【編集後記】 

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◎ 今、世界は米国一極支配の時代が終わり、多極化時代の入り口に立ってい
る。そして世界の熱い視線が、やがて一極を確実に形成すると思われる「明
日の中国」にだけでなく、「今日の中国」にも注がれる。それは、金融危 
機、同時不況に見舞われ、マイナスあるいは1~2%成長にとどまる世界の主
要国が6%成長の見込まれる中国に「世界の工場」から「世界の市場」にな
り、不況にあえぐ世界経済のエンジンになって欲しいからだと思う。
 
世界は米国と中国による『G2』が動かす時代に入ったとさえ言われるが中国
の実像はどうなのか。輸出依存型経済成長からの脱却、深刻化する国内格差の是
正、政治制度の民主化などの重大な内政課題に現政権はどのように対処している
のか。
  
  これらについて中国ビジネスコンサルタントの篠原令氏に論じていただいた。
篠原氏は「オルタ」に何回も寄稿されているので改めて紹介の必要もないが、氏
は毎月のように中国に出張し、中国の政治・経済・文化各界要人と幅広い接触が
ある。氏はシンガポールの南洋大学を卒業し、中国の4大地方語をはじめアジア
の4カ国語を自由に操られるが、『もうひとつの「空海の風景」―誤解された日
本人の無常観―』・『友をえらばば中国人』・『妻をめとらば韓国人』など「ア
ジアの視点から日本を斬る」というシリーズでの著書も多く、その的確な中国観
察は識者に評価が高い。

◎全国で2200万組合員となった生活協同組合は有力なNPOであり、高度経
済成長時代の労働組合のような派手な存在ではないが、日本社会の一翼を担う社
会団体として着実に成長してきている。今、首都圏では、個性的な二つの生協が
注目されている。   一つは雑誌「AERA」の調査で最も信頼度の高い生協
としてランクされただけでなく、関係組織の「生活者ネットワーク」が全国で14
6名の代理人(地方議員)を擁するまでになった生活クラブ生協(組合員31万人
・取扱高約839億円)である。

 もう一つは他の生協に先駆けて『個配』に積極的に取り組み、今、最も元気で
組織が伸びているといわれるパルシステム生協(組合員113万人・取扱高約1
795億円)である。今号ではパルシステム生協の専務理事として活躍されてい
る唐笠一雄氏にパルシステム生協がどのような問題意識で活動しているかを『食
と農を通じたパルシステム社会改革』として組合の方針を披露していただいた。

◎ 書評1では日中交流研究所が主催する「日本語作文コンクール」の入賞作
品を紹介した『私の知った日本人』(段躍中編・日本僑報社刊・1800円)につい
て外務省大臣官房審議官の井出敬二氏が推奨文を書かれたものを同研究所のHP
から,同研究所の了承を得て転載した。「オルタ」にもご寄稿いただいたこと
のある段躍中氏は日中両国語による活発な出版活動やインターネットによるブ
ログやメールマガジンの取材・発信などを一人でこなし、まさに八面六臂の大
活躍をつづける在日中国人である。

日中交流研究所長として取り組むこの「日本語作文コンクール」という大事
業は今回で4回目を迎える。この事業は大変困難だが将来の日中関係を担う人材
を育てるためには不可欠な重要事業で、私たち日中韓の連帯によって東アジアに
真の平和を築こうとする者はこれの継続・発展のために大いに協力しなくてはと
思う。

 書評2は『癒す力』(吉田勝次著・にんげん出版刊・1600円)を評論家鶴崎友
亀氏に取り上げて貰った。この著書は前県立兵庫大学教授吉田氏が「オルタ」の
38号から6回にわたって連載した「がん闘病記」を大幅に加筆し、上梓されたも
のである。評者の鶴崎氏も大腸がんから前立腺がんを患いそれが口腔に転移し、
先日、大手術を終えたばかりなのに筆をとっていただいた。
  がんと闘いながら前向きに活動されるお二人の熱意と行動力にただ敬服するば
かりだが、読者は吉田氏が生活のありのままを明かして書かれたこの本から日本
のがん治療のあり方、がん患者としての生き方などについて多くの示唆を受ける
筈である。
                        (加藤 宣幸 記)

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