■ モーダルシフト        

貨物電車による首都圏物流のモーダルシフトの提唱

      -東海道物流新幹線構想委員会の構想に寄せてー  牧  衷
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 先頃、「東海道物流新幹線構想委員会」によって、第二東名・名神高速道路の
片側半分を専用貨物線の用地として利用し東名物流新幹線(ハイウェイトレイン
)をつくる、という構想が発表された。つねづねモーダルシフトの緊急性を主張
してきた者の一人として、拍手喝采を贈りたい。この案の特徴は、貨物専用鉄道
とハイウェイを併行合体させるというアイディアにあるが、なるほどと感心した
次第である。
  ただ、この構想にはハイウェイトレインのターミナル以降の展開がないのを少
し残念に思う。ターミナルの位置次第では、そこにトラック輸送が集中し、都内
の交通混乱に拍車をかける結果ともなりかねないからである。
  むろん、この構想で、鉄道の規格をJRの在来線に引きこんで利用できるよう
に、との配慮のあらわれでもあろうから、この構想につづいて、この車輛の在来
線への引きこみによる都市内物流のモーダルシフト構想が発表されることになる
のかもしれない。
 
  ただ、首都圏物流のモーダルシフトは、ターミナル以降のモーダルシフトとセ
ットになって、はじめて所期の目的が達成されることになるので、先走りの感な
きにしもあらずだが、あえて私見を提出したい。


◇◇首都圏物流のモーダルシフトは貨物電車で


 現在首都圏には、東京・横浜・川崎・千葉四つの港と成田空港という五つの物
流拠点がある。これらの拠点に運びこまれ、運び出される貨物は、ほとんどトラ
ック輸送に委ねられている。その五つの拠点に向うトラックが都市中心部を右に
左にと走りまわるために都内の交通は難渋を極めるということになる。これをす
っきりと鉄道輸送にふりかえることはできないだろうか。
  そもそも鉄道に夜貨物輸送がほとんどなくなり、何百キロもの長距離でさえト
ラックで輸送される、という事態に至った原因は、今日の貨物の大半がトラック
輸送が可能な「軽薄短小」スタイルに変化したのに、鉄道による貨物輸送の方は
依然として昔流の「重厚長大」型で延々と連なる貨車を電気機関車がひっぱると
いうスタイルである。運ばれる貨物と運ぶスタイルのこのギャップが鉄道輸送衰
退の最大の原因である。この点から考えて、ハイウェイトレイン計画が五輛一ユ
ニットのコンテナ電車をフレキシブルに連結して輸送需要に対応する、としたの
は当然のこととはいえ、極めて賢明な選択である。
 
  ところで、このコンテナ電車は、第三軌条による集電方式(地下鉄と同じやり
方)をとる、としているのは、高速道路のトンネル高がパンタグラフを立てる通
常の集電方式をとるのには低すぎるためと思われる。この車輛を在来線にそのま
まひきこむにはパンダグラフ方式によらなければならないが、ハイウェイ走行中
はパンダグラフを畳んでおき、在来線への引込ターミナルでパンダグラフを立て
てふつうの集電方式にするのは容易だから、あらかじめパンダグラフ集電方式も
つけておいて、切り替えればすむ。またハイウェイ走行中は無人の自動運転だが
、ユニットの前後に運転室をとり、ハイウェイ走行中は無人在来線への引込みタ
ーミナルで乗務員をのせれば、車輛はそのまま在来線を走るコンテナ貨物電車に
なる。このコンテナ貨物電車を物流新幹線だけでなく、広く首都圏の電車区間内
に応用できないものだろうか。
 
  こういう眼で鉄道路線図を眺めてみると、東京・横浜という都市中心をとりま
くように、外郭を環状に電車が走っていることに気づく。その最外郭をなすのは
、相模線(茅ヶ崎-橋本・八王子) 中央線+南武線(八王子-立川-府中本町) 
武蔵野線(府中本町-朝露-新松戸) 常盤線+成田線(新松戸-我孫子-成田空港
) 成田線+総武線+京葉線(成田空港-佐倉-千葉-蘇我-東京)
というループができ、その底辺には東海道貨物線という貨物専用線が走ってルー
プを完成させている。
  ところで、現在八十歳近辺の方々なら、このループをみたとたんに、この線が
旧帝国陸海軍の基地をつないでいることに気づかれるだろう。厚木-海軍航空隊
  相模原-陸軍戦車学校 立川-陸軍飛行隊 習志野-陸軍騎兵隊 津田沼-陸軍鉄
道連隊というふうに。事実これらの線は首都外郭防衛隊の兵員ならびに軍需物資
を輸送するために建設された鉄道である。つまり、これらの線は元来、貨物線な
のである。この元来貨物線のループをみると、このループは首都圏の五つの物流
拠点を見事につないでいる。成田空港 蘇我(千葉港) 東海道貨物(東京港 
川崎港 横浜港)


◇◇コンテナ貨物電車の環状線があれば、五つの物流拠点の輸出入品の
    大半は貨物電車で運べる


 成田 東京 横浜 川崎 千葉 という五つの港の主要輸出入品をみよう。
  成田空港は現在国内トップの貨物港であるが、輸出入品の主要五品目は、輸出
は、集積回路、精密機械、電電気回路用品、映像記録・再生機器・音響・映像機
器部品であり、輸出総額の32%、約4兆円に達する。
  実はこの電子関連部品の出荷元である半導体の製造工場は、このコンテナ電車
の環状線上に集積している。とくに顕著なのは、相模原線沿線の相模原周辺、武
蔵野線沿線の狭山近辺で、成田空港とは都心をまたいで反対側に位置する。現在
これらの工場から出荷される製品は、都心を横断してトラックで成田空港に運ば
れている。もしコンテナ貨物電車の環状線があれば、これらの地域に設けられた
貨物駅までのトラック輸送であとは電車で成田にとどくのである。
 
  輸入の方も同様である。輸入の主要五品目は、集積回路 精密機械 コンピュ
ータ 音響・映像機器とその部品 で、これらもみな電子関連製品である。これ
らの製品もその場で小口にバラバラにされるわけではなく、だいたいまとまった
受入れ先があるのだから、その受入れ先の最寄り貨物駅まで電車で運んだ方が得
策であろう。
  東京港についても同様のことがいえる。ここでも輸出の主力は電子関連機器で
あり、輸入では食品(魚介類・肉類)衣料品などが目につく。いづれも電車で搬
入・搬出が可能である。
 
  横浜・川崎・千葉は成田空港や東京港に較べればモーダルシフトの対象となる
ものはすくない。三つの港とも輸入品目では圧倒的に石油と液化ガスが多いが、
石油にせよ、液化ガスにせよ、港の一部となっている製油所や発電所・ガス会社
などの工場専用埠頭に入港し移送の間もなく、受入れ工場あるいは隣接する石油
コンビナートで「消費」されてしまう。搬出されるのは主に内陸部におくられる
液化ガスや燃料用の油類である。これらの燃料は本来パイプライン輸送によるべ
きだろうが、当面は一般の運送手段によらねばならぬだろう。この輸送には一部
現用の貨物線が利用され、沿線に住む筆者は、延々とつながった石油貨車がのん
びりと電気機関車に引かれているのを目にする機会も多い。しかし貨車輸送され
るのはほんの一部で、大部分は石油や液化ガスを満載したタンク・ローリーが街
中を抜けて運ばれている。これは過密交通のなかでは特に危険な話だから、北関
東や信越地方への輸送はループ貨物線を使って行いたいものである。
 
  いずれにせよ、この環状貨物電車線がモーダルシフトの決め手になるためには
、貨物電車という手軽さが十分に発揮されなければならない。幸い外郭環状線は
都心に向う中央線・京浜東北線・山手線のような過密ダイヤではなく、運転間隔
にも比較的余裕があるので、一時間に4本くらいまでなら割込みは可能だろう。
どれだけの頻度が必要かは更に詳細な実験研究がなければわからないが、手軽さ
を発揮するためには、できるだけ頻繁に、しかも定時に運行されることが必要だ
ろう。これはお客が多かろうが少なかろうが定時運行を行っている旅客電車と同
じことである。


◇◇大巾なモーダルシフトによる道路政策の革新


 このコンテナ貨物電車は、電化区間ならばどこにでも入れられるから、たとえ
ば、我孫子でそのまま常盤線に乗入れれば、日立を先頭に常盤線沿いに並ぶ半導
体製造工場の製品を電車で運びこむこともできるし、北茨城の酪農製品や食肉・
野菜なども電車で市場に持ちこめる(東京都最大の卸売市場である大田市場は環
状貨物線の一部となる東海道貨物線の東京貨物ターミナルから500mも離れて
いない。このターミナルから伸びる線は、品川・田端を通って常盤線用の貨物タ
ーミナル隅田川貨物駅につながっている)更に東海道貨物線を下れば、その先に
は横浜の中央卸売市場がある。
 
  同じことは中央線にもいえる。八王子から中央線をたどれば、諏訪・岡谷の精
密工業製品、一帯の高原野菜等々運べるものはたくさんある。
  更に夢を拡げれば、新幹線型の貨物電車だって実現可能である。車体に広狭二
様の車輪をつけ、電車区間に入る時に切り替える。現在の山形新幹線が福島で広
狭の切り替えをするのと同じやり方を行えばよい。こうすれば、JR東日本の各
新幹線も貨物輸送に利用できるようになる。この場合には各県に二・三カ所の貨
物ターミナルを設置し、周辺の物産をここに集めて新幹線で輸送する。現在これ
らの地方の物産は高速道路によって個々バラバラに首都圏に吸い上げられている
が、このようにして幹線物資を鉄道にシフトすれば、道路は各地域の貨物ターミ
ナルまでのものでよくなる。こうして各地域に物流の結節点ができ、その地域の
産品の集散地ができれば、そこに物が集まり、人が集まり、知恵も集まる。幕末
から明治の初期にかけて、八王子に関東・甲信越一円からの生糸が集まり、やが
て八王子は日本を代表する絹織物の生産地となった。この歴史的経験は忘れ去ら
れるべきではなかろう。
 
  政府も徒らに高速国道づくりに血道をあげることを止め、全国のモーダルシフ
ト計画の長期ヴィジョンを国民に示し、同意を形成して本格的なモーダルシフト
にとりかかるべきである。もし本格的に新幹線が物流にも利用されるようになれ
ば、国の道路予算は各県に分与し、物資の集散拠点にむけた道路整備にあてるこ
とが妥当となる。この場合には道路は県道として建設される。国の高速道路を県
道としては基準となる規格が異なるので、県に任せた場合には同じ予算で3倍の
延長の道路がつくれるといわれている。地方の道路整備にもこの方がはるかに有
効だろう。
 
  公共事業の無駄をなくす、というのはこういう長期のヴィジョンのもとに行わ
れるべきもので、むやみやたらなリストラや工事の値切りによって結果的に手抜
き工事を横行させる如きは論外の愚行である。
  ハイウェイトレイン計画から話は大きくひろがってしまったが、環状貨物線の
構想はやろうと思えばすぐにでも実現できることである。できることから直ちに
始めて、明るい未来に繋ぐ構想力をはばたかせよう。

(筆者は小田急連続立体交叉工事に関する市民専門家会議コーディネーター)

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