【コラム】風と土のカルテ(25)

親の背見て子は育つ 雨ニモアテズ

色平 哲郎


 農業を営む友人の中には、宮沢賢治のファンがたくさんいる。
 賢治は1915年に盛岡高等農林学校(現・岩手大学農学部)を卒業し、花巻農学校(現・花巻農業高校)で教鞭(きょうべん)をとった。
 その後、実家の別宅を改造して「羅須地人会」を組織。
 無償で農民の施肥相談に乗り、「肥料の神様」と呼ばれたという。

 賢治は晩年、いもち病や天候異変で打ちのめされた村々を、夜も眠らず風雨をついて回り、農民に助言を与えたが、疲労が重なり肺炎を起こしてしまう。
 病床で高熱にあえぎながら手帳に書きつけた詩が、あの「雨ニモマケズ」だ。

 「雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ 欲ハナク 決シテ瞋(いか)ラズ、、、」

と、詩は続く。

 宮沢賢治ファンには叱られそうだが、「雨ニモアテズ」というパロディーがあるのをご存知だろうか。
 作者不詳で、インターネットでも度々紹介されている。
 引用してみると、

 「雨ニモアテズ 風ニモアテズ 雪ニモ 夏ノ暑サニモアテズ ブヨブヨノ体ニタクサン着コミ 意欲モナク 体力モナク イツモブツブツ 不満ヲイッテイル」

 これって誰だ? 私か? うちの子じゃないか? と気になるが、さらに

 「毎日塾ニ追ワレ テレビニ吸イツイテ遊バズ 朝カラアクビヲシ 集会ガアレバ貧血ヲ起コシ アラユルコトヲ 自分ノタメダケ考エテカエリミズ 作業ハグズグズ 注意散漫デ スグニアキ ソシテスグ忘レ、、、」

 と、最近の過保護な子育てへの痛烈な皮肉が込められる。
 そして、わがまま放題で育った子どもは、こんな態度を取る。

 「、、、ヒデリノトキハ 冷房ヲツケ ミンナニ 勉強勉強トイワレ 叱ラレモセズ コワイモノモシラズ」

 泉下の賢治は、ひきつった笑いを浮かべる私たちを、どのように眺めているのだろうか。

 パロディーの詩はこう締めくくる。

 「コンナ現代ッコニダレガシタ」

 最近、受験生や高校生向けに講演する際、鼓舞の意を込めてパロディー版を読み上げている。

 (筆者はJA長野厚生連佐久総合病院地域ケア科 医師)

※この記事は日本農業新聞2016年2月11日号から著者の許諾を得て転載したものです。


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