赤松農政の評判と新有機農業支援法に対する評価など

■農業は死の床か。再生の時か。 濱田 幸生

赤松農政の評判と新有機農業支援法に対する評価など

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  今年も大荒れの一年の予兆がしますが、皆様いかがおすごしでしょうか。何卒
本年もよろしくお願いいたします。

 さて、よく村では三十年一世代をひとつの単位で考えます。
  三十年前後で、次の世代にタッチするというわけです。かつて青年だった私た
ちも60の声を目の前にする年頃になってしまいました。身体も無理が効かなく
なり、かつて平気で持ち上げた30キロ半俵がズシッと腰にくるわけです。
  出来ることと、現実的判断が出来る歳になってしまいました。かつて夢を喰っ
ていた私のような者が言うのもなんなのですが。
  そのうちじっくりとお話しますが、今までいい意味でも悪い意味でもあった有
機農業の独立的性格が失われていくような時代に差しかかってきたような気がし
ます。
  それが一般農業との敷居をなくし、地域の中で生きる有機農業という本来ある
べき展開を作るのか、あるいは、一般農業の単なる一分野に組み込まれてしまう
のでしょうか。

 かつて私が就農した1980年の頃を第一世代だとすると、この2010年は
ちょうど30年めとなります。どこから飛んで来たのかわからないような有機農
業の変わり種がこの村に飛んで来て芽を吹き、がむしゃらに根を張ってしまいま
した。そして二十歳の年にいずれにせよ、次の世代に渡すべき有機農業のスタイ
ルをしっかりと世に問うていかねばならない正念場の頃のようです。あまり気張
らずにいきましょうか。


◇村の酔っぱらいの赤松農政談義


  ところで、昨年の暮れに村の友人たちと鍋を囲みました。話はするともなく、
今年は厄年みたいなもんだっぺから始まって、来年はというと、もうまったく分
からんということに揃い踏みの情けなさ。
  となると、今の民主党政権はナニ考えているんだべ、と言うことになっていっ
たとおぼし召せ。
  私など自民党農政の頃はバリバリの批判派であったことは隠れもないことです
から、「一回やらっせてみっぺよ」で政権を握ったところに好意的と見られてい
たようです。あ、この「一回・・・」ウンヌンは、ほんとうにこの茨城3区の民
主党候補者のキャッチコピーです(笑)。
 
余談ですが、うちの地方は語尾にペをつけただけで、なんか土着オリジナルに
なると、やや安易に考えている節がありますんで、バリエーションとしてはご当
地交通標語「酒飲んで運転やめっぺよ」(「泥酔して運転やめっぺよ」ではない)
なんかがあります。
 
まぁそれはともかく、酒に酔うほどに皆どこに入れたんだ、白状せいや、って
ことになりました。笑えることに2名を除いて皆民主党ということでしたが、1
名は額賀先生の後援会の地区幹部の息子ですから、これはしゃ~ない。そして民
主党に入れなかったもうひとりがこの私で、なんと共産党ときたもんだ。
  おい、ハマちゃんや、いつから共産党になったんだ、と追求が厳しい。だって
村の共産党は一種の屋号みたいなもんでありまして、どこそこの亭主、その舎弟、
その嫁、その甥、そのまた女房と、なぜかみな「その」でつながる血族の園み
たいになっているのですな。ですから、浮動票で共産党に入れるというのは、ほ
ぼないのです。
 
私が共産党に入れたのは「その」血族とはなんの関係もなく、ましてや党員な
どでもなく、自民党にも民主党にも愛想が尽きていたからにすぎません。少なく
とも私は、マニフェストとやらにこっそりと日米FTAを忍ばせるというやり口
が信用ならん、と思ったからです。
  で、皆の衆が言うことにゃ、民主党が農家戸別所得補償制度(ええい長ったら
しい)をしたくてしたくてしょうがないのはよ~く分かった。しかし、それの実
態が段々明らかになるにつれ、な~んだ米の減反補償金とおっつかつだっぺ、と
なってしまいました。
 
今までの減反奨励金を止めて、替わりに所得補償金という形に変えてみた。建
前は減反廃止だが、内実はどうもそう簡単じゃないみたいだ、と皆が頭をひねる。
  計算式は難しいのですが、反あたり1万5千円くれるというのは農業新聞にデ
カデカと出ています。
  じゃあ割り当ての減反生産数量守って、その金握ったとして、その次はなんな
のさ、ということろで話がパタリと詰まってしまいました。フツーはですね、例
えば赤松さんの前任者の石破さんの頃だったらとしましょうか、専業農家の農地
集積化事業や、それに見合った政府金融の低利の資金設定があったり、山間地な
らばまとまって営農組合を作って、それに対する山間地支援策がある、という方
向がとりあえず出ていました。
 
しかし赤松農政では所得補償金の「その次」がまったく見えないのですから、
評価しようがない。たとえば農地集積事業はバッサリと真っ先に切られました。
次いで、耕作放棄地対策事業もバッサリ打ち首。農道建設事業もバッサリ、そし
てなんとびっくり仰天したことに有機農業支援事業も、農地改良事業本体すらも
脳天唐竹割りで惨死寸前。
  そしてこれらの屍累々の山も、なんのこたぁない、ただ農家戸別所得補償制度
の財源の犠牲にされたにすぎないとわかってくると、もう悪酔いです。
 
つまりですなぁ、赤松農政は、専業農家が村の中の田んぼや耕作放棄地を借り
集めて農家経営を成長させていくという道を、事実上バッサリと切ってしまった
わけです。水田は、多くが改良区というひとつのため池から伸びるパイプライン
でつながった水利組合が管理していますから、農地集積事業を止めてしまい、個
々の水利組合の小規模農家(要するに兼業農家ですが)に農家所得補償で現金を
配ってしまえばどうなるのか。
 
ま、これからは、たとえ専業農家が張りきってこれらの兼業農家に水田さ貸し
てくれや、と頼み込んでも、うんにゃお国が減反生産目標さ守れば、現金くれる
つうに、貸借すると所得補償金の受給関係がめんどうなだけだぺよ。おめぇにゃ
貸せねぇな、となるのは必定でしょう。
  じゃあ、なぜ民主党はこんなに俺ら頑張ってる専業農家を目の敵にするような
ことを始めたんだっぺ、となったわけですが、誰かが杯をチビチビ舐めながらド
ッチラケの表情で言うには、選挙以外になんかあっか。
  ああ、この一言で皆、酔いも覚めました。お~いねぇちゃん、代行さ呼んでく
れや!おお、表はサブい。

 「効率」で葬られて、経済効率一色でよみがえった新有機農業支援法
  去年の暮れ、あの悪名高い事業仕分けで廃止されてしまった有機農業モデルタ
ウン事業の代替えとして、新たな有機農業支援法が閣議了承されました。その内
容の評価についてはお伝えしていなかったので、簡単に触れていきましょう。
  有機農業モデルタウン事業からの完全な後退としか思えない内容です。急遽の
代替えという事情はよく理解できますし、その熱意に感謝を惜しまないつもりで
すが、内容があまりにもひどい。

  左に新しい有機農業支援事業予算の一部を掲載しましたが、要するにひとこ
とで言えば、よくある農業関係一般予算のひとつにしかすぎません。
  ここで述べられているのは、いわく、「産地収益力向上」、「販売収益力向上」、
「生産技術力強化」、「人材育成力強化」といった、農水の予算のマニュア
ルどおりの一皿盛りいくらというようなありきたりの予算内容にすぎません。
  農水省、頑張って復活させたのはエライし感謝もするが、なんにも考えずに作
りやがったのが見え見えじゃねぇか!たぶん今まであるそこいらの農業予算の客
体対象を、「有機農業」に書き換えただけだと思われます。
  これでは、有機農業の独自の歴史や構造がまったく評価されることなく、今後
期待されるべき有機農業の21世紀日本農業への寄与という最も重要な魂の部分
が抜き去られました。

 そもそも2004年に成立した有機農業推進法は、その核心部分として、日本
農業の中で有機農業が独自の歴史と蓄積を持ち、その蓄積に立っていかなる貢献
をすることが求められているのかという大きな俯瞰図がありました。
  そしてそれが、21世紀の開始を告げる時に制定された新農業基本法の精神で
あるはずの「自然と調和した農業のあり方」の精神を体現するものなのだという
理念に裏打ちされていました。
 
このような21世紀の日本農業をどうしていくのかという理念の問いかけと、
現実に施行される具体的な有機農業支援対策がまったく無縁であっていいのかと、
私は思うのです。
  無知蒙昧、粗暴野卑の民主党レンポー女史と枝野氏に破壊された有機農業モデ
ルタウン事業は、その問いかけに真正面から答えようとしていた意欲的な事業で
した。
 
有機農業が、各々の地域の中で、行政やJA、減農薬減化学肥料栽培の農業者
とも連携して、ネットワーク構造を作り上げ、今までの30余年の有機農業の蓄
積を拡げ、踏み固め、次の世代に引き継ぎ、減農薬減化学肥料の人々とも結んで
新たなすそ野を拡げ、街の人々と結び合う地域作りの主体としての有機農業を登
場させる画期的な意味を持っていたのです。
  それが「効率」という一言で事業仕分けされた結果、農水省はその代替えとし
て、まさに経済効率一色の事業案を考えたというわけです。
  まことにやれやれであります。このようなことを世では、仏作って魂入れずと
言います。民主党もまったく罪作りなことをしてくれます。


◇有機JAS五割増し目標は空論にすぎない


  この新予算の最大の問題点は、「有機JASを26年度までに5割伸ばす」と
いう、なにを根拠にしたのかさっぱりわからない有機JASの拡大目標が突如登場
したことです。
  今や、有機JASは今の日本の有機農業の桎梏と化しており、現実に当初期待
された減農薬減化学肥料栽培の層には、完全にそっぽを向かれてしまい、新規の
申請もほとんどないありさまです。農水省は、取得者の有機JAS返上が年々増
加していることを知らないのでしょうか。
 
今盛んに申請してくるのは、外国の有機農産物加工品原料のみといった状況
で、それを5割も延ばすという目標は、現実無視も甚だしいと言わざるを得ま
せん。
  まずは今、農業現場の有機農業者が有機JASを取得して何の壁に突き当たっ
ているのか、どこに問題点があるのかを、各地域の有機農業推進協議会に予算を
つけて調査をさせ、それの結果を踏まえてから、次の「ではどうやって有機JA
Sの欠陥を改善して、伸ばしていきますか」という段階に進むのがものの順番で
はないでしょうか。
 
現状調査活動⇒調査結果の集約⇒改善点の洗い出しといった施策のきめの細か
さがないとダメです。これに関しては、県や市町村の農政課レベルと、有機農業
推進地域協議会が協同して調査事業に当たるべきでしょう。まずはこれに予算を
つけるべきで、いきなり、「技術力強化」、「販売企画力強化」などと寝言を言
われても困ります。
  本筋から離れるので短くコメントすれば、有機農業30余年の歴史の積み重ね
の中で、有機農業の技術や販売力は独自の展開を見せているのです。30年前だ
ったらありがたかったでしょうが、現時点で必要なことはむしろ有機農業技術の
整理と体系化、そして次代を背負う農業者や、減農薬、減化学肥料の生産者へど
のように繋げていくのかがポイントなのです。
 
また、「有機農産物マッチングフェア」ということも述べられていますが、ほ
んとうに農水省はなにもわかってないのですねぇ。有機農産物は売るのに困って
はいないのです。私たちが売り先がなくて困っていると農水省は認識していたん
だと、かえって妙に感心してしまいました。

 なるほど、こう現状認識がズレていては話がスレ違うはずです。山間地などの
市場から遠い地方や、新規就農者は別種の問題点があるのでひとまず置きますが、
有機農業団体はおおむね「売るものがなくて困っている」のです。
  特に有機JAS出荷をしている団体は、有機JAS農産物は減少の一途をたど
っており、市場の需要との需給ギャップが生じているのです。この有機JAS農
産物の減少による需給ギャップ問題は深刻で、有機農業団体の伸び悩みと直接に
つながっています。
 
このようなことの原因はいつにかかって、有機JASの現実にそぐわない硬直
した基準・表示体系の内部にあります。この矛盾を素通りしたまま「5年後に5
割増せ」とは片腹痛い。寝言は寝て言え。
  繰り返しになりますが、まずは、有機JASの問題点の洗い出しを行った上で、
それに立ったところで、なんらかの大幅な有機JAS制度の見直し、あるいは、
直接支払いまで視野に入れた「国策としての」本腰を入れた支援策がない限り、
国産有機JASは5割増しどころか、いくら予算を注ぎ込んでもざるで、立ち
枯れていくでしょう。
 
この部分を農水省はどのように考えているのでしょうか。それが明らかになら
ないままに、こちらの農業現場にただ「有機JASを増やせ。予算をつけたぞ」
と振られても困るというのがこちらの正直な気分です。


◇一度地域を巻き込んだら、二度と引き返すことはできない


  新有機農業支援予算の3つめの問題。新事業予算では地域に対する有機農業者
の立場がまったく考慮されていません。
  廃止されてしまった有機農業モデルタウン事業では、要として、市町村行政と
協働することが条件づけられていました。
 
私は農水省の予算の組み方はよく知らないのですが、このモデルタウン事業に
おいて行政に仲立ちをさせることはいろいろな意味で意義あることでした。
  まず、農村地域においては行政、あるいはJAとの協働することなしにはモノ
ゴトがいっさい進まないのです。たとえば、協議会の会合を呼びかけるなどとい
ったささいなことひとつでも、そこに行政やJAが参加していると、いないのと
ではまるで重みと広がりが違います。
 
これを事大主義と笑うなかれ。農村で幅広く地域興しをしようという時に、行
政やJAを敵に回してはまず何もできません。彼らの持っている公共性は、農村
では私たち変わり者連合である有機農業者の比ではないからです。
  30余年間、いい意味でも悪い意味でも、私たち有機農業の関係者は、よく言
えば栄光ある孤立、はっきり言ってout of order、序列外の存在でした。私た
ちの有機の仲間うちだけで組合を作り、産直事業を立ち上げ、村の催しや農業関
係の集まりなどにも顔を出すことは稀でした。
 
なるほど、行政も、ましてやJAなどが、私たちを振り向こうともしなかった
ことは事実ですが、もう私たちはかつてのそれではない。それなりの力を付けて、
確固たる経済基盤も、都市消費者との関係も作り上げてきています。もう孤立
を粋がっているような子供じみたことは終わりにしたいのです。
  私たち有機農業も幼年期が終わり、地域農業の一角として果たすべき役割を果
たすべき時期です。その時期にこのモデルタウン事業がやってきたわけです。
  ・・・などと、殊勝に考えていたら、あっさりと仕分けられてしまい、次に農
水省が言ってきたのは、「予算を復活させたが、今度のものは地域など考えなく
てもいいんだよ。あんたがたの収益性や経済効率を向上させることだけやってく
れたらいいんだから」ときたもんだ!
 
何を考えているのか農水省。そんなわけにいかんだろうが。
  もう、私たちは一世一代の決意で、有機農業という住み慣れた穴ボコから出て
きて、地域の行政や、なんとJAまでにも声を掛けてしまった後なんですぜ。こ
こで、「いやー、農水省がああいうもんで地域興しはいちおう中止つうことで、
私らだけの収益性向上に邁進しますわ」などと頭をかきながら言い出せば、まぁ
ご想像どおりですわな。もう百年間、地域は私たち「有機のてい」を信じてはく
れないでしょう。田舎では信義は命より重いのです。
 
ですから、この地域行政や、JAなども含んだ減農薬減化学肥料生産者ととも
に地域を作っていくという私たちの有機農業推進協議会の規定方針は変えるわけ
にはいきません。名称も、「産地収益力向上協議会」などというゲロゲロの名称
には絶対にしない。
  冗談じゃない。政治に介入されるたびに地域主体を名称ぐるみコロコロ換えて
いたら、いったい農業者の主体性なんぞどこにあるのでしょうか?
  農水省、そして私たちをよくぞ仕分けてくれた無知蒙昧な民主党議員の諸君、
ひとこと言っておく。百姓をなめるなよ!
            (筆者は茨城県行方市在住・農業者)

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