度障害者雇用企業など、経済活動を通じて社会価値を実現しようとする非営利の企業や団体を数えれば、社会的経済の幅がさらに拡大するだろう。ソウルだけで、韓国社会的経済企業の23.2%(260の認定された社会的企業、2,267の協同組合、119のコミュニティ企業、合計2,646の企業)があり、社会的経済の開発と発展をリードしている。

 この急成長する経済の持続可能性に疑問を抱く人がまだいるかもしれない。それにもかかわらず、韓国の社会的経済への、特にソウルへの国際社会からの関心は高まっている。これは、ソウルの社会的経済の爆発的成長が、長い間の市民連帯の伝統と政府の政策支援がうまく組み合わされて生産的な相乗効果をあげたまれな例のひとつだからである。ソウルの社会的経済は、市政と地域の市民社会とが、政策レビューから予算準備までの社会的経済政策策定と実施の全プロセスを通じて密接に協力する、多領域間のパートナーシップの例外的なケースを提供している。ソウル市政府は、社会的経済政策を採択した当初から、あらゆる種類の社会的経済主体が参加できる真に総括的なガバナンス体制を確立し強化する必要性を強調してきた。こうした方向性は、繁栄し拡大する社会的経済の公と民間および民間同士の複数のネットワークからなる生態系とインフラの形成をもたらした。」(GSEF社会的経済ガイドブック―ソウル市)

 この自信に満ちたソウル市の言葉と東京・大阪・名古屋と比べるとき、このような政策立案がいかに日本にはないかが見えてくるだろう。日本の場合、そこでの知事は、新自由主義の民営化を掲げるばかりで、社会の分断と競争をあおる政策ばかりである。それにくらべ「ソウル特別市社会的経済基本条例」を国家に先駆けて率先実践しているし、その成果が強調されているのである。

●当事者組織を真ん中に社会的連帯会議

 韓国の社会的経済が活況なのは、2009年、第1回社会的経済セミナーが示したように、社会的排除にあう当事者組織を真ん中に据えた社会的連帯会議という陣形配置をもってスタートを切ったこと、その時前日に知識人の会議があったが、友人のドウレ生協の金キソブさんが互酬を基礎とした交換と再分配の独立モデルを語って、ヨーロッパからきたドウフル二の交換・再分配・互酬のハイブリットモデルとやりあったことである。そこには原州で取組まれてきた「共同社会経済ネットワーク」の先行的実践が存在した。グローバリズムと対決するためには、市場原理とは違う互酬経済についての想像力をはたらかせることであることを原州の社会運動は教えた。原州のこの内発的イメージは次の5人以上で創れる「協同組合基本法」を活用した協同組合形成の実践に陸続した。日本の場合、介護保険法にみられる健常者がハンディをもつ当事者への社会サービスの「支援型」しか発想できていないが、韓国ではイタリアの社会協同組合B型のような「連帯型」に心を寄せ続けている。もちろんアメリカ型の社会貢献企業もその輪の中に位置づける柔軟性もある。この連帯に基礎を置く多様性こそキーである。

 第2回日韓社会的企業セミナーは、民主党政権の「生活困窮者自立支援法」の中に社会的企業=社会的事業所促進法が加えられるよう大阪と東京、中でも国会の中での討論を設定するものとなり、大阪では福原宏幸市大教授が阪神大震災の中で創られたような中間労働市場の設定出労働統合型社会的企業の必要性を論じ、チャン・ウオンボン社会投資支援財団研究員が「再配分・市場交換・互恵の複合経済としての社会的企業インセンティブ構造の現実と課題」として、市民社会がその大きな社会変数となっていること、同時に国家行政の下位パートナーとして動員される危険性を隠さなかった。都庁ではイ・ウネさんが講演したが、両氏はそろって荒川の企業組合あうんを訪ね、行政支援を受けず、自律的社会的企業をつくっている日本の運動に強い共感を示されたのも記憶に新しい。

 社会的企業育成法は、それ以前の自活センターの福祉に位置づけられた就労支援を突破して「脆弱階層」規定でそのさまざまな当事者の労働統合型の働く場をつくることに焦点をあてた。当時日本でも村木厚子厚生労働省次官が「福祉から就労へ」を推進した時期もあったが、政権交代の中で、「中間的就労」という福祉に位置づけられた「生活困窮者自立支援法」が韓国でいう「脆弱階層」への対処方法となった。
 そこは米澤旦(明治学院大学)の『社会的企業への新しい見方』(ミネルヴァ書房)で明らかにしたもう一つの「社会的事業所」法案の側面が抜け落ちている。この「連帯型」はイタリア社会協同組合B型として1990年代に実施され、アジアでは韓国ですでに実施を見ている制度なのである。その点で韓国はアジアの市民社会の先進地域なのである。

  労働統合型社会的企業の二つの類型 (米澤旦作)
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 (共生型経済推進フォーラム理事)

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