都市という大量破壊兵器―将来世界の75大都市

海外論潮短評(63)                  初岡 昌一郎

都市という大量破壊兵器 ― 将来世界の75大都市


アメリカの国際問題専門誌『フォーリン・ポリシー』20129/10月号が都市問題を特集し、世界で最もダイナミックな75都市のランキング紹介している。ちなみにトップは上海、2位が北京、3位が天津と中国が上位を独占している。他にも広州(5位)、深セン(6位)、重慶(9位)の計6都市がトップテンにはいっている。

同誌よる「ダイナミックな都市」上位に挙げられている他の都市は、ブラジルのサンパウロ(4位)、ニューヨーク(7位)、モスクワ(9位)である。日本は東京が10位に入っているのみで、その他の都市はランキング内にに挙げられていない。

75都市のうち、中国は実に29を占めている。アメリカが13でこれに続き、ヨーロッパは3都市にすぎない。アジアでは、シンガポール(19位)、バンコック(31位)、ソウル(37位)、デリー(39位)、ジャカルタ(43位)、台北(50位)、ボンベイ(53位)、バンガロール(75位)が入っている。ヨーロッパは、ロンドン(21位)、パリ(26位)、ライン・ルール(51位)である。

2025年までの予測でGDPが最も増えるのが、西安(523%)を筆頭に、厦門(491%)、重慶(418%)、武漢(404%)と中国の諸都市が上位ほとんどを独占している。

◆世界の大都市住民の大多数は中国語を話す


以上のような都市膨張の趨勢について、このデータを作成したマッキンゼー・グローバル研究所所長リチャード・ドッブスが以下のようなコメントをしている。
ヨーロッパとアメリカの成長が乏しいので、前代未聞の規模とスピードで発展している東と南に経済的バランスがシフトしている。その発展は都市化を通じて生まれている。目撃している大規模な世界的経済変貌は、新興経済諸国における都市人口の増大、所得増加、生産の大規模なシフト、購買力拡大を通じて生じている。今日、600都市がグローバルGDPの約60%を生み出している。それだけでなく、今後の15年間に世界の都市化の重点がさらに南に、そしてもっと決定的に東に移動する。

20世紀はアメリカが先導したように、21世紀の都市革命は中国が先導して
いる。欧米という太陽は沈みかけており、中国に続いているのは中東からラテン
アメリカに至る新興国で、前世紀には小都市だった街が巨大都市化している。
それらの都市が世界経済の今後の主エンジンである。

特に、中国の都市化のペースは産業革命時のイギリスのペースよりも10倍も
速い。中国の巨大都市のGDPは、2010年現在すでに78%に上っている。
中国の都市人口は今日の5億7000万人から、2025年には9億2500万
人に達する。

都市の発展予測には本質的な困難が伴う。都市の運命は、全体の経済トレン
ド、地元の経済努力の成否、指導者の資質など多くの要因に左右される。不動産
バブルがはじけ、中国の成長率が鈍化しても不思議ではない。緩急の差は生じて
も発展のパターンは変わらないだろう。想定外の災害がなければ、世界的な都市
の将来は主として中国によって左右されるだろう。

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◆中国がアメリカと同じ誤りを犯す危険

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 『フォーリン・ポリシー』都市特集を総括しているのが「ウェポン・オブ・マ
ス・アーバン・デストラクション」(大量破壊兵器という言葉を都市問題に重ね
たもの)という論文である。筆者のピーター・カルソープは国際的な都市設計の
専門家で、「新都市構想会議」というシンクタンクの創設者。『気候変動時代の
都市構想』という近著がある。以下は、彼による総括論文の要旨である。

過去5年間に中国は2万マイルの高速道路を建設した。これは予定より13年
も早く、アメリカが州際高速道路網を作った当時よりも4倍も速いペースである。
すでに、中国はアメリカを追い越して世界最大の自動車市場となっており、車を
走らせるためだけにでも、50億平方メートルを2025年までに舗装しなけれ
ばならない。

中国人の車好きは尋常ではない。2012年4月の北京モーターショウには約
100万人が参加した。しかし、アメリカが超大国になる過程で犯したと同じ誤
りを中国が繰り返す危険がある。すなわち、不安定な外部世界からの石油供給に
対する依存、不健康な生活パターンを維持するコスト増、都市内部の空洞化がそ
れである。

中国が今日行う選択は、都市の長期的持続可能性と燃料の効率性にとってだけ
ではなく、地球環境全体に巨大な影響を与える。不幸にして、中国が現在行って
いることは、人間ではなく自動車を都市生活の中心として考える、時代遅れの西
欧流都市計画思想に基づいている。そのツケは、肥満の蔓延、生活の質の低下、
大気汚染と交通渋滞として回ってくる。中国人は富裕になる前に、肥満と不幸に
なりかねない。

1050年代と60年代のアメリカの都市のように、高速道路、環状道路、駐
車場の建設によって、自動車走行の爆発的増加に中国も対応している。しかし、
他のファクター以上にアメリカの都市を空洞化させたのは、第2次世界大戦以後
の自動車の増加と全国的高速道路網の拡大であった。これにより、都市の専門職
層は近隣の快適な郊外に逃避し、貧困と機能マヒのゲットーを都心に残した。有
名なアメリカの都市学者が述べているように、「テレビや麻薬ではなく、自動車
こそがアメリカ社会のチーフ・デストロイヤーであった」。

比較的最近になって、都心部の犯罪率か少し低下し、また郊外も混雑してきた
ので、アメリカ人が都心に戻り始めた。これには大量輸送型都市交通、歩ける環
境の創出、居住区街路での小売店舗再生が寄与している。ヤッピーにとっての
「街」は、クールなバー、自転車専用レーン、しゃれた料理店の素晴らしき新世
界を意味するが、中国の都市化は、灰色な曇り空、無機質なアパート群の続く街
路、混雑する交通となっている。

人口密度が高いことから見て、中国における都市化の前途はアメリカyよりも厳
しい。すでに北京の交通事情は急ピッチの道路建設にも拘わらず、渋滞が激し
い。あたかも、肥満の進行にベルトを緩めることで対処しているようだ。北京、
広州、上海などでは、殺到する自動車登録申請をくじ引きで受け付けているとい
う。今年9月には北京郊外の高速道路で60マイル(約90キロ)の渋滞が11
日間続いた。人口稠密な都市で自動車を念頭に設計されているところはないの
で、身動きが取れなくなるのは当然だ。

中国の都市膨張は環境を悪化させ、徒歩、自転車、公共交通を退化させてい
る。北京における自動車利用は1986年以後に6倍となったが、自転車利用通
勤は当時の60%から2010年にはわずか17%に低落した。この影響は、混
雑、大気汚染、グリーンハウス・ガスの激増となって現れている。北京は世界で
最も大気が汚染された都市の一つとなっている。

上海市当局によれば、1992年から2004年の間に自動車関連の死亡事故
は99%も増加した。国営メディアは、中国で毎日平均300名が交通事故死し
ていると報じた。これは世界最高の死亡率であり、交通事故は45歳以下の死亡
の主原因である。これらのトレンドの根幹となる原因は劣悪な都市計画である。

多くの中国人高官は自動車時代を超える社会が必要なことを認識している。そ
して、彼らは人類史上前代未聞の環境的大惨事を回避するに必要な資源と手段を
有している。世界に登場してきた超大国が、その最優先課題として、公共交通、
徒歩と自転車による通勤難緩和を行わねばならないことは奇妙に思われるかもし
れない。しかし、それなしには、中国のパワフルな経済発展が次第に失速するだ
ろう。