【編集後記】 

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◎沖縄出身の芥川賞作家大城立裕氏は「負担を押し付け恩恵だけ享受するという
構図は沖縄と福島は同じだ」と喝破された。私はこの鋭い指摘に共感するが原発
問題は、事故当時の東電そして政府による度重なる不手際だけでなく、1953年の
アイゼンハワーによる「原子力平和利用」宣言以来、米国から日本へ急速に導入
され「安全神話」のもとに自民党・官・電事連・学・マスコミが一体(原子力利
益共同体=原子力村)になって強引に推進した歴史的事実とそれによって日本の
エネルギー政策がいかに歪められたかについても徹底的に検証されるべきだと考
える。

◎膨大な国費を原発に注ぎ込んだ政策の失敗は悲惨な「フクシマ」を生んだだけ
ではない。国連によれば昨年1年間の世界の再生可能エネルギー関連の投資額は
前年比32%増で過去最高の2110億ドル(約17兆円)だが、わずか33億ドル(全体
の1・5%)の日本を急進する世界の再生可能エネルギービジネスからすっかり立ち
遅れさせてしまった。ちなみに大規模な風力発電が進む中国は489億ドルでなん
と日本の約15倍である。(20110708朝日) 菅内閣が提案し原発推進派が抵抗する
「再生可能エネルギー特別措置法案」(全量固定価格買い取り制度)が今頃審議
される日本は技術力があっても先進諸国水準から見れば完全に一周遅れのランナ
ーなのである。

◎3・11から4カ月たった7月13日、すでに内閣は「死に体」であり、与野党の原発
推進派大物議員が厚顔にも「地下原発推進議連」などと蠢き、マスコミあげて菅
辞めろの大合唱のさなか総理は個人の見解と称する脱原発の方向性を表明した。
  目標達成のプロセスどころか閣内の統一も取れていないのだから国の政策とは
言えないが、政治家菅の資質や手法への批判・嫌悪感はあっても、日本の進むべ
き道としては間違っていないのだから、これはこれで一定の評価をすべきだとは
思う。とは言え、いまだに原発は収束せず現地の人々は放射能の雲の下で苦しみ
悩んでいるのだ。自らも農業を営む濱田幸生氏にこの実態を鋭くレポートして頂
いた。

◎今月の【私の視点】は大震災関連で二つあったが、その一は、農業・漁業・畜
産業者などの生業を一瞬に奪った原発は茨城県の農業者濱田幸生氏がオルタ誌上
で鋭く指摘するように周辺のあらゆる生活者にも風評被害という大変な苦しみを
負わせた。これについて日本女子大名誉教授高木郁朗氏が社会システム改革の必
要を説かれた。その二は後継者もその政策も決まらないまま、ただ菅おろしに狂
奔する永田町に対して元横浜市参与の船橋成幸氏が素朴な国民の声を代弁すると
して「復興促進と脱原発」の国会決議を提起された。

◎PTT参加で国論が割れる日本に対して、同じ北東アジアに位置する韓国はPTTで
なく米国、EUなどとFTAを積極的に進めている。北東アジア地域で海運の釜山、
航空の仁川の優位にも見られるように東アジア経済の日本先頭雁行発展論はすで
に遠い過去のものだ。新潟経営大学蛯名保彦教授はこれからの地域経済圏論は新
しい産業構造論と重ねて構築されなくてはならないと主張される。この問題提起
を【研究論叢】として載せた。経済のグローバル化が進むなかで北東アジア経済
圏をどう位地づけ、日本はいかに動くべきなのか。これを機会に論議が深まるこ
とを期待したい。

◎6月21・22日仙台に行き、東北大学名誉教授徳田昌則氏夫妻の車で塩釜・石巻な
ど海岸地域一帯を案内していただいた。徳田氏はオルタ90号で3・11の日記抜粋を
披露されたが当日は石巻にいて間一髪助かったのだ。3カ月たった被災地の光景
は、東京で復旧の進展を頭で描いていたものとは大きく違っていた。道路の瓦礫
こそ集積所に片付けられていたが漁船やレジャーボートはまだ岸壁に打ち上げら
れたままだ。津波に洗われた田んぼには持ち主不明の自動車が何台も何台も放置
されている。破壊をまぬかれた小学校ではまだ多くの人々が避難生活をつづけ、
街の交通整理は警官の手信号だ。この現実を見れば「頑張れ日本」などと軽々し
く口にすべきではないと自問し、重い気持ちになった。

◎24日ソシアルアジア研究会で高木郁朗氏の「東日本大震災後に改革を要する社
会経済システム」の報告を聞き、25日には大河原雅子事務所で東京チエンソーズ
青木亮輔氏の「新しい公共と林業再生」というテーマの研究会に参加した。26日
は佐藤信著『鈴木茂三郎』(藤原書店)の著者を囲み羽原・岡田・山口・堀内氏な
ど社会党史研究者との合評会を持った。

◎【お詫び】好評連載中の「海外論潮短評」は初岡昌一郎氏が海外出張中のため
今月は休載となり、濱田幸生氏の「農業は死の床か再生の時か」は巻頭に振り替
わっています。

◎【暑中お見舞い】 例年より10日も早く梅雨が明け、節電下に猛暑日が続きま
す。被災者の方々や読者各位とともに、この夏を乗り越えたいと思います。

                  (加藤宣幸記)

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