雨水で途上国を支える「ドクター・スカイウォーター」

≪連載≫風と人のカルテ(4)

雨水で途上国を支える「ドクター・スカイウォーター」

色平 哲郎

日経メディカル 2014年4月28日
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201404/536131.html

 水は生命の源。
 上下水道のインフラが整った日本で暮らしていると、お水のありがたみを忘れがちだが、大規模災害が起これば嫌というほど思い知らされる。

 2002年、国連は「子ども特別総会」に先立ち、「2000年に世界で生まれた子どもが100人だったら」と仮定。「19人はきれいな水が飲めません。40人は体を洗う水やトイレに不自由し、ゴミや、病気を運ぶ虫などに苦しめられています」と発表した。

 実際にアジアの発展途上国では、貧困層や健康弱者がきれいな水を飲めず、自然由来のヒ素汚染、海水由来の塩害などでダメージを受け続けている。例えばバングラデシュのヒ素中毒患者は5万5000人に達するといわれる。

 水道システムへの巨額の公共投資が難しい途上国で、いかにしてきれいな水を確保するか。
 この難題に挑み、見事な成果を出している人物がいる。天水研究所代表の村瀬誠さんだ。
 村瀬さんが実践しているのは、汚れを取り去った「雨水」を貯めて飲用に使うという実にシンプルな方法。あまみず、うすい、つまりスカイウォーターを収穫する(ハーべスティング)というコンセプトだ。

 「ドクター・スカイウォーター」とも呼ばれる村瀬さんは、バングラデシュから地元の左官さんをタイの職業訓練学校に派遣し、タイ東北部の伝統的な大きな水がめ(650リットル)の製造法を習得させ、庶民の手が届く価格で販売するソーシャル・ビジネス活動を展開している。
 バングラデシュでは、この水がめを「AMAMIZU」と呼んでいるという。

 AMAMIZU(1000リットル)の仕組みは天水研究所のウェブサイトでも紹介されているが、極めてシンプルなものだ。
 トタン屋根やコンクリート屋根に降った雨水を、樋を通してタンクに貯め、底から25センチの高さの蛇口から取水する。その際、雨の降り始めの大気の汚れや屋根に積もった汚れが洗い出される最初の数ミリ分を排除し、ゴミなどもろ過する。
 これで雨季のみならず、乾季であっても十分な量のきれいな飲み水が確保できるという。

 また、ベンガル湾に面した沿岸地域の公的病院向けには、JICA(独立行政法人国際協力機構)と共同で50トン規模のコンクリートブロック雨水タンクを設置、提供し、喜ばれている。
 この公的病院では、これまで病院内の池の水をポンプで汲み上げて使っていた。乾季には河川水を利用していたのだが、病原微生物による汚染の危険性が高かった。医療機関にとって、きれいな水の確保は診療活動の大きな下支えになることだろう。

 バングラデシュは急速に経済が発展している。
 しかし、1990年から2010年までの20年間で、安全な水にアクセスできない人の割合は全人口の20%台で横ばいだ。
 先進国の水道システムを導入し、運用するためには膨大なコストがかかり、現実的ではない。

 その点、雨水は誰にでも平等に降り注ぐ。
 モンスーンアジアの途上国ばかりでなく、災害の多い日本でも、雨水利用はもっと見直されてもいいのではないだろうか。

 (筆者は長野県・佐久総合病院・医師)


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