身の回りの環境問題を考える

身の回りの環境問題を考える      力石定一

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(1) 防風林計画

 逗子市内にくらべて当地披露山に吹きつける相模灘の風の強さと頻度は格段の違いがあります。1970年の宅地造成計画の時、南側の丘の海岸部にスダジイ、タブノキ、モチノキ、マツノキの混交林からなる防風林の植栽が行われました。

 35年を経てマツノキ以外の樹木はよく育っています。 マツノキだけは70年代に全国をおそった松食い虫の襲撃をうけてほとんど全滅しました。そこだけ防風林のネットに穴があき、強風が吹き込んで防風機能ががた落ちしています。横浜国立大学の客員助教授で工学と生態学と二つの博士号をもつユニークな研究者目黒伸一氏に調査してもらいました。氏はこの穴をふさぐように防風効果の最も高いモチノキのポット苗を植樹することによって風速をかなり減退させることができると考えているようでした。 

 防風林計画について議論になるのは、これで美しい海が見えなくなるのでは、という点です。

 当地のように20m 前後の標高差がある傾斜地では海岸のモチノキが中木で5m位ですから、広範囲の地点から防風林越しに海が見えます。ですから個別地点での海の景観を妨げないよう慎重な配慮をおこたらないようにさえすればよいわけです。

 なお、松食い虫の問題について、この際考え方を整理する必要があると思います。1970年代に松食い虫が全国に広がった理由は何故でしょうか。1960年代までの低い所得水準のもとで、弱った松材は風呂場や台所や暖房のための燃料源でしたから、すぐ伐採して焼かれました。松食い虫は殺されて繁殖する機会はなかったわけです。高度成長の結果、70年代の所得水準に達すると灯油、プロパンガスなど石油燃料を用いるようになり、枯枝などを集めることに関心がなくなりました。

 赤枯れしたマツはいつまでも放置され、松食い虫はつぎつぎと宿を移して広がって行きました。薪を背負った二宮金次郎のような人間という「天敵」がいなくなったので松食い虫は大いに羽を伸ばすことになったわけです。

 松食い虫に対して農薬散布が有効だという議論も一時行われましたが、農薬は人間に副作用がありますし、虫に耐性ができてくるのでゲリラ対近代兵器の悪循環だと言うことがわかって、あきらめ気分になりました。 

 1980年代にアメリカで薪ストーブの見直しが行われました。従来の薪ストーブのエネルギー効率は10%だったのを50%に高めた技術のものが開発され1000万世帯で使用されたというニュースが報じられました。アメリカのように土地所有の制限があまり壁にならない所では新技術の薪ストーブで松食い虫は焼却されたかもしれません。日本ではそんな具合にはいかないでしょう。披露山のような場合、松食い虫に犯されたマツをもっている家庭は伝染病を保持すると見なして、環境と景観保持の規制対象として緊急措置を行うルールをつくる必要があります。植木屋が「呼んでもすぐ来ない」ようならば住宅管理組合環境部が「救急車」を出動させるようなシステムを考えるべきだらうと私は思います。

(2) 台湾リスの問題

 近年おこった問題はタブノキやスダジイの若木の樹の皮が台湾リスによって各所で食べられていることです。そう思って台湾リスが長い尻尾を振りたてて枝から枝を渡っているところを注意深く見ると皮をめくるような食害が方々に見られるではありませんか。

  植物生態学者に聞いてみると地中から吸い上げられる養分は木の皮と木質の間を通って運ばれるのであって、皮をはがされると養分の経路が破壊され、その先の枝や葉が枯れてくるといいます。リスの固く鋭い歯によって白樺のように皮が全面的にむきとられると木は枯れてしまうことになります。

 シイ、タブのような人間が伐らないかぎり何百年も今まで何ものにもおびやかされることなく喬木にまで生育してきた自然植生が、はじめて攻撃を受けることになりました。

 これらの自然植生はその深根性の直根と無数のひげ根によってしっかりと根を張り、風雨に対する強い抵抗力によって地盤の強化に役立ってきました。この大黒柱が台湾リスに犯されて枯れてくると崖崩れの原因にもなるので、社会的影響は大きいわけです。また、後述するように地下水を吸い上げて火炎にたいして水を吹いて耐える延焼防止の力をもっています。

 国によって台湾リスはアライグマ、ハクビシン等とともに有害獣類に法的に指定されています。

 台湾リスが湘南地方で何故このような有害な作用をするようになったかを見るために国立科学博物館動物科学部の遠藤秀紀研究員と帯広畜産大学の押田龍夫教授へのヒヤリングを参考にして日本リスの場合と比較してみました。台湾リスと違って胸と腹に白い線が入った日本リスは東北北海道といった日本の寒いところに住んでいて、ミズナラ、ブナのような森林地帯付近にいますが、これらの樹木の皮を食べるような害は見られません。北方の広い森林地帯の落実は豊富です。食料は十分ですから皮に口を出すことはありません。

 巣づくりも大木の洞穴のなかに藁や落ち葉を入れてつくられるわけで木の皮で作る必要もありません。

 湘南のような郊外都市人口によるペット扱いによる餌の投与といった頭数の異常繁殖要因もありません。

 以上のように日本リスは環境と調和して住みなしています。これに対して台湾リスは自然とのバランスを欠いて生息しています。生まれ故郷の亜熱帯のようにいつも落実の餌をうることができません。冬には落実が少なくなりますから木の皮を食べるということになるし、ペット用餌を求めて人家の周辺をさまようことになります。それによる頭数の増殖も木の皮の食害を生みます。郷里と違った冬の寒さをしのぐために木の皮を用いた巣づくりも盛んに行います。

 台湾リスは法律的に有害獣として捕獲し除去することに決められています。方法としてはネズミ捕りの金網で捕捉し、水桶に沈めて窒息死させ、焼却炉に投入するのです。しかし何しろ外形的にかわいいので愛護運動の反対を受けるため、法の実行面では簡単にいかないという問題があります。当面はどういう社会的害をもたらしているかという情報を市民に周知することが大切だと思います。

(3)地震対策

 平成16年から17年にかけて日本列島は地震の連発に見舞われ地域の耐震対策のスタンスをどうとるかが関心の焦点となっております。

 まず地震との関係で知っておくべき今まで白紙であったところを埋めることが必要だと思います。

 管理事務所の古い図面で調べて造成前の地山を切土して谷戸を盛土する方法がどのようになされたかです。大雑把に見ますと別表のように北側区画、南側区画に盛土部分が67区画でき、この上に木造家屋が34戸建っています。地震の場合34戸は弱い地盤の影響を強く受ける可能性があり一戸あたり2.5人が一時避難するとすれば85人を収容する必要があります。三日間位宿泊するのに必要な床面積は一人一畳として42.5坪が必要となります。トイレ、流し台、通路など人が横になれない床面積も入れた総面積ではこの約2倍が必要になります。

■表  盛土部分区画数と盛土上木造家屋数


        北側区画    南側区画     計  備考

盛土部分    34区画    33区画    67区画
うち木造家屋  21区画    13区画    34区画 34/67=50%

 小坪地区の場合一時避難所は近くの小坪小学校と指定され、最近の耐震基準を満たす工事が終わっています。しかし、同地は標高10mですので、もし地震が高い津波予報を伴う場合には利用できません。津波の高さは三陸沖が30m、今回のインドネシアも30mに達しています。関東大震災の時には小坪小学校付近は津波に巻き込まれ、校庭に漁船が押し上げられたと郷土史家が記しています。

 標高65mで切土の上にある管理事務所の耐震設計を十全にして収容を考えて置くのが妥当であろうと思います。

 なお、盛土の土砂を堰堤でおさえこんでいる建設土木工事の地震時の安定性について調査をしておく必要があります。

 これが地震で破壊されると盛土の土砂崩れと流失が起こり現在南北両側の臨海地点の標高は約35mですから、標高30mに低落する可能性があります。そうすると津波の最高水準30mの圏内に入る恐れがあります。地震に際して断水した場合に備えて、各戸毎にペットボトルの飲料水を多めに貯蔵しておくこと、停電に対して大きめの懐中電灯を装備しておくことが必要です。ソーラーパネルを屋根に張り蓄電池つきのものにして雨天や夜間も利用できるようにすることを管理事務所が実施し、組合員の家でも可能な家は実施して照明と情報が自家発電装置によって維持されているところはどこかを周知してもらうことが必要です。

 地震のときに心配なのは火災を伴うことが多いことですが、当地の場合、区画の大きいところがかなりあり建ぺい率が20~40%と低く押さえられており、住宅の密集地帯が少なく各家庭にシイ、タブ、ヤマモモ、モチノキのような自然植生、深根性で地下水を吸い上げて火炎に抵抗する延焼防止機能をもった植栽をしている家庭が多いので、火災の心配は少ないと思います。北側C地区に以上のような意識的な努力を追加されると一層安心でしょう。

 大地震の場合、大火災を伴う恐れのあるのは逗子市の旧市街地の場合でしょう。逗子市民がそこに逃げ込んで焼死を避けることができる箇所は二つあります。一つは神武寺とその付近を含む約32haのスダジイを主木とする森です。もう一つは披露山とその付近を含むタブノキを主木とする約10haの森です。この二つだけで桜山や池子の山はいずれも二次林でコナラのような落葉樹が多く薪の山であって延焼防止林の機能をもちません。それにマツやカイズカイブキのような針葉樹を生垣にしている家が多く、これらは油脂を含んでいますので燃えやすく延焼拡大機能をもっています。(マサキ、トベラ、シヤリンバイ、モッコク等のような低木の自然植生を用いれば延焼防止機能を果します。

旧市街地の避難民がたくさん披露山の山に押し寄せてきて満員になるでしょう。これを予想して今から計画しておくべきことがあります。池子の163haのコナラ林(落葉樹で農家の薪炭林であった)の潜在自然植生はスダジイ林です。今でも10%位スダジイの木が混ざっています。この林の間にスダジイのポット苗を宮脇昭方式で植えて常落混交林にかえるのです。常緑樹の防風林になれば南側80haの米軍家族住宅地は冬の寒い北風に吹かれなくてすむようになります。真夏は常緑樹の中で冷やされた空気を背後に持つことで快適になります。

 米軍と市当局が話し合ってこの常緑化計画を実施し大地震と大火災の時には避難民を収容するようにゲートを開ける協定を結ぶことです。

 こうしておけば披露山に殺到する人口は大幅に減少することになります。逗子市民の一員として披露山知識人は逗子の都市計画にこのように発言していかなければなりません。

  注1) 富野市長はかって池子問題のとき、この池子のコナラ林を「常緑広葉樹林である」と言ってこれを「まもれ」という宣伝をしていましたがこれは事実に反するものでした。注2) 明治神宮のスジダイの森72haと浜離宮のタブの森24haは戦時中の焼夷弾攻撃による周囲の焼け野原の中で悠然と焼けないで残り延焼防止林の威力を示しました。

 

■ 逗子市長への要請書           平成17年5月30日

 昨年秋、披露山公園北側の古東海道上の壁面が、「台風による倒木」によって崩落しました。市当局は土砂が前面道路に流出するのを防止するため木柵を設置し上部からの土砂の引き続く崩落を押さえるために、100平米の青色の養生シートを張り付け、周辺から雑草が伸びてきて土砂が安定し、かなりの時間を経てシートを除去できるのを待つというシナリオであると、緑政課では言っております。

 しかしこの場所は披露山公園入り口から右に小沢谷の開かれた眺望、披露山庭園住宅の日本庭園と玄関口、左に披露山公園の鬱蒼とした自然林を見ながら大崎公園に向かう最も優雅な景観を形成しているメインストリートです。そこにいつまでもブルーシートが垂れ下がっているため、道行く数多くのハイカー市民を落胆させています。披露山庭園住宅の住民達も何とかして欲しいと強く要望しています。

 私達は宮脇昭名誉教授が理事長をしている財団法人「国際生態学センター」に依頼して生態学の先端的技法を用いてブルーシートを取り除く方法を研究して貰いました。

 それによりますと、崖面の上部と下部に丸太で土留めを行ってスダジイ、タブノキ、モチノキのポット苗を中心にトベラ、マサキ、ヤブツバキ、シロダモ、ミズキのような低木の自然植生のポット苗を周囲に植え付けて、更にケヤキ、オオシマザクラのような落葉樹を混ぜて景観的多様性をもたせたポット苗を1平米4本の密植(総本数480本)を行うというものです。

 梅雨までに作業を終了し活着すれば崖面の岩盤は植栽に覆われて見えなくなり、年を経て周辺と同じような自然林に戻ります。

 市の緑政課、企画部にも説明にあがり、この案について詳しく説明し、理解を得ているのですが、台風被害の後の財政非常事態の折から当面は難しいとのことでした。

 しかしながら市長におかれては以上述べましたこの地点のもつ逗子市民の心に占める象徴的重みを考慮され、より高い見地から特別の配慮を下されることをお願いする次第です。

 この要請書を受けて、市長は即日、環境部緑政課に「ブルーシートを除去する措置をとるよう」指示をいたしました。当局がどうするか現在注目されています。

※補説

 この植栽計画では上部にスダジイのポット苗70本、モチノキ56本、タブノキ14本を植え、下部にモチノキ20本、タブノキ40本を植えることになっています。これらはいずれも深根性で将来直根が地下5mに達し、たくさんのひげ根が岩盤をしっかりと掴み地上の喬木を支えることになるものです。この根の構造が暴風に対する抵抗力を示すと同時に斜面を崩落から守る支柱の役割を果たすのです。

 古老たちは急斜面の崩落を防ぐ大黒柱として、シイ、タブ、カシ、モチノキを大切にしてきました。これに対してスギ、ヒノキなどの針葉樹は用材をとるものとしては重要ですが、その根は浅根性で土を捕まえる力が弱く、暴風に襲われると倒木のリスクがあることを覚悟しなければならないということを知っていました。そこで、急斜面の危ないところまでこれを植えるようなことは避けたものです。

 クヌギ、コナラのような広葉樹の二次林は浅根性ではありますが、横につっかい棒のように張り出す根をしているので、針葉樹よりは倒木し難いのです。しかし、激しい暴風に直撃されますと、シイ、タブの自然植生のようにビクともしないという訳にはいかないのです。枝が折れたり、根ごと倒木することもあります。これが地下の岩盤にしがみついている深根性のタブやシイとの違いです。披露山公園の崖の崩落は丘の上の二次林(カラスザンショウ)の倒木によって起こりました。再生計画ではこの点をしっかり押さえて、上述しましたように自然植生の主木を選択しています。

 ケヤキ、オオシマザクラのような落葉性の二次林のポット苗は景観性を考えて入れてはいますが、いずれも丘の上部ではなく、下層部に入れています。計画ではトベラ、マサキ、ヤブツバキ、シロダモのような低木のポット苗を196本密植しています。これは主木のマント群落、ソデ群落の役割を果たさせるものであります。主木のポット苗が成長過程で、直接激風にさらされることがないように守るのです。これをしないで風が強いからと主木に竹の支えを付けると主木の根の発育を妨げてひ弱にしてしまいます。成長過程で密植された苗で役割を終えたものは、主木の肥料となってゆく訳です。

               (筆者は法政大学名誉教授)
【参考文献】
『発想』(第一集から第四集)(季節社刊)に収録された力石論文一覧:
  ガスエネルギーの時代             (第一集)
  都市の景観と保護計画とみどり         (第一集)
  都市交通を考える               (第一集)
  地震対策を通じて考えたこと          (第二集)
  構造改革とは何か               (第二集)
   日本の周辺諸国アメリカ・ロシア・中国・朝鮮半島
      台湾への構造改革政策の提言        (第三集)
   エコロジカル・ニューデイール政策―その構想と運動の展開
                       (第三集)
  1 長良川河口堰「鉄とセメント」より「自然林植林」を
  3 吉野川流域の森林の保水力強化のためのプロジェクト
  5 長野県の「下諏訪ダム」計画への代替案
  私の総合経済戦略               (第四集)
  長良川の治水                 (第四集)