【沖縄の地鳴り】

辺野古「和解」と「本土」民衆運動 16・3・24

毛利 孝雄?


 関係各位、友人の皆さんへ
   —「沖縄の思い×沖縄への思い」 No.11 2016.03.21
 毛利 孝雄(沖縄大学地域研究所特別研究員)
 E-mail:mochan-123daaa@tbz.t-com.ne.jp

◆辺野古「和解」と「本土」民衆運動の課題

 去る3月4日、辺野古新基地建設をめぐって、大方の予想を裏切る「和解」が発表された。国が沖縄県を訴えていた「代執行訴訟」で、福岡高裁那覇支部が示した「和解案」に双方が合意し、工事は中止されている。「和解案」の要点は、次の通り。

(1)国は訴訟を取り下げ、埋め立て工事を中止する。
(2)国と県は円満解決に向けて協議を行う。
(3)国は「埋立承認取り消し」の是正を指示し、県は不服があれば国・地方係争処理委員会に審査を申し出る。
(4)係争委の結論に対し県は訴訟を提起でき、確定判決には双方が従う。

 以下、思いつく点を書きとめる。

◆緒戦での勝利的「和解」

 周知の通り、沖縄では一昨年の名護市長選以降、名護市議選・県知事選・総選挙沖縄選挙区といずれも「辺野古に基地はつくらせない」とする候補が当選し、これ以上ない明確な形で民意を示してきた。翁長知事はこの民意に立って、仲井真前知事による「埋立承認」の瑕疵について検証を行い「埋立承認取消」を行った。
 手続きの限りを尽くした沖縄県の対応に対し、国・政府は本来は国民の権利救済制度である行政不服審査法を使って、同じ政府内の国交大臣に「埋立承認取消」の執行停止を申し立てた。さらに「埋立承認取消」を撤回させるために、是正の指示など地方自治法に定められた手続きを省略して、いきなり「代執行」訴訟を起こすなど、「法治国家」が聞いてあきれるほどの対応を取ってきた。すべては、辺野古工事をストップさせないためにである。

 「代執行」裁判における福岡地裁の訴訟指揮等から判断すると、国側のこうした恣意的な対応に対して、地裁は国側敗訴を示唆したものと思われる。国・政府は、敗訴の中での6月県議選・7月参院選を避けるために「和解案」を受け入れ、その間に“オール沖縄”の分断を計ろうということだろう。埋立工事は半年から1年ストップするといわれている。

 国を工事中止と「和解」に追い込んだ力は何だったのか。昨年7月8日『沖縄タイムス』社説「辺野古座り込み1年」のなかに、次の一節がある。
 「ゲート前での座り込みや辺野古の海でのカヌー隊の体を張った行動を、島ぐるみ会議メンバーが支え、それを県と名護市が行政としてバックアップする。新基地建設に反対する市民らの運動は、これまでにない質と規模を備えた新たな民衆運動へと成長している。」
 現場を中心とする民衆運動と県知事・名護市長のぶれない姿勢が、国・政府の横暴をストップさせた意義は大きい。そのことを、まず確認したい。

◆「和解」で国・政府の姿勢が変わることは期待できない

 安倍首相は「和解」同日のコメントで「辺野古への移設が唯一の選択肢であるという国の考え方に何ら変わりはない」と述べ、石井国交大臣は「和解」からわずか3日後の3月7日に、翁長県知事の「埋立承認取消」処分への是正指示を行うなど、国側にまともに「協議を行う」意思は感じられない。
 福岡地裁の和解勧告文は、国と県の協議のあり方について「本来あるべき姿としては、沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して、米国に協力を求めるべきである」との指摘まで行っているのであり、この趣旨に従えば、そもそも「辺野古が唯一の選択肢」ということ自体がありえないことといわねばならない。

 「和解」のなかでおそらく多くの人が警戒している点は、「確定判決には双方が従う」とした前記(4)だろう。
 この点について、翁長知事は県議会での緊急質問に答えて「裁判所の判決には行政として従うと話したが、承認取り消しに伴う2件の訴訟の和解だ。今後、設計変更などいろいろあるが、法令に従い適正に判断する。今日までの(新基地建設反対の)姿勢を持ちつつ対処していきたい」と述べ、国の是正指示に関する訴訟で県が敗訴した場合でも、知事権限を行使して基地建設を阻止する考えを示している。
 また、この点については金高望弁護士の明快なコメントが、北上田毅さん(沖縄平和市民連絡会)のブログに掲載されているので、引用しておきたい。

 「『是正の指示』の取消訴訟で県が敗訴した場合も、仲井真前知事の埋立承認が復活するだけ。新たな問題が生じた場合は(知事は埋立)承認の撤回ができる。そうでないと、国は埋立の過程でどんな違法を犯しても取り締まれないということになる。また、将来の設計変更の承認申請に対し、環境への影響等を審査して判断するのは当然である。一方、この『是正の指示』の取消訴訟で国が敗訴した場合は、仲井真前知事の埋立承認は完全に効力を喪失する。国はこれ以上とる手立てはなく、新基地建設は頓挫する。」

 いずれにしても、国が県との和解協議に応じた意図は、これまでの工事を一時中断しての協議がそうだったように、その期間を利用していかに“オール沖縄”を分断し、辺野古推進の条件をつくり出すかに尽きるだろう。そうさせないためにも、ここではふれないが宜野湾市長選敗北のていねいな検証と総括が、“オール沖縄”側には問われているように思う。

◆辺野古新基地をめぐる「現場」は全国に広がっている

 辺野古現地での阻止行動の中心を担っている「ヘリ基地反対協」は、(1)機動隊、海保、民間警備会社の撤退、(2)ゲート前の警備車両と波形鉄板の撤去、(3)大浦湾の臨時制限区域の撤廃、(4)フロート、オイルフェンス、コンクリートブロック撤去、作業船の撤退、(5)陸上のすべての関連工事の中止—の5点をあげ、「それなくして和解も円満解決もあり得ない」との声明を発表し、現場からの具体的課題を提起している。
 また、「沖縄・生物多様性市民ネットワーク」は声明にあたって、あえて次の点を強調している。「大切なことは、(1)和解の『協議』に透明性を持たせること、(2)『協議』に県民や市民が何らかの形で関与できる仕組みを設置すること、(3)『協議』において科学的見地から環境の議論をきちんと行うこと。…これが辺野古新基地建設を20年近く止めてきた『公式』だと思います。」

 辺野古現地での大衆的抗議と監視の行動は、「和解協議」のなかでこそいっそう重要さを増しているというべきだろう。あらためて全国からの辺野古現地派遣を呼びかけたい。

 同時に、辺野古新基地建設の現場は全国に広がっている。辺野古埋立土砂採取地は、九州の奄美群島、佐多岬、天草、御所浦島、五島・椛島、門司、瀬戸内海の小豆島、防府、黒髪島と西日本各地に広がっている。埋立用ケーソンの建造は、三重県津市にあるJFEエンジニアリングのドックで行われている。辺野古受注企業の大半は、大成建設など「本土」大手ゼネコンである。
 西日本の埋立採取地には、おびただしい環境破壊がすでに広がっている。また、佐多岬・五島・奄美の土砂採取地には、核廃棄物最終処分場計画がつきまとっている。掘ったところを核廃棄物で埋め返すというわけだ。辺野古新基地は、原発をめぐる「闇」の部分とも深く結んでいるのかもしれない。
 「和解」による辺野古工事中止を受け、これら「本土」の現場においても、少なくとも関連する工事や作業を中止させることは、「本土」側住民運動が果たすべき課題だ。

◆「集団的自衛権」の核心的現場としての辺野古

 最後に、新崎盛暉さんの近著『日本にとって沖縄とは何か』(岩波新書)から一節を引用して結びとしたい。
 「安保法制(戦争法案)反対の運動は、60年安保闘争、70年安保闘争を越えられるだろうか。それは、次期国政選挙に至る過程での辺野古新基地建設阻止闘争の広がりにかかっているように思われる。辺野古新基地が建設された場合、そして阻止された場合の2つをイメージしてみれば明らかなように、辺野古新基地建設が阻止できるか否かは、沖縄のみならず、日本の、そして世界の、少なくとも東アジアの将来を左右する。」  (2016.3.21記)


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