編集後記117

編集後記

◎日本人にとって1945年からの8月は6日広島・9日長崎の被曝とつづき、ポッダム宣言受諾から15日の敗戦と、まさに「戦争と平和」「人間と国家」とは何かを考え、そして鎮魂の月でもある。ピユリツアー賞に輝く名著『敗北を抱きしめて』の著者ジヨン・W・ダワー氏は敗戦を日本人がどのように受け止め、それを克服したかについて、その心情に深く立ち入って克明に描き、多くの人々の共感と感動を生んだ。

今年の8月、私たちが畏敬するこの米国の碩学は、カナダの外交官で高名な日本研究者E・H・ノーマンの「著書に導かれ、われわれはいかに過去を忘却し、いかに記憶するのか」を問うとして『忘却の仕方、記憶のしかた―日本・アメリカ・戦争―』を岩波書店から上梓した。彼はこのなかで、現代の日本がかかえる多くの問題を鋭く指摘している。

とくに東京裁判について、日本の固陋な民族主義者がいう「反日の偏見」とは逆な立場で、アメリカは功利的な政治上の理由から、日本の戦争犯罪の本質と巨大さを隠ぺいしたとして次の4つをあげた。
① 日本の侵略と残虐行為にたいする天皇の認識と責任。
② 悪名高い七三一部隊が、最低3000人の囚人に行った致死にいたる「医学」実験。
③ 皇軍の陸海兵に性的に奉仕する数万人のいわゆる慰安婦の徴募と事実上の奴隷化。
④ 中国における日本の化学戦の全容。

原爆記念日の式辞から日本の加害責任を消し、その歴史認識が問われ、中韓両国とは首脳会談も持てず、世界から右傾化を危惧される安倍総理はオリンピックに国民の視線を向けようとしている。ジヨン・W・ダワーは「焦点を合わせて何かを熟視することはそれ以外のものから目を背けることと背中合わせなのだ」という。「日本を取り戻し、侵略の定義は学者にまかせる」などという総理に日本の針路をゆだねれば、世界史における日本の立ち位置を誤らせることは確かだ。

◎『退却』を『転進』に『敗戦』を『終戦』に誤魔化したあげく、『国体』護持にこだわって決断せず、約230万人の軍人、約80万人の民間人を死なせ、しかもその多くが最後の半年に集中した。そして、責任は誰もとらない。すべてをアイマイにする日本流の構図は今のフクシマも同じだ。気鋭の政治学者白井聡氏はこれこそが、日本の敗戦をいつまでも続けさせていると『永続敗戦論からの展望』を明快に論述された。そして、この「永続敗戦」がすべての領土紛争の遠因となり、国有化満一年を迎えて緊張が続く尖閣問題を生んだと中国問題専門家で共同通信客員論説委員の岡田充氏が『中国公船の接近の意図は何か―2つの文書と3つのキーワード―』として客観的な視点から解明された。

◎第一次安倍内閣発足と同じころから東京の新大久保・大阪の鶴橋で『朝鮮人を殺せ!』などと聞くに堪えない罵声をあげて歩く「全特会」グループによる「ヘイトスピーチ」が始まった。これについて一人の国会議員として真向から取り組む参議院議員の有田芳生氏に『奴らを通すな!(ノーパサラン!)―日本版レイシストと闘うために―』として論じて戴いた。密室で年内妥結を急ぐTPPは日本農業にとって大打撃となることは必至だが、これを推進・主導する農産物輸出大国アメリカ農業の驚くべき実像について多くの国民は知らない。自らも農業者である濱田幸生氏にこれを『世界一奇怪なアメリカ農業』として明らかにして戴いた。

◎ 【落穂拾記】は例月とは違って筆者が大槻被災地を訪ねた生々しい現地報告を【書評】
は中国問題専門家として著名な横浜市立大学名誉教授矢吹晋氏の『尖閣の衝突は沖縄返還に始まる』を岡田充氏に紹介して戴き【オルタのこだま】にはアメリカの武田尚子さん・東京の豊間根龍児さんからそれぞれ編集部に頂いたオルタ116号の読後感をご本人の許しを得て掲載した。

【日誌】8月22日大谷栄一仏教大学准教授・浜谷惇氏・30年代社会運動史懇談。23日中嶋滋・荒木重雄氏・ミヤンマー事情。24日河上民雄偲ぶ会打ち合わせ会。29日大森宅・勘十資料整理。30日初岡・荒木・北岡各氏と消夏懇談・平塚。9月3日中嶋・北岡対談・ビデオ取材。4日プログレス研究会・岡田充氏尖閣報告・懇談。白井聡氏ビデオ取材。5日矢吹晋・藤生健対談・ビデオ取材。7日大河原雅子報告会・全水道会館・9日~11日長崎行き・原爆記念館など。12日ソシアルアジア研究会・鳩山由紀夫氏・東アジア共同体報告。13日有田芳生議員・ヘイトスピーチ・ビデオ取材。14日河上民雄偲ぶ会打ち合わせ会。17日仏教に親しむ会・ビデオ取材・竹中・浜谷懇談。       (加藤宣幸?記)

【今月のオルタ動画案内】 you tube http;www.alter-magazine.jp
※ 『ヘイトスピーチとたたかう!』        有田芳生 参議院議員            
※ 『永続敗戦論の展望』         白井 聡 文化学園大学助教
※ 『仏像の見方』                荒木重雄 元桜美林大学教授 
※ 『尖閣は沖縄返還から始まる』         矢吹 晋 横浜市大名誉教授
※ 『ミヤンマーの民主化はどうなるか』      中嶋 滋 ILOミヤンマー駐在代表
【オルタ執筆者の最近刊案内】
① 『尖閣は沖縄返還から始まる』   矢吹 晋 著 花伝社 (8月刊) 2200円 
② 『永続敗戦論』          白井 聡 著 大田出版(8月6刷)1700円
⑤ 『ヘイトスピーチとたたかう!』  有田 芳生著 岩波書店(9月刊) 1500円

==================================


最新号トップ掲載号トップページのトップバックナンバー執筆者一覧