【沖縄の地鳴り】

第33回日本環境会議沖縄大会宣言


        
                    2016年10月23日
               第33回日本環境会議沖縄大会

 第33回日本環境会議沖縄大会は,2016年10月21日から23日,沖縄国際大学で開催された。「環境・平和・自治・人権-沖縄から未来を拓く」をテーマに,国内・外から400名をこえる参加を得て,全体会,6つの分科会を通して活発な討論が行われた。

1.「環境・平和・自治・人権」の観点から見た沖縄の現状と問題点

(環境)
 沖縄では,1988年に第8回,1996年に第16回の日本環境会議が開催され,今回は3回目の開催になる。第16回の沖縄大会では,軍事基地の存在や公共投資による環境破壊の問題点が指摘され,軍事基地の撤去や循環型社会をめざす新たな産業振興策などの提案がなされた。しかし,それから20年を経た現在,沖縄ではいっそう自然環境破壊が進行し,住民の生活を脅かす環境汚染についても適切な対策が取られず放置されている。政府が強行する辺野古の新基地建設,高江ヘリパッド建設により,沖縄の中でもとくに自然度が高く生物多様性の豊かな大浦湾や亜熱帯の森林が大規模に破壊されている。土砂採取場所となる西日本各地の環境破壊も重大である。既存の米軍基地から発生する航空機騒音,有害物質による土壌・水質汚染なども,オスプレイの強行配備を初めとした米軍の運用の優先とその根拠となる排他的な管理権の存在により,改善されるどころか悪化する一方であり,住民の生活環境や自然環境が脅かされている。

(人権)
 我々は,何よりもまず,このような沖縄が直面する環境問題は,人権問題であることに目を向けなければならない。軍隊は,本質的に人権侵害を発生させる暴力装置であり,しかも日米地位協定による米軍の排他的な管理権と本来それを規制すべき日本政府による無策のため,結果として地域住民の権利が侵害されている。1992年のリオ・サミットを契機に世界は良好な環境の享受とそれを次世代に伝えていくことを重要な人権と位置づけてきたが,沖縄では環境の破壊による人権侵害が一層進み,また反対運動の弾圧による表現の自由の制約,恣意的なアセスによる知る権利や参加権の侵害などにより住民の声も抹殺されている。

(平和)
 現在,沖縄は,日米同盟の強化の一環と位置づけられた新基地建設,2013年の防衛大綱・中期防衛力整備計画による琉球弧の防衛体制の強化,それに伴う自衛隊配備など,日米両政府による軍事要塞化のまっただ中にある。沖縄は,第二次世界大戦で激しい地上戦を経験し,その後もアメリカによる直接統治の下で日本国憲法の平和主義の適用を受けずに米軍基地の負担を引き受けた。本土復帰後もそのような構図が維持・拡大されて現在に至る。軍隊では平和は作れないことを身をもって体験した沖縄の,軍隊のない平和な暮らしを求める声は未だ実現されるにほど遠い状態である。そればかりか,現在進みつつあるのは攻撃性を有する本格的な軍事基地の建設であり,憲法9条の平和主義の枠を大きく超えるものである。日本政府が根拠とする地理的優位論はもはや完全に破綻しており,むしろ沖縄を中心にして,軍隊に頼らない地域全体の安全保障を構築すべく,叡智を結集する必要がある。

(自治)
沖縄は,政府の横暴に対して明確な反対の意思表示をしつづけている。2013年の仲井眞知事(当時)による辺野古新基地建設のための公有水面埋立承認は,明らかな公約違反であり,沖縄はオール沖縄のもとに結集し,翁長県政を中心に,辺野古新基地建設反対を初めとして,沖縄が抱える諸課題の改善を訴えてきた。そのような意思表示を無視する政府の行為は,憲法92条の保障する地方自治の侵害であり,沖縄の自治権・自己決定権の侵害である。国と自治体を対等協力関係とする地方自治法のもとで,自治体の意思に反し,自治体はおろか政府さえも規制ができない米軍基地の建設・提供を強行すること,そして現に生じている環境破壊と人権侵害を放置することは,民主主義国家として到底許されるものではない。沖縄の民意を完全に踏みにじる行政の対応のみならず,辺野古埋立承認の取消処分に対する是正指示の裁判の高裁判決は,憲法の保障する自治権の根幹を揺るがす行為であり,全ての自治体に関わる問題である。
 もともと非植民地化の過程で発展してきた人民の自決権(国連憲章第1条,国際人権規約1条(社会権規約・自由権規約共通))は,現在では,政治的・経済的・社会的・文化的な意味でのマイノリティが自己発展のために集団として有する法的権利として国際人権法上確立している。米軍基地はもとより琉球弧への自衛隊配備は,軍事利用の強制であり,沖縄の人々の自己決定権を侵害するものである。
 米軍基地の集中と自衛隊配備による軍事要塞化は,沖縄のコミュニティを破壊し,経済的自立を阻害している。とくに沖縄を初めとした琉球弧では,小さな島々の集まる島嶼地域に住民が密集して居住しており,そこに広大な軍事基地を抱えることは,必然的に,自然環境と共存してきた地域共同体やその自立的経済に緊張を生み出すものであり,本質的に相容れないものであることを認識する必要がある。

(構造的差別)
 このような米軍基地の集中と自衛隊配備による軍事要塞化,それによる住民の人権の侵害,自治,民主主義の不在は,高江での機動隊員による「土人」発言に象徴されるように,琉球処分以来積み重ねられてきた歴史的な構造的差別の上に存在するのであり,その一刻も早い解消は日本全体の喫緊の課題である。そして本大会では,独自の文化を有する沖縄が受けてきた琉球処分以来の歴史的不正義(植民地化)の問題,さらには土地・領域・資源に対する権利が明確に位置づけられた2007年の国連先住民族権利宣言に基づく自己決定権の問題が議論された。この問題は,国連において一定の議論がなされてきた経過があるものの,国内では充分に議論されてこなかった問題であり,今後,日本の近現代史を検証しつつ日本全体で議論が行われることが必要である。

2.放射能公害及び原発被災者の現状と政府の被災者支援・原子力政策の問題点

 沖縄には,原発事故直後から,放射能公害の恐怖から逃れて多数の被災者が避難してきた。そのような避難者の多くは,困難な家庭環境・経済環境の中で,とくに未来を担う子どもの生命と健康を最優先にして沖縄まで避難してきた。本大会でも,そのような被災者が多く参加してそれぞれの置かれた窮状を訴えたことを我々は重く受け止めなければならない。
 東日本大震災・原発事故から5年を経過した現在も福島第一原発事故は未だ完全には収束しておらず,十数万人の被災者が避難生活を余儀なくされている。政府は原子力緊急事態宣言のもと,年間20ミリシーベルトを避難指示の目安とし,放射線障害防止法および原子炉等規制法に基づく年間1ミリシーベルトを上回る地域に対しても避難指示を出さなかった。さらに政府はいま,避難指示解除による住民の帰還や賠償の打ち切りなどを進めようとしている。放射線が人の健康に及ぼす危険性は科学的には十分認知されており,政府は放射能公害の実態を把握するとともに,健康被害を防ぐために最大限の措置を講じるべきである。被災者の避難の選択は,避難の権利として十分に尊重されるべきである。避難によって生活基盤を揺るがされている被災者と放射能公害全被災者の生存権の回復が急務であり,長期待避を含む避難者の多様な選択の保障など,住民の健康・生活をまもるために必要な法制度の整備を図らなくてはならない。福島の事故により,多くの住民が,避難者,滞在者を問わずに,ふるさとの喪失・変容を含む深刻な被害を被っている。被害回復に向けて多くの被災者が訴訟で東電や国の責任を追及し,自らの権利を回復するために立ち上がっており,広範な市民がそれを支援することが求められている。
 政府は,原発再稼働,新増設,原発輸出を推進している。これは,少数民族を含む周辺地域住民の人権侵害と環境汚染のリスクを海外にまで拡大するものである。このようなことは到底許されてはならない。

3.一人一人が大切にされ,安心して暮らせる地域社会を取り戻す

 以上に共通点するのは,全体の利益という名目のもとで,一部の者の犠牲,切り捨てが公然と行われ,しかもそれが制度化,構造化されているところにある。我々は,戦後日本の市民社会が日本国憲法の下で育んできた「環境・平和・自治・人権」という基本的価値,そしてこれらを支える「個人の尊厳」という原点に立ち返り,誰かを犠牲にするのではなく,一人一人が大切にされ,安心・安全に暮らせる,持続可能な地域社会を取り戻さなければならない。そして,そのような社会の基盤となる環境を破壊・汚染することなく次世代に継承することが,現代に生きる我々の重要な責任である。

 本大会の議論を踏まえ,下記の提言を行う。

1 政府は沖縄の民意を尊重し,辺野古新基地建設,高江ヘリパッド建設を直ちに中止すべきである。また,現在提供されている米軍基地からの人権侵害を止めるべく,県民の意思に反して強行されたオスプレイ配備の撤回や世界一危険と称される普天間基地の即時閉鎖を米国に求めるなど,住民の権利の回復のための積極的な措置をとるべきである。また最高裁判所は,憲法92条に定められた自治権の保障にかなった判決を下すべきである。

2 政府は汚染者負担の原則を回避する日米地位協定を改定し,米軍の原状回復義務を明確に位置づけるべきである。また,米軍基地に由来することが疑われる環境破壊・環境汚染に対しては,対応を日米合同委員会の裁量に委ねるのではなく,地元自治体や市民団体の立入調査権を明記すべきである。過去に返還された土地を含め,汚染状況に関する可能な限りの情報公開を行い,住民の知る権利を確保すべきである。

3 政府は環境や人権に影響を与える事業について地域住民の意思を反映させるため,情報アクセス権や環境影響評価の過程における参加権の充実をはじめとした,環境民主主義を実現させる法制度を構築すべきである。また,民主的過程による意思決定プロセスを阻害するスラップ訴訟を防止する対策も検討すべきである。

4 琉球弧への自衛隊配備は,安保法制の下,専守防衛の枠を超えた本格的な軍事基地化であり,地域の環境や自治,コミュニティを破壊するものである。生活を基軸とする民間交流の促進によって,平和を創っていくのが琉球弧における住民の歴史的な教訓であり,政府は琉球弧への自衛隊配備計画を直ちに撤回すべきである。

5 政府は,放射能汚染を明確な公害と位置づけて包括的な疫学調査,健康調査を行い,被害の実態を把握すべきである。また,医療・医療費の給付,住宅支援継続・拡大など,生存権を尊重するための施策を早急に拡充すべきである。また,被災者が訴訟を通じて自らの権利を回復するために立ち上がっており,広範な市民がそれを支援することが求められている。

6 政府は,新たな環境汚染の原因となりうる原発再稼働,新増設,原発輸出政策を直ちに中止すべきであり,既存の原発も廃止して脱原発を図るべきである。

7 市民や専門家などがそれぞれの立場で経験交流,意見交換・議論などを行う場を設け,また民間交流を促進することにより,一人一人が大切にされ,安心して暮らせる地域社会に向けた国内的・国際的レベルでの社会的連帯を深めること,とくにこれからの時代を担う若い世代の協働を促進することが必要である。

                             以 上


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