【編集後記】 

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◎ジャパンハンドラーといわれ日本を自在に操ってきた一群の米国人と長年これ
に呼応してきた自民党などの政治家・官僚・マスコミは、中国・北朝鮮への抑止
力として在沖海兵隊は絶対に動かせないという。しかし全世界各国の総軍事費を
上回る予算をもち圧倒的な軍事力を誇る米軍は、継戦能力が疑われ開戦は即体制
崩壊につながりかねない北朝鮮に海兵隊は何の役割を担うのか。米国債の61%
は外国が保有し、しかも、そのトップは中国(8948億ドル)で、米中貿易額
もすでに日米のそれを超えている。巨大債務国の在沖海兵隊が大債権国で最大の
貿易パートナーの何を抑止するのか。 

ローマや大英帝国は大きくなりすぎた帝國として衰亡した。ペンタゴン総予算70
00億ドルの半分以上を海外派遣や駐留費で食い潰しているといわれ、世界に700も
ある米軍基地は何のために、いつまで必要なのか。今、日本国民の意識には腰の
定まらない鳩山政権の帰趨とは別に在沖海兵隊はなぜ駐留するのかという素朴な
疑念が確実に湧いてきている。マスコミの移転先探し報道に煽られるのでなく「
普天間」を少し長い時間軸とグローバルな視点で考え直して見たい。巻頭で『日
米軍事同盟、もう一つの視点』~パワー・シフトの時代の同盟~として石郷岡日
大教授が鋭く問題を提起されている。

◎戦後日本に残された外交課題は北方4島、竹島、尖閣諸島など島嶼問題ばかり
だが、望月北大名誉教授が『北方領土不法占拠論を衝く』として、いわゆる「北
方領土」もロシア憎しだけの感情論でなく、日本人全体が「冷めた頭」で考えて
見ることを指摘されている。

◎鳩山政権は無駄な公共工事の象徴として八つ場ダムの中止に取り組んでいるが、
調査が進むにつれ、さきに私たちのオルタ71号で関良基拓大助教が指摘され、そ
のご東京新聞なども大きく取り上げた国土交通省による恣意的な飽和雨量の過小
設定など以外にも自民党の構造的ダム利権が暴かれてきた。「住民の声」が実は
「土建業者の声」である実相を『動き始めた「ダムによらない治水」』として、
気鋭のルポライターまさのあつこ氏が現地ルポされた。この稿は雑誌週刊金曜日
のご好意によって掲載できたのだが、ちなみに、まさの氏は雑誌「世界」の今月
号にも『新旧政権の幻想「箇所付け」の終焉なるか?』を寄稿されている売れっ子
ライターである。
 
◎【私の視点】に横田克己氏から『「あたらしい公共」のアジエンダに期待する』
という投稿があった。「あたらしい公共」とは、いままで「行政によってもっぱ
ら担われてきた公共に対し、市民・事業者・行政の協同によって課題の解決を
目指そうというものだが鳩山首相が施政演説で取り上げてから俄かに注目を集め
ている。横田氏は生活クラブ生協神奈川の創立以来、現在も活動されている。実
践の中からの視点だけに実感が伝わる。

◎『戦争世代の「体験的平和主義」が省察と思想上の熟成を経た「経験的平和主
義」となって次世代以降にうまく継承されていなかった』(千葉真ICU教授)
というご指摘も踏まえ、今月からオルタのデジタル特性を活かし【アーカイブ】
欄を作った。まず大阪の中辻政太郎氏から始まるが、読者からの積極的なご寄稿
を募りたい。

◎【書評】の(1)では松井保彦著『合同労組運動の検証~その歴史と論理~』を著
者と社青同時代からの盟友初岡昌一郎氏に評して頂いた。企業別組合が主流の労
組のなかで個人加盟の合同労組活動に50年間一貫して取り組まれてきた著者の苦
闘の歴史はそのまま日本の労働組合が抱えてきた問題の深さを示していると思う。

(2)は鳩山首相が5月決着を明言する「普天間」についての、吉田健正著『沖縄の
海兵隊はグアムに行く~米軍のグアム統合計画~』を『沖縄の「基地と行政」を
考える大学人の会』で基地問題に知識人グループとして多くの大学人の方々とと
もに活発に取り組んでおられる法政大学沖縄文化研究所の清川絃二氏にお願いし
た。

◎3月20日「マスコミ九条の会」が東京の日本プレスセンターで開いた『「普天
間問題」のウラに隠された真実~進行中の米軍グアム統合計画の意図を探る~』
シンポジュームに参加した。パネリストは基調報告をオルタ執筆者の吉田健正氏、
討論者は軍事評論家前田哲男氏・ジヤーナリスト鳥越俊太郎氏で、300人を
超える満員の会場は熱気に満ちていた。とくに吉田氏は病後にもかかわらず沖縄
から駆けつけられ、パワーポイントを使っての1時間半に及ぶ報告と質疑には満
場の参加者が固唾をのんで聴き入った。

◎3月25日、第6回公共哲学カフエが、今田高俊東工大教授の『新たな公共性~共
生社会をめざして~』の研究会を東工大・田町キャンパスで開いたので出席した。
今田教授は、かねてから「新たな公共性」について先駆的に発言されてこられ
たが「新しい公共」が鳩山演説でにわかに広まったのには苦笑されていた。そし
て、先生の「人間はケアする動物」であるとのご説には深い共感を覚えた。

◎【訃報】オルタ執筆者で元東京都議会議員棚橋泰助氏はかねて病気療養中でし
たが肺炎のため4月17日に亡くなられました。氏は大正デモクラシーの一翼を
担い、初期労働運動の活動家として著名な棚橋子虎氏の長男として厳父の志を継
ぎ、二代にわたる社会運動家として活躍されました。60年安保闘争の後、社会
党で起きた構造改革論争では、自治体議員としての実践活動を通じて構革論を展
開され、論客としても華々しく活動されたのが忘れられません。ここに謹んでご
冥福を祈ります。

(加藤 宣幸 記)                     

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