【編集後記】 

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◎ 国民は、さきの参議院選挙で「民意」を表明し、与野党の逆転で8月以降の国会がようやく「動き出した」と感じ、次のステップに期待し始めていた。
そこに突如として浮上した「大連立」構想や、小沢党首の辞留任劇である。
民主党の議員たちが唖然としているのだから、われわれ一般国民には理解できる筈もない。
 福田首相は「大連立」という表現を慎重に避け「新体制」という言葉を使った。しかし皮肉にも、これは1940年に近衛文麿氏が戦争を遂行するため、全政党を解散に追い込み、大政翼賛会の結成につなげた「新体制」と同じ言葉である。まさか福田首相が戦争を準備するために「新体制」を提唱したとは考えられないが、もし「大連立構想」の裏に改憲やアメリカとの軍事協力強化の思惑が隠されているとすれば、単に歴史の符合として見過ごせない。
 なにしろ、仕掛け人は強力な改憲推進派の双璧、読売新聞渡邊社長と不沈空母の中曽根「大勲位閣下」である。北大の山口二郎教授は、『この二人の老人が「国難だ」と騒ぎ、ごそごそ動きまわることこそ「国難」だ』と言うが的を射ていると思う。

◎ 小沢氏は「大連立」が民主党の政策を実現し、政党として政権担当能力を高める途だと釈明した。しかし、多くの国民は個々の政策協議で知恵を絞れば済むと考えているし、「大連立」では、なによりも一番肝心な民主政治の根幹が崩されると直感している。民主党役員会はこれを明確に拒否し、小沢氏もそれを了とし留任した。これで党内的には一件落着したことになる。
 しかし、国民は小沢氏の行動に釈然としたわけではない。小沢氏は「壊し屋」といわれるほど何回かの離合を仕掛け、主役を演じた。その政治的軌跡と今回の動きを重ねるとその手法に違和感を持つ人は多い。同志に諮らず、国民にも説明せず、自分の行動を無条件に支持せよ。さもなければ去れ。というのでは民主政治の指導者ではない。これでは、派閥政治全盛時代の自民党やヤクザの組織と同じになる。

 政権獲得を目指す政党に、党内民主主義の確立がなく強権的な運営が許されるようでは、民主的な社会の実現は望めない。民主党が地方分権重視の国家像を画くとすれば、党運営を、従来の小沢流手法とは対極の「分権連合型」に転換すべきであろう。
 小沢氏は、目を潤ませ、「恥を忍んで」と国民に詫び、党首として留任した。その評価は間もなく国民に委ねられる。この際、国民の一人として最低限小沢氏に望みたいのは第一に党内民主主義の徹底に努め、リーダーとしての政治的同意形成手法を改めること。第二に訥弁でもよいから党首討論、記者会見などに積極的に応じ国民に対し、誠実に政策を説明すること。第三に民主党として小泉・安倍路線とは異なる国民生活重視の立ち位置をより鮮明に宣言すること。などである。

◎ テロ特措法が衆議院で可決され、いよいよ主戦場の参議院に送付された。
江田五月参議院議長が、これをいかに裁くか、国民はこの歴史的な政治過程を固唾を呑んで見守っている。その主役である議長が「オルタ」の求めに『憲法民主主義をさらに進めるために』――参議院議長に就任して――として参議院の原理的位置付けと改革の方向を分かりやすく書いて頂いた。私は、かって議長の厳父江田三郎氏とともに旧社会党の改革を志したが果たせなかった。途半ばに斃れた三郎氏の遺志を継いだ五月氏の全国区選挙に
 参加して丁度30年になる。今、その五月氏は与野党逆転のシンボルとして 三権の長にあり、まことに感慨深い。日本の立憲政治を確立するために参 議院の果たすべき役割は大きく重い。議長の活躍を多くの国民と共に心から 期待したい。

◎ 守屋次官の腐敗が暴かれ、さらに政治家を巻き込む防衛利権のスキャンダルに発展する気配だ。参議院における審議の成り行きも混沌としてきた。し かし政府与党はレームダック化したブッシュ政権にテロ特措法の成立を誓 っている。果たして、この法律はどのよう国際政治の動向を背景にしている のか。『転換する安全保障観』と題して元共同通信論説委員長でベイルートやウイーン支局にも長く勤務された東海大学榎彰教授に論じていただいた。

◎ 世界が注目した中国共産党第17回党大会について、篠原令氏から日本の大手メデイア特派員の送ってくる記事とは一味違う的確なコメントを頂い た。私たち日本人にとっては巨大な隣国であり、多極化する世界の一極を形 成する中国の政治・経済・文化の動向には、ますます目を離せない。
  これについて「オルタ」では常設欄「海外論潮短評」の中国語メデイア分野 を篠原令氏に担当して戴き、中長期的視野に立った中国情報の充実を図るこ とになった。なお、篠原氏はシンガポールの南洋大学で中国語を学び、現在 は日中問題コンサルタントとして毎月日中間を往復する全共闘世代の現役専 門家である。

◎ 吉田勝次・春子ご夫妻の壮絶とも言えるガン闘病記の9回にわたる連載には、身内をガンで亡くした読者などから強い反響があったが今月でいったん 終了になる。長い間の克明な闘病記録発表に感謝するとともに、吉田先生のご健康をお祈りしたい。

◎ 芝田果里氏の「EDTA療法について」は11月7日に東京地裁が現行の「混合医療を原則禁止している医療制度」は違法という判決を下したのに関連する論文としてお読みいただければと思う。

◎ 今月の「オルタのこだま」は奇しくも今井・下山・高木の3氏から浅 集会・江田記念の集いについて感想を寄せられた。なお、大阪の木村さん らは理学博士らしい論理で沖縄集団自決問題についてのご意見があった。

◎ 編集部からのお詫び。
今月号に掲載予定の力石定一氏『CO2削減を地元環境のなかで求めよう』、松田建氏『まだ小さい日印関係』、七里敬子氏『世界が100人の村 だったら』などを全体のページ数の関係で次号に掲載させて頂くことに りましたことと、『臆子妄論』の一部に文字化けが発生し、どうしても修 復できませんでしたのでカナ表記にしたことを執筆者及び読者各位に深くお 詫びするとともに、ご海容をお願い致します。
                     (加藤 宣幸 記)

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