【編集後記】 

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◎ 小泉・安倍政権の市場原理主義は日本の医療・年金・雇用などの社会保障
政策全般を崩壊させつつあるのは誰の目にも明らかだが、同時に忘れられないの
は、「教育改革」によって教育基本法を改悪し、教育現場を追い詰めたことであ
る。格差と閉塞感に包まれた日本社会には凶悪犯罪が頻発する。いま、日本国民
の関心は社会保障のあり方とともに教育についても北欧モデルへ強く惹きつけら
れている。ごく最近の米調査会社のデータ(対象100カ国)でもデンマークが幸福
度1位、日本は43位となっていた。
  今月はデンマークの教育について、かって強く影響を受けたとされる近代日
本の大先達内村鑑三氏や東海大学創立者松前重義氏を通じる日本との関係なども
含めコペンハーゲンで東海大学ヨーロッパ駐在事務所長だった前島巌東海大学
名誉教授に、その一端を紹介していただいた。
  また、経済発展の著しい「新興大国」中国の教育現場の実像を窺わせるような
中国と日本の地味な教育交流運動の実相について、以前、日教組幹部として活
躍され今は教育交流の実務を担われている山中和夫氏に運動の一端を報告して
頂いた。

◎ 前兵庫県立大学教授でAPLINC姫路代表の吉田勝次氏から『陳水扁政
権の敗北とデモクラシー』を頂いた。なにしろ吉田氏は過去20年の間に10回以
上も陳水扁氏と話し合った実績を持つ極めつけの台湾政治研究者であり、かつ民
進党シンパを自称する方である。こういう方によって台湾総統選挙の本質を衝く
総括を「指導者の個性とデモクラシー」という点に絞って論じて頂いた。このよ
うな深い考察と実情に裏付けられた論考は日本のマスコミではなかなか目にでき
ない。台湾問題が東アジアの平和と安定に大きな影響を持つ以上、私たちが「一
つの中国」に立つとしても台湾政治の現実を直視する必要があると思う。

◎ 三重の高木さんから5月3日~6日に大阪舞州アリーナで行われた『九条世
界会議IN関西』の国際会議(7500人参加)の報告が届いた。この会議は千葉・
幕張メッセ(1万5000人参加)でも盛大に開催され、「九条を守る」運動の国
際的拡がりを示すものとして注目された。
『この会議は「武力によらずに平和をつくる」という日本国憲法九条の考え方
を現代の世界平和に生かそうという試みだ。』(川崎哲)

「オルタ」としてもこの運動に賛同し、『運動資料』として決議全文を載せ
た。改憲反対の意思が固まった仲間たちを集め阻止や粉砕を叫ぶことも時に必
要だが、むしろ、そのエネルギーの一部でも改憲か護憲かで悩んでいる人々や「
改憲派」ではあっても九条の変更には反対するというような人々を説得すること
に使ったらどうであろうか。その意味で「九条を守る」ことの国際的意義に着目
し運動を広げる大切さを深く考えたい。

◎ 前号におけるハンセン病問題についての江田五月氏のインタービュー、木
村寛氏の書評には大きな反響があった。まず、河上先生を通じて犀川夫人から木
村寛氏の的確で懇切な書評と江田三郎・五月二代の取り組みについての深い謝辞
が編集部に寄せられた。
また、三重の高木さんからは江田父子のハンセン病に対する熱心な取り組み
に感動したという声とともに、津市出身で現在も岡山の長島愛生園で暮らすハ
ンセン病回復者(元患者)の田端明(89)さんが出版した『石蕗浄土―亡き妻
への追悼文集』についての6月24日付け中日新聞切り抜きが送られてきた。そ
して、栃木の富田さんからは江田議長の記事に自分が国立療養所を訪ねた想い
を重ねた手紙をいただいた。

◎最後に私事で恐縮だが、最近自宅で昭和14年(1939年)8版『小島の春』1冊が
見つかった。この本は、その頃、女子医専を出たばかりで長島愛生園に勤めた
若い「らい医」小川正子医官が警察のリストをもとに村々を訪ね患者を収容し
て歩く記録なのだが、当時、全国的に感動の嵐を呼び数十万部売れたという超
ベストセラーだった。
少年の私も従兄弟に薦められて読み、涙が止まらなかった覚えがある。見つかっ
た本は私と知り合う前に、妻が銀座で買ったという書き込みがあり、戦火を超え
て大切に保持されてきたものだ。本も貴重だが、ハンセン病問題にともに涙して
いたことに驚きと嬉しさがあった。「強制隔離」「治癒」「施設開放」まで、あ
れから約70年がたち、今回「ハンセン病問題基本法」が成立した。夫婦でともに
喜びを分かちたいが妻はすでに重度認知症でそれができない。

◎ 堺市の西村徹先生が体調を崩され、残念ながら、格調の高い文章で長い間
「オルタ」の読者を魅了してきた『臆子妄論』の連載はこの号で当分休載になる
。長い間のご執筆に感謝し、読者とともに一刻も早い回復を祈り、達意の名文
に再び接したいと思う。。
 
◎ 大阪の熱心な読者佐竹徹氏が東京に出張中脳梗塞で倒れ、7月10日亡くなら
れた。佐竹氏とは先日、黒羽純久氏の葬儀でいろいろ話し合ったばかりだったの
で突然の訃報には驚いた。60年安保時代には、セクトを超えて、同じ大阪の畏友
西風勲氏などの旧社青同と深い交流があった仲間であり、心から冥福を祈りたい。

                          (加藤 宣幸 記)

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