2012年11月6日:いよいよ大統領選挙

■【米国大統領選挙報告】

2012年11月6日:いよいよ大統領選挙        武田 尚子

───────────────────────────────────

  11月6日、選挙は終わった。オバマは第1回目のロムニーとの討論に失敗し、
それまでオバマの優位を押さえられなかったロムニーに勝利への弾みを与えたか
に見えた。ロムニーのオバマとの討論への準備は万全を尽くされていて、この論
争に負けるはずはないとみくびっていたらしいオバマの自信を完全に覆した。こ
の苦い良薬のおかげで、オバマは立ち直り、2008年選挙当時をしのばせる覇
気にみちた彼の姿に、支持者はまた、オバマの勝利を信じ始めた。

 しかし3回目の論争以後の総選挙への道程は生易しくはなかった。なによリ際
立ったのは、数多くの世論調査会社による投票予想で、かなりのポイントで常に
ロムニーをしのいでいたオバマに、ロムニーのポイントが接近し、オバマを上回
る状況さえでてきたことだった。

 ロムニー陣営は、それまでもオバマの政見を歪曲することにやぶさかでなかっ
たが、この段階ではもうワシントンポスト、CBS、ニューヨークタイムズなど
を含むあらゆる事実調査グループの公表するファクト・チェックは無視すること
にしてしまった。(キャンペーンでの候補者のスピーチはもとより、各陣営の主
張にはしばしば誇張や誤りや虚偽が含まれる。アメリカのファクト・チェック組
織は、それを客観的な事実に照らして、直ぐメディアに提供するのである。)

 例えばロムニーは、「デトロイトは破産させよ」と明言して、援助を請われた
自社ベイン・キャピタルもまったく手を伸べなかった。自動車産業へのオバマ政
府のベイルアウトがなければ、リストラの資金は得られず、結局デトロイトの自
動車産業は破産のほかない状況にあった。

 その事情を知り尽くしたロムニーが「オバマは、いったん破産させてからリス
トラせよという私の進言にしたがったおかげで、自動車産業を立て直すことがで
きたのだ」と、オバマの功績どころか、ロムニーの手柄であるかの調子で聴衆に
訴えた。

 また、リストラの後、効率の高い生産で業績を上げるようになった自動車産業
を評して「私の父はアメリカンモーターズの社長であり、私は車と一緒に育った。
その私がなぜ、自動車産業の破滅を願うだろうか」と口を拭った話をする。それ
に乗せられる聴衆もいたに違いないが、ロムニーの生まれ故郷ミシガンは、最終
的には彼を支持しなかった。

 またクライスラーがジープの増産を始めたことについて、「オバマはジープを
中国で生産させる(アウトソーシング)ことに決めたから、デトロイトの労働者
のジョブは減少する一方だ」という意味のことをも平気でいってのけた。これに
対してクライスラーのCEOは『中国にアウトソーシングするどころか、当社は
労働者を1000人以上新たに採用して増産を始めたのである。中国は顧客の一
部なのだ』とはっきりと反論している。

 政権奪取のためなら、なりふり構わなくなった共和党が、選挙当日のオバマ支
持者の投票防止に懸命になったことは前回にご報告した。
  投票禁止または投票抑制には様々の方法があるが、その目的はほとんどが民主
党の支持者である貧しい少数派の投票を防ぐことにある。

 実は身分証明書の携帯要求から、文盲者の投票禁止、投票場所や投票時間帯の
不正な情報公示、イスパニックほかの少数グループへの読解困難な英語だけの告
示、前科を持つ者の投票権剥奪など、いろいろな方法が、以前から存在した。そ
してその多くは今でも、州によっては行われているのである。今年の総選挙では、
勤労者の投票を困難にするために、投票時間を短くした州がいくつかある。

 これに対して民主党は、選挙日を待たないでの早期投票を支持者に訴え、実に
多数の有権者がそれにしたがった。早期投票は、多数の州が賛同している選挙法
で、たいていの場合、理由を挙げる必要なしに、選挙日を待たない州や郡の指定
する場所で早期の投票をすることができる。この場合は、たいてい、身分証明書
を求められることもない。

 この選挙では、共和党の天下になれば廃棄するという医療保険メジケアがどう
なるか、女性の獲得して久しい、堕胎を合法にした Roe v. Wade 法が非合法に
逆転するか、女性関係の医療と家族計画の機関であるプランドペアレントフッド
の除去、厳しさを増した移民対策など、ミドルクラスの生活に直結した重要な問
題がいくつもあった。

 共和党の投票抑制-防止策が明らかになると、かれらの政策に反対するミドル
クラスの庶民たちは、11月6日の投票日に、非合理な、そしておそらくは非合
法な投票防止に反抗して、オバマに是が非でも1票を投じようと長蛇の列に並ん
だ。あるいは身分証明書をチェックし、あるいは写真の真偽を確かめ、あるいは
記載された住所に誤りがないかを確かめ、あるいはそうした調査員の数不足のた
めに、点検にはとてつもない時間がかかった。

 しかし、オハイオやヴァージニア、フロリダなど多くは南部の州で、長蛇の列
は深夜まで続き、6、7、8時簡にも及ぶ投票待ちが見られたのである。
 
  そして夜もあけないうちに、270人の代議員を最初に得た民主党、オバマの
勝利が知らされる。オバマは個人単位の一般投票(ポピュラー投票)でもかなり
の優位でロムニーを押さえた。
 
  1年を超えるキャンペーンの終わりに、家族と共にアメリカを祝福できる喜び
は大きかった。
 
  それにしてもあの、辛抱強いアメリカ人の長蛇の列の呼びおこした感動を、私
は生涯忘れることはないだろう。
 
  それはどんな言葉よりも力強く、デモクラシーの勝利を告げていたのである。
 
    * * * * *
 
  選挙の後、何かが少しずつ変わり始めたと感じているのは、決して私だけでは
ないだろう。
 
  あれだけの時間とエネルギーと金をつぎ込んだ共和党の敗北は、少なくともそ
のリーダーや支持者の若干に、反省を強い始めたかに見える。
 
  下院の議長は財政問題解決のために、オバマとのより柔軟な交渉をめざし、下
院のメンバーにその線での結束を求めた。敗北に直面した議員たちの多くはそれ
を深刻にうけとめ、これまでの『有無をいわせぬ反対』とまったくちがった態度
で応えている。
 
  また、圧倒的なイスパニックの支持を得たオバマに学んで、彼等は厳しい一方
の移民政策ではなく、国境の防壁と同時に、在米の移民への恩赦ほか、移民の国
にふさわしい政策をとるべきだという声さえ出てきた。
 
  上院の民主党は議席を3席増やしたが、下院は相変わらず共和党が過半数を占
めていて、オバマへの抵抗がなくなったわけではない。しかし、オバマが後4年
の任期で大統領を務め終えることと相まって、「何が何でもオバマを落とせ」を
唯一の政策にした観さえある共和党の、かなり狂気じみた極右路線は、もっと健
全な政治をめざすようになるのではないだろうか
 
  第2期を迎えたオバマの健康と成功を深く祈りながら、この稿を終えたい。

 (筆者は米国ニュージャシー州在住・翻訳家)

                                                    目次へ