◇「老農夫のつぶやき」(2) (栃木)       富田 昌宏

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米国産牛肉再禁輸
   ミスでは済まされない

(1)輸入再開後1カ月の不祥事
  “土に生き土に還る身蚯蚓鳴く”   昌広
 『老農夫のつぶやき』には蚯蚓の問題を書こうと思っていた。野放図な食料輸入
と4割にも及ぶ減反政策の中で農地が荒れ始めた。荒れた農地に蚯蚓は住まないという話である。
 ところが降って湧いたようなショッキングなニュースが飛び込んできた。米国か
ら1月に輸入された牛肉に、牛海綿状脳症(BSE)病原体の異常プリオンがたまり
やすい特定部位(SRM)の背骨が混入しているのが確認された。輸入再開後わずか1カ月足らずで、禁止されているはずの背骨つきの肉が堂々と成田空港を通関しようとしたことになる。問題の牛肉は、米国農務省の検査証明書が貼られてあった。「あきれはてた」という以外に適切な表現が見当たらない。
 
 政府は直ちに輸入停止に踏み切ったが当然の措置である。このことは、ウスウス予測できた。米国の強引な輸出攻勢に、ブッシュさんの偉大なるイエスマンコイズミ首相が、「食の安全」を重視する消費者などからの不安の声を封殺して輸入解禁に踏み切ったことに問題がある。政府の今回の輸入禁止措置も通常国会での追及を事前に阻止しようとする狙いが見え隠れする。
 
あわてた米国政府は、、ただちに日本政府に陳謝すると同時に迅速な調査、食肉処理施設の検査員の増員を約束した。日本政府の輸入解禁決定を契機に、最近では韓国、」シンガポールなどの国々でも輸入再開の方向に動き出していた。とんでもない
不手際のおかげで各国が米国産牛肉を再び締め出す可能性もある。できるだけ早く日本政府の理解を得て穏便に事態を収束したいという米国の意図が透けて見える。
 米国では昨夏以降、議会での対日制裁論議など高飛車な姿勢をちらつかせんがら、日本政府に対し、牛肉の輸入解禁を求めてきた。一方で不完全な飼料規制やさまざまな検査体制の不備が、米国産輸入牛肉の安全性を審査するわが国の食品安全委員会で指摘された。
 
 日本政府は、すべての月齢のSRM除去などを柱にした対日輸出プログラムを約束し、委員会から輸入再開のお墨付きをもらった経緯を思い起こすべきである。
 今回の問題は、第一義的には米国の不手際が原因だが、それを許した日本政府にも責任の一端がある。 もともと多くの消費者や農家は、米国のBSE対策に根強く不信感を持っており、昨年12月の輸入再開時には「拙速だ」と批判の声が強かった。
米国のずさんな管理体制が明らかになり、そうした不信感はさらに増幅されるだろ
う。
 多くの量販店や外食産業が米国産牛肉の取り扱いを再び見送る方針だという。消費者の反発が自分たちの店に向かってくるのを避けるための措置である。万一、牛肉全体の安全性に対して消費者が疑問を持ったら、国内の生産者にも悪い影響が及びかねない。
 これまでの経験から、米国は今後、硬軟織り交ぜて、日本に牛肉輸入の早期再開を迫ることは確実である。
 なお、米国務省当局者は2月6日、ブッシュ大統領が議会に提出した2007会計
年度予算教書で、BSEの拡大調査継続費用の要求を見送ったことを明らかにした。
同省は拡大調査の見直しを検討中で、このまま補正予算も計上されなければ、米のBSE調査は現在の1割ほどの年間4万頭レベルに縮小することになる。

(2)国会論戦は併行線
 
 この問題は2月に入って国会論戦の争点になった。
民主党は2月7日の衆院予算委員会で引き続きBSE疑惑の特定部位混入を許した政府の責任を追及したが攻めあぐねぶりが目立った。すっかり守りを固めた政府はこれまでの答弁を繰り返し、乗り切る構えである。民主党側は、特定部位除去などの輸出プログラムを守らせることが出来なかった日本政府の結果責任や米国政府による検査の信頼性のなさの対応不足などを指摘し、責任を認めるよう迫った。これに対して、中川農相は特定部位の混入発見後の全面輸入停止を中心に対応を説明し、「日本側の責任としては最大限やれることをやっている」とかわした。

(3)精肉すべて国産  長野Aコープ
 
 ここで注目すべき動きを紹介しよう。
 JA(農業協同組合)全農長野は2月7日、県内のAコープ38全店で取り扱う
精肉を1日から県産または国産100%とする。『牛・豚・鶏精肉県産国産宣言』を
発表した。
JA全農はAコープ店で販売する生活野菜・精肉を2010年までに国産とする方針を
出しているが、具体的日取りに取り組んだのは全農長野が始めてである。
 38店はレギユラーチエンに加盟し、JAからの委託を受けて全農長野が経営管理
している。
宣言で競合店との違いを明確にするほか「新鮮・安心・安全・健康」な県産・国産
農畜産物の販売拠点として位置づけ、地産地消を強化する。1990年にレギユラーチエン化して10周年を迎えたのに合わせたのである。
 この動きは他県に波及するだろう。米国産牛肉の再輸入を阻止する有力な手だてとなることを期待するのは筆者だけだろうか。
 米国産牛肉の輸入再開の動向に今後、目ん玉を据えて見守っていきたい。
                  (筆者は栃木県大平農協理事)