編集後記42

【編集後記】 

○今月も先号に引き続き、憲法特集として、巻頭には羽原清雅氏が改憲を呼
号しつつ、重要法案を次々に強行採決し、まるで祖父岸信介の強権手法を丸
写しにしたような安倍内閣の姿勢を質した。河上民雄氏には第2回目として、
近現代史の視点から日本国憲法の成り立ちについて考察し、そこには自由民
権運動・大正デモクラシー・戦前の無産運動などを一貫して流れてきた先進
的な思潮が部分的には明治憲法に、そして日本国憲法にも大きく影響したこ
とを論証していただいた。品川正治氏の講演記録は財界人でありながら、自
らの戦争体験から九条の護持を強く訴える。戦争を知らない世代の読者にも
強く共感を呼ぶと思う。

○今年の夏は高温・水不足が予想される。国民は「異常気象」に慄き、地球
環境の破壊が臨界点に近づいていることを肌に感じ始めている。「オルタ」
も環境問題、わけても南北問題に絡む水・食料=(特に農業)のテーマに強
い関心を持ち続けたい。読者の積極的なご寄稿をお待ちする。この号ではご
自分が水田耕作者である富田さんに「コメからのエタノール」を紹介してい
ただいた。世界のバイオ・エタノールブームはすでに燃料と食料の競合を生
み、問題を孕んでいるが、富田さんは休耕田活用による日本農業の活性化も
視野に入れて問題を提起されている。 

○初岡昌一郎氏の長期連載『回想のライブラリ-』は、国際労働運動や大
学の教職に長く携われたことからくる高い見識、内外の活動を彩る人物描写、
読みやすく、優しい人柄が滲み出る文体などが読者を魅了し、大変な好評で
した。しかし20回をもって一応の区切りにしたいとの御申し出があり、残
念ながら、今号が最終回となります。お忙しい中を毎号ご寄稿いただき、
「オルタ」の基調を作ってくださったことを読者とともに深く感謝したい。
なお、次号からは「国際情報短評」(仮称)として海外主要メデイアの論調から
注目すべきものを紹介して頂くことになっており、ご期待ください。

○初岡さんは国際キリスト教大学(ICU)在学中から社会主義青年同盟に
参加し、私はその卒業式に父兄代わりに出席したという長いお付き合いであ
る。私にとっては畏友というよりはヨーロッパ社会主義運動理論の先達であ
った。その懐かしいICU出身で「オルタ」の執筆者でもある大河原雅子さ
んが7月の参議院選挙に東京地方区から立候補する。さる6月15日、『がん
ばれ、まさこ!』の会があり出席した。

大河原さんは3児の母で、生活クラブ生協の活動から、ローカルパーテー
「生活者ネット」で東京都会議員を3期務めた筋金入りの活動家である。そ
のキャリアーと人柄を知る私個人としては是非当選して活躍して貰いたい
と思う。ただ、民主党の中に改憲推進グループがいるのは頂けない。大河原
さんの推薦人になっている北大教授山口二郎氏は週刊金曜日のコラムに『改
憲派には党を出て行ってもらうくらいの気迫がないと民主は安倍政権に勝
てない』と書いていたが同感である。メールマガジン「オルタ」は特定の政
党や個人を支持することはしないが、私個人は「九条だけは変えさせない」
という立場で、現在の小選挙区制下では自民党政権を交代させるための政治
力学として護憲党である社民党・共産党でなく、改憲阻止に奮闘して貰う条
件で民主党の大河原さんに投票したいと考えている。

○6月16日、江戸東京博物館で、歴史教育研究会(日本)・歴史教科書研究
会(韓国)の2団体が主催し、明石書店・東京学芸大・ソウル市立大が後援
する国際シンポジウム『歴史教育をめぐる日本と韓国の対話』があり、出席
した。日韓歴史共通教材『日韓交流の歴史―先史から現代まで』の完成を記
念して開かれたものである。この催しの意義については「オルタ」40号で詳
しく紹介しているので省くが、10年にわたって困難な作業を続けられた日韓
双方の関係者のご努力には改めて敬意を表したい。
5時間に及ぶ報告や討議はなかなか充実していた。なかでも印象的だったの
はソウル市立大教授鄭在貞氏がまとめられた「『日韓交流の歴史―先史から
現代まで』の韓国における位置」と題する報告である。紙幅の関係で全文を
紹介できないが、日韓交流の拡大を願う私たちに重要な示唆があるので少し
長くなるが要約して載せたい。

第一、この教材の開発と普及は日韓の歴史葛藤を解消するのに有効であると
韓国歴史学会やマスコミが好意的に評価した。第二、この教材が学問的・教
育的姿勢に徹していて、これからの類似の作業の基準になる。第三、韓国と
日本は歴史認識が共有できないという主張に反論するよい資料である。歴史
認識の共有は詰まるところ、人間と人間の問題である。この本は国家や民族
を超えて歴史認識の共有が可能であることを証明した。第四、国家と民族の
異なる人間同士で歴史認識という微妙かつ敏感な問題を考える時には、相互
理解と信頼が必要不可欠な条件であること。そのことは共生の未来のために、
過去を語るという確固たる自覚と意思によって形成可能であり、この本は韓
国人と日本人の間でもそれが可能であることの証しである。第五、この本が
ソウル市立大と東京学芸大の交流を非常に深めた。第六、この本は韓国人に
日韓関係史を多面的に、幅広い視角から見渡すきっかけを与え、韓国人の日
本認識が少しは柔軟になり、ナショナリズムの相対化にも役立つ。第七、こ
の本は東アジアでも歴史葛藤を克服するために対話と協力が活発であるこ
とを世界に示す事例となった。これまで私たちはヨーロッパの歴史対話に憧
憬を抱き、そこに教訓を得ようと苦労してきたが、この本は東アジアでもヨ
ーロッパに負けない素晴らしい作業が可能であることを証明した。そして歴
史葛藤の克服方法をめぐって東アジアが世界と意見を交換するきっかけを
作ったといえる。と総括されている。このまとめは東アジアに真の連帯を築
きたいと願う私たちに大きな希望を与えてくれる、嬉しい報告であった。
                    (加藤 宣幸 記)
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