脱原発のための6のパラメータ

■脱原発のための6のパラメータ           濱田 幸生

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■その1 原子力が減ると、増える化石燃料とCO2のパラドックス

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脱原発は、もつれた糸玉のようなものです。焦らずに、ひとつひとつ丁寧に解
いていかねばなりません。一見迂遠ですが、結局それが一番の近道ではないでし
ょうか。

私は脱原発について考えるための6ツのパラメータを挙げてみました。優先順
位ではありません。

(1)環境問題
(2)原発をなくした場合のエネルギーの安定供給源
(3)代替エネルギーの普及・経済効果とその財源 
(4)使用済み核燃料の処分
(5)国民生活・国民経済への影響
(6)原子力規制機関のあり方

最初に「環境問題」を取り上げてみます。

環境問題と言う場合、原発事故が起きる前まで一番のテーマだったのは地球暖
化問題でした。
環境省があれほどまでに原発に入れ込んでいたのは、CO2が原子力は出ない
からでした。(厳密にいえは、プラント製造工程と、核燃料を作る過程ででます
が。)

2009年の国連気象変動サミットにおいて、鳩山元首相が国際公約した1990年比
で2020年までに25%温室効果ガスを削減するという目標には、あと8年しかあり
ませんが、原子力発電なくしてほとんど絶望的な状況です。

それ以前の1997年の京都議定書で8%削減という政府目標を立てた時ですら、
そのために原発を9基増設し、当時60%台だった稼働率を一挙に81%にまで引き
上げ、太陽光も20倍にする、と試算されていました。
また、2009年時点で、政府はCO2対策として電力に占める原子力の割合を当
時の30%から2030年には50%にまで引き上げる計画を立てていました。

とうぜんのこととして、それらの計画は3.11以後、完全に白紙になったのは言
うまでもありません。

日本の場合はEU圏のような系統電力に融通してもらうというわけにはいきま
せんから、自前でエネルギー源を探すとすれば今のところ化石燃料しかないこと
になります。
実際、止まっている原発の代わりとなる電力は、今まで稼働を止めていた旧型
火力発電所を再稼働したものによって補われています。

それは発送電実績をみれば明瞭です。事故前の2010年11月時点で原発は230キ
ロワット時を発電し、電力需要の30%を超えて供給していました。
それが事故後の2011年11月には70億キロワット時と3分の1以下に減少し、10%
を切りました。それが現在2012年5月時点ではゼロ、現時点では大飯原発3、4号
機のみです。

では、火力発電の増加ぶりを見ましょう。2011年11月時点で、363億キロワッ
ト時であったものが、493億キロワット時と35%増大し、今や電気供給量の実に
68%を占めるまでになっています。
この 火力発電所のエネルギー源は、天然ガス(LNG)、石油、石炭です。

この火力発電所で原発を代替すると、2011年度実績で2.3兆円のコスト増とな
りました。13年度には更に増えて3.1兆円となると見られています。
この状況が続くのならば、CO2・1990年比25%削減など夢のまた夢であって、
大量の排出権購入を考えない限り、わが国は外国に排出権購入で膨大な富をむし
りとられ続けることになります。

つまり、原子力をゼロにする環境問題解決を実現すれば、片方の地球温暖化阻
止というもうひとつの環境問題を犠牲にせざるをえないパラドックスが現実のも
のとなったわけです。

一方、2002年にシュレーダー政権による第1次脱原発をしたドイツも一歩早く
同じ道を辿りました。
再生可能エネルギーを国策としたにもかかわらず、10年間の努力でも最大値で
エネルギー供給全体の16%ていどにすぎません。

2010年のドイツのエネルギー構成をみてみましょう。
・石炭        ・・・46%
・再生可能エネルギー ・・・16%
・原子力       ・・・26%

皮肉なことに、ドイツも脱原発と再生可能エネルギーの増大によって化石燃料
シフトが起きてしまっています。
その理由は、再生可能エネルギーの発電量が自然条件によって激しく変化する
性格を持っているために、再生可能エネルギーが突然発電しなくなった時のため
に化石燃料のバックアップ発電所が常にいるためです。

また、再生可能エネルギーを法律で強制的に導入させられたドイツ産業界が電
力コストを低く抑えるために、窒素酸化物や硫黄酸化物が大量に出ることを知り
ながら石炭を使用しているからです。(※ドイツは国内に大規模な炭鉱を有して
います。)
ドイツ環境諮問委員会の資料によれば、現在計画中の石炭火力発電所により
1000万キロワット、そして天然ガスによる火力発電所で更に1000万キロワットを
補填する計画です。
このうち石炭火力発電所は2013年までに早期完成させ、天然ガスのほうも2020 年までに竣工させるという計画をもっています。

つまりドイツは、「脱原発」というカードを選んだ代償としてCO2排出削減
という環境政策を捨てたことになります。
そして、この化石燃料依存にシフトするまでの10年ていどの期間は、ドイツは
電力を燐国フランスからの電力輸入に頼ることにしました(※)。
問題なのは、再生可能エネルギーが増えることによって、ドイツは環境負荷の
大きい石炭火力発電に依存してしまったことです。

そのために、ドイツの大気汚染は脱原発政策によって確実に悪化したと言えま
す。特に2008年からの2年間の二酸化炭素の排出量の増加は危険視されています。
ドイツ型脱原発政策は単に電力価格が高騰しただけではなく、環境悪化を引き
起こしたことがわかるでしょう。

一方、日本はこの石炭ゼロエミッション(環境低負荷)の技術は保有していま
す。これをさらにIGCC(石炭ガス化複合発電)、CCS(二酸化炭素回収・
貯留)技術の本格実用化へとつなげていく必要があります。

太陽光の転換率は国際的に最も高い効率をもつ技術も保有していますし、再生
可能エネルギーの核心技術であるはずの次世代蓄電池の研究や、超伝導送電線の
実用化も進んでいると聞きます。

つまり、技術的には原子力が減衰するのを置き換える石炭・石油火力発電の環
境技術的な解決は進んでいるとはいえます。
また石炭と違って、天然ガスはCO2排出が少なく、産出国も偏在していない
優れたエネルギー源です。この比重は今後非常に高まると予想されます。ただし、
コスト面では未だ高価なエネルギー源です。

また、メタンハイドレートは有力な次世代エネルギー源で、実用化されたなら
ばわが国は一気にエネルギー自給が可能となってしまう革命的エネルギー源です
が、まだ実用化には時間がかかりそうです。
シェールガスは、米国で大量に採掘が可能となった画期的なエネルギー源です
が、米国内消費との関わりでわが国には輸出されていません。

最後に、飯田哲也氏のミスリードで、あたかも原子力の代替の主力になると期
待されてしまった再生可能エネルギーですが、ドイツが10年以上過剰な財政支出
をしてまで支援したにもかかわらず、20%を越えない現実を見る必要があるでし
ょう。
これらの新エネルギー技術やエネルギー源を実用化するまでには、まだ時間が
かかります。それまでの時間的スパンは覚悟せねばなりません。

※ドイツ・エネルギー・ネットワーク庁の元責任者・マティアス・クルト氏の発
言。
「今多くの人は、ドイツが数週間フランスに電力を輸出したと喜んでいます。
しかし2011年全体でみれば、ドイツはフランスに対してかつての電力輸出国から
輸入国へと転落しています。都合のいい数字ばかりではなく、事実を見つめるべ
きです。」

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■その2 使用済み核燃料問題

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使用済み核燃料の処分について、ひとつのユニークな実例があるのをご紹介し
ます。

それはフィンランドです。似たような形はスウェーデンもとっているので、い
わば、「北欧方式」とでもいえるでしょうか。
この両国は、広大な砂漠などがある大陸国家と違って、面積的には小国なのに
もかかわらず使用済み核燃料の最終処分場を持っています。

フィンランドはオンカロと呼ばれています。フィンランド語で「隠された場所」
を意味するそうです。
この地下埋却施設の地層はなんと18億年変動していないそうです。ちなみにわ
が国の活断層の認定基準は10万年ですからケタが違います。正直言って、活断層 国家の人間には、大変にうらやましい。

この安定した地層を500m掘って二重のキャスクに入れて保管する計画です。
「オンカロ」は2020年に操業を始め、2100年代にいっぱいになる予定で、いっ
ぱいになったらコンクリートで蓋をしてしまいます。

さて、フィンランドでは一部で誤解されているような単純な「原発推進国」で
はありません。
確かに原子力は29.6%で、わが国の福島事故以前とほぼ同じですが、決定的に 違うのは、フィンランドがオンカロのような核廃棄物最終処分地を持っているこ
とです。
最終処分場のキャパシティに合わせて原発を建設する政策をとっています。

つまりエネルギー需要という入り口から発想するのではなく、逆に核廃棄物の
出口問題を解決してから新規建設計画を立てるという「出口からの発想」です。
わが国のように原発を建設し始めた時に、最終処分場はなんとかなるさで始め
たツケが今になって抜き差しならないことになった無責任ぶりとは大きく違いま
す。

フインランドは既存の4基に加えて、新たに3基の原発を作る予定ですが、この
オンカロに核廃棄物を2100年代まで埋設し、その間に再生可能エネルギーを代替
エネルギーとして使えるエネルギー源にする計画です。

つまり、再生可能エネルギーが代替エネルギーで大きな地位を占めるようにな
るまでには、おそらく50年以上の時間が必要だという認識に立って、そこまでは
CO2排出が少ない原子力を使おうという現実主義的方針です。
これは同じEU域内のドイツがラジカルな脱原発政策をとって、結果として重
い財政負担や国民経済や生活への打撃を与えてしまったことを見ているのでしょ
う。

フィンランドの原子力の発電量は、最終処分場のキャパで決められて、それが
許す範囲内で増設を容認していく考えです。
つまり、フィンランドはこの最終処分場の容量に合わせて原発を作っているわ
けで、何のあてもないまま54基も作ってしまったわが国は、一体なんだったんだ
と天を仰ぎたい気分です。

フィンランドは、今でも世論調査をすれば原発反対が賛成を上回るそうですが、
この最終処分場の地層が安定しており、国民にそれを丁寧に説明してきているた
めに大きな反対運動は起きなかったそうです。

一方スウェーデンでは、エストハンマル市・フォルスマルクに最終処分地が作
られました。
これについては、国民に対して徹底した周知と教育がなされていて自由に見学
が許されています。ドイツについては、長くなりそうですから、別稿とします。

ところで、フィンラドやスウェーデンの北欧人が、原子力発電を維持し続ける
理由はなんでしょうか。

まず第1に、北欧人が原発のリスクより地球温暖化によるリスクが大きいと考
えたからです。フィンランドやスウェーデンは寒帯に属する国で、気候変動が起
きた場合大きな破局を迎える可能性があります。
また北極圏にあるために化石燃料の増大によるオゾン層破壊が、そのまま紫外
線の増大とつながってしまうことを恐れています。

新規原発3基を建設することによって国内のCO2の3分の1にあたる3000万トン
を削減する計画です。そして2020年までに石炭火力発電所をゼロにする予定です。

我が国では長きに渡ってバックエンド問題は一種のタブーでした。
いままで政府がどうしていたのかと言えば、一言で言えば、「処分地を探すふ
りをしていた」のです。

認可法人「原子力環境整備機構」(NUMO)という組織が、最終処分地に適
した場所を探すというふれこみで、なにか「やっているふり」をしていました。
最終処分地はおろか調査候補地すらないことはわかりきった話で、ある財政難
の小さな自治体が村長の独断で応募したところ、発覚して村をあげての大騒ぎに
なりました。

ですから、このご大層な名前のナンジャラ機構とやらは、なにも仕事がないの
です。しかし、このようなナンジャラ機構があるというだけで、経済産業省は、
国会での言い訳が出来たというお粗末の一席です。
つまり我が国では、最終処分を決めないまま、核燃料サイクルを中心に考えて
いたわけですが、六ヶ所村再処理施設で、活断層が認定される事態になった場合、
根底からこれが崩れます。

これに対して日本学術会議は、いままでの政府が固執してきた地層埋却処分を、
「到底受け入れられないものにしがみついて時間を無駄にした」と批判しました。
その上で、我が国で北欧のような億年単位で安定した地層を探すのは困難であ
り、当面は最終処分という迷妄にしがみついているのではなく、現実を直視して
数十年から数百年ていどの「暫定保管」というモラトリアム処分に切り換えるこ
とを提案しました。

また日本学術会議は、このモラトリアム期間に新たな技術進歩があったり、社
会的なコンセンサスが取れた場合、いつでもそれを取り出すことができる方式を
提案しました。
この暫定保管の間に、処分地やそれに見合う新たな処分の技術進歩を期待して
いるわけです。

そしてもう一点きわめて重要な提言もしています。それは際限なく核のゴミが
出続けるのではなく、この暫定保管できる許容量に合わせた核のゴミの総排出量
を定め、それに合わせて原発発電量を決めるべきであるとしたのです。

これは、北欧方式の入口=発電需要からだけから考えるのではなく、出口=暫
定保管量から原子力の総発電量を決めていくという考え方です。
ようやく我が国でも、このような建設的な「核のゴミ」・使用済み核燃料の最
終処分についての提案がなされるようになってきたようです。

ただし、「暫定保管」方式の最大の問題は、キャスクに入れてどこに貯蔵する
のかという問題です。まさか野積みにするわけにはいかないでしょうし、地下埋
設はするにしてもどこにという問題が常にあります。
また、プルトニウムの保管は、核セキュリティの問題からホワイトハウスが反
対したことは、野田政権末期に現実となりました。

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■その3 原子力安全規制機関は経済と政治を超越する

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脱原発の6つのパラメータのうち「原子力規制機関のあり方」を考えてみます。
原子力規制委員会は、発足当初はミスを連続した避難マップの丸投げで大いに
ミソを付けましたが、あれで事務局である規制庁のレベルが分かりました。予想
に違わずまったくの原子力の素人集団です。

もっとも規制委員会のほうは、東通り原発の活断層判定などで東北電力としっ
かりと科学的判断を対置してやりあっており、意外にも(失礼)ちゃんとした仕
事をしているという印象です。このままがんばって欲しいものです。

私は当初規制委員会が出来た時の問題点は、田中委員長が「原子力村」出身で
あることや、国会同意人事を経なかったことではなく、規制委員会自体の「独立性の確保とその担保」がなされていないことだと考えていました。
なぜかそのことを指摘する人がほとんどいないので、逆に不思議に思ったほど
です。

規制委員会のキモは、推進部門と完全に分離された自立した「規制」機関でな
ければならないはずです。
今までのように、推進機関の経済産業省の外局に規制機関の安全・保安院があ
ると、よく言えば推進部署と意志疎通がうまくいく、はっきり言って癒着と馴れ
合いの温床になっていました。

さて、この規制機関の「独立性確保」というのはなかなか難しいと見えて、完
全にそれを確立しているのは世界でもフランス原子力安全院(別訳原子力安全機
関ASN)と、米国原子力規制委員会(NRC)が代表として挙げられるくらい
です。

我が国の原子力規制委員会は、環境省の外局として作られています。それは、
規制委員会の事務局の原子力規制庁の性格をみれば分かります。
役所が新たに作られる場合、要はいろいろな役所の寄せ集めになるわけですか
ら、どこか何人送り込んだのかをみれば役所間の力関係が推測できます。

今回の規制庁は完全移籍ではなく、数年間の出向で来ていますから、背中には
出身省の紐がしっかり付いているとみるべきでしょう。
出身母体に帰って冷や飯を喰わされたくはないので、お役人さんたちは有形無
形で出身官庁の意向に沿って動くようになります。

原子力規制庁の官僚出身内訳
・経済産業省 ・・・312名
・文科省   ・・・ 84
・警察庁   ・・・ 16
・環境省   ・・・ 10
大変に分かりやすい構成ですね。この規制庁は、ズバリ経済産業省の縄張りで
す。
7割を超える圧倒的人数を送り込んで来た経済産業省からの出向組は、原子力
安全・保安院、資源エネルギー庁出身者です。
なんのことはない資源エネルギー庁とは、政-財-官-学にまたがる「原子力
村」の司令塔のような所ではないですか。

2番目は文科省ですが、これは技官が多いのではないでしょうか。文科省は旧
科学技術庁系の技官を大勢擁しています。福島事故の時も地道な放射線量測定に
活躍しました。

3番目に環境省ですが、環境省は原子力規制庁を外局として組織系列下にした
上で、ナンバー2の次長ポストに森本氏を押し込んでいます。
つまりボスはコワモテの警察官僚、現場ボスが環境省、デスクワークは経済産
業省、技官は文科省というのが、規制庁という内訳の官庁です。

この環境省はなかなかクセモノ役所で、CO2削減を旗印にして、「地球にや
さしいクリーン電源・原子力」(爆笑)をエネルギー比率50%まで増やすという、
今思えばトンデモの政策を作った当の官庁で、バリバリの原子力推進官庁です。

ある意味、環境省は経済産業省のように、電力会社に配慮したベストミックス
などを考える必要がないだけ、「純粋に」原子力推進派だったといえるくらいで
す。
「環境省」という美しいネーミングに騙されてはいけません。私も大いに期待
して裏切られました。

福島事故の折に、私たち「被曝地」の住民が困ったのは、どのようにプルーム
(放射能雲)が通過したのか発表がないために、自分の住む地域の汚染度が分か
らなかったことでした。
私たちが最も期待した環境省の動きは猛烈に鈍く、空間線量や土壌放射線量な
どの測定も文科省に遅れをとり続けてきました。当時私は、環境省に悪意のサボ
タージュを感じたほどです。

環境省が原発事故において有効な動きをしなかった理由は、環境省が定める環
境基本法や土壌汚染防止法には、放射性物質が「特定有害物質」に指定されてい
なかったためにです。

私たち住民にすれば、放射性物質以上の汚染物質はないわけですが、環境省に
言わせれば、放射性物質は法的には「汚染物質ではない」ということになります。
ですから、福島事故で大量に排出された放射性物質を除染する根拠法がなくな
ってしまったというわけです。

東電はこれを楯にして、二本松ゴルフ場裁判で降下した放射性物質は「無主」
のものであり、除去せねばならない法律はないという弁護論理を編み出したほど
です。やれやれ。

福島事故以後、経済産業省は批判の矢面に立たされましたが、「原子力村」の
助役格の環境省はぬくぬくと批判を免れたままです。
つまり規制庁は、原子力安全対策を風当たりが強い経済産業省から、環境省と
いう裏の司令塔の下に系統をすげ替えただけの組織なのです。

どうして完全にすべての省庁から独立させなかったのでしょうか? 私は会計
検査院のような政府から独立した地位を保障されている原子力監視機関を作るの
だと思っていました。

ちなみに会計検査院は、このような独立機関です。
「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次
の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない(日
本国憲法第90条)。また、内閣に対し独立の地位を有する。(会計検査院法1条)(Wikipediaによる)
この「国の収入収支」の部分を原子力発電に読み替えて下さい。原子力の規制・
監視もこの「内閣からの独立の地位」こそが肝心だったはずです。
「内閣」、つまり政府から完全に独立して、いかなる政治的横槍からも自由で
ある組織が原子力安全・監視機関であるべきなのです。

民主党政権時に、原発の再稼働は政府が決定するのか、それとも規制委員会が
判断するのかという議論が、政府と規制委員会の間でありましたが、当然筋とし
ては規制委員会です。
こんなことを、出来上がった後に議論すること自体がアホウです。

規制委員会が、「うちは専門的な判断をするだけだ」みたいなことを言ったの
は、民主党政府が責任だけを規制委員会に被せて、いざとなると「脱原発」を言
いかねないのを恐れたからです。
もし、政府がほんとうに規制委員会の判断で再稼働か否かを決定できるのなら
ば、それの根拠法と権限が必要です。

現在、再稼働停止を命じられるのは「不正急迫」の場合、つまり核テロが迫っ
ているとか、大地震が原発直下で起きそうだとかいう場合に限られています。こ
の改正は来年7月にならないとできません。

しかし、どうやらこの間の島本委員長代理の動きを見ていると、規制委員会も
地層調査してみてあまりの原発直下の活断層の多さに腹を括ったようですね。
東通原発における東北電力との議論では、法的権限があろうがなかろうが、言
うことは言うという姿勢が見て取られます。
専門家として実に背筋が伸びた姿勢です。後は、政府が環境省から切り離し、
独立した権限を与え、その根拠法も整備せねばなりません。

現在与えられている「三条委員会」(※)資格は公取委と同格の位置づけです
が、私はまだ弱いと思います。事務局の規制庁が原子力推進派の環境省の下にあ
る限り、中立性には疑問があります。

原発を失くすまでは、長い時間がかかります。来年再来年というわけにはいか
ないでしょう。
もちろん直下に活断層があるような、危険極まりない原発は即座に廃炉にされ
るべきです。今後くるであろう震災時に危険地帯にある原発も同様です。30年か
ら40年たつ老朽炉は自動的に廃炉にすべきです。

問題は、それ以外の「安全な」原発をどう判断していくかです。原発だからす
べて廃炉ならそもそも規制委員会などは要りません。初めからすべて廃炉なので
すから。
現実には是々非々となるでしょう。その判断をするのが規制委員会です。規制
委員会は、政治にも、経済にも影響されず、ただひたすら原子炉の安全性のみを
判断する存在だからです。

すべての原子炉を廃炉にするか否かの判断は、規制委員会の仕事ではありませ
ん。それは国民の代表による議会と、政府が判断することです。
しかし、こと稼働に関する限り規制委員会は、圧倒的権限を持たねばならない
機関なのです。

※【三条委員会】中央省庁の機構などを定めた国家行政組織法は第三条で、内
閣の行政事務を行う組織を「府」と「省」とし、その外局として「委員会」と
「庁」を置くことを規定している。三条に基づく委員会は国家公安委員会や公正
取引委員会など七つあり、いずれも「庁」と同格の独立した行政組織と見なされ
る。(読売新聞)

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 ■その4 代替エネルギーとしての再生可能エネルギーの可能性

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 時代の変わり目には、えてして既存の価値観をかき回すようなトリックスター
が生まれることがあります。飯田哲也(てつなり)氏もそのひとりでした。

 福島第1原発事故以前の飯田氏は、「北欧のエネルギーデモクラシー」という
本に現れるように、地域の中で企業や住民が協同して新しいエネルギーの地域自
給システムを作っていくことを説く環境研究者でした。

 この再生可能エネルギーのあり方には、今でも私は強く共感します。しかし、
彼は変質します。福島第1原発事故直後に、脱原発と次代のエネルギー政策を柔
らかい語り口で伝えられる人材が払底していたために、一挙に彼は脱原発時代の
寵児に祭り上げられてしまったからです。

 飯田氏は、再生可能エネルギーによって原発ゼロが可能だとし、なかでも太陽
光発電をFIT(フィード・イン・タリフ/全量固定買取り制度)で拡大すべき
であると主張しました。

 彼はこのようなビジョンをぶち上げます。
 「長期的には2020年で自然エネルギーを30%、2050年で100%、同時に総量削減
型のエネルギー効率化と合わせて大胆なエネルギーシフトを図っていく」。
(「3.11以後の原子力・エネルギー政策の方向性」)

 現在、わが国の再生可能エネルギー(自然エネルギー)は、水力8%、地熱・
バイオマスで2%にすぎません。あわせて1割です。これでどうして10年後の20年
に30%になるのでしょうか。国策でFITに邁進したドイツでさえ16%なのにで
す。

 飯田氏は立論の前提として、2050年には総量削減により、電力消費は2分の1に
なると根拠なく決めているのですから、この人はまじめに原発を止める気がある
のだろうかとさえ私は思いました。
 飯田氏同様、私も自然エネルギーには長年取り組んできました。だからこそ、
氏とは正反対の意見を取ります。

 本来は地域自給の一環であった再生可能エネルギーに、無理やり竹馬を履かせ
て全力疾走させるようなことはしないほうがいいのです。
 再生可能エネルギーでも、小型水力やバイオマス、地熱などは大規模化に向い
ていないし、風力や太陽光発電もただひたすらメガ化すればいいとは私は思いま
せん。

 そのような大型化をすれば、必ず既存のエネルギー源との競合になり、同じ土
俵に乗ってその弱点をさらすことになるからです。
 ただ大きくなればいい、ひたすら拡大すればいいというのではなく、様々なエ
ネルギー源がお互いの良さを引き出しながら、ひとつの地域で支え合っていくこ
とを説いていたのは、他ならぬ若き日の飯田哲也氏だったはずです。

 しかし、福島事故後の「時代」は飯田氏を求め、飯田氏もただの運動家になっ
てしまいました。運動家は「勝つ」ことを目的とします。ですから必然的に自分
にとって不利なことには眼を閉ざします。
 合理的選択ではなくスローガンが、協同ではなく闘争が、地道な前進ではなく
急進が、融和ではなく攻撃が、それに替わるようになります。

 そしていつしか国民は、飯田氏の脱原発の舌鋒の鋭さに影響されて、脱原発と
は即時全面ゼロのことであり、そして太陽光発電などの再生可能エネルギーの拡
大でそれが可能だと錯覚を起こすようになっていきました。実は世界を見渡せば、
原子力からの離脱にしてもその方法は各国いろいろであり、EU諸国でもおおむ
ね長期のスパンで代替エネルギーを構築しながら、少しずつ原発と置き換えてい
く国のほうが圧倒的です。

 また本来、原子力から脱却することと、再生可能エネルギーの拡大とは無関係
なはずでした。別に代替エネルギーは温室効果ガスを大量発生しなければなんで
もいいわけであって、天然ガスやシェールガスでもよかったのです。いや、むし
ろそのほうが多くのエネルギー専門家が一致して指摘するように、はるかに合理
的選択であったと思います。

 ところが、これに無知なること天下無敵の菅直人首相が飛び乗り、なにやら金
の匂いを嗅ぎつけた携帯電話屋が相乗りし、とうとう政局がらみで再生可能エネ
ルギー法まで通してしまいました。まるで福島第1原発事故のドサクサ紛れの火
事場泥棒のようなまねでした。そして、その価格がなんと42円。いままで世界一
高いと言われ続けたドイツの固定買い取り価格は38.5円ですから、文句なく世界
一の高額買い取り価格です。

 売電側は30円台前半でも手を打とうと思っていたので狂喜乱舞しました。やれ
やれです。20年間固定価格で、しかも全量買い取り制度なんですから、請求書が
来てからびっくりするのは国民だというのに。

 このようなバカ高い買い取り価格をこの先20年固定でやった場合どうなるのか
といえば、初年度に殺到します。FITを国策としたドイツで分かるように年を
経るごとに財政負担がひどくなって、買い取り価格は下落する一方だからです。
だから、多くの投資家は初年度に狙いを定めます。

 それはEU各国の例をみるまでもなく、買電価格は財政負担の重さから毎年下
がる一方で、初年度を上回る事がありえないからです。
   初年度から数年に集中することで普及に弾みがつくというブースター効果はあ
るのですが、それも程度問題です。というのは初年度からの数年間は、設備投資
の大部分を占める太陽光パネルのコストが下がらないからです。飯田氏は「大丈
夫です。太陽光発電が拡がれば、液晶テレビのようにコストは大幅に下がってい
きます」と言っていました。

 しかし、現実にはそのコストダウンを待たずして、たちまち政府予測の2倍以
上の速度で新規参入がなされた結果、太陽光パネルの競争が十分でないうちに大
量参入が始まってしまったのです。そうなるといっそうバスに乗り遅れてはなら
じと参入に拍車がかかるわけで、オリックスなどは前倒しでメガソーラを建設す
るそうです。

 メガソーラーは初めこそマスコミがもてはやしましたが、今やその数260箇所
(2012年)、その前年11年の約2倍です。メガソーラーは通常の発電所よりはる
かに大きな敷地を必要とするために、裏業界による土地地権者に対する地上げま
で起きる始末です。
 
 特に、この間の太陽光発電への投資には、外国の投機筋が必ずといっていいほ
どプロジェクトにかんできています。たとえば、日照が日本一だといわれる岡山
県には、日本最大の25万キロワットのメガソーラー発電所が建設されようとして
いますが、事業主体がなかなか興味深いものがあります。

 日本IBM、NTT西日本、東洋エンジニアリング、そして外資系のゴールド
マンサックスです。東洋エンジニアリングがプラント建設会社であることを除け
ば、まさにお雑煮状態。しかも外資の投機筋まで加わっています。総事業費650
億円で、400ヘクタールという巨大規模の投資ですから、よほど儲かるという見
込みがなくてはこんなことはやりません。

 そのほか、米国のサンエジソンは5000億をかけて、国内数カ所に土地を物色中
ですし、カナディアン・ソーラーはパネルメーカーでもありますが、ここも3000
億円かけてメガソーラーを計画中です。中国のスカイソーラーも同じく大規模投
資を計画中で、まさに世界中から投機資本が大集合というありさまです。

 ところで、これでどれだけの発電がなされているのかといえば、「環境エネル
ギー産業情報」によれば、このようです。

・2012年現在のメガソーラー発電所数   ・・・260箇所
・これに要した敷地面積の総計      ・・・3227h
・これがすべて発電したとしての推定発電量・・・1291メガワット
・これが供給可能な所帯数        ・・・39万所帯
 まさに飯田氏が叩いた太鼓が、世界中のハゲタカ共を呼び寄せたようです。そ
してこの260箇所のメガソーラーの発電量全部で、わずか原子力発電所の1基分て
いどにすぎません。それは、太陽光発電のうたう「発電量」は発電容量といって、
理論的にはこれだけ発電できますよという能力で計算しているからです。

 実発電量は、天候の晴れたり曇ったり(曇りや雨だとまったく発電しません)、
昼夜、季節変動を平均化して計算します。おおよそ、発電容量の7分の1から8分
の1ていどで、10分の1という説もあります。たとえば、行田市メガソーラーの場
合、2.2ヘクタールの浄水場に発電パネルを5040枚並べて発電していますが、1.2
メガワットという公称出力は、あくまでも発電容量ですから、実発電力はその7
から10分の1となって、仮に8分の1とすれば、15万W(0.15MW)ていどです。

 メガソーラーという勇ましい名称とは裏腹に、実はわずか0.15メガソーラーだ
ったのです。これが定常発電量を維持できる火力発電や原発などとは決定的に違
う点です。

 原発一基は約1000メガワットで、しかも太陽光発電とは違って正味の実発電量
ですから、行田メガソーラー(実発電量0.12メガワット)が8000基集まらないと
原発1基の原発に相当できないことになります。全国のメガソーラーを全部かき
集めても供給可能な発電量は、柏市(人口約40万)ていどのものなのです。原子
力の代替など遠い幻です。

 埼玉県はこれに7億3600万円(11年度)を投入しました。これで埼玉県は年に
1600万円電気代が節約できるとしています。当時埼玉県は、償却するのに46年か
かるとしていました。現実には、パネルのメンテナンスや、インバーターの交換
などがかなり費用がかかることがEUの経験でわかっているので、もっとかかる
でしょう。

 しかし私企業はこれではたまらないので、できるだけ高い価格で、できるだけ
短期間に投資を回収しようとします。つまり初期にできるだけ高く売りまくる、
これが太陽光発電業界の鉄則なのです。

 もともと再生可能エネルギー法が議論されていた段階で、経済産業省・算定委
員会が想定していた買取価格は15円から20円程度でした。
 これに初期参入のボーナスをつけて30円から35円ならば、日本の太陽光発電は
もっと堅実な発展をしたかもしれません。しかし孫正義氏の自然エネルギー協議
会が出して来た買い取り価格試算は、42円というものでした(※資料1参照)。

 実はこれは太陽光発電業界の中でも図抜けて高い価格で、太陽光発電業協会の
試算では、損益分岐点が約27円でした(※資料2参照)。孫氏は、堂々と業界試
算の15円も高い見積もりを出して、これでもまだ赤字だ、全国の首長が賛同して
いるメガソーラー計画をチャラにするぞ、と算定委員会で吠えています(※資料
1参照)。

 なにがなんだかわからないが、孫氏が呼びかけるから悪くない話だろうと参加
してきた自治体首長を人質にして、いい度胸です。さすが一代で巨万の富を築い
た男だけはあります。

 さすがにこの孫氏の吹っ掛けには算定委員の間でも疑問の声が上がり、その試
算の信憑性すら疑われました。(※資料3参照) ところがこれがどのようなわけ
か、孫氏の言い値であっさりと決まってしまいます。当時孫氏と盟友関係にあっ
た菅首相の意志が働いていたことは疑う余地がありません。

 この露払いをしたのが飯田氏でした。脱原発を太陽光発電に短絡させ、その上、
FIT制度を持ち込んでハゲタカ共の好餌にしました。つまり飯田氏は、原発利
権の代わりに巨大な脱原発利権を目覚めさせてしまっただけだったのです。

 飯田氏ならば当然、スウェーデンが原発モラトリアムを決めながらも、代替エ
ネルギーのめどがつくまで原発を止めないことを2010年に決めていたことも知っ
ていたはずです。
 またドイツが今FITで苦しんでいる事情も知り得たはずです。しかし、彼の
口からはそのようなバランスの取れた情報は一切出ませんでした。

 このような意図的に偏った情報で世論を操作し、人を誤った方向へ導くことを
ミスリードと呼びます。しかも一国のエネルギー政策に影響を与えて、これを偏
らせたという意味でメガ・ミスリードでした。飯田氏はその後、もうひとりの時
代のトリックスターである橋下徹市長に招かれて大阪市の特別顧問になりますが、
そこでも強引に自分の政策を主張する独善的姿勢が、他のブレーンに受け入れら
れず、追放同然で去ることになります。

 そしてこの「維新の会」との醜い内部抗争が国民の眉をひそめさせ、山口知事
選の敗北、衆院選の「未来の党」惨敗へとつながっていきます。トリックスター
は時代をとんでもない方向にもっていくことかあります。しかし、トリックスタ
ーの魔術が切れた時、時代はゆっくりと自らをあるべき形に修復していくのです。
ちょうど、今のように。

※資料1 経済産業省 調達価格等算定委員会(第3回)議事録要旨
 孫代表取締役社長
 (略)仮に40円で20年だという試算をしたときに、二百数十カ所のうちの200
 カ所ほどは採算が合わないということで見送らざるを得ない。
 われわれはもともと最初から発表時の約束が、10数カ所を造るということです
 ので、10数カ所以上は予定どおり行うつもりでおります。
 ただし、本来は200 数十カ所で、各都道府県の皆さんがメガソーラーの候補地
 があるということで提示いただいたわけで、その9割近くを見送らざるを得な
 いというほど、決して40 円とか20 年という数値が甘い数値ではなくて、それ
 でもかなり多くの一般的な候補地が脱落してしまうほど、安易な軽いレベルの
 ハードルではないことを、最初に申し上げさせていただきます。

※資料2 太陽光発電業協会 前回の御指摘事項について(PDF形式)

※資料3 経済産業省 調達価格等算定委員会(第5回)議事録要旨
 http://www.meti.go.jp/committee/chotatsu_kakaku/005_giji.html  委員
 コスト計算の根拠となるデータについて、実績の有無や信憑性に留意する必要
 がある。
 委員
 改めて事業者から提案された買取価格を見ると、思っていたよりも高いという
 印象。例えば、非住宅用の太陽光が、現状の余剰電力買取制度(42円/kWh)
 と同じというのは、高いのではないか。事業者は最大限の金額を提示してきて
 いると思われるので、内容をしっかり精査する必要がある。
 委員
 消費者の立場からすると、負担をする以上、途中で事業をやめるようなことが
 ないよう、認定等の際によく精査して欲しい。
 

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 ■その5 FIT試算が無視した再生可能エネルギーの送電網コスト

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 その原子力の発電コストを論じる時よく問題とされるのは、廃炉や使用済み核
燃料の処分などのバックエンドを無視して計算されていることが指摘されます。
 つまり、燃料代とランニングコストというフロントエンドだけで計算してしま
えば、原子力はもっとも安価な燃料という虚像を描けるということになります。

 このトリックは実は再生可能エネルギーでも使われているから困ります。
 発電そのもののコスト以外に、火力発電所によるバックアップ電源コスト、発
電所建設コスト、そして送電網インフラなどのバックエンドにかかるコストです。

 バックアップコストは別にお話ししますが、建設コストは、どこまでを建設費
として計算するのか明確な基準がなく、タワーの高さを上げれば発電量は増しま
すが、コストはかかります。
 他に発電量、風車を外国で組むか、国産にするのかでも異なり、輸送費、建設
費、航空法対策、台風対策等で価格が上昇します。

 実際の例を上げれば、三陸町夏虫山発電所で1000kW機が10基で事業費は約30
億円、宮崎県ETOランド発電所がラガウェイ750kW機1基で約1億8000万円、
熊本県五和町発電所が三菱300kW 1基で事業費 1億2222万円といったところで
す。

 これらの多くは海に面した山岳地帯であり、洋上発電となるともっとコストが
かかると考えられています。
 だいたい2千万円から1億超といった所でしょうか。別な専門家によると蓄電池
まで入れて1基30億円という人もいて、ずいぶん価格に開きがあるものです。
 正直言って、まだ我が国では実用段階になったばかりで定まったものがないの
が現状のようです。

 さて、今ドイツが突き当たっている最大の問題は、送電インフラの新規建設で
す。ここで日本で脱原発の「理想像」とされるドイツを見てみましょう。

 ドイツの原発の多くは、産業が盛んな南部バーデン・ヴュテンベルク州やライ
ン州にありました。それは送電網が短くて済む利点があったからです。電気は貯
めておけず、送電線の中でもロスしていくというやっかいな性格のために、発電
所と消費地が近いことが良いとされました。

 ところが今、ドイツは原発から洋上風力発電にシフトしつつあります。風が強
く、広大な土地がある北海沿岸に多く建設されるようになりました。今後は沿岸
から洋上に移って、さらに大規模な洋上発電所を作る計画がたくさん上がってい
ます。

 そこで、図(http://www.alter-magazine.jp/backno/image/110_1.jpg)をご
らんください。ドイツの北海側から南部までは直線で900キロ超に及ぶ距離があ
りますから、工業地帯のある南部まで、北部から新たに電線を引っ張ってこなけ
ればならなくなりました。

 2009年にドイツ政府は「送電網拡充法」を立てて、再生可能エネルギーに必要
な送電網をリストアップして、それを最優先で建設する計画しました。
 計画では実に1807キロにも及び、かかる費用は570億ユーロ(1ユーロ=118円
換算で6兆7260億円)という莫大なものです。

 これを我が国に置き換えてみましょう。県別風力発電の実態です。
(図)独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構・NEDOによる都道府
県別の風力発電設備導入状況。
 http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1209/14/news125_2.html

 これを見ると、青森県、北海道、鹿児島県、福島県、静岡県、秋田県、鹿児島
県などが適地となっています。これらの県は平均風速6.7メートル/秒以上の条
件を備えています。

 するとここに大規模な風力発電所を導入した場合、工業地帯のある関東地方に
まで電気を輸送するには、南北に串状に基幹送電網を建設せねばならないことに
なります。
 距離の目安としては、札幌-東京間が直線距離で約1000キロ、青森-東京間が
580キロ、福島-東京は約220キロ、秋田-東京は450キロといったところです。

 我が国でも再生可能エネルギー拡大政策をとるとなると、ドイツと同様の新規
送電網を作る必要が生まれます。我が国が送電網を作るとなると、海を越え、険
しい山谷を越えねばならないために建設費用は平地の多いドイツの比ではないは
ずです。

 現在試算として出ている数字としては、生産地の北海道と本州を結ぶ北本連系
線などの基幹送電網が1兆1700億円かかるとされています。(北海道電力、東北
電力の試算による)
 平坦で土地が多いドイツでさえ6兆円以上かかる計画ですから、おそらくはこ
んなものでは済まず、ドイツ程度にはかかってしまうと考えたほうがいいでしょ
う。

 ところが、なぜかFIT(固定価格全量買い取り制度)を決めた際の政府コス
ト等検証委員会は、この再生可能エネルギーに伴う新規送電網建設コストは除外
されて計算されていました。

 これは原子力が、発電単価だけて計算してしまい、バックエンドを度外視し将
来の国民負担から眼を逸らせたことと同じ虚像です。そもそもこの巨額な新規送
電網建設費は誰が負担するのでしょうか。再生可能エネルギーを原発の代替電源
にしろと主張する人たちの多くは、飯田哲也氏のように発送電分離をワンセット
で唱えていますから、きっと民間送電業者が作るんだろう、くらいに簡単に考え
ているのだと思います。

 しかし、ちょっと考えてみてください。なにが哀しくて民間送電会社は、こん
な巨額な新規送電網を負担せにぁならんのでしょうか?

 新規送電事業者は儲かると思うから新規参入するのであって、土地買収をし、
鉄塔を立て、長大な送電ケーブルを引いて再生可能エネルギーのためにつくすた
めに参入したのではないからです。そりゃあ、今の電力会社は分離されていませ
んから渋々やりますが、分離したらそんな不採算工事をする義理はありません。
 それじゃなくても、再生可能エネルギー発電所は、しょっちゅう周波数や発電
量がくるくる変化するので、バックアップするだけで大変なやっかい者なのです
から。

 では国が作るのかとなると、それに相応する建設国債の発行を巡って国会審議
がなされねばなりません。その過程で、再生可能エネルギーの発電コストは、従
来言われていたものよりはるかに高いことが明らかになることでしょう。

 発電コストは最大で、発電効率は最低、しかも不安定な再生可能エネルギーに
建設国債やFITを負担していくことの妥当性が問われます。
 ドイツのように「送電網拡充法」と抱き合わせで建設国債で押し切ったとして
も、いずれにせよ、やがてそれらのコストは消費者の電気料金や税金に転化する
ことになり、電気料金は値上がりします。

 このように見てくると、発送電分離などしたら、再生可能エネルギーの拡大に
とって障害になると思っています。少なくとも、こんな電力供給が逼迫している
時期にやることではありません。ドイツでも、この高圧送電網建設は遅々として
はかどらず、3年たって完成したのはいまだに計画の1割に止まっています。

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 ■その6 FIT導入による国民の貧富の格差拡大

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 ドイツがあわただしく脱原発に走ってから1年半、きっかけはわが国の福島第1
原発事故でした。「あの先端技術を持つ日本が原発事故を起こした」ということ
は、同じく技術大国のドイツを震え上がらせました。

 アンゲラ・メルケル首相はこう説明します。
 「日本のような技術が発達した国でさえ、地震と津波から原発を守れなかった
とすれば、その事実はドイツにとっても大きな意味を持つ。」
 それまでの原発の依存度は日本とほぼ一緒の23%(日本24%)、そして老朽原
発が多く不安な反面、既に償却が終了しているという安い電源でもありました。

 ドイツ政府は現在17基の原発のうち、老朽化している7基の原発を稼働停止に
し、停止中の1基も再稼働を認めませんでした。22年までに残りのすべての原発
の停止をする予定です。現在、半数弱の原発の稼働停止に過ぎませんが、既に大
きな影響が出はじめています。その最大のものは電力料金の値上がりです。首都
ベルリンの弁護士事務所で働くマリーナ・ヘッセは3人家族の主婦ですが、こう
語っています。

 「一般市民が支払える水準に電気代を抑える方法も考えずに原発を止めるなん
て、政府はなにを考えているのかしら」。

 脱原発政策によりドイツ経済が被った電気料金値上がりによる被害は、約340
億ユーロ(1ユーロ=約118円換算で4兆120億円)に達するとOECDのエコノミ
ストであるヤンホルスト・ケプラは計算します。
 そして全廃することによるコストは1200億ユーロ((14兆1600億円)を越える、
と有力なシンクタンクであるライン・ウェストファーレン経済研究所のマヌエル・
フロンデル教授は指摘します。

 これらの金額は、ドイツのGDPの実に5%にも達します。いかに脱原発政策
がドイツ経済に大きな打撃を与えたかお分かりになると思います。

 電気料金が上がれば、企業投資は冷え込み、それに連れて個人消費も落ち込ん
でいきます。その結果、賃金が下がり、失業者は増大していくことになるとフロ
ンデル教授は言います。産業界は停電を懸念しており、生産施設を海外に移転さ
せることを考え出し始めました。近隣諸国は、ドイツの電気輸入が増加して、ヨ
ーロッパの電力を融通し合う国際送電網が不安定になることを懸念しています。
 「代償は極めて大きい。経済が麻痺しかねない」。(フリッツ・バーレンホル
ト再生可能エネルギー会社RWEイノジーCEO)

 この原因は単に原発を止めたことだけではありませんでした。ドイツは再生可
能エネルギー関連の補助金のかなりの割合を太陽光発電に注ぎ込んでしまったの
です。

 しかし、太陽光は現段階では極めてコストが高く、効率が悪い発電手段でした。
曇りが多いドイツでは太陽光にはお世辞にも適していないのにそこに比重をかけ
すぎたために、ドイツは期せずして太陽光発電で世界一の国になってしまったの
です。
 しかもこれを全量・固定価格買い取り制度(FIT)で、相場よりはるかに高
く買い取ることにしたために、その割高のコストを負担させられたのはドイツの
消費者でした。

 ドイツの平均的な所帯の電気代は年間225ユーロ(2万6550円)増加し、来年に
は300ユーロ(3万5400円)になりそうです。
 特に低所得者層への影響は大きく80万所帯が電気代の滞納をし、電気を止めら
れそうになっています。いわゆる「燃料貧困層」が誕生したのです。

 既存の再生可能エネルギー発電施設だけで、これまで2000億ユーロ(23兆6000
億円)以上の補助金が交付され、このうち半分の1000億ユーロは太陽光発電です。
 しかし、太陽光発電による発電量は、ドイツ全体の発電量のわずか4%にすぎ
ません。

 その一方で、投資家や裕福な地主は、太陽光発電施設や風力発電への投資や土
地貸与で懐を潤わせています。このように、原発政策による電力料金値上がりと、
再生可能エネルギーの過剰な補助金導入政策のために、燃料貧困層と富裕層にド
イツ社会が分裂していきました。

 原発を止めた結果にまで責任をもたねば原発ゼロを言ったことにはならない、
と私は思います。スローガンではなく、現実に原発を止めることはさまざまな方
向からじっくりと国民的議論を巻き起こしていかねばなりません。

※参考文献 「ニューズウィーク」(2012年10月31日)

 (筆者は茨城県・行方市在住・農業者)

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