■【特別レポート】

2012年米国大統領予備選挙(5)
オバマと大統領を争うロムニーとは?(その2)             武田 尚子

   
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  3月13日のアラバマのプライマリーで、サントーラムが代議員22名(ロム
ニー11名)、ミシシッピでは13名の代議員(ロムニー12名)を獲得して、
ロムニー陣営をすっかり慌てさせたことはご報告した。
  ギングリッチは、出身地ジョージアでのトップを得た後は、応援者エイデルソ
ンによる大量の軍資金に恵まれたにもかかわらず、念願の華々しい成績からはほ
ど遠かった。ロン・ポールの成績はさらに下回り、もはや世間は、ロムニーと、
予想外の力を見せるサントーラムの指名争いと見るようになっていた。
  4月10日。遺伝性の重病を持つサントーラムの娘が危機に陥いり、ロムニー
に対抗する財力も組織もないサントーラムは、ここまでよく粘った選挙戦をおり
た。

 4月24日はミニ・スーパー・チューズデイとも呼ばれる5州のプライマリー
があり、ニューヨーク、ペンシルバニア、コネチカット、ロードアイランド、デ
ラウエアの全てでロムニーが勝利者となった。5月1日には、ギングリッチも戦
線をおりた。
  ギングリッチは総計17億ドルという、個人献金としては未曾有と言われる寄
付金を、何度かにわたり、前述のエイデルソンから得ていた。ラスヴェガスのカ
ジノ産業の王者と言われるエイデルソンも、成績のふるわないギングリッチに、
それ以上の金は貢ぎたくなかったらしい。
  残るポールは引退宣言こそしないが、『自分の信念を広めるために』キャンペ
ーンは続けているらしい。代議員の獲得数ではどのプライマリーでもほとんど0
が続いているために、メジアからは問題にされなくなってしまった。こうして曲
折の多かったロムニーの大統領候補指名はほぼ確実となった。
  これまでの長い共和党内の指名争いから解放されて、ロムニーは11月の総選
挙でのオバマとの対決の準備に集中することになった。オバマとロムニーへの一
般投票では、最近までオバマ人気がかなりロムニーを引き離して高かったが、こ
のところ非常な接戦になりつつある。
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  2012年5月2日
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 昨年の今日、オバマ大統領は、少数の有能なアメリカ軍のエリートを、アルカ
イダの頭目オザマ・ビンラデンの隠れ家と確認したパキスタン内の彼の住居に派
遣した。ヘリコプターで着陸したアメリカ兵は、オザマを捕らえようとしたが果
たさず殺害し、ビンラデン本人であることを生存家族から確認し、急遽米国での
DNAの証明もしたのち、遺体を海中に沈めた。1人のアメリカ兵の命も失われ
ず、住居内の彼の成人した息子と用務員の家族のほか、無関係な市民の不要な死
もなかった。
  あれからほぼ1年が過ぎた。「貴方が大統領だったら、オバマのような指令を
軍隊に下して、ビンラデンを殺せたと思いますか」というメジアの問いに対して、
ミット・ロムニーは答えた。『もちろん。もちろんだとも。』

 『ジミー・カーターでさえ、あんな命令を出すくらいはしただろう。』
  いうまでもなく彼は、国家安全策に関して弱腰だと批判されたカーター大統領
を皮肉っているのである、適切な比較とは言えないが。カーターの場合は、19
80年のテヘランの米国大使館の人質の奪還に失敗したが、オバマは年期を積ん
だ軍事専門家の忠告に抗してアルカイダ攻撃をやってのけ、しかも成功したのだ
から。
  2007年にロムニーは、オバマのビンラデン追跡の意思について次のように
コメントした。『天と地を動かし、何十億ドルもの金をかけてたった1人の人間
をつかまえようとするなどおよそ値打ちがない。』おそらく、2008年の大統
領選を前にしての発言なのだろう。
  一方オバマは、大統領になったらビンラデンに始末をつけることを最優先事項
のひとつにしていた。ロムニーの言葉はビジネス経験からくる原価計算への顧慮
を示している。原価計算はその後も何度か彼の政治的な判断のベースとして出現
するので、ロムニーを理解する鍵の1つではないだろうか。
  アメリカの関わっている戦争が、対テロリズム戦争である限り、健在と知られ
るその大親分を始末しておかなくてはならないのは自明であろう。事実ブッシュ
は、トーラボーラの山岳に隠れたビンラデンをしばらくの間派手に追っていたが、
捕まえられないまま沙汰やみになった。アルカイダ襲撃の1周期を前にコメント
を求められたブッシュ大統領はノーテンキに答えたものだ。『やあ、ビンラデン
のことなど、いまはあまり考えてもいないよ』
  「たった1人を捕らえるために多大な金を使うなど価値がない」とは、いかに
もビジネスマン・ロムニーの面目躍如ではある。しかし国民は疑問を持たないだ
ろうか。ロムニーは、原価と引き合うことが目に見えるものにしか金をかけたが
らないのだろうかと。
  すぐ頭に浮かぶのは地球温暖化についての彼のコメントである。

 『私は、多分地球は暖かくなっているのだろうし、それは多分人間の行動が原
因だろうとは思う。しかしはっきりしたことはわからない。だからそれに莫大な
金をつぎ込むようなことはしない。』
  温暖化がおこっていることは、大半の科学者が認めているが、共和党がそれを
否定するのは、共和党支持のバックボーンである大企業をはじめとするビジネス
保護のためである。温暖化論争があれば、必ず御用学者が登場して、間違っても
石油会社の操業を縮小させたり、環境保護運動を活性化するような方向に導かな
いよう腐心するのである。
  ではロムニーは、全ての科学者が絶対に温暖化が起っているという日のくるま
で、対策などたてる金はないというのだろうか。第一、そんな日がくると思って
いるのだろうか? あるいは彼は、これまで何度もあったように、共和党中枢の
意向にどこまでも同調して彼等の全幅の支援を得、総選挙までの坂を上りつめよ
うとしているだけなのだろうか。
  ギングリッチはアイデアマンであり、月にコロニーを作るアイデアをキャンペ
ーンで出した。火星のコロニーが論じられる現在であれば、完全に荒唐無稽の空
想とも笑えないだろう。しかしロムニーはどういったか。『私の従業員で、そん
な高価な提案をするものがいたら、即刻クビにする。』
  またしても原価計算が持ち出された。ロムニーが理想主義者でないことははっ
きりした。それと同時に、彼の政治感覚、歴史感覚は、いささかずれていはしな
いか。彼はビンラデン殺害のアメリカにとっての政治的な意義など評価しないば
かりでなく、自分の実行能力についても、かなり現実離れした評価をしているよ
うにみえる。
  アルカイダ襲撃に必要だったのは、驚くばかりの綿密な事前調査、軍事専門家
によるかなりな反対の克服、それでも9/11の反復を可能な限り防ぎ、犠牲者
の慰霊のためにはぜひ必要なことと信じてのオバマの決断だった。命令を下しさ
えすればできたことなら、なぜブッシュは命令を下さなかったのだろう? ロム
ニーの資質が、上記のわずかな事実からさえはっきりしてくるようだ。
  つい1週間ほど前に、ペンシルバニアにロムニーが訪れたとき、支援のグルー
プが用意した通り、地元の有名なクッキーベーカリーで一休みになった。ロムニ
ーは、おそらく天下の有名人のお越しとあって、とりわけ懇ろに焼かれたはずの
クッキーを前にしていった。「なんだこれは手作りじゃないじゃないか。」そし
て全く手をつけなかった。
  これまでもしばしば指摘された通り、ロムニーと、彼が支持するという中産階
級の庶民の間にはかなりの距離がある。クッキーの店主はロムニーのコメントを
侮辱と受け取ったと報告された。おそらくこの店主は彼に投票することはやめた
だろう。メジアは、ロムニー陣営か否かで、なんでもないことだとこの話題を押
しつぶそうとしたり、ロムニーの庶民離れを批判したりした。なぜこんな些細な
ことが問題になるのかと驚かれる読者はまだまだロムニーをご存知ないのである。

 近年米国の大学生の多くは、授業料を借金として背負いながら卒業するという
(一人平均25000ドル)。一方では、高校の学歴ではなかなか職にありつけ
ないのも現実になった。この苦境をどうして切り抜けるかの相談を受けたロムニ
ーが、『授業料は、両親からローンとして借りなさい。あるいは新しいビジネス
をはじめて自力で切り抜けなさい』といったことが、また問題になった。
  ロムニーの授業料コメントは、おそらく彼の心の自然な忠告なのだろう。タッ
グ・ロムニーはミット・ロムニーの子息の一人らしいが、自分の事業を始めるた
めに、両親から10億ドルの金を借りたと、1人の友人が話している。ロムニー
がミドルクラスの庶民の気持ちもふところも理解できなくとも無理はない。学生
援助を平気でカットするのも無理はない。

 ロムニーはメキシコから移民した父親を持つが、彼はアメリカン・モーターズ
の会長、ミシガン州の知事をつとめ、大統領選挙に立候補もした。決して平均的
なメキシコ移民ではない。しかしロムニーは、移住当時のことだろうが、父親が
きわめて貧しかったと、ことあるごとに強調する。
  ロムニーはハーバードの大学院で経営学と法律を勉強し、優秀な成績で卒業し
ている。ということは彼は非常な努力家であり、おそらくは彼にまさる勤勉な努
力家だった父親を受け継いで、アメリカの成功者の一人になった。
  ロムニーは自分の地位や財産は自分で働いて得たものだと信じているために、
彼のような恵まれた家庭に生まれず、あるいは天災や戦争の犠牲になった人達の
苦しみとも、まったく無縁らしい。現在の自分の富と社会的な地位は、学生時代
の猛勉強と、それを生かしての猛烈な働きの結果なのだから、貧しさに喘ぐもの
は、一言で言えば怠け者なのだ。そう信じているからだろう、弱者への同情はま
ことにとぼしい。
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  ロムニーの予算案
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 総選挙キャンペーンの定石として、共和党が大統領指名候補をいったん決める
と、候補者は共和党中枢の政策にあまり精密にはしたがわないで、より柔軟な中
庸路線に戻るのが普通だという。
  しかし今年の選挙戦では、そうはなりそうもないと、ロムニーの顧問のウエー
バー氏は言う。なぜなら、予算案に関する限り、ロムニー政策は下院の予算委員
会の同僚で、現在台頭中の若手ポール・ライアンの路線にごく近くなるだろうか
ら。
  4月のオルタにご紹介したライアンの予算案では、富者への税金はいま以上に
カットされ、軍事予算はさらに増える。それは例えば高齢者のための社会保障の
メジケアを段階的に解消することと、任意費消項目をなくしてしまうことで達成
される。教育他の政府のプログラムの予算は大きく削られる。
  結果として、医療問題で言えば、国民は健康保険にいまより余計な金を払うが、
政府による健康管理責任は少なくなる、つまり、プライマリーで公表したロムニ
ーの方針より大きく右寄りになる。
  ライアンは、市場を優先して個人の自由選択を重んじ、政府の役割とのバラン
スをとるという。実情は、とりわけ医療健康問題では、この分野のロビイスト・
グループとウオール街にサービスしようとするものである。
(ごく簡単に要約したこの報告の筆者であるサイモン・ジョンソン氏は、MIT
スローンスクールの教授である。)
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  ロムニーの外交方針
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 先日ロムニーのアドバイザーが『いまアメリカの直面している最大の地政学上
の脅威はロシアである』と公言したとき、冷戦のさなかでもあるようなその言い
草は、多くのアメリカ人を大いに笑わせた。
  しかしこれは実は、ロムニーの外交チームが推進している、危険で狂気じみた
世界観から目をそらさせるかもしれないので、よくよく用心しなくてはならない
とオバマ陣営は警告する。アフガニスタン戦争へのオバマの兵員の増強や、イエ
メンやパキスタンへの無人航空機ドローンによる空爆にもかかわらず、ロムニー
はサウス・キャロライナのミリタリー大学での講演で宣言している。『オバマは、
アメリカが世界最強の国であってほしいとは考えない大統領なのです』と。軍事
問題にこそ、ロムニー専門の原価計算の精神を存分に適用してほしいものだと、
筆者は思う。
  ロムニーはたえまなくオバマの外交政策を攻撃しているが、これは経済がなに
よリも重要とはいっても、外交政策はすぐそれにつづく重要事だと言う彼の考え
を示している。ロムニーの外交策声明の背後には彼に近いいくつかのグループの
顧問が存在する。そして彼等はかつてのブッシュ政府の好戦的な、ネオコンの米
国外交政策に心をひかれているのだ。それがさっぱり評判を落としたいま、よい
考えとは言えないのだが。
  『ロムニーの外交政策へのアプローチで最も顕著なのは、創造性が皆無だとい
うことだ―厚かましくも、ブッシュ時代の論議、態度、人事をみな、喜んでリサ
イクルしようとしていることだ』と語るのは政策研究会の RIGHT WEB のピータ
ー・セルト氏である。総選挙が熱気を帯びてくるにつれて、共和党ネオコン派の
声は日々に高まるばかりだろう。
  ロムニーの外交顧問である3グループの責任者の外交問題への意見を、簡略に
お伝えしよう。
(1)エリオット・コーエン
(PNAC) 現在ジョン・ホプキンス大学の国際問題研究学部の教授。アメリカ
新世紀プロジェクトの創設者、ロムニー・キャンペーンの特別顧問である。この
プロジェクト(PNAC)は、ワシントンD.C.に根拠をおくネオコン(ザー
ヴァチブ)政策の孵卵器であり、その後メンバーはイラク戦争へアメリカを突入
させるのに成功した。彼は防衛諮問委員会の一員であり、ラムズフェルドが表立
った仕事に活躍中、国務長官コンドレッサ・ライスの助言をした。
  9/11攻撃の後、ウオール・ストリート・ジャーナルで、コーエンは対テロ
リズム戦争を第4次世界大戦と呼んだ。このジャーナルへの別の寄稿文では、再
びイランとイラク両政府の打倒を要求した―これは全面侵略と占領によってのみ
達せられるものである。
  2011年の10月には、この著名なネオコン主義者は‘ホワイトぺーパー’
の序文に、ジャーナリスト、マックス・ブルーメンソールの言葉として、ロムニ
ーの外交政策のヴィジョンを 「一方的な片務主義とありのままのネオコン帝国
主義のミックス」として披瀝した。
  このホワイトペーパーは、軍事予算の拡大と、中国の興隆に対してアジアにお
けるアメリカの優越を主張する。またイランかイスラムの影響のために、アラブ
の春はアラブの冬になりかねないと警告する。さらに軍隊計画の契約の終了後3
000人の軍勢をイラクに残すというオバマのイラク計画を批判し、14000
から18000人の兵隊を残すべきだとしている。しかし今日イラクに残ってい
るアメリカ兵は150人にすぎない。
  コーエンとその同僚が現在標的としているイランについては、次のコメントが
ある。『米国のイラン政策は、まずイランが、彼等の核兵器プログラムに対して
アメリカには軍事的なオプションがあることを理解させることから始めなくては
ならない。』
  全体として言えば、コーエンが序文を書いたこのペーパーはブッシュ政府の国
際問題へのアプローチに対する頌歌(ほめ歌)と言える。コーエンのような人物
がキャンペーンに存在することは、ブッシュのアプローチ、外交政策への批判を
控えさせるのである。
(2)ダン・セノア
  彼は、イラクを占領したアメリカの連合臨時政府のスポークスマン役を担って
いた。ネオコンの政策サークルに、ごく親しくつながっていた。いまはロムニー
の特別顧問であるが、2008年のロムニーの大統領選挙キャンペーンでも、顧
問役をつとめた。彼はイスラエルに近く、AIPAC( AMERICAN ISRAEL
PUBLIC AFFAIRS COMMITTEE )のインターンをしたが、いまもそのロビイ・グル
ープとはつながりがある。

 『彼はホワイトハウス内では、要するにナタニヤフ首相とのつなぎ役になるだ
ろう。AIPAC を強力にもするだろう。アメリカ人で、イスラエルの右翼に
このダンほど近づける人間はほかにいない』友人、ローゼンバーグの言葉である。

 『始動する国家;イスラエル経済の奇跡の物語』は、ダン・セノアとサウル・
シンガーの共著である。それは、イスラエルの進歩について書いたもので、ナタ
ニヤフは『鋭敏な知覚力の持ち主だ』と評した。イスラエルの困難な問題からは
遠ざかり、業績の達成を賞賛したためである。
  2011年9月、セノアは3月の新しいエルサレム居住地の発表の後、オバマ
がイスラエルに攻勢をかけているとウオール・ストリート・ジャーナルに書いた。
同じ寄稿文で、彼はアメリカ国務省が、エルサレムをイスラエル固有と見なさず、
占領下にあると見なしていると小言を言った。
  はっきりしているセノアの考えは、アメリカは決してイスラエルにプレシュア
をかけてはならないことであり、それは正しくロムニーの立場でもある。
(3)コファー・ブラック
  ブラック ウオーターUSAという保安関係の会社の副会長だったブラックは、
2007年から、テロリズム対策と国家保安の上級顧問としてロムニーのキャン
ペーンに関係していた。彼はロムニーに信頼された使節として、ロムニーが前C
IAのオフィサーから、諜報の概況説明を受けられるように整えた。
  彼は1990年にはビンラデン追跡のCIAチームの一員であり、その後もブ
ッシュのテロリズム対策の仕事に携わったが、2004年、ブッシュの再選後辞
職した。
  スカヒリの著作“世界最強の傭兵部隊”によると、彼はブッシュのプログラム
である‘想定テロリストの誘拐と刑務所送り、拷問’の役目をこなした。
  2005年には保安会社ブラックウオーターのアメリカチームに副会長として
加わる。この会社のエージェントはバグダッドにおける『ニルソン広場の虐殺事
件』を起こした。これは17人のイラク市民の死をもたらした。
  ロムニーの見解に対するブラックの影響は明らかである。2007年の議論で
ウオーターボーデイングは拷問と思うかと聞かれて、ロムニーはどちらとも答え
なかったが、この分野の問題に関しては、CIAにほぼ35年在籍したブラック・
コファーから説明を受けていると答えた。2011年には、ロムニー・チームは
ロムニーがウオーターボーデイングを拷問だと思うと明確にした。

 ロムニーの外交政策の背後に、大国アメリカの栄光の保全、大きな軍隊の維持
など、ブッシュのネオコンへの賛同があるらしいことを確認して、この稿を終わ
りたい。ブッシュが富裕者の税金をカットし、アフガニスタン、イラクの戦争を
始めてからのアメリカの変容ぶりは驚くばかりである。
  オバマが堆積した問題を1つずつ片付けるよりも早く、総選挙がやってくるこ
とが憂慮される。彼がどのような政策で対抗するか、11月の総選挙までには、
彼の、もっと広い範囲の外交政策が明らかになるだろう。いまわかるのは、それ
が決してロムニーのようなブッシュ回帰などではないということだけである。


●追記


 この原稿をオルタに送付したその夜、MSNBCがロムニーの最新のキャンペ
ーントークを報じていた。
  驚くなかれ彼は、ミシガンの自動車会社の危機にあって、助けを出すどころか、
『デトロイトは破産させろ』といい、さらに政府のベイルアウトを非難して『い
ますぐとは言わないが、ベイルアウトは自動車産業の終焉だと私は保証する』と
言い切ったミシガンでの言葉を全く忘れたかのように、『現実には、私の提案し
た統制破産にオバマはしたがったのだ。私こそ(オバマでなく)称賛をうけるべ
きだ』といったのである。それは喋っているロムニーの大写しの伴ったドキュメ
ントだから、どこにも虚構はない。私は思わず『盗人猛々しい』とつぶやいてし
まった。
  興味をもたれる読者には、この大統領予備選挙シリーズ(3)に詳述したミシ
ガンの自動車産業危機についての筆者の記事を、ぜひお読みくださるようお願い
したい。ロムニーは残念ながら、虚言としか言えないこうした事実の歪曲を平気
な顔で話せる人間なのである。これまでにも幾度か、ロムニーは大統領になるた
めには何でもする、モラルの背骨のない男だと評された。
  しかし彼の人格の卑劣さは、筆者に関する限りここにつきた。このチャネルは、
その後ミシガンの選挙人を前にしたときには、ロムニーが一言も自動車産業に触
れなかったと報じている。当然だろう、袋たたきにあったかもしれないのだから。

 こうした嘘っぱちをテレビでまき散らして彼やその一味が票を得ていくのであ
る。何とアメリカは格をさげたことだろう。

  (筆者は米国・ニュージャーシー州在住・翻訳家)

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