M大統領の国後訪問問題を考える

■ 【オルタのこだま】

M大統領の国後訪問問題を考える          望月 喜市

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Mの国後訪問に関連し、様々な評論がある。それらを整理し、批判的私見を述
べることにする。

(1)中ロの連携説は間違いだ→中ロ間には、第二次大戦を戦った戦友であり、そ
の結果は固定化 すべきという共通認識がある。中ロ国境問題の最終解決、中国
の資金提供によるロシア石油の 優先確保などの相互互恵的政策を実行している
が、連携して対日圧力をかけていると見るのは 間違い、尖閣問題もMの訪問も
別々の主体的行動だ。日本からみて時期が重なっているのでその ように見える
のだ。

(2)対日外交路線の変更:Mの訪問は、ロシアの最後通告である。ロシアは対日領
土交渉の方針 を180度変更した。つまり日本の領土要求は自民党時代と全く変わ
らず、4島一括返還を唱え、 その論拠を固有の領土論と不法占拠論に求めている。
これでは短期 解決は不可能だ。当分平和条約問題は棚上げにするとの方針を
ロシアは採択した。

(3)内政問題であると主張:そうした対日外交方針の転換を背景に、Mの国後訪
問を(日本の 抗議を無視して)敢行した。あくまでロシアの内政問題であると
し、自分の領有権下・施政権下 にあり、実効支配をしている地域に入るのに外
国(日本)の承認は不要との立場をロシア側は 表明した。

(4)島民の生活水準を引き上げる:島民の生活をサハリン本当並みに引き上げる
と約束し、 地元の支持を取り付けた。強い 大統領のイメージを与えた。訪問を
通じて、4島のインフラ(道路、港湾、空港、地熱発電など) 、住宅、福祉(幼
稚園・病院・学校・小売店など)、産業(魚加工工場:ギドロストロイ)の整備
状況が詳しく報道され、実効支配の実態を裏付けた。この状況はモスクワを始
め、欧州地域のロシ ア住民(および世界)に千島の実態と領土係争状況を強烈
に印象ずけた、これは予想以上の成功で あった。

(5)日本の対応は稚拙:日本が厳重抗議したので、却って国後訪問を実行せざる
をえなくなった (中止すれば圧力に屈したことになり、強い大統領のメンツを
失う)。訪問反対は、島民の生活 水準向上を阻止する行動に直結する。日本政
府の抗議は、島民との友好親善路線に逆行し、 島民を敵に回す結果をもたらし
た。

(6)共同開発や協力行動の可能性:四島の共同開発の可能性は広大である。有望
な産業は、 共同漁業、共同養殖、海上牧場、共同観光産業の開発、天然資源の
共同探鉱・採掘(海域の大陸棚 に巨大油田があるとの報告がある)。協力行動
の分野として動植物相の保護、火山・地震の共同 研究と予知技術や、観測機材
の日本からの売り込みなど。この潜在的巨大な可能性に飛びつく 第3国(中国、
米国、韓国、ドイツその他)が出ないとも限らないし、千島側から第3国へ提携
を 申し込まないとも限らない。そうなれば、日本だけがおくれを取る事になる。

(7)現実を直視せよ:見果てぬ夢をすて、現実を受け入れる路線に切り替え、二
島+アルファ (共同開発)で交渉テーブルに付くべきだ。さもなければ展望は
ない。そして外交関係で、日ロ関係 だけが取り残される。

(8) 経済制裁は愚策だ: 対ロ抗議の手段として、経済協力を縮小すること
が、一部で検討され ている。これは、協力の主体が、相互利益をベースとする
(主として)民間資本であるので、政府が 介入しにくい上、その効力も弱い。
さらに、対ロ経済協力を縮小すれば、その隙間を他国が埋める ことになり、協
力縮小によるロシアへの打撃は期待できないばかりか、日本の国益をも損なう。
あくまで政経分離論で行くべきだ。
          (筆者は北海道大学名誉教授)

 注 この論考は101107、マグマグに掲載したものです。

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