編集後記109

【編集後記】

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◎オルタ前号(108号)の書評で取り上げた英国の碩学で知日派ロナルド・ドー
ア教授の著書『日本の転機―米中の狭間でどう生き残るかー』から私たち日本人
が進むべき途について多くの有益な示唆を戴いた。今号でも日本の針路について、
その閉塞状況が単に内在的な原因によるだけでなくいわゆる先進国すべてが直面
していることを指摘する、久保孝雄元神奈川県副知事・アジアサイエンスパーク
協会名誉会長の『衰退する日本と「先進国時代」の終わり』というグローバルな
視点からの骨太な論考をいただいた。ここでは私たち日本人が戦後一貫してアメ
リカというプリズムを通してだけ世界を見たり、考えている間に世界は大きく動
いていること、日本人はもっと世界の現実を直視し歴史的・戦略的に思考するこ
との重要性を説かれている。

◎中国は自国が数千年の歴史を持つので国内外の事象を長期的・歴史的な観点か
らとらえる。米国は国家の歴史こそ浅いが現在の覇権国家として地域問題も戦略
的に見る。そしてその国家戦略構築のためには数多くの各種強力なシンクタンク
を持つ。その一つに石原慎太郎前都知事が尖閣買収の演説をして、一躍日本でも
有名になった保守系(共和党系)シンクタンク・ヘリテージ財団を見ると、この
組織がいかに強力なものかは、2005年の総収入が約4000万ドルでその半分以上が
27万5000人の個人会員からの寄付金であり、200人の職員を擁し、内外政策の調
査・立案をして政治家だけでなくあらゆる政府部門や機関に対して活発な具体的
な提言をしているのでもわかる。

◎日本にはシンクタンクと呼ばれる組織は大小約400あるが、国際的に比肩でき
る規模のものはない。日本の主要メデイアも情報源を官に頼り、その調査報道力
は概して弱い。自民・民主の二大政党も巨額の政党交付金をTVなどの宣伝費と
して大手広告代理店に湯水のように注ぎ込むが政策・立案調査には資金を殆ど使
わない。これでは政治主導どころでなく政治の劣化を招くだけである。

◎安倍政権は隣邦の中・韓両国と友好関係を築くどころか「村山談話」「河野談
話」「集団自衛権行使」の見直しと右傾化路線を進め、戦後日本が護り育ててき
た憲法九条さえ改定しようとする構えで歴史的・戦略的思考を欠いている。東ア
ジアに確固とした連帯の基盤をつくらず、ただアメリカにすがりつくだけの日本
でいいのだろうか。

◎脱原発を願い何回かの市民デモにも参加したかなり多くの人々が、生まれたば
かりの「未来の党」に投票した。しかし、その党は早くも解党に追い込まれてい
る。なぜなのか。立党の基本となる脱原発政策があまりにも粗末だったからと濱
田幸生氏は『「未来の党」の自滅・問われるべき脱原発政党の中身』で厳しく指
摘するのを、私たちは重く受け止めたい。

◎日本政治の劣化には誰もが目を覆いたくなるが、今回の総選挙結果はその原因
の一つが小選挙区制にあることを国民に強く印象づけた。勿論そのすべてを選挙
制度に帰することはできないが、これについて元朝日新聞政治部長の羽原清雅氏
が『劣化する日本政治―振り子政局下のオセロ国会―』として論じる。また【運
動資料】では田中善一郎東京工業大学名誉教授が『二大政党と小選挙区制度の時
代か』でいかに小選挙区制度が時代に合わない制度であるかを指摘される。

◎【書評】でも日本政治の劣化を衝く中北浩爾一橋大学教授の著書『現代日本の
政党デモクラシー』を大原社会問題研究所嘱託研究員木下真志氏に取り上げて戴
き、さらに【投稿】に民主党大惨敗の原因は国民に「ウソ」をついたからで、こ
れを反省しない限り次の参議院選挙は必敗するという『民主党惨敗の原因と次期
参議院選挙』を公害問題研究会代表の仲井富氏が寄せた。

◎今月から【北から南から】には今世界の注目が集まるミャンマーからILO駐
在代表として12月に現地に赴任されたばかりの中嶋滋氏からレポートを頂くこと
になった。労働組合つくりなど民主化を助けする重要な仕事をされるのだが、で
きるだけ生々しいミャンマーでの生活ぶりを伝えて下さることを読者と共に期待
したい。なお今月の中国・深セン便りは休載となります。

◎【日誌】12月21日国連大学ILO事務所で「アフリカの児童労働問題」セミナ
ー。22・23日山口県田布施で山本真喜雄氏通夜・葬儀。24日新宿でオルタのWE
B協力者土居さんと会食。25日法政大学大原社研で資料整理・五十嵐教授・木下
研究員と会食懇談。26日神保町で中国人学校設立運動関係者と懇談。29日神保町
で山口希望氏と国会事情懇談。1月2日矢野凱也君を市川病院に見舞う。夜三軒茶
屋で山口・岡田・堀内君ら運動史研究会メンバーと新年会。7日上野文化会館で
チャリテーコンサート。9日稲城で「仏教に親しむ会」新年会。10日神保町で篠
原令・岡田充氏と中国事情懇談。12日九段・ソシアルアジア研究会、荒木重雄氏
と懇談。17日新宿で岩根邦雄サロン。18日横浜で一橋大学名誉教授山本満氏葬儀。
                    (加藤宣幸 記)