【コラム】酔生夢死

雪どけは早いほうがいい

岡田 充


 48年ぶりの寒波で都心が雪に包まれた1月末、成田空港で中国人乗客が中国国歌を合唱して騒ぐトラブルが起きた。上海行の格安航空機が現地の天候悪化で欠航し、怒った男性乗客が職員に暴行し逮捕されると、175人の乗客の一部が国歌で抗議したのだ。

 騒ぎに対し中国の国営メディアは「大騒ぎすれば解決が得られると思い込むのは不適切」と、中国人乗客をたしなめるコメントを出した。その内容は「これは乗客と航空会社間の一般的な紛争。国歌を歌い解決しようというのは、民族感情の対立を煽りトラブルを激化させる」というもの。真っ当な見方だと思う。

 しかし、もし領土問題でナショナリズムが燃え盛ったころに起きた騒ぎなら、中国メディアは無視しただろう。国営メディアが同胞を批判する報道をすれば、中国世論から「弱腰」を叩かれる。それが一変したのは、日中関係に好転する兆しがでているからである。

 ある世論調査によると、中国人の対日印象の「良くない」は前年から10ポイント減って66.8%となり、5年ぶりに6割台にまで改善した。「良い」印象も10ポイント増え31.5%と、やはり5年ぶりに3割台に回復したという。一方、日中関係を「悪い」とみる日本人は前年の71.9%から44.9%に大幅に下がった。

 対日印象の好転は、日本を訪れる中国人が急増し「等身大の日本」に触れる機会が増えたことが一因だろう。昨年日本を訪問した外国人2,869万人のトップは中国の735万人。日中関係が極度に悪化した13年には131万人だったからその6倍近く。外国人旅行者の消費総額も、4兆4161億円と初めて4兆円を超えた。

 関係好転の背景が、人々の交流という「民間主導」だとすれば健全なことだ。中国包囲網を築くのに熱心だった安倍政権も昨年来、中国が進める新シルクロード経済圏構想「一帯一路」に協力する姿勢に政策転換した。首脳間の相互訪問も年内に実現しそうだ。

 成田空港騒ぎの後、河野太郎外相が訪中した。李克強首相は休みの土曜日にもかかわらず、執務室のある中南海に招き会見した。厚遇に気を良くしたのか河野氏は、北京で「自撮り」した中国外務省の女性報道官とのツーショットをツイートした。整った顔立ちながら、こわもてで知られる女性である。

 河野氏のキャラもあるが、ツーショット公開も関係改善の反映だろう。これに民進党議員がツイッターで「河野大臣は馬鹿ではないのか。格下の人物とニヤケ顔でツーショットを撮るのは中国への『朝貢』だ」と皮肉った。何が「朝貢」なのかいまいち理解できないけど、「格下」というタテ型秩序から切るのは、どんなもんだろう。

 河野氏は「写真撮る時に相手の『格』を考えて撮っている人もいるんだ。疲れそう」と切り返した。関係改善を良く思わない議員もいるのだろうが、ツイッター論争の軍配は河野氏に挙げたい。雪どけは早いほうがいい。いいことが多いのだから。

 (共同通信客員論説委員)

画像の説明
 河野外相のツイッターから

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