編集後記128

【編集後記】

加藤 宣幸


◎【戦争を考える】今年も酷暑のなか69回目の8.15が巡って来た。8.15は日本社会にパラダイムの転換を迫ったが、私たちは新憲法のもと一人の兵士も殺さず殺されずという不戦のシステムを築き、国際社会もそれを評価し、日本経済は復興する。戦後日本69年の歴史は、そのフレームのなかにあった。しかし今年の夏の様相は例年と少し違う。憲法を順守すべき行政府の長が憲法改正の手続きも踏まず、閣議決定という安直な手法で集団自衛権行使容認に踏み切り、ふたたび『戦争の出来る国』にパラダイムの転換を図ったからだ。この暴挙は立憲主義への挑戦であり、まさに「暗愚な帝王」の暴走としか言いようがない。

◎【8・15】は日本が降伏を受諾した日ではなく天皇が日本人に降伏を命じた日で「敗戦」を「終戦」と言いくるめた日だという考えもある。そうではあっても私たちが忘れてはならない日でもある。この日筆者は暑い日差しの下、隣まで焼けた自宅裏でこの「詔勅放送」を聞いた。初めて聞く天皇の独特な肉声に緊張し、電波状態の悪いなか、分かりにくい日本語だが戦争に負け、すべてが終わったことは理解できた。涙がとめどもなく溢れる。単純な悔し涙ではない。戦死を覚悟しつつ生きた日々からの解放。戦死した人、焼け出された人たちの無念、日本の行方など万感が迫る。その夜「灯火管制」が解かれ、まぶしいほどの明るさが戻ったがそれは死ななくてすむという安堵の徴しでもあった。

◎今月のオルタは思いを込めて『戦争を考える』特集とした。巻頭には竹内浩三の『骨のうたう。戦死やあわれ』(再録)。『終戦の詔勅』(録音・現代文添付)と並び『集団自衛権行使容認の不気味さについて』として三上治氏に軍隊・戦争・国家権力について丸山真男をひいて論理的に、そしてオランダのリヒテルズ直子さんからは『不条理と屈辱の記憶:日本が残した傷』という国際的な視点からの8月15日をそれぞれ深く考察して頂いた。

さらに加害責任の視点から『群馬県の朝鮮人慰霊碑撤去に反対する85歳の抵抗』を仲井富氏に『満州建国大学の朝鮮人学徒動員』を北原道子さんから戴き、作家の林郁さんには『警鐘を鳴らす戦無世代の思い』をお願いするなど新しい構成を試みた。竹内浩三の反戦詩はいつ読んでも胸を打つ。『「終戦の詔勅」とは昭和天皇ヒロヒトとその側近による歴史改竄の全体像』(河谷史夫)という指摘もあるが、これをまともに聴き、読んだ人は案外少ない。記録保存・普及の意図はともかくこれと接することで過去と未来を考えたい。

◎日本人はとかく戦争を被害者の立場から描きがちだが、日本人は明らかに加害者でもある。安倍首相は今年の全国戦没者追悼式で、歴代首相が必ず述べたアジア諸国への加害責任、そして不戦の誓いには触れなかった。彼の底意は全く明らかである。ふたたび過ちを繰り返えさないために今月のオルタは加害責任に視点を置いた。世代を超え戦争体験を語り継ぐことは大切だ。しかし年代的にほぼ不可能になりつつある。どうするのか。戦争を知らない世代からの思いを訴えたのが林郁さんだ。さらに巻頭に並べられなかった連載欄の荒木重雄『集団的自衛権行使容認の閣議決定に日本宗教界も反発』・羽原清雅『葛根廟事件』等の論稿もすべて『戦争を考える』ためのものである。

◎【オルタのこだま】いま世界では124万人の日本人が暮らし永住者も41万人いる。グーグルによるとオルタの読者は少数ながら全世界にいる。7月現在の国別上位10カ国は日本・米国・中国・香港・タイ・フランス・オーストラリア・イギリス・台湾・ブラジルだ。先々月にはボスニア・ヘルツェゴビナから初岡昌一郎氏の消息を尋ね、先月は中国在住の日本人の方からオルタを7年前から読んでいるというメールが届いたのには驚いたが嬉しかった。

◎7月21日、羽原清雅氏と動画取材のため佐久出身の生活クラブ・スピリッツ社長小林吉雄氏の案内で色平哲郎医師を佐久総合病院に訪ねた。この病院は創設者若月俊一氏の名とともに、長野県を男女ともに長寿日本一にしたとして全国に知られる。「医療は民衆がつくるもの」とは若月氏の至言だ。この日、外国人がバスで視察に来ていたが、いまや「佐久の地域医療」は海外にも有名なのだ。色平氏は世界を放浪して医師になり、若月氏を慕って佐久病院で無医村の診療所長になった異色の人だ。私たちが取材し若月俊一氏の墓に詣でた約6時間、彼は医療・教育・安倍政治などを熱く語った。是非オルタの動画『若月俊一を師と仰いで』をご覧いただきたい。

◎【日誌】7月21日佐久市・動画取材・色平哲郎医師。24日自宅・岡田充・仲井富・運動史研究。25日ソシアルアジア研究会・西川潤早大名誉教授・「良い生き方と国民聡幸福」・荒木・井上・小暮・初岡氏懇談。26日渋谷・藤生健ブログ「戦闘教師ケン」10周年記念パーテー・懇談会。31日第二議員会館・北朝鮮問題研究会・三嶋信行。

8月6日自宅・浜谷惇・山口希望・運動史研究。7日自宅・プログレス研究会9人・納涼会。8日9日信州休暇。

                           (加藤宣幸 記)

■【今月のオルタ動画案内】
  YouTube配信 http://www.youtube.com/user/altermagazine

○『若月俊一を師と仰いで』 佐久病院医師 色平哲郎  聞き手:羽原清雅


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