【沖縄の地鳴り】

詩二編

外間 喜明


●母の足

 薪取りに野山を歩きまわった
 少女のしなやかな足
 
 京都の紡績工場で
 十二時間も立ちっぱなしで働いた娘の足

 帰郷して結婚後は
 肥しを担いで畑に通った農婦の足

 乳飲み児の僕を抱いて
 いくさの中を逃げまわった
 優しく逞しい お母さんの足

 父の戦死後は 病の僕を背ぶって
 病院通いに二十キロも歩く日々
 更に優しく逞しくなった足
 
 還暦を過ぎても
 家政婦で働きづめだった母の足

 骨折して人口骨が入り不自由になったが
 母の二本の足には
 懸命に生きてきた八十七年の人生が
 たっぷり詰まっている

●戦死した父へ

 <防衛隊に入れ>
 お父さん
 あなたに命令が来たのは
 僕が生まれて間もない冬だった
 日本軍守備隊第三十二軍
 沖縄防衛隊召集
 この命令にはあなたも逆らえなかった
 
 「もう行かないで
 この戦争はまもなく終わる筈」
 面会に戻ったあなたに母は頼んだという
 
 頭に弾を受けて
 芋畑で息絶えた
 二十八歳のおとうさん

 帰ってきたあなたの遺骨に
 母は泣き続けて
 更にやせ衰えた

 おとうさん
 僕は還暦を過ぎて 
 あなたの人生の倍をゆうに超えた
 あなたの分まで生きて
 あなたを語り続けよう

 外間喜明(ほかまきめい)著『うちなー賛歌 沖縄の心 平和のメッセージ』より。
 外間氏は1944年12月3日沖縄東風平村字重森生まれ。
 1971年早稲田大学社会科学部卒。
 神奈川県立高校社会科教諭、2003年勧奨退職。授業では特に平和と人権の教育に力を入れて、沖縄戦も語ってきた。
 所属:詩人会議 横浜詩人会議 平和団体 沖縄などから米軍基地をなくす会 神奈川環境九条の会など。


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