編集後記60

【編集後記】 

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◎ 米国発金融危機は世界同時不況の波となって日本の実体経済にも押し寄せ
、トヨタ・ソニー・キャノン・シャープなど「勝ち組」と目された大企業の雇用
契約期限内の派遣社員首切り、宿舎追い出しなどが始まっている。麻生政権には
これを止める力もない。この蛮行は橋本内閣が製造業にも派遣労働を認め、特に
小泉・安倍とつづく自民党政権が規制緩和を強力に推進した帰結である。少なく
とも10年前までの日本では本来、資本主義が内包するこのような凶暴性をむき出
しにさせることはなかった。
   1929年の大恐慌以来、営々と積み上げてきた資本主義への諸規制がミルト
ン・フリードマンが主導する新自由主義政策により、1970年代以降次々に撤廃さ
れ、日本もこれに追随したからである。ところが今回の世界金融危機は勝ち誇っ
た米国金融資本主義の破綻を明らかにし、金融市場の様相を一変させた。政府の
介入は金融どころか実体経済のビッグ3支援にまで及ぼうとする始末である。ま
さに資本主義はどこに向かうのかが問われている。
まさに世界は大変動期に入ったが、これに対峙する社会運動はいかにあるべきか
。「社会変動と社会運動」―世界的な構造転換の中で社会運動を考える―として
久保孝雄氏に論じていただいた。生協運動・労組活動・市民運動・NPOなどい
ろいろな社会運動に取り組まれている方や関心を持たれる多くの方の良き指針に
なると思う。

◎ 政治・経済・文化、ある意味では軍事でさえもアメリカ一極支配の時代が
終わったことは誰にも明らかになった。しかし多極化した世界がどのように形成
されるかについてはまだ定かではない。この混沌の中で確実に一極を担うと思わ
れるロシアの動向には目を離せない。とりわけ、ロシアの一次情報に触れる機会
が少ない日本国民にとって直接ロシアの動きを知ることは重要である。長年、毎
日新聞モスクワ支局長として活躍され、現在も再三現地を訪れて要人との交流を
深め、雑誌『世界』の「世界論壇月評」に毎月健筆を振るっておられる日本大学
石郷岡建教授に『国際経済危機と多極化世界の到来――ロシアから見た新しい世
界観――』を執筆して頂いた。明快な問題点の指摘は必ず読者の期待に応える筈
である。
 
◎ 書評では石郷岡論考とも関連し、隣国でありながら情報が少なく、思い込
みや偏見にとらわれ易いロシアについて『日本人がいつまでも『北方領土問題』
だけにこだわりつづけるのではなく「世界の潮流の中で日ロ関係を見よ」』、と
力説する大前研一氏の『ロシア・ショック』を北海道大学名誉教授望月喜市氏に
取り上げて頂いた。

◎ 今月の『緊急提言』は力石定一法政大学名誉教授の「川辺川ダムの代替」
を資料として載せ、蒲島郁夫熊本県知事や田中信孝人吉市長からの反響を補遺と
して加えた。この資料は力石氏が蒲島熊本県知事や球磨川流域の各首長に提案し
たものの写しである。全国における脱ダム闘争のシンボルの一つにもなった川辺
川ダムで県知事が『川辺川ダム計画を白紙撤回しダムによらない治水対策を追及
すべきである』と9月県議会で表明し、さらに最大受益地とされる人吉市の市長
が『白紙撤回し地域住民の意見を反映した治水対策を講じるべき』と市議会に諮
ったことは画期的であった。力石氏はそのダムを取りやめたあとの代替策に就い
て提案している。各首長や反対運動を担った方々の反応に注目したい。

◎ 『研究論叢』は飯田洋氏が戦前からの農民運動指導者三宅正一氏について
の研究を『戦時期保険医療政策と社会民主主義政党政治家の職能性』―三宅正一
の農村医療分野における「社会運動的農民運動」-としてまとめられた労作を3
回にわたって分載する。戦後、左翼系学者の主導で作られた多くの日本社会運動
史では戦前の社会民主主義政党政治家の活動について「戦争協力者」、はては「
社会フアッシスト」として切り捨て、戦時下における具体的な社会運動の実像に
ついて踏み込んだ評価をすることはなかった。
   飯田氏は上場企業パラマウントベッド株式会社の専務まで勤めて退職した
後、立教大学大学院修士課程に入られた異色の政治学研究者である。最近「昭和
史」の再評価が始まっているが日本の社会運動史全般についても飯田氏のように
党派性に歪められない視点からの研究がより深められることを期待したい。
 
◎お陰さまで「オルタ」も60号を出し、"08年を終えることができました。
号を追って増える執筆者・読者の方々に深く感謝するとともに、編集者の至らぬ
ため、編集上種々ご迷惑をお掛けしたことを関係者の方々に改めてお詫びします

  来年は民意による「政権交代」の実現を期待しつつ「オルタ」の充実を図
りたいと思います。一層のお力添えをお願いいたします。良いお年をお迎え下
さい。
                          (加藤 宣幸 記)

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