韓国の冬至とあずき粥

【槿と桜】

韓国の冬至とあずき粥

                               延 恩株


 1年のうちで夜が一番長い日と言えば、もちろん冬至です。
 今年は12月22日がその日に当たります。
 日本に来た当初、旧暦に基づいた行事が韓国に比べるとずっと少ないと感じましたが、この冬至もやはり日本では何もしないのだと思っていたものです。

 ところが数年して12月半ば頃からマーケットにカボチャが普段より多く出回り、柚子が並ぶのに気がつきました。よく見ると店内に「まもなく冬至」というお知らせが出ていて、日本では冬至にカボチャを食べ、柚子湯に入ることをようやく知りました。
 ただ冬至を迎えるに当たっての習慣が日本にもあって、それなりの思いで迎えていることはわかりましたが、韓国とは違うことにも気がつきました。
 そこで今回は韓国の冬至について少し書くことにします。

 かつて中国では、冬至を太陽の運行の起点として、1年の始まり、つまり暦の起点とされました。そのため皇帝は冬至の当日、天に祈りを捧げ、庶民はさまざまな神と先祖を祀り、冬至を祝ったと言われています。

 こうした考え方は韓国、日本にも伝えられました。冬至になぜお祝いをするかというと、冬至を境に昼が少しずつ伸びていくためで、生命の恵みをもたらす太陽の光が次第に豊になっていくこととも関連していたと思われます。

 かつての韓国では冬至はめでたい日であったため、貴族は祝宴を開いたり、役人たちに暦を贈るなどしていたそうです。ついでに言い添えますと、陰暦5月5日の端午には人びとが扇を贈り合う習慣があって、「夏扇冬暦(ハヨントンニョッ)」と言われていたということです。

 つまり冬至こそ新しい1年の第1日目だったわけで、冬至は正月の起源と言えると思います。なおここで言う冬至はすべて太陰太陽暦(旧暦)ですので、11月が「冬至月」と定められ、冬至は必ず11月中ということになっていました。ただし冬至の日付は決まっていませんでした。

 韓国の冬至(トンジ)で欠くことができない食べ物があります。それは「あずき粥」(パッチュク)です。この冬至のように決まった日に食べる食事を「節食」(チョルシック)と呼びます。
 冬至は二十四節気の一つで、冬至にあずき粥を食べる風習は韓国独特の風習ではなく、中国から伝えられました。そう言えば日本でも小正月の1月15日に邪気を払い、一年の健康を願ってあずき粥を食べると聞いたことがあります。地域によっては日本でも冬至にあずき粥を食べるそうですから、韓国と同じような風習が日本にも残されているようです。

 あずき粥は、あずきとお米を一緒に煮て作ります。もち米の団子(セアルシム)が入る場合もあり、この団子を年の数だけ食べると一年を無病息災に過ごせると言われています。でもお年寄りが年齢の数だけ食べるわけにもいきませんから厳密に実行されているわけではありません。

 でもなぜあずきなのでしょうか。
 楢木末実『朝鮮の迷信と俗伝』(新文社、1913年)には、
 「伝染病の神は豆が大の嫌いである、故に冬至の日は壁や大門(本門)などに豆の粥を塗るとその鬼神が逃げて往く」
 と記されています。この本が今から百年前に韓国で刊行されたものであるだけに、このように記された風習は今よりずっと生活に強く結びついていたと思われます。
 いずれにしても悪魔や鬼神は豆が大嫌いというわけで、あずきのご飯が祈祷の際の供物として使われていたようです。赤色に厄除けの力があるとされ、あずき粥を食べる習慣が伝えられてきたと思われます。

 中国にもあずきに関わる面白い話があります。いくつものバリエーションがあるようですが、その一つを紹介します。
 ある村に親不孝者の息子がいて、いつも親を困らせていたそうです。その息子が冬至の日に死んだそうです。ところがこの息子、死んでも親を困らせることをやめず、伝染病などを村中にはやらせる疫病神になって、村人を苦しめたそうです。ある時、母親は息子があずきが嫌いだったことを思い出し、あずき粥を作って家中に撒くとその疫病神が退散したそうです。

 赤色のあずきに厄除けの力があると信じられているのは事実で、我が家では知人などに不幸があって、葬儀に出たあとの帰宅時にあずきを自分の背後に何回か撒いてから家に入るよう母親からいつもあずき入りの袋を持たされたものです。日本に来てからも私はこれだけは実行しています。

 韓国ではあずき粥を玄関の柱にかけたり、部屋に撒いたりしていましたが、あとの掃除が大変だという合理精神が勝って、今ではほとんど行われなくなってしまいました。
 韓国では冬至に「蛇」という文字を書いた紙を逆さにして壁や柱に貼ると、家に悪魔や鬼神が入ってこないと言われています。また冬至が暖かいと、翌年は病死する人が増え、大雪の寒い日だと豊作になると言われています。

 日本でも冬至に天気がよければ翌年は豊作、雷が鳴れば雨が多く、雪が降れば豊作などと言われていて、韓国と似ていて面白いと思います。いずれにしてもどこまで信じるかはあなたの勝手というところでしょうか。
 こう見てくるとあずき粥を食べるのは、赤い色が悪魔や鬼神を追い払うためで、厄払いや魔除けの意味が込められているのです。

 これは冬至に関係ありませんが、韓国では男の子が生まれると玄関に赤い唐辛子を吊り下げることが今でも行われています。これなども悪魔や鬼神から子ども守る意味が込められているからです。日本でも鳥居が朱色に塗られていたり、お守り袋に赤い色が使われているのも悪魔や鬼神が嫌がるからだと聞いたことがあります。

 話を戻しましょう。
 実は今年は「朔旦冬至」と呼ばれる19年に1度巡ってくる特別の冬至です。これは旧暦の11月1日、つまり新月の日に冬至が重なります。暦が正確に運用されていることを証明するもので、盛大にお祝いされたとそうです。ただ陰暦11月10日以前に冬至が来る場合は子どもがあずき粥を食べると病気になると言われ、あずき粥ではなくあずきの餅を食べさせるという風習があります。

 このほかあずき粥のほかに大根の水キムチ(トンチミ)や練ったもち米を茹でて大豆やゴマなどをすりつぶした粉をまぶした餅(カクセック・キョンダン)、生姜や桂皮で作った甘味飲料(スジョングァ)なども冬至の節食ですが、最近では作るのが大変という理由で、あずき粥ほどには一般家庭では作られなくなってしまっています。
 少し寂しい気もしますが、間もなく19年ぶりの「朔旦冬至」がやってきます。先祖が残してくれた貴重な冬至の過ごし方、ここにはさまざまな生きる知恵も込められています。せめてあずき粥を作って、これからの1年、無病息災を祈りながら、いちばん長い夜をゆっくりと過ごしたいものです。

            (筆者は大妻女子大学准教授)

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