米からバイオ燃料を

■コメ(米)からエタノール

-高い潜在力、実施の議論-           富田昌宏  

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 今月は「人と思想」欄を小休止して「コメ(米)からエタノール」の問題を
提起してみたい。
 というのは五月中旬にNHKの人気番組「クローズアップ現代」でこの問題が
取り上げられたからである。要点は、日本の水田休耕地に収量の高いコメを生産
し、それを原料にしてバイオ燃料を生産しようという構想である。NHKの国谷
裕子さんの質問に答えて、この問題の解説に当たったのが東北大学大学院農学研
究科教授の両角和夫さん。
 実は両角さんは私の伯父の長男で北海道生まれ、私にとってはイトコに当た
る。前にこの問題で論文を発表したが、私も関心があるので賛同の手紙を書くと
共に、若干の質問と提言をさせていただいた。和夫さんからは丁重な返信があり、
その後、何度か手紙の交換をした。たまたまNHKで放送されたこの機会に両角
論文の一部を紹介し、『オルタ』の有識者の皆さんにも是非関心を持ってほしいと
思い、この小文を記した次第である。


●両角教授の序論要約


 バイオエタノール生産に対する国民の関心は、政府が2030年を目途に、
600万キロリットルを国産で賄う構想を打ち出したことで、一気に高まった。
この数値はわが国のガソリン消費量のほぼ1割に当たる。これでわが国も、遅れ
ばせながら米国、欧州連合(EU)並みの取り組みを内外に示したことになる。
 最大の生産国ブラジルはもとより、米国、EUとも、近年、強い政策的支持
のもとで急速にバイオ燃料の生産を増やしている。欧米の政策には、共通する三
つの側面がある。一つは、地球温暖化対策の一環としての環境対策、二つは、将
来の石油の枯渇に備えて、代替エネルギーの確保対策、三つは、主要穀物(トウ
モロコシ、小麦など)の利用増大あるいは休耕地の利活用による農業・農村の振
興・活性化政策である。


●転作田フル活用


 わが国のバイオエタノール燃料政策も、基本的にはこうした内実を持つ。と

はいえ、今後、わが国で問題となるのは、バイオエタノール燃料の原料をどうす
るかであろう。この点に関しては、既存の農作物、林産物、あるいは新開発の資
源作物など多様なバイオマス資源が検討されている。
 しかし、わが国の主要穀物であり、バイオマス資源として極めて大きな存在
である、コメ(米)をどう扱うかについて、必ずしもきちんとした議論がなされ
ていない。これは、コメ(米)の利用は、水田の転作のあり方の根幹にかかわる
問題を含むからである。
 わが国の水田は約260万ヘクタール、うち4割に当たる100万ヘクター
ルが転作田である。しかし、仮に、転作田に稲が作付けられれば、現在の10ア
ール収を前提として、わが国の当面の政策目標であるE3(エタノール3%含有
ガソリン)に必要なエタノール燃料、180万キロリットルは、製造可能である。
コメ(米)は、国内農産物の中では、原料としてのポテンシャル(潜在能力)は
格段に高いのである。
 コメ(米)を燃料にという提案には、疑問を持たれる方も多いであろう。し
かし、ここではっきりさせておきたいのは、一つは、あくまでも転作田の活用を
目指すものであり、主食としてのコメ(米)まで転用するものでは決してないこ
と。二つは、水田でコメ(米)を作ることがわが国の生態系に適していること、
言い換えれば、水田という地域資源の持つ力を最大限引き出すには稲作が最適で
あること。三つは、地域の水資源確保あるいは水循環の維持、さらには湿田の利
用などを考慮すれば、水田を水田として利用すべきところは少なくともないこと、
である。


●コスト改善可能


 コメ(米)のエタノール化は、現行米価を前提にすればコストがかなりかさ
む。しかし、技術的には今の数倍の10アール収は可能であり、茎などのセルロ
ース利用の技術が確立すれば生産効率は大幅に上がる。コメ(米)の積極的活用
は、環境・エネルギー問題の解決、そして地域活性化に大きく貢献する。コメ(米)
の取り扱いをあいまいにしたままで、バイオエタノール生産に本格的に取り組む
ことは難しい。今後のコメ(米)政策をどうするかを含めて、正面から議論すべ
きときであろう。(完)

 ここで両角教授のプロフィルを紹介する。
 もろずみ・かずお 1947年北海道生まれ、農水省農業総合研究所構造部
長を経て、99年東北大学大学院教授。専門は地域計画学、農協論、財政金融論。

世界の動きと日本の研究開発
 尚、世界におけるバイオエタノール導入の主な取り組み状況をみてみよう。
 米国=ガソリン消費量を17年までに20%削減し、バイオエタノールなどの
使用量を350億ガロン(1億3300万キロリットル)に。原料はトウモロコシ。
 中国=2010年までに全ガソリン使用量の50%に当たる650万キロリ
ットルを生産。原料はトウモロコシ、麦。
 EU=輸送用燃料のバイオエタノールの占める割合を20年に最低でも
10%に設定。原料は小麦・大麦・テンサイほか。
 食べ物を生産する。農業にとっては当たり前の常識が崩れ始めたのである。
世界各地でバイオ燃料の拡大を招き、大量の作物がエネルギーに転換される。原
料を栽培する農家にとっては朗報だが、食糧輸入国にとっては他人ごとではない。
 世界で穀物の奪い合いが始まり、これを環境問題が後押ししている。食糧、
飼料の価格上昇が止まらない。
 ただ、両角論文はコメ(米)、しかも荒れ地化している転作水田のコメを原
料とする点で、実に時宜を得た提言で、我々農家にとっては起死回生の策である。
私は手紙の中で、誰がどういう形でこれを政策に乗せるかを質問し、出来れば来
る北海道でのサミットに、環境問題の一環として提案するよう進言したのである。

 東大大学院の研究グループが5月30日、稲を丸ごと原料にしたバイオエタ
ノール製造の産業化を目指す計画「イネイネ・日本プロジェクト」を立ちあげた。
産官学民の連携で、稲の生産から自動車燃料の販売までを行い、産業として成り
立つことを実証するのが目的。農家や農業団体、産業界、地方自治体、民間非営
利団体(NPO)などに参加を呼びかける。
 プロジェクトは東大創立130周年事業の一つ。同大学院の教授や院生、企
業の研究者でつくる研究グループが主体になる。研究グループは、作物の生産や
醸造の技術、農業経営などの研究分野の垣根を越え、バイオマス(生物由来資源)
利用の課題解決に取り組んできた。
 稲を原料とする理由を、プロジェクト代表の森田茂紀東大大学院教授は、
「原料作物を日本で全国的に生産するには、サトウキビやトウモロコシより適し
ている」と説明。耕作放棄地やコメ(米)の生産調整面積が増える中で、「食糧で
なくても作りたい農家が多い。稲なら食糧と競合しないで原料生産ができる」と
言う。
 稲を原料に、生産者の所得も確保するバイオエタノールの製造・販売の仕組
みを「日本型バイオマスシステム」と位置付けて推進する。国土保全や農村振興、
エネルギー自給率の向上につなげる構想を描く。
 当面に技術開発・研究や啓発活動などを行い、産学官民が連携して組織づく
りを進める。将来これを土台に、実用化に向けたプラントを建設する計画である、
という。

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