編集後記38

【編集後記】 

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◎いま、日本は小泉劇場内閣を継承し、スキャンダルにまぎれながらも改憲
を呼号する安倍政権のもとで社会の格差を急速に拡大させている。都市では
俗に「ワーキングプワー」・「下流社会」などと新語が生まれるほどの膨大
な貧困層をつくり出し、大都市圏と農村の格差はますます広がり、地方の社
会生活は崩壊に瀕している。地方都市中心部のシャッター街こそその荒廃の
表徴である。この号では『地域からの変革を目指して』として、南忠男氏に
地域格差の問題としての「夕張のいま」を現地から報告して貰い、また、大
都市圏としての深刻な問題を抱える神奈川県の知事選挙に向けての政策モデ
ルを力石定一先生に提言していただき、また田中前長野県知事の脱ダム宣言
で、そのシンボルとなった『淺川ダム』問題についての実相を関良基氏に解
明していただいた。
これらを4月の統一地方選挙、7月の参議院選挙と続く選挙に臨む読者に選択
の資として供したい。

◎この号では国外からオーストラリア・メルボルン市の入江鈴子さんと中国
河南省鄭州大学の王春橋教授、そして国内からは姫路工業大学吉田勝次教授
と地球環境戦略研究機関・客員研究員関良基氏の4氏に新たらしく執筆陣に
加わって頂いた。
遙かオーストラリアから初めてのメッセージを寄せられた入江さんと私は6
0年も前にお会いしたままだったのだが、今回、一瞬にして『時空を超え』
メール上で再会を果たすことになった。また、同じように中国河南省鄭州大
学の王教授と富田昌宏氏との10年以上も絶えていた交流が大陸からのネッ
トによる教授からの問い合わせによって再開され、教授からのお申し出でに
よって自らが開設されているブログから『中国人から見た日中文化の差異』
を掲載していただくことになった。いずれも、「オルタ」がどのようにそれ
ぞれの方のお手元に届いたかはわからないのだが、バックナンバーをご覧に
なって突然お便りを頂いたのである。

 これは「オルタ」のデジタルメデイアならではの特性が生みだしたものだ
が、地球上でどなたに読まれているのか。心して編集に当たらなくてはと身
が引き締まる。これからも号を追って広がる新たな人的ネットワークを大切
にしながら国境を越え戦争のない世界を創っていきたいと思う。
 旧知の姫路工業大学の吉田教授にはお病気中とは知らずに、「オルタ」を
お送りしていた。ところが最近、初岡昌一郎さんから先生が独自の方法でガ
ンを克服されたとのお話しを聞き、早速、読者のために、その壮烈なガン闘
病記の発表をお願いし快諾をいただいた。

◎去る2月2日、東京・神田の学士会館で「オルタ」のレギュラー執筆者を
中心にして
『「オルタ」新春の集い』を持った。「オルタ」はこの3月で創刊3年を迎え
るのだが、この種の集会を持つのは初めてで、編集部としては会のなりゆき
を心配していた。しかし結果は40名の方々の出席があり、盛会で楽しく交歓
の時を過ごすことができた。とくに記念講演をお願いした日本僑報社編集長
段躍中氏の『日中相互理解促進を目指して』―日本創業10周年の報告―と題
する報告には、ユニークでそのひたむきな活動振りには出席者全員が共感し
感嘆することしきりであった。暖冬とはいえ、冷たい風の中をご来会下さっ
た皆様や、当日、花や餃子を寄贈して頂いた(株)ハイムと美勢商事の両社に
あらためて謝意を表したい。もし来年も催すとしたら時期・規模・会の進め
方などに工夫を凝らし、より充実したものにしたいと思う。

◎今月号は、毎号連載していただいている西村徹氏の「臆子妄論」はシエーク
スピア、初岡昌一郎氏の「回想のライブラリー」はトルコのノーベル賞作家
オルハン・パムク、富田昌宏氏の「人と思想」は下村湖人を取りあげ、奇し
くも文豪・文人論が重なり読者に「人間」の根源について問いかけている。
 「オルタ」の前身ともいうべき紙メデイアの同人誌「余白」は2003年6月
に「戦争・国家・人間」の追求を謳って創刊されたが編集長久保田忠夫君が
斃れ、その志は「オルタ」が引き継ぐ形となった。しかし「オルタ」は不条
理なイラク戦争に反対したり、急速に右傾化する小泉・安倍路線を政治的に
強く批判することに忙しく「人間」そのものを問うことが比較的に少なかっ
た。しかし、これからの「オルタ」は「戦争」「国家」とともに「人間」そ
れ自体を深く考える姿勢をつねに保ちたいと思う。

◎「人間」を考えるといえば、このところ珍しく何本かの映画を見た。ナチ
スドイツが崩壊する直前、死を賭して反戦ビラを撒いた兄妹の『白ばらの誓
い』、父親を日本軍の軍属として奪われ、その靖国神社合祀取り下げを闘う
韓国人女性の『あんにょん・さよなら』、命令に従って中国人を刺殺し苦悩
する日本兵の『蟻と兵隊』、36日間にわたる壮絶な日米両軍の死闘を綴る
『硫黄島からの手紙』、「墨守」という言葉を生んだと言う墨子の思想を奉
ずる若者が「非攻」をかかげて城を守るために奮闘する『墨攻』、そして地
球温暖化について誰をも説得しようとする『不都合な真実』である。元米国
副大統領アル・ゴアが地球温暖化による人類の危機を訴える最後の『不都合
な真実』を除いていずれも「戦争・国家・人間」を深く考えさせるものばか
りであった。それぞれの紹介は省くとして、そのすべてに通底するものは戦
争が始まり、それに組み込まれてしまえば人間としての尊厳は奪われ、人が
人を殺すという不条理に抗しきれなくなる姿を描きだしたことにある。

 アル・ゴアは地球温暖化を防ぐ為に一人一人が今すぐ行動を起こそうと
「私にできる10のこと」を真摯に呼びかけている。私たちはこれに応えると
ともに戦争を始めないために全人類の一人一人ができることから行動を起こ
さなくてはならないと思う。さしあたって日本人である私たちはまず「憲法
九条」を守り抜くことから取り組まなくてはならない。そのために「オルタ」
はささやかでも役に立つメデイアでありたい。
                        (加藤 宣幸 記)