【沖縄の地鳴り】

自民は沖縄連敗に学べ 改憲せずに日本が生きられる道

<2016年7月10日 沖縄タイムス(要旨))>

屋良 朝博


 参議院選挙の沖縄選挙区(改選1人)で、元宜野湾市長の伊波洋一氏(64)=無所属新人=が、自民党現職で沖縄担当大臣の島尻安伊子氏(51)=公明推薦=を抑え、初当選を果たした。沖縄の民意は再び普天間飛行場を名護市辺野古へ移設する政府案を拒絶したことになる。全国的には、焦点だった改憲勢力が改選議席の3分の2を超える勢いだと見られており、憲法改正論議が本格化するだろう。

◆自民党支持者も辺野古埋め立て賛成37%、海兵隊撤退56.2%

 共同通信と琉球新報の合同世論調査(6日付紙面)が興味深かった。

 普天間の移設先について、自民党支持者の中で辺野古埋め立てを選んだのは半数割れの37.8%だった。海兵隊について自民支持者の56.2%が「撤退」「大幅削減」を選んだ。自民支持者も辺野古埋め立てより、海兵隊を減らすべきだと考えている。身内の声さえ聞こえない政治に連敗と、今回の負けの原因があるのではないか。

 繰り返すが、米軍再編によって沖縄に残る海兵隊の機能は大幅に減る。「司令部」と、絶えず遠征し沖縄を留守にする「第31海兵遠征隊(31MEU)」という小振りな機動展開部隊だけとなる。遠征隊は約2,200人で編成し、地上戦闘部隊に航空輸送力(オスプレイ12機、大型ヘリ4機、攻撃ヘリ4機、汎用ヘリ3機)を提供するための飛行場が必要だ。この部隊を沖縄に残すから辺野古を埋め立てて普天間の代替飛行場を造ることになっている。この部隊は長崎県佐世保の船に乗って、アジア太平洋地域を絶えず巡回しているので、沖縄を拠点にする必要はまったくない。始発駅が長崎で目的地がアジア太平洋全域であれば、乗車駅はどこでもいいという単純なロジックだ。

 米軍再編で大幅削減がすでに決まっているのだから、もう一声、31遠征隊を沖縄から動かすことができれば普天間代替施設は不要である。すでに主力部隊のグアム移転を決めており、「抑止力」にこだわる現政権の主張に正当性はない。このことを理解せずに辺野古埋め立てを政治目的化するような自民党なら、有権者がそっぽを向くのも仕方あるまい。

 負けが続く自民沖縄は、議論の窓だけでも開けてはどうだろうか。友党の公明県本は党中央を巻き込み、基地問題を検証するワーキングチームを立ち上げている。地域に根ざす保守政治の存在を有権者に証明してほしい。

◆無所属議員としての伊波さんにやってほしいこと

 伊波さんは無所属議員だ。国会で発言、質問の機会をどれほど確保できるかさえ分からない。今後、憲法改正論議が国会を席巻することになれば、沖縄問題はわきに置かれるだろう。伊波さんの基地問題に対する情熱、知識に定評はあるが、その気力、知力をぶつけても、まともに反応を返してくれる国政ではない。

 おかしな議論がまかり通る“不思議の国”の国会に伊波さんは乗り込むのだから、まずは議論をぶつける相手を探すことに苦労するだろう。そんな無理解、無関心、そして構造的差別といった無機質な敵と戦うことになる。愚直に主張を押し通すことも大切だろうし、沖縄が右も左も、保守も革新も乗り越えて共通項を探り、真の意味で「オール沖縄」にまとまる道筋を探る努力と度量も必要だ。

 伊波さんに提案があります。
 国会議員という立場をフル活用し、米国議会との付き合いを密にしてはどうだろうか。例えば、年に一度、米上下両院議員の政策秘書が揃って現場視察をする制度があるらしい。沖縄に誘致して、現状を見てもらえると米議員の政策に影響が及ぶかもしれない。まずもって米議員は沖縄問題を知らない、情報もないと言われているから、知ってもらうだけでも大きな前進だ。環境、人権問題に敏感な議員の秘書が注目するかもしれない。

 伊波さんには、「反基地」「反安保」の“革新レッテル”がベタベタ貼られていることを本人も知っているだろう。だから「海兵隊撤退」を主張しても政治スローガン、あるいはプロパガンダと敬遠されるはずだ。そこでワシントンの“拡声器”を使う手がある。シンクタンク「新外交イニシアチブ(ND)」の猿田佐世事務局長(弁護士)が提唱している。ワシントンのシンクタンクとタイアップして、海兵隊の新たなローテーションを政策提言すると、その政策はワシントン発になるので、アメリカ信奉者が多い日本の政治家、学者、メディアに受け入れられやすくなる。

 猿田弁護士によると、ざっくりとした見積もりで、ワシントンの研究機関と1年プロジェクトを組むには3,000万円ほど必要らしい。沖縄県がワシントン事務所を維持するのに年7,300万円を支出しているのだから一考の価値はある。3,000人が1人1万円のカンパなら、さほど高いハードルでもなかろう。

 海兵隊は沖縄でなくとも任務遂行に支障はないことを認める識者はワシントンに数多いる。「抑止力」「地理的優位性」という幻想に安住する東京の政治エリートに知的起爆剤を仕掛けるには、ワシントン発が効果てきめんのはずだ。そもそも根拠のない“信仰”なので、“教祖”に真実を語ってもらえばいい。この国の思考力のなさをひけらかすことになるのだが、やむを得まい。

 そしてもう一つ。フィリピンの国会議員と付き合ってほしい。いまドゥテルテ大統領の政策が注目されているからだ。今月12日に仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)がフィリピンの訴えを受けて、南シナ海の中国領有権の主張に対する判断を出す予定だ。フィリピンの訴えが認められる可能性が高い、と報じられている。ドゥテルテ大統領はそれを持って中国批判を強めるのではなく対話を呼びかける方針を明らかにしている。国内の鉄道網整備に中国投資を呼び込む狙いがあるらしい。ドゥテルテ大統領は南シナ海問題で米国を当てにしない、とも公言している。

 中国との対話解決を志向し、経済発展を目指すフィリピンの大統領。ファイティングポーズばかりで中国と仲良くなれない日本の総理大臣。中国と事を構えるような事態になれば日本国内で最も戦場に近いのが沖縄だ。「和を以て貴しとなす」の精神を持つフィリピン型の政治リーダーを求めたい。

 今、護憲勢力が劣勢なのは対立軸を再構築できないためだと思う。若者たちに「平和が大事」だという常識を分かってもらうには歴史を説明する必要がある。しかし「中国が尖閣を狙っているぞ」という一言で改憲派は支持を勝ち取る。そんな環境の中で、フィリピンの方針転換は改憲反対派に好材料を与えてくれるはずだ。好き嫌いやメンツなどではなく、豊かに生きる知恵とは何かという選択だ。
 沖縄は歴史的にフィリピンと関係が深いのだから、伊波さんにはアジアを結ぶ架け橋としても働いてもらいたい。そして右傾化する日本の政治環境のなかで、平和憲法をもう一度この国に定着させる楔(くさび)となってほしい。いまの日本政治をみていると真剣にそう願う。

屋良 朝博(やら ともひろ):フリーランスライター
1962年北谷町生まれ。フィリピン大学を卒業後、沖縄タイムス社で基地問題担当、東京支社、論説委員、社会部長などを務め2012年6月退社。『砂上の同盟』で平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞。


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