【社会運動】

超党派のソーシャル・ファーム議連が始動

柏井 宏之


 改憲派議員が多数を占める現在の日本の国会の中で一つの動きがあった。超党派のソーシャル・ファーム推進議員連盟の第3回総会が2016年10月20日、衆議院第二議員会館の会議室で開かれるというので傍聴にでかけてみた。司会・木村弥生衆議院議員(自民)のもと議事は進められた。ソーシャル・ファーム議連は、もともと小池百合子衆議院議員(当時)の呼びかけで、超党派で2016年4月に発足したが、彼女が都知事選挙に打って出たためその後が危ぶまれたが、この総会で役員人事案が提案された。小池都知事も当選後の9月28日の都政の所信声明でソーシャル・ファームの都段階での推進を語っている。
 陪席には厚労省社会・援護局障害福祉課長、生活困窮者自立支援室長、職業安定局雇用対策課主任、農水省農村振興局都市農村交流課課長、法務省保護局社会復帰支援室室長らがずらり資料を携えて出席した。
 当日の講師にはソーシャル・ファームジャパン理事長の炭谷茂氏(恩賜財団・済生会理事長)が講演した。炭谷氏は、9月18日、ドイツ、フィンランド、イギリスから専門家を招いて国際シンポジウムを東京で開き、10月8、9日には、フランスから実践家を招いてサミットをつくば市で300人参加で開催したと報告した。

 ソーシャル・ファームの必要性は、障がい者、難病患者、高齢者、母子家庭の母、引きこもりやニートの若者、刑務所出所者、ホームレスなど自分に合った適切な仕事に就くことが社会問題になっていること、こうした困難な人が多数の存在になり、しかも増加していることをあげた。現在は2種類の就労先があるが、(1)税金の投入された公的な職場は、商品の競争力が乏しく給料が低い、やりがいを感じない場合もあり、障がい者以外の他の対象者には一般にない、(2)民間企業は当事者の能力などから雇用先を得る事が困難なことが多く、第3の職場として「社会的企業」が必要な時代と強調した。ソーシャル・ファームは当事者の雇用を目的とする社会的企業とも説明した。
 この運動の起源は1970年代末にイタリア・トリエステで精神病院入院患者が病院職員とともに地域で就労する施設に始まり、ヨーロッパに拡がったことをあげた。障がい当事者と健常者が対等の関係で働き、これによって人と人とのつながりができる仕組みで、当事者の雇用基準は国によって異なると各国の就労比率を紹介した。給与、労働時間などの労働条件は、原則として一般の労働者と同一の基準が適用されていることを強調した。炭谷氏は「日本型ソーシャル・ファーム」の確立が必要として、法的、財政的整備として「基本法」の必要性、さらには財政援助、税制優遇、優先購買制度に触れ、日本の実例として北海道の共働学舎、東京江東区のエコミラ江東、埼玉のたんぽぽ、滋賀のがんばカンパニー、愛媛県のハートinハートなんぐん市場などをあげた。

 役員人事については当日配付のペーパーには次のように書かれている。
・顧問 太田昭宏(公)、川崎二郎(自)、中川正春(民)、丹羽雄哉(自)
・会長 田村憲久(自)
・会長代理 鴨下一郎(自)、高木美智代(公)、田嶋要(民)、野田聖子(自)
・副会長 阿部知子(民)、岸本周平(民)、武見敬三(自)、古屋範子(公)、森まさこ(自)、山本博司(公)
・幹事長 塩谷立(自)
・幹事 穴見陽一(自)、井坂信彦(民)、小川勝也(民)、亀岡偉民(自)、川田龍平(無)、北村誠吾(自)、冨岡勉(自)、平木大作(公)、宮崎岳志(民)、宮下一郎(自)、矢倉克夫(公)
・事務局長 木村弥生(自)
・事務局次長 上月良祐(自)、滝波宏文(自)
 そのほか井坂信彦、柿沢未途、岸本周平、上月良祐、塩谷立、滝波宏文、辻本清美、初鹿明博、鳩山邦夫、古屋範子、が名を連ねている。

 なぜ、超党派の議連の動きに着目するかの一例をあげよう。自民党の衆議院議員、野田聖子さんは障害をかかえる息子、真輝さんを育てるが、そのインタビュー“「かわいそう」の言葉 不要感が漂う”が「AERA」(障害者と共生する…連載(4)【最終回】2016.11.7)に載っている。

 相模原市「津久井やまゆり園」事件について「私はこの事件に驚きませんでした。こういう事件がいつかおこるんじゃないかという思いがずっとありましたから。…真輝が生まれてから、障害者を嫌悪する社会の空気をずいぶん吸い込んできたので、今回の事件は、単に用意されていた導火線に火が付いただけなんだと感じたんです。…最初に感じたのは息子に対して「かわいそう」って言われたときです。自然に出てくる言葉で悪意はないんだれど、かわいそうという言葉は上から目線だし、言われた瞬間、排除される感じがした。そこには障害者に対する不要感が漂っている。…たくさんのチューブにつながれて生きる息子は「ばけもの」扱いされました。…「殺すのもやぶさかじゃない」という人たち、ほかには「金食い虫」と言われたり、「医療費がかかる息子を見殺しにしろ」といわれたり。
 社会には「障害者は役立たずで国に負担をかけている」と考える人がいますが…少なくとも、今年改正された障害者総合支援法に「医療的ケア児」の言葉が入ったのは、息子の存在が大きかった。…「健常」っていう言葉をなくしたい。健常者の定義なんてないでしょ。健常と障害の境目なんてどこにあるのか誰にもわからないし、健常者って正直、幻だと思います。年を取ればだれもが障害者になる可能性があるんですから。
 編集者は、作家の曽野綾子の著書『人間にとって成熟とは何か』では、野田さんについて「自分の息子が、こんな高額医療を、国民の負担において受けさせてもらっていることに対する、一抹の申し訳なさ、か、感謝が全くない」と書かれている事実を指摘する。
 この上から目線の決めつけに「私も息子のおかげでプラスになった。息子が生まれてきてくれたことで、自分に一番欠けていた政治家の資質を手に入れることができた。」と言い切っている。

 これは、野中広務自民党元幹事長が「部落出身者を首相候補者にはできない」と名指しされた事件を思い起こさせる。また加藤紘一元幹事長もそのハト派的言辞から右翼から自宅を焼かれた。小沢一郎の「強制起訴」もまた保守の権威主義派から仕組まれた罠であった。保守リベラル派への執ような攻勢の続く風土の中で、格差のひらく現代社会で排除にあう当事者のソーシャル・ファームが必要だといい切れる人たちの眼線を大切にしたい。

◆ 共同連全国大会で阿部知子衆議院議員が報告

 阿部知子衆議院議員(民進)は、これに先立つ9月25日の第33回共同連全国大会(代表:堀利和)で記念講演「ソーシャル・ファーム推進議員連盟の結成とこれからの課題」を報告している。
 共同連はこの間、「社会的事業所促進法」の制定を掲げて活動、一時、「生活困窮者自立支援法」の中での可能性を探ったが、政権交代から保守回帰の中でその可能性はなくなったとして日韓社会的企業セミナーなどで表明していた。そうした状況の中で、久しぶりに超党派の動きとしてソーシャル・ファーム推進議連の新しい動きが出てきたので今回の報告となった。
 阿部議員はまず、小児科医として小児神経科の医療に携わった経験から、不登校のひきこもりや摂食障害に苦しむ問題に取り組み、「障害者自立支援法」には多くの障害者団体と共に闘った歴史を語った。当時は多くの障害者の就労と社会参加に関わった議員が多くいたが、今の国会はそうした議員が少なくなっていると述べた。ソーシャル・ファーム推進議連の話は、都知事になる前に、自民党の小池百合子さんから直接よびかけられ、4月の結成集会に参加したという。第3回総会で、発言を求められた阿部議員は大阪での共同連大会で報告したことを発言していた。

◆ 世界330都市から参加した「GSEF2016モントリオール大会」

 今年9月7〜9日にカナダのモントリオール市で行われた「GSEF2016モントリオール大会」を見ておこう。ここでは2年前ソウルでの「社会的経済」は「社会的連帯経済(SSE)」とより目的を明確にして開かれた。世界からは330都市、62カ国の参加があり、200名以上の政府関係者と9つの国際機関を含む、合計1,500名を超える参加者が集まり、地球規模での社会的連帯経済を促進するため、熱心な討論と宣言を採択した。日本からは「ソウル宣言の会」を中心に33名が参加したが、自治体からの参加はゼロであった。今回のGSEF2016の中心テーマは「社会的連帯経済(SSE)の推進に対する、自治体や諸団体間の連携」におかれただけに、日本の自治体の関心のなさがとりわけ目立ったと聞く。

 SSEのテーマによって43のワークショップ・ワーキンググループ等の展開があり、実に120の社会的連帯経済の実践が報告され、最後に「GSEF2016 モントリオール宣言」が採択された。その「GSEF2016 モントリオール宣言」では「現在の状況」を次のようにデッサンしている。

 いま私たちが世界中で目にしているのは、所得不平等の拡大や社会の分裂、社会的排除の広がり、環境問題への対応能力の欠如である。これらに加えて、うまく都市の成長をはかるという重要な政治課題がある。そのためには、まともな生活の質を確保することや、基本的なニーズ(住宅、水、公衆衛生、エネルギー、交通、安全等)へのアクセスを確保し、個人および集団をエンパワーメントできる環境を確立することである。

●社会的連帯経済へのコミットメント(積極的関与)
 私たち、モントリオールで開催されたGSEF2016の参加者、62か国の330の都市からやってきた1,500人は、いま一度、強く断言する。すなわち、より理性的かつ公正で持続可能な都市の発展が可能であり、そして経済的、社会的、政治的な活動の中心に人々を据えることのできる経済開発モデルが存在していること、これである。私たちは、これを社会的連帯経済 The Social and Solidarity Economy(SSE)と呼ぶ。
 社会的連帯経済が追い求めているのは、経済効率、社会的包摂、持続可能な開発、そしてまちづくりや経済を機能させることへの参加度を高めることを含め、これらを統合することである。協同組合やコミュニティ・ビジネス、社会的企業、信用組合と共済、社会的責任金融、非営利機関は、共に社会的連帯経済を構成している。社会的責任投資家と同様に、慈善事業セクターもまた社会的連帯経済の発展に貢献している。要するに、社会的連帯経済とは、利益の増大を経済活動の主たる目的もしくは唯一の目的とはみなさない人々すべてを包含しているのである。前に進むために、社会的連帯経済は、私的セクターおよび公的セクターと並んで自らの役割を全面的に引き受けなければならない。
 社会的連帯経済は全ての社会にとって欠かすことができないのであり、現在の開発モデルに疑問を投げかけている。社会的連帯経済が希望を与えているのは傷つきやすい個人やグループである。彼ら彼女らは、まともな仕事を見つけることもできず、最低限の生活水準を満たすうえで必要な住宅や適切なサービスへのアクセスを欠いている。社会的連帯経済は、天然資源の共同所有や持続可能な生産方式を通じて環境を保護するような開発モデルを支持する。社会的連帯経済は、経済的、社会的活動の中心部分での共同行動を通じて、参加型民主主義を再活性化していくうえでの基礎であり、社会的連帯経済が本来有している民主的な諸過程と共同の意思決定は、こうした課題に立ち向かううえで欠かすことができないものである。

●国に加えて、都市や地方自治体、そして共同行動がある
 人類が直面しているこれらの課題は、一国のみで解決できるものではない。都市、町および地域自治体の寄与もまた欠かすことができない。とくに、政府や地方自治体は住民に最も身近なものであり、活力ある民主主義を促進する助けとなり、また市に対しての権利を承認するのであるから、彼らの寄与はいっそう不可欠だといえる。
 これらの課題に直面しているがゆえに、研究者の支援を受けて、すべてのステークホルダー(利害関係者)が積極的に参加することが求められるガバナンスが必要なのである。その目指すところは、地方自治体の専門的な能力を強化し、コミュニティのニーズや切なる願いによりよく応えることである。
 さらに、こうした課題に直面したいま、情報を広め、ベスト・プラクテス(最良の実践例)を共有することによって、また資金援助を含めて相互に支援し合うことによって、国際的な連帯に深く関与することを、私たちは再度確認する。この国際連帯は、より公平な世界を求める大衆的な活動を通じて、また未来に向け実現可能な国際的なアジェンダを打ち立てることによって、おのずと明らかとなる。
 私たちは、このように、GSEFとの協力に深く関わることをあらためて断言する。その目的は、現在の諸課題に立ち向かう社会的連帯経済の貢献をさらに推し進めるためである。この課題への対応には、住民の切なる願いを反映した都市生活の質を達成できるよう奮闘している国連2030[アジェンダ]およびハビタット㈽「ニュー・アーバン・アジェンダ(新都市アジェンダ)」の実施も含まれている。

●決議
 2013ソウル宣言をさらに強めるために、私たちは以下を目指して、私たちがまちづくりのための作業に積極的に関与する。すなわち;

 1.現在の課題を克服し、刷新された参加民主主義を推し進めるうえでの社会的連帯経済の核心的な役割を認めること
 2.参加型ガバナンスの場所(空間)を拡大すること
 3.いかなる年齢、いかなる生まれであろうが、すべての男女を包摂する運動を築きあげること
 4.公共機関—私的領域—コミュニティ間にパートナーシップを築き、コミュニティのニーズと切なる願いを満たすこと
 5.GSEFの戦略的パートナーであるCITIES(社会的連帯経済に関する経験共有のための国際センター)を通じたものを含め、私たちのビジョン(将来展望)や経験、成果を共有し、社会変革を推し進めること
 6.若者たちを社会的連帯経済運動の未来の重要な担い手として認識し、支援すること
                     (訳:ソウル宣言の会)

 GESFモントリオール大会の報告は、東京では、第91回の社会的企業研究会(代表・藤井敦司立教大学教授)で、10月28日明治大学のグローバルフロントで報告された。香港で実施されたICSEA (International Conference on Social Enterprise in Asia)の報告会と合わせ、報告者は柳澤敏勝さん(明治大商学部教授)、田中滋さん(PARC事務局長)、丸山茂樹さん(ソウル宣言の会)、栗本昭さん(法政大学院教授)の、9月に開催された世界の社会的連帯経済の潮流の議論が交わされた。
 関西では、「GSEFモントリオール大会に参加して」をテーマに共生型経済推進フォーラムが10月22日に芦原橋・Aダッシュ創造館で開かれた。津田直則さん(共生型経済推進フォーラム理事長)、増田幸伸さん(近畿生コン関連協同組合理事長)、松田舞さん(アジェンダ・プロジェクト)が報告、それに私が「アジアの社会的経済」と題して韓国京畿道の協同組合協議会報告を行なった。
 この中で、津田理事長は、共生型経済推進フォーラムは、フランスのティエリー・ジャンテ招請に始まったが、彼が主催するモンブラン会議とアジアから生まれた新たな潮流GSEFはモントリオールでつながった、2016年はスペイン・ビルバオの開催が決まったと報告した。津田報告は、社会的経済は、資本主義経済とは理念・価値観を別にする「支配、排除、搾取、暴力、戦争のない平和な社会をめざし」「民主主義、参加、公正・公平、連帯・協力、私益よりも共益・公益の新たな文明の始まり」と強調、世界の潮流から孤立しつつある日本を変えていくための「社会変革の《地域・広域・全国》ネットワーク」に早急に取り組もうと呼びかけた。

 (共生型経済推進フォーラム)


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