【コラム】
あなたの近くの外国人(裏話)(20)

選挙2018 政権交代に沸く在日パキスタン人たち

坪野 和子


 7月25日、パキスタンで総選挙が行われました。 結果、この原稿を皆様がご高覧になるころには政権交代して、イムラ―ン・カーン首相、パキスタン正義運動と合流した10名ほどの議員との連合与党が誕生していることになります。パキスタン初の非政治家一族もしくは非地主出身の首相、そしてセレブ首相が政権を担当することになりました。
 これまでの腐敗政治によって本来政府がやるべき仕事は慈善団体や篤志家によって行われていたといっていいでしょう。インターネット上の現地の友達も移民して他国で暮らす友達も海外出稼ぎ中の友達も、ごく数人の他の党支持者以外はほとんど喜んでいます。もちろん在日パキスタン人たちも。

◆ 1.総選挙のおかげで赤点を免れたパキスタン生徒くん

 前任校はパキスタン人5人が学習対象生徒でしたが、現任校はひとり。シャイの度を超えて素行が粗いのと覚えてきた日本語が粗いので悪い子に絡まれやすいのですが、気持ちが通じるいい子です。世界史の期末試験で絶対取ってはいけない点数がついてしまいました。教科担任の恩情で「あなたの国の選挙について」という追加課題レポートを課していただきました。「やったね!! 今度の総選挙のことを書けばいい!!」「そうか、先生、先生、手伝って」「もちろん」タイトル「7月25日はパキスタン総選挙」。

 まずは、パキスタンの選挙制度について書かせました。18歳から投票可能、上院・下院選挙がある。女性と男性と投票所が別で開票は男性は男性、女性は女性で開票する。字が読めない人のために投票用紙は政党のマークの絵に拇印を押す。

 次に主な政党について書かせました。昨年汚職で罷免されたシャーリーフ元首相率いる与党パキスタン・ムスリム連盟、暗殺されたブット首相の息子率いるパキスタン人民党、イムラ―ン・カーン率いるパキスタン正義運動で他にもたくさん政党があある。

 そして、生徒くんは、イムラ―ン・カーン率いるパキスタン正義運動を支持しているのでそれについて書かせました。

【ビフォー】
 普段から私と話していることなのですが私の ipad のインスタグラムを勝手に開いて、イムラ―ン・カーンをみつけて…。
 「おお、かっこいい、こいつクリケットのスターだったんだよな」
 「おお、こいつすけえ!! 絶対泥棒たち(一族政党)に勝てるよな」
 「おお、これがこいつが建てたガン病院だよな」
 「すっげ!! こんなに演説で人が来るんだぜ」
 「先生、こいつ大統領になれるよな」

【アフター】
 …これらを作文用に変えてあげました。正確には覚えていませんが、以下のような内容になりました。

 「イムラ―ン・カーンは、かつてクリケットのスター選手でした。パキスタンのヒーローです。パキスタンではじめてのタレント政治家、タレント議員です。イムラ―ン・カーンはそれまでの汚職や特権乱用に対して浄化すると訴えています。今の政府は国民のために仕事をしていません。イムラ―ン・カーンは自分のクリケットで稼いだお金で病院や大学を建てたりインフラ設備を作り整備をしました。イムラ―ン・カーンの演説は常に多くの人々が集まり、熱狂的な支持を得ています。イムラ―ン・カーンは2014年、シャーリーフ元首相の不正に抗議するためにパキスタンではじめての座り込みデモをしました。私もイムラ―ン・カーンを支持しています。パキスタンにいたら、絶対パキスタン正義運動に投票します。私は今回パキスタン正義運動が政権を取ってイムラ―ン・カーン首相になり、いずれは大統領になると強く信じています。私のフェイスブックのパキスタン人の友達たちもイムラ―ン・カーンが大統領になるだろうと言っています」

 ここで字数がまだ少し足りないので、パキスタンの議会制について wiki を見て補足し、規定の文字数に達したので即提出に行かせました。1学期の成績なんとかなったから2学期頑張ってね。ですが、これだけチャランポランな男の子でも政治に関心を持ち、支持政党があるということは飼いならされて政治にネガティブな日本の若者よりいいのではないかと思いました。

◆ 2.在日パキスタン人の喜びの声

 パキスタンと日本の時差は4時間です。投票締め切りが日本時間の22時でした。在日パキスタン人のみなさんは徹夜でインターネットの開票速報を観ていたそうです。開票当初は与党とパキスタン正義運動が互角だったから余計に目が離せなかったようです。途中で寝てしまった家族もいて…しかし途中からパキスタン正義運動が徐々に差をつけて票を伸ばしていったものですから、家族に叩き起こされ、眠い目をこすってインターネットテレビを見たら、91議席、50議席となっていて驚きのほうが強かったという人がいました。

 パキスタン正義運動勝利の結果が出たら、日本語がわかる人は日本語の新聞を買いに行ったり、NHKのニュースを録画したりしたそうです。イムラ―ン・カーンの勝利宣言の演説もまた日本時間では夜中でしたが、わくわくして寝られなかった。その演説はアジェンダひとつひとつ響いたし、最も心に響いたのは「現在の首相官邸には貧しい人たちのことを思うと恥ずかしくて住めない。現在の首相官邸は図書館などの公共施設に改装し、もっと質素なところに住みたい」とのことでした。女子のパキスタン人教え子もそのことでおじい様と手を取り合って喜んだそうです。

 私「恥ずかしくて住めないほど首相官邸の内部ってどんなんだろうね」
 教え子「私も見てみたいです」
 私「きっとベルサイユ宮殿だわね。マリーアントワブットが住んでいたものね」
 ブット元首相は暗殺される前、クローゼットの中はマリーアントワネットであると言われていましたから。

 (高校時間講師)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧