NAFTAの近過去、日本の近未来

■農業は死の床か。再生の時か。      濱田 幸生

-NAFTAの近過去、日本の近未来-

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□アメリカはメキシコの輸入制限枠を無視した


  メキシコのトウモコシに戻ります。NAFTAとメキシコのトウモロコシを語
る上で、問題点はふたつあります。
  ひとつはNAFTAによりメキシコのいわば命の食とでもいうべきメキシコ国
産トウモロコシの輸入量がどのように変化したのか。そしてもう一点は、質の問
題として、遺伝子組み替え・GMトウモロコシの侵入がどのていどなされてたの
かです。この二点を中心に考えていきます。
  なぜこの2点を大事だと私が思うかといえば、たぶん日本が日米FTAを結ぶ
ことになれば、メキシコのトウモロコシに当たる日本のコメがこの運命を辿ると
想像できるからです。
  では、まずNAFTAによる米国産トウモロコシの輸入量をみてみましょう。
アメリカからの輸入トウモロコシは、1991年締結時が131万トンであったものが
、2005年には580万トンと4..4倍に膨れ上がりました。
  なんだそんなていどかと、ふっと読み過ごしてしまうかも知れませんが、トウ
モロコシは実はメキシコ政府が国民の食の基本だとして重要品目(「センシティ
ブ農産物」と呼びます)に特別に指定して保護してあるものなのです。
  ですからNAFTAにおいても1991年から2008年1月1日まで最長スパンで保護
関税が認められていたのです。
  本来、FTAにあっては「例外なしの関税撤廃」が原則です。ですから、当該政
府がこれだけは待ってくれ、という品目(センシティブ農産物)を巡っては熾烈な
交渉となります。日本ではさしずめコメを中心にして、麦、牛肉、豚肉、乳製品
あたりとなるでしょう。
  メキシコ政府はとうぜん国民の主食の地位にあるトウモロコシに対して、高関
税をかけてブロックしようとしました。ただし、さきほども言いましたが、条約
で認められた最長幅である15年間に限ってですが。
  ちなみに私は日米FTAが締結されてしまった場合、15年間ていどしか国産のコ
メを防衛できないと考えています。それはNAFTAの前例が有効だからです。
  それはさておき、メキシコの現実はどうであったでしょうか。上の表(・農民
連「メキシコ農業の実情」より引用)にその内実が無残に現れています。表の中
心を斜め右上に伸びているのが、輸入制限枠です。毎年少しずつ輸入枠が増加す
る取り決めでした。ところが、現実は、斜め斜線で塗られた部分が輸入超過分で
す。
  米国はまったく輸入枠制限を遵守しませんでした。平然と、輸入制限枠を超え
て輸入を増加し続けたのです。 本来、これにかけられるはずのメキシコ政府の
関税損失分だけで12年間累積で33.6億ドルにも登っていると試算されるそうです。

 このようにしてメキシコは、本来の移行期間においてすら主食のトウモロコシ
を防衛できませんでした。そのために今や米国のトウモロコシ輸出国の第1位日
本に継ぐ、第2位の国となってしまったのです。1991年のNAFTA締結前には1
00%の自給率を誇っていたメキシコ国産トウモロコシは、2005年には既に67%に
まで落ち込んでしまっていたのです。
  自分の国の主食も守れんし、米国から関税も取れないなんて、メキシコ政府、
まるでアホやんけ~、と思うのは私だけか。


□アメリカとのFTA締結が、メキシコの穀物生産を破壊した


  では、NAFTAによって引き起こされたメキシコ農業の近過去をみるとしま
しょう。

 特徴的なことは、確かにアメリカ市場向けのトマトなどには伸びが見られまし
たが、すべての穀物生産が大きく減少してしまったことです。メキシコ人にとっ
てトウモロコシに次いで重要な穀物だった小麦は、トウモロコシより一足先の1
0年め2003年1月から関税が撤廃されました。(下図参照・農民連「メキシ
コ農業の実情」より参考のために引用)
  特に小麦は非常にメキシコ農業が強い穀物で、最盛時には440万tを収穫し
て、自給率は130%にも達していました。それが関税が撤廃されたわずか翌年
の2004年には、なんと240万tに半減し、自給率は4割を切ってしまいま
した。
  その原因は簡単です。米国からの輸入量が激増したからです。NAFTA締結
前の1985年にはわずか8万トンだったアメリカ産輸入小麦は、2004年には372万
トンと実に41倍もの増加をしています。
  つまり、メキシコにおいてのピーク時の小麦生産にほぼ匹敵する量が、米国か
ら洪水のように流入てしまったことになります。これで、メキシコの穀物自給が
出来たら、そちらのほうが奇跡です。
  このようにFTA、特に米国とのそれは、米国が異常に大きな輸出補助金をかけ
てまで食糧を国際戦略の道具としてしているために、相手国の農業に致命的な打
撃を与えることがおわかりになりましたでしょうか。


□GM種子企業は、メキシコ農民から原種を奪った


  では、NAFTAで種子がどうなったのかを調べてみました。結論から言えば
、すさまじいばかりのGM化の進行がありました。遺伝子組み換えトウモロコシ
が洪水のように米国から押し寄せてきたのです。
  このGMトウモロコシによる被害はいくつかの側面に分けて見ることができま
す。
  まずひとつは、GM種子が大量に米国から輸入されてしまったために、今まで
メキシコ農民が大切にしてきた多くの原種が失われていったことでした。
  舟山さんもふれている、米国の巨大GM種子企業であるモンサントなどによる、
原種のハンティングが盛んに行われたのです。その中には、密林のインディオ
たちが、先祖伝来大事に保存してきた原種トウモロコシや豆類も入っていました。
これらが奪われていったのです。
  そしてあろうことか、その一部はGM種子企業が商品化してしまい、それに特
許権を設定して独占するという強盗まがいの非道なことすら行われました。WT
O体制下ではTRIPS協定(知的所有権の貿易に関する協定)が有効とされ、
いったん裁判所により特許権を認められると、この。GM種子企業がその販売が
できる唯一の法人となってしまうのです。
  このような方法でマジョコバ種の黒豆がメキシコの貧しい農民から奪われてい
きました。もはや、たとえば先祖伝来のマジョコバ黒豆を栽培するには、GM会
社に特許料を支払うか、その種子を買うしかなくなってしまったのです。

                 (筆者は茨城県在住・農業者)

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