【編集後記】 

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◎第66回の「ヒロシマ」を迎えた日本は、今年「フクシマ」という悲劇をさらに
歴史に刻みこんだ。しかも土壌や農畜産物への放射能汚染は広がり、人々の不安
は募る。ヒロシマ・ナガサキを繰り返すなと、世界に核兵器廃絶を訴え続ける日
本人がなぜ再び放射能の雲を浴びたのか。私たちは、無謀な戦争に突っ込み、し
かも終戦の決断ができずに320万人の国民を無駄死にさせた戦争責任の明確化を
問うてきた。再び過ちを繰り返さない為に「フクシマ」についても徹底的な検証
を迫りたい。

◎いつから、どこから、誰がどのようにして、地震が頻発するこの日本列島に欧
州のどの国よりも多い54基の原発をつくり、「フクシマ」を生んでしまったの
か。しかも、その原発は処理できない核のゴミを日々増やしている。

今では、毎年900億円を超える広告宣伝費が九電力会社側から湯水のように政・
官・学・メデイアに流れ込み、「絶対安全神話」を創りあげたこと。直近10年間
の原子力関係予算は4・5兆円で、そのうち関係自治体には地元対策費として1・5
兆円が支出されたこと。そして、この原子力マネーは電源開発促進税法など電源
3法によって捻出され、国民の目が届きにくいエネルギー特別会計から注ぎこま
れるという巧妙な仕組みも明らかにされた。(東京新聞8・14)

しかし原子力マネーをめぐる闇はまだまだ深い。原発を推進したのは自民党だ
が、民主党にも原子力ムラ議員は何人もいる。九電力の会社側は、表向きの政治
資金を役員個人という形で自民党に、民主党には電力労連を通じて拠出する。

しかも、電力マネーの力は各地方経団連のトップには必ず九電力各社の会長を就
かせ、他方労働側には中央・地方連合の事務局長など主要役員に電力労連出身者
を占めさせる。そして各地域の電力会社は圧倒的な発注力で各県経済界を支配す
る。しかも電力会社労使の強い組織力・集票力は、原子力ムラ人脈を着々と与野
党に浸透させ日本を動かしているのだ。

◎フクシマは世界に衝撃を与えたが、ドイツのメルケル政権はいち早く決断し、
それまでの原発容認政策を180度転換して、6月6日には17基あるうちの8基をすぐ
に、残り9基も2022年までに段階的に閉鎖するという脱原発の法案を閣議決定し
た。
これは長年にわたる国民的な議論や根強い反原発運動の成果ではあるが、メ
ルケル首相がこの法案作成過程で原発政策を単に安全性・経済性だけでなく倫理
的側面からも検討するため、「技術的安全性」以外に「倫理的受容性」を検討す
る委員会にも諮問したことを注目したい。今号では、ここまで運動をリードして
きた緑の党やドイツ社会民主党の原発政策から日本は何を学ぶべきなのか東海大
学名誉教授前島厳氏に「ドイツ社会民主党と脱原発政策」のご寄稿を頂いた。

◎8・15と3・11 は日本国民に生き様の転換を迫る日として深く刻み込まれる
が、かって陸軍幼年学校・士官学校・近衛師団将校という旧陸軍のエリートコー
スを歩みながら終戦を迎えた元毎日新聞編集局長細島泉氏にその体験を踏まえ
【私の視点】に提言を受けた。

◎オルタ90号で羽原清雅氏は「全国社会運動資料センター」設立構想を提起され
たが、早速、大阪の荒木傳氏から「大阪産業労働資料館」(エル・ライブラ
リー)の設立経過と現状の問題点などについての報告が寄せられ【運動資料】と
して載せた。

◎7月21日生活クラブ岩根邦雄氏を囲む会に出席。22日はアメリカ在住執筆者武
田尚子氏が中国からの帰途東京に寄られ初岡・荒木・羽原氏など在京の定期寄稿
者と歓迎会食会を開いた。29日はソシアルアジア研究会で福井県立中沢孝夫教授
の中小企業問題の報告を聞き、1日は羽原清雅氏と2人で大阪産業労働資料館を荒
木傳氏の案内で見学し、谷合佳代子館長から資料館設立経緯と6万点の蔵書や貴
重な諸資料の説明を戴いた。夜は堺から執筆者の西村徹・木村氏も加わり、久し
ぶりに浪速の夜が盛り上がった。7日は岡田・山口・堀内君ら社会運動研究者た
ちと篠原令氏を囲んで中国事情を聴いた。

◎【お知らせ】好評連載中の吉田健正氏の「A Voice from Okinawa」は著者の健
康上の理由で今月から隔月掲載となりましたのでご了解をお願いします。

(加藤宣幸記)

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