非正規労働が問うていること

■ 非正規労働が問うていること           鴨 桃代

     ― 現状の問題と課題 ―
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  私は1988年に千葉で「なのはなユニオン」を結成した。なのはなユニオンは正
社員、パート、派遣など雇用形態に関らず誰でもが、職場で起きたトラブルを改
善・解決するために一人でも入れる労働組合である。活動の柱は相談活動で、相
談を受け、問題の改善・解決を図るために会社と交渉をし続けてきた。その21年
間のなかで、私は、生きること、働くことに対する誇りは雇用形態に関係ない、
非正規だからと身分差別を温存している社会、非正規だからと一人前の労働者と
して扱わない企業にこそ、非正規労働の問題があると実感している。

 2002年11月3日に全国コミュニティ・ユニオン連合会(略「全国ユニオン」)
を10団体2オブ加盟(組合員3300人)で結成した。急増する非正規労働者の均等
待遇問題、有期契約問題、派遣労働問題等々を社会的問題として発信し、非正規
労働者の権利を確立することは急務であると考え、「ニュー連合方針」を打ち出
し、均等待遇の立法化や「社会的労働運動」を方針としてかかげた連合に2003年
6月に加盟をした。
そして、非正規労働の"今"を可視化し、社会的問題として発信し、雇用形態に
関らず全ての労働者が人としての誇りをもって生き働くことができる働き方の実
現を求め、活動を続けている。
 


■均等待遇を求める パート労働者


  日本の非正規労働者、1890万人で一番多いのはパート・885万5000人である。
パートは"男は仕事・女は家庭"という役割分業が強く残っている日本で、女性労
働の典型として世帯主(多くは男性)がいて成り立つ働き方ということで家計補
助・補助労働に位置付けられてきた。現在は"年功序列型賃金・定年まで"といわ
れた男性の働き方は崩壊しつつあり、シングルマザーや非正規カップルが急増し
、寄りかかって生きることから自立して生きることに変わってきている。ゆえに
賃金は「生計維持費」として不可欠なものになっている。

 しかし、人件費コストをかけたくないという企業のニーズによって低賃金は今
も当たり前とされ、パートで働く人の93.3%は年収200万円に届かない。パートが
いなければ仕事がまわらない、正社員が一人もいなく管理者もパートという職場
が増えている。にも関らず、パート賃金は最低賃金(東京766円/時給)を下回
らなければ問題ではないとされ、正社員と同じ仕事をしているのに、賃金は1/2、
ボーナス・退職金はあってもほんのわずか、働けば働くほど拡大する格差に、
パートの不満はつのっている。

 私は、相談のなかで「ボーナス日は1年間で一番行きたくない日。朝からボー
ナス日はウキウキ感があり、そんな中にいるとパートだから賃金は安くて当たり
前、ボーナスはなくてもしかたがないとあきらめている気持ちが、同じ仕事をし
ているのにと押さえられなくなる。ボーナス日だからと飲み会に誘われても、そ
の会費がもらったボーナスより高く、情けない」と公立保育所で働くパートが言
ったことが忘れられない。
 
これまで、ILO175号条約批准キャンペーン運動に取り組み50万署名と自治体決
議を上げ、ILOに派遣団を送るなど取組んできた。しかし、多くのパートは有期
契約ゆえに、モノを言ったら「生意気」「うるさい人」と思われ次の契約を更新
してもらえないかもしれない、契約時に不利益変更をされたら、という神経衰弱
状態にさらされて職場で声をあげることを封じられてきた。

 2008年4月1日、●「差別禁止」が不充分ではあるが条文化、●説明義務が使
用者に課せられた、●説明を求めた労働者に不利益扱いは禁止などとした「改正
パート法」が施行された。その日、全国ユニオン傘下のKDDIエボルバユニオンは
、改正パート法を活かし均等待遇を実現したいと東京労働局・雇用均等室に「改
正パート法に基づく指導・助言等に関する申告」を行った。5年間で均等待遇を
実現し、パートとして希望をもって働き続けたいと春闘要求をかかげ、会社と交
渉を重ねた。

 KDDI国際電話センターで働くパート労働者の仕事は、英語を共通語として韓国
語、中国語、スペイン語、ポルトガル語などで世界の230以上の国と地域を結ぶ
国際電話オペレーターで、年中無休・24時間体制で週5日・週28.5時間労働。一
人前の国際オペレーターになるには最低2年間かかると言われているのに3ヶ月
の細切れ契約で、新人の時給と指導するベテランオペレーターの時給は一律で13
50円、1日7800~8100円、1ヶ月約16万円。ボーナスはなく年間約194万円。

ここから交通費、厚生年金、社会保険、税金が引かれるので、手取りは150万
~160万円。2006年11月、会社は2004年146億円、05年190億円、06年288億円と
右肩上がりに業績を上げているのに、●深夜手当2000円を400円に、●早朝手
当、土・日出勤手当などを半額に、●契約期間1年を3ヶ月にする。●交通費
の全面廃止など、更なる労働条件の不利益変更を通告してきた。

 彼女たちは、「会社には人を育てる、長く勤めてほしいという姿勢はないが、
このまま泣き寝入りで不満を抱えたまま辞めたくない」とユニオンを結成。その
たたかいに対して、会社は2010年3月に国際電話オペレーター通話を廃止と告げ
た。組合員は職場がなくなることもさることながら、外国にいる日本人からのさ
まざまなSOSに応える国際電話オペレーター業務の重要性に使命感をもって働い
てきただけに、「祖国との命綱を簡単に切らせていいのか」と危機感を募らせて
いる。全国ユニオンは「通信事業の公共性」「間違った規制緩和」を問い、署名
活動を開始した。
 
私は、KDDIエボルバユニオンの仲間たちと一緒に行動し、仕事に誇りと情熱を
もって働ける職場の回復をめざし労働組合を結成、果敢に均等待遇の実現に挑戦
を開始したパート労働者の存在を実感している。


■規制緩和に翻弄され続けている 派遣労働者


 1986年派遣法は「正社員の代替をしない」ことを前提として例外的に認められ
専門業務派遣16業務(96年改正で現在26業務)に限定され施行された。施行当初
より、●派遣会社(派遣元)は中間搾取ができる、●労働者が仕事の指揮・命令
をうける派遣先には雇用責任がない、●派遣会社と派遣先企業は商取引の関係に
あるという派遣法の枠組みは、一番弱い立場にある労働者に犠牲を強いるとして
危惧された。逆に、この枠組みは派遣会社・派遣先企業にとって使い勝手がよい
として、企業のニーズに応じて派遣法は規制緩和され、99年には原則自由化され
"どこでも何でも派遣"状態を具現化させた。

99年を機に派遣労働者は90万人から07年384万人、事業所数は9678箇所から5万
箇所、売上は1兆4605億から6兆4645億円と急増していった。逆に、派遣労働者
の賃金は時給1704円(94年)が1288円と下がり続けた。現在、「派遣料金1050
円。他社より料金が高い場合はご相談ください。1円でもお客様のコストを押
さえるためのご提案をします」(フルキャスト社の広告チラシ)、法務省電話
交換業務1018円でザ・アール落札など凄まじいダンピングが始まっている。

 派遣は女性のニーズにあった働き方とされ、女性が8割を占めている。「容姿
5ランク」という個人情報が流布されたり、35歳過ぎると仕事の紹介が減るとい
うことで"35歳定年"と言われているように、企業は「若い女性」を求めている。派
遣先は仕事をする上で必要だからと事前面接の解禁を強く求めているが、年齢、
既婚、子どもの有無など、仕事と関係がないことで「人」を選びたいという意思が
見え隠れする。派遣の多くは登録型で雇用契約期間は3ヶ月以下が80%、細切れ
化し不安定雇用にさらされてきた。登録型であるがゆえに妊娠を告げた途端の契
約解除もまかりとおっている。女性の働き方と言われているのに、女性が働き続
けられない。
 
労働時間は8時間・残業有りで同じ仕事をしている派遣労働者の7割は正社員
になることを願っている。

 全国ユニオン傘下の東京ユニオンは弁護士や研究者らとともに派遣労働ネット
ワークを立ち上げ、91年から「派遣トラブルホットライン」、労働省や業界団体
(人材派遣協会)との交渉、アンケート調査などの活動を続けてきた。●大手派
遣会社の「容姿5ランク」情報流失問題では交渉・裁判でたたかい、個人情報保
護に関する労働協約を締結、●出産休暇・育児休暇の権利から排除されている実
情に対し、交渉で産休・育休取得を実現してきた。(「育児休業取得マニュアル
」パンフ・派遣ネット刊)、●派遣先の雇用申し込み義務を具現化し、派遣先に
直接雇用を実現(「派遣労働者の正社員登用マニュアル」パンフ・派遣ネット刊)
など、派遣労働者が人として働き続ける権利確立に向け、たたかい続けてきた。


■ワーキングプアの温床 日雇派遣


 07年、ワーキングプアの逆襲の狼煙が上がった。全国ユニオン傘下の派遣ユニ
オンは、ワーキングプアの温床・法律違反のデパート・究極の不安定雇用である
日雇派遣問題に取組んだ。前日に携帯電話やメールに仕事紹介があり次の日就業。
「軽作業」ということだったのに、実際は派遣法で禁止されている建設、港湾、
警備業務などの現場で重労働、危険と隣り合わせで働かされ、怪我をしても法
違反がばれるからと"救急車を呼んでもらえない"。厚生労働省は交渉で「派遣法
制定時には想定外」といった"品格のない"派遣が横行した。

 関東周辺で日給6000円~7000円。拘束時間12~13時間で換算すると時給500~6
00円。毎日一稼働で1ヶ月働いても月収12万~13万円程度。派遣会社は業務管理
費名目で平均30%のマージンを取得し、派遣労働者の保健、福利厚生、教育費な
どを負担するので純粋利益は2~3%と言われている。しかし、派遣法には中間搾取
(マージン)の上限規制はないので60%近いマージンを取得していた日雇派遣会
社もある。派遣労働者にかけるべき保険、福利厚生、教育などの負担は何も無し
なので日雇派遣会社は"まるもうけ"である。

更に、データ装備費、業務管理費などと称して200円~500円の使途不明金を賃
金から天引きした。日雇派遣会社グッドウィル(現・テクノプロエンジニアリ
ング)でいえば、最盛時1日1万~3万人稼働だったので1稼動200円が1日20
0万円~600万円、年間15億~20億円にのぼる収益をもたらした。明日の"生活が
できれば、仕事があれば"状態に陥りネットカフェ難民とも呼ばれた労働者か
ら、日雇派遣会社は雑巾を絞るように搾り取った。
 
  全国ユニオンはフルキャスト・ユニオン、グッドウィル・ユニオン、マイワー
ク・ユニオン、エム・クルー・ユニオンなど、日雇派遣ユニオンを次々に結成し、
最低賃金を下回らない賃金、不透明な名目の「データ装備費」などの全額返還、
有給休暇の適用など、労働者として当たり前の要求を掲げ、交渉を開始した。
07年8月には、日雇派遣という働き方で傷つけられ働く人としての「誇り」を取
り戻したいとグッドウィルを相手にデータ装備費返還訴訟を提訴。今年の5月全
額返還を勝ち取った。


■派遣切り


  08年11月29・30日に行った「派遣切りホットライン」には、製造業で働く472人
の派遣労働者から仕事と住居を同時に奪われ、明日からどうしてよいかわからな
いという訴えが相次いだ。相談の46%が中途契約解除で、最低限守るべきワーク
ルール‐-解雇は最低1ヶ月前に通告しなければいけない、中途契約解除には客
観的・合理的理由が必要、残契約期間について賃金相当分を支払わなければいけ
ない、派遣先・派遣会社ともに仕事の紹介をしなければならない等--が説明さ
れず無視された。企業は「契約満了」と告げて自己都合退職願にサイン・押印を
求め、同時に社員寮や会社借り上げアパートから3日~1ヵ月の間に出て行くこ
とを求めた。製造業派遣で働く人の時給は1000~1200円、月15~16万円。そこか
ら家賃4~5万円、テレビ、冷蔵庫、布団などのリース料を引くと手元には10万
円ほどしか残らなかった。蓄えも所持金もなく追い詰められ野宿するしかないと
訴えた。

 21年間、職場で起きた問題は職場で解決すると活動してきた枠を超えたもので
、明日からどう生きのるかを問われ、応えられなかった。また、一人ひとりがバ
ラバラで孤独だった。派遣社員は、派遣先は同じでも派遣会社が違い、横のつな
がりは作りにくいといわれていたが、こんなに"いきなり、大量に、乱暴に"派遣
切りされても不満・不安を話し合う関係は職場にはなかった。労働組合も遠い存
在だった。20代・30代は実家に一旦帰ると言ったが、40代・50代は、年老いた親
や家族を養わなければいけない自分が、仕事ない、住まいない、貯金ないで帰れ
るわけがない、と言った。その孤独をどう受け止めていいのかわからなかった。
切ない相談だった。東京に出れば気温が高いので野宿できる、炊き出しがある、
仕事があるかもしれない、と言った人たちに何かしなければという思いで、「年
越し派遣村」の開村に至った。

 2月28日・3月1日、「派遣切りホットライン」第2弾を開催。444人の相談者は
、製造業派遣だけでなく事務系・物流派遣に広がり、契約社員、パート、そして
正社員切りも始まっていた。サブプライムローンの破綻というアメリカ発の金融
危機にはじまる世界的大不況は、いらない在庫はおかないとばかりに派遣労働者
をモノ扱いし、全ての労働者を切ってもよいかのように切りはじめた。労働者の
生活が脅かされ、命が削られているのに、切っている企業の雇用責任が問われな
い、派遣法に照らして適正であるということは、あまりに理不尽である。
  切るな!という行動を強めると同時に、切られない派遣労働者になるために派
遣法の抜本改正が求められる。


■ユニオンに求められている課題


  1)日本では労働組合をつくることは簡単である。二人以上いれば作れる。し
かし、その存在が労働者にとっての「力」となりえていない。パート、派遣など
「多様な働かせ方」が3人に1人以上、女性、若年層は2人に1人以上という雇用流
動化時代に入った。有期雇用が乱用され、不安定雇用が増大の一途にある。低賃
金・無権利の労働者が増加の一途をたどっているのである。この現状を背景に、
正社員中心・企業別組合中心の日本の労働組合の組織率は低下の一途をたどって
いる。

非正規・貧困・若者問題、全てが連鎖している。もはや今までの企業別組合だ
けでは日本の労働者のニーズに応えられない時代が到来している。企業に閉じ
こもっていたのでは、労働者の生活と権利は守れない。ユニオンもユニオンだ
けでは立ち向かえない。「派遣村」がそうであったように、目の前におきた事態
に労働組合、市民団体、弁護士、ボランティアなどが力をあわせることが求めら
れている。言い換えれば「社会的労働運動」として労働運動を立て直すことが急
務である。

 2) 今やルールなき社会になっている。弱肉強食の競争万能主義・市場競争主
義と対峙し、人として生き働くことが実現できる社会にするためには「社会的規
制と労働者の連帯」がキーワードとなる。

 具体的には次の点が課題である。

  (1)合理的理由のない有期雇用を禁ずる運動と社会的ルール作り
   (2)同一価値労働・同一賃金、均等待遇の実現に向けた取り組み
   (3)地域での「生活賃金条例」(リビングウェイジ)制定の取り組み
   (4)ユニオン自らの雇用開拓と職能教育実践

 つまり、企業から自立し、仲間と連帯し助け合い、協同の力で雇用と生活を確
保する道筋を進む以外にはない。
  流動化する労働市場に対し、社会的規制をかけ、あらゆる働き方の労働者が人
として生きたい、働きたい想いをつなげたい。

 3) 日本社会は相も変らぬ輸出依存の経済、富の不公平な分配、規制緩和一辺
倒の政治、そして非正規労働拡大による低賃金・不安定雇用、労働者使い捨て社
会。こんな社会では希望は見えない。人々の心は荒み個人責任が謳歌。「希望は
戦争」などという若者すら出てきている。
  人間らしい福祉と生活を権利として保障する社会、ディーセントワークを全て
の人に確保できる社会を実現するための政策が求められている。

 4) 労働組合も正規・非正規、すべての労働者の人間らしい生活・労働条件の
確保である。
  隣で働く労働者の実態、想いに想像力をはたらかせ、社会に向けた怒りとして
紡ぎ、社会・政治を動かす。どんな雇用形態であろうと、理不尽な仕打ちを受け
入れず立ち上がる権利、たたかう権利がある、あきらめるな!というメッセージ
を発信し続ける。労働組合は、全ての労働者にとって野戦病院であれ!
 
焦眉の課題として、派遣法抜本改正に全力で取組む。派遣切り後の救済も重要
だが、派遣切りさせないようにしない限り、救済の網の目にひっかからずに生存
が脅かされる人は止まない。派遣という働き方を根本から見直し、派遣労働者の
雇用の安定を図り、希望の見える働き方にする。抜本改正の柱は以下のとおりで
ある。

  (1)登録型派遣の原則禁止
   (2)均等待遇
   (3)職安法・派遣法に違反する働かせ方をした場合に派遣先との直接雇用が成
立する「みなし雇用規定」の創設
   (4)マージンの規制
                (筆者は全国ユニオン・会長)

  註 この原稿は著者が2009年8月18・19日にソウルで行われた「第14回ソーシ
     アルアジアフオーラム」で日本側を代表し「日本の労働事情につい
     て」行った報告に加筆されたものです。
     ちなみに、もう1人の報告者は反貧困ネットワーク事務局長湯浅誠氏
     でした。

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