TPPの原型・郵政民営化のウソ

TPPの原型・郵政民営化のウソ

                    濱田 幸生


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■小泉さんウソばっかり
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 私はTPPにずっと既視感がありました。それは小泉−竹中「改革」がやった郵政民営化です。
 2001年の「郵政民営化」の最大のフィクションは、350兆という郵便貯金と簡保資金が財政投融資にジャブジャブと使われており、それが政治家や大蔵省の闇のつかみ金になっているというプロパガンダでした。
 え、違うの?と今でも言われる方は多いと思います。それほどまでに浸透しているウソです。

 小泉純一郎氏は『郵政省解体論』(94年)にこう書いています。
 「巨額の郵便貯金の多くが財政投融資(各種公的資金を財源にして、国の政策実現のために行われる政府資金)という国家予算の補足機関の原資となっていて、いろいろな矛盾や不合理が生じている」と述べています。
 また同時に「郵便貯金は民間金融機関と競合し」、「国家という信用と全国1万の郵便局ネットワークを背景にして、民業を圧迫している」とも書いています。
 要は、小泉氏は民間金融機関より有利な郵便貯金が、いつの間にか国家予算の「外」で自由に引き出せる闇の財源、いわば埋蔵金になっている、これでいいのか!と叫んだのです。
 そして、有名な彼の「民間ができることは民間にやらせろ。なんで国が郵政をしなければならないのか!公務員を減らして国民の負担を減らせ!」という郵政総選挙の絶叫につながるわけです。
 この文脈で、こんな汚い財政投融資を公共事業のバラマキなんぞに使っている「自民党をぶっ壊す」という文脈になっていきます。
 この「小泉改革」を国民が、彼の明るいキャラも相まって大いに支持したのはご承知のとおりです。

 ところが、小泉氏がこの本を書いた94年時点で既に郵政の実態はやや違っていました。
 87年に郵便貯金の金利は市場と連動しており、92年には大蔵省と郵政省との間で定額合意すら出来上がっていました。それが今もある郵貯1千万円限度枠なのです。
 そして「公務員でなければ郵政の仕事はできないのか」と解散演説で叫んでいますが、郵政職員は身分は公務員ですが、給与は郵政三事業の収益から出ているので国民の税負担はまったくゼロなのです。
 小泉さんの「公務員が郵政をやっている」というこのレトリックは、事実を都合よくねじまげています。

 そして2001年には財政投融資は郵貯から完全に切り離されていました。
 つまり小泉氏が郵政総選挙で高らかに叫んだスローガンはことごとく誤認に基づくデマだったということになるわけです。

 小泉氏はあのとおりトンチンカンなお人ですからしかたがないとしても、当時郵政民営化担当大臣だった切れ者・竹中平蔵氏がそれを知らなかったはずがありません。
 彼は郵政改革か小泉さんの明後日の方向に向けられたアジとは関係なく、「小さい政府を作る」ことが目的だと述べています。
 竹中平蔵氏は『郵政民営化「小さな政府」への試金石』(2005年)という本の中で、郵政民営化4ツのメリットを挙げています。

1)350兆円という膨大な貯金・簡保資金が「官」のお金から「民」のお金になること。
2)全国津々浦々の郵便窓口がもっと便利になること。
3)公務員を3割削減して、小さな政府を実現すること。
4)「見えない国民負担」が最小化されること。

 竹中平蔵氏のようなフルブライト留学生上がりの優秀な経済学者が言うと、なんかもっともらしいですが大いに眉唾です。

 なぜ、今頃こんな10年以上も前のことをほじくっているかといえば、来月日本にとって初参加になるTPP協議を迎えて、その原型が「郵政改革」にあると私は思うからです。
 また、産業競争力会議に巣くう新自由主義者たちは、今も小泉改革とまったく変わらないことを言い続けているからです。

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■竹中平蔵氏は郵政民営化は必要ない、と知っていた
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 米国原産の新自由主義が一貫して言うことは煎じ詰めればいくつかに要約できます。
 「政府がやる仕事は非効率である。だから政府の仕事は民間に移管して市場競争にさらすべきである」、というものです。
 そして政府で仕事をしている公務員をどんどん削減して、「国民の見えない負担」を減らしていくことで規制のない「小さな政府」を作ろうというのが、この新自由主義者、別名構造改革論者(新古典派)の人たちの主張です。
 まさにこの新自由主義経済理論に則って進められたのが郵政改革でした。

 では前述の、郵政改革で竹中平蔵氏が挙げた「4ツのメリット」が実現したのかどうか見てみましょう。
 ちなみにこの4ツの中には、小泉首相が郵政選挙の時に叫んでいた「郵貯が財投の財源になっていて特殊法人に流れ込んでいる闇の資金だ」などということはひとこともでてきません。

1)350兆円という膨大な貯金・簡保資金が「官」のお金から「民」のお金になること。
2)全国津々浦々の郵便窓口がもっと便利になること。
3)公務員を3割削減して、小さな政府を実現すること。
4)「見えない国民負担」が最小化されること。
 (竹中平蔵『郵政民営化「小さな政府」への試金石』)

 1)の「官」のお金を「民」のお金にするということは、わかったようなわからないような表現ですが、350兆の資金が市場に流れ込むというのではなく、名義を替えるということのようです。
 つまり、なんのことはない郵貯銀行を民営化することによって、「民間資金化」するというだけのことでした。
 当時財務省にいてこの民営化の制度設計に携わった高橋洋一氏が言うように、郵貯が買っていた「国債を抱える主体が官から民になるというだけて、それ以外なんの意味もない」ということになります。

 高橋氏は、郵政民営化の前と後の資金の流れを調査してこう述べています。(『郵政民営化・政策金融改革による資金の流れの変化』)

[民営化前の財政投融資の資金の流れ]
 ・中央政府・地方自治体へ・・・72%
 ・企業         ・・・19%
 ・特殊法人       ・・・ 9%
[民営化後]
 ・中央政府・地方自治体 ・・・74%
 ・企業         ・・・22%
 ・特殊法人       ・・・ 4%

 一目瞭然のようにやや企業が微増した以外変化は見られません。むしろ政府、自治体関係に対する財投は増えているくらいです。
 つまり、竹中平蔵氏の掲げた350兆円の財投を「官」から「民」にするというのは、そもそもウソだったか、実現していないということになります。
 実は竹中平蔵氏は、「郵政改革が必要ない」ことを誰より知っていました。それは当時小泉−竹中改革の民間ブレーンのひとりだった田原総一郎氏がこう暴露しているからです。(『サンデー毎日』12年1月22日号)

 「ある時竹中平蔵さんから電話がかかってきた。『困ったことになった。小泉さんが私に郵政民営化担当大臣になれという。でも民営化は必要ないんですよ』」
 「小泉さんが郵政相の時に郵政民営化をぶち上げた時には、財投が問題だったから。郵貯で集めたカネを官僚たちが使いまくり伏魔殿になっていた。そこで小泉さんは民営化によって入口を閉めようとした。だけど2001年に郵貯からの財投はなくなった。」

 そして竹中平蔵氏はこう田原氏に言ったそうです。
 「民営化が必要な理屈も一から作るしかない。」
 竹中平蔵氏は郵政民営化担当大臣として、小泉総理が事実誤認をしていることを知りながら、それを修正することなく「理屈を一から作り上げた」わけです。

 つまり、総理大臣は2001年に郵貯が財投に流れ込むのがなくなったことを知らず、担当大臣はそれを知っていて自分の新自由主義経済理論を実行するいいチャンスが到来したと考えたということになります。
 それが米国で竹中平蔵氏が若き日に注入されてきた新自由主義政策、つまり「政府がやる仕事は非効率である。だから政府の仕事は民間に移管して市場競争にさらすべきである」というものだったわけでした。
 まさに言葉本来の意味での「御用学者」の竹中氏がしたことは、郵政をバラバラにして、「政府の仕事を民間がする」ことでした。ではその結果どうなったのでしょうか?
 彼の言うように無駄が削られて、郵便局窓口がより便利になったのでしょうか。
 
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■地域のヘソだった郵便局はボロボロ
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 竹中平蔵氏(当時郵政民営化担当大臣)が郵政民営化の「4ツのメリット」で挙げた「郵便局の窓口がもっと便利になる」という、国民にとってのメリットは実現されたのでしょうか。
 これは私たち利用者は肌で感じられているはずです。明らかに不便になりました。
 日本郵政公社が、小泉−竹中改革でバラバラにされて「日本郵政グループ」という5ツの事業体に分割されました。
 日本郵政株式会社の下、郵便事業会社、郵便局会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の4ツが位置づけられました。

 いままで「郵便局」という一括りの中の業務が、郵便局という器だけ残してその中に4ツ壁を作ってしまったのですから、竹中氏のいうように「もっと便利になる」道理がありません。
 竹中氏は郵便局が便利になるというアイデアに、郵便局にコンビニを併設するということを言ったことがありました。
 あれを聞いた時に、私は失笑したことを覚えています。ああこの人は、郵便局のことなど今まで一度も真面目に考えてこなかったんだな、と。
 郵便局の「便利さ」とはコンビニをつけることではありません。郵便局というのは地域のヘソでした。郵便局には単なる金融機関を超えたコミュニティセンターの役割があったのです。

 よく村の郵便局のベンチでのんびりと話をしているおじぃやおばぁに出くわしたものです。
 この人たちは郵便局に行きさえすれば、年金の受給から、孫のため積み立てている郵貯や、東京に行っている娘にゆうパックを送れるまさに「便利な」場所だったのです
 ところが、ひとつの郵便局の中に郵便、郵貯、簡保が「別な会社」として同居しているのですから煩雑にならないわけがありません。
 まったくバッカじゃなかろうかと思いますが、利用者は郵貯にお金を出し入れし、簡保の手続きをし、郵便小包を出すという今までならスラスラと行われてあたりまえのことを、別々の窓口で会計処理をせねばならず、信じがたいほど不便になりました。

 郵政「改革」の前の郵便局は、郵便配達のおっちゃんが郵便配達がてらに簡保の集金をしてくれたり、顔見知りの近在のおばぁにいちいち身分証明の提示を求めるなんてヤボなことはしませんでした。
 郵便局員は、地域の家庭の事情を頭に入れており、喧嘩をして実家に帰ってしまった奥さんには実家の方に郵便物を転送するくらいのことはあたりまえにしていたもののでした。
 今の郵便配達は、練達の郵便職員の多くがアルバイトやパートに替わってしまったために誤配ばかりが目立ちます。
 郵政民営化以降、金融庁が銀行に課している規制ばかりが重視されるようになった結果、悪いところだけ銀行に似るという弊害が現れました。

 震災の後に局舎が流された被災地では、この民営化の弊害が噴出しました。
 東北の被災地では、「郵便局会社が郵便事業会社に自動車を借りようとしても借りられない。自転車やバイクでさえダメだった。自動車の燃料の融通も効かなかった。保険業務では本人確認する際に居住データが必要だったが、郵便事業会社がデータを持っているのに保険事業会社には貸せない。結局、一軒一軒避難所をまわって調査した」、などという泣くに泣けない話がたくさんあるそうです。
 ならば、預金制限1千万などがあって面倒なだけの郵貯などより、一般銀行のほうが利用しやすいということで、従来は郵便局が磐石の地盤をもっていた地方でも沢山の顧客を逃がすことになりました。

 今まであたりまえのように近所にあって、とんでもない山奥まで切手90円で手紙を届けてくれた郵便局を水か空気のような存在だと思っていました。
 子供が学校に上がる頃になると、そろそろ学費積み立てをやりますかと勧めてくれたり、年金の受け取りをわがことのように心配してくれた「郵便局」はもうありません。
 ばぁさんの葬式にそっと参列してくれた局員もいなくなりました。郵便局は今やパートの主婦だらけです。そして遅配が社会問題化しました。

 私は日本には広い意味での「公共インフラ」があると思っています。
 それはまず国土そのものであり、その上に築かれた道路網や治水、港湾、空港、エネルギー部門などであり、国民の生活の土台を保障する医療、教育、農業、郵政、土木、警察、防衛、行政などでです。
 これらはユニクロの服のように、「日本で作るより安くていいから、中国で作ろう」というように安易に考えてはならない日本という国家の骨格のようなものなのです。
 これをただ価格だけ較べて非効率だから民営化しろとか、果ては外国企業にもやらせたらいいんじゃないかと考えるのが、新自由主義者の「改革」です。

 我が国でも既に、郵政民営化や道路公団の民営化がなされており、いままた農協JAにまで「改革」の手が伸びようとしています。
 JA農協が解体された場合、我が国の農業のみならず地域経済の背骨をへし折られることになります。ちょうど郵便局がそうであったように。
 今、都知事をしている猪瀬直樹さんが旗振りをした道路公団の分割民営化がいかなる結果をもたらしたのかといえば、それはメンテナンスが削られたことによる笹子トンネル崩落事故のようなインフラの非常事態でした。
 この世には安易な経営効率化が許されない「国家の骨格」のような場所があるのだということを、いいかげん私たちは知るべきではないでしょうか。

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■優良事業体が年間1000億円の赤字会社に転落
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 あれだけ「公務員がやったから非効率的だった。民間企業になれば画期的に業績は向上するはずだ」と言ってきた郵政改革以後、さぞかし収益を延ばしていると思われるかもしれません。
 ところが残念ながら、民営化後の日本郵政グループは、巨額赤字を計上し続けて業績を悪化させています。

 初めて日本郵政が大変な体質に転落していることがわかって、国民に衝撃を与えたのか2011年のことでした。
 2011年1月に日本郵便が総務省に提出した、2010年9月期の中間決算の赤字に関する報告書には、このように重大な経営危機が報告されています。

 「抜本的な収支改善に早急に取り組まなければ、毎年度1000億円を超える営業損失が拡大していくおそれがあると考えます」。

 日本郵便は中間決算で実に928億円もの営業赤字に転落、通期では1185億円もの巨大赤字を生産する会社に転落してしまいました。
 そして、これは改善の見込みは薄く、来期も970億円の営業赤字と、2期で2100億円を越える赤字が出ると報告しています。
 郵政公社の時代には、下半期には年賀状特需があるために黒字転化するのですが、それすらも焼け石に水の状況が続いているようです。

 その原因は、JPエクスプレス(JPEX)だと言われています。JPEXは郵政民営化の目玉事業と期待されていた宅急便部門です。
 公社時代から赤字経営だったゆうパックと、同じく赤字経営だった日本通運のペリカン便の2弱が宅急便部門だけを統合して、2強のヤマト運輸と佐川急便に対抗しようという目論見でした。
 しかしこの事業統合は、ゆうパックの準備不足などがあって不調に終わり、JPEXは設立以来赤字を垂れ流し続け、最終的に1000億円近い累積損失を出して、JPEXに86%の出資を行っていた日本郵便は出資の丸損と融資の貸し倒れで、前期だけで約860億円もの損失を計上してしまいました。
 しかもこの巨額赤字のJPEXを、郵政会社が事業と従業員もろとも引き受けたのですから、どうなるかは火を見るより明らかでした。

 「郵政民営化委員会委員の野村修也・中央大学法科大学院教授は『考えられない経営判断のミス。通常なら、株主が日本郵政グループの経営陣に対して代表訴訟を起こせば容易に勝訴できるケースだ』。」(『週刊ダイヤモンド』2011年4月5日)

 もちろん「国有民間企業」というあいまいな存在ですから、株主代表訴訟などはできませんが。
 この経営失敗を、賞与支給を年間4.5カ月から3.0カ月にまで引き下げした結果、590億円もの人件費圧縮をしてなんとか息をついている状況です。
 この人件費抑制がなければ、「約120億円の減益だった」(日本郵政執行役員高橋亨氏)だったのです。
 つまり人件費に手をつけるという非常手段を用いなければ、年間2000億の赤字をダダ漏れさせる巨大赤字会社にすぎないまでに転落したということです。
 また本業の郵便物の遅配や、かんぽの宿売却の迷走など、経営不祥事が絶えない一方、「民間企業」としての経営の自由度や商品開発には強い制限がかかったままです。

 今年に入ってからも、米国はTPP事前交渉の中で簡保生命の新商品についてクレームを出してきており、それを受けた日本側が発売を凍結するといったふざけた内政干渉まがいの事態も生じています。
 あらためて、竹中平蔵さんにお聞きしたいのだけど、民営化するっていうのはどういうことなんでしょうね。
 規制をはずして民間会社の活力を取り入れ、利用者にはより便利に、会社にとってはより事業収益が上がる、ということじゃなかったのですか。
 ところが、現実はこうです。

・業務形態   ・・・より煩雑、奇怪に。従来の部門間相互連携が不可能に
・業績     ・・・悪化の一途。1年間で1000億の赤字垂れ流し
・労働条件   ・・・人件費切り下げ。パート雇用激増
・利用者の利便性・・・局数が減り、より煩雑になり低下
・規制     ・・・1千万円上限など公社時代と一緒
・外圧     ・・・米国からのクレームひとつで新商品発売もままならない。

 なんかいいことがひとつでもありましたか。これは立場の見方によるなんてものではなく、誰しもが認める民営化の結末なのですよ。
 国会議員も大部分わかっているが、覆水盆に戻らずというだけで、誰も責任をとりたくないから眼をそむけているだけです。

 竹中さんはもうすっかり郵政民営化なんか忘れて、新たな「規制緩和」を提言していらっしゃいます。しかし、あなたの原点だった郵政民営化の惨憺たる現状を見てからにしてからのほうがいい。
 竹中さんは、国民に大変な出血を強いて、その代償に利用者には不便を、そして職員には賃下げとパート化を強要し、健全事業体を大赤字会社に蹴落としました。
 初めから郵政職員は身分は公務員でも、郵政3事業の収益から賃金を支払っていたので、国民の税金で雇われていたわけでもなんでもなかったのです。
 そして地域住民は郵便局にはなんの不満もありませんでした。コンビニを付け足してくれ、なんてバカな要求がひとつでも上がっていたのでしょうか。

 それを地域コミュニティセンターの役割も果たしていた郵便局を破壊して、得られたのが年に1000億の赤字を垂れ流すボロ会社の集まりだけだったのですよ。
 これが小泉純一郎と竹中平蔵両氏がやった「聖域なき改革」のグロテスクな結末です。
 私たちはいつの日にか再び、「郵便局」を国民の手に取り戻さねばなりません。
 新自由主義者は、与党にも野党にも経済界、マスコミにも多く存在します。政党として純化した新自由主義政党は維新の会とみんなの党です。
 TPPはありとあらゆる分野で、郵政改革のような無意味かつ有害な「改革」とやらを開始することを意味します。もうこれ以上、彼らに日本をいいように「改革」させてはなりません。
 
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■郵政民営化の「成功例」ドイツポストの惨状と米国のダブルスタンダード
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 ドイツは、日本の郵政民営化の成功事例としてもてはやされていました。しかしそれも虚妄だったようです。゛
 ドイツ・ポスト(ドイチェ・ポスト)は現在経営難に陥っていると伝えられます。ドイツポストは、子会社であったポストバンクが売却が準備段階に入っているようです。
 ドイツ政府は1990年頃から、公共事業体の見直しに着手し、1995年にそれまであった国有の「ドイツ連邦郵便」を3ツに解体した上で、株式会社化・民営化しました。
 その結果出来たのが、ドイツテレコム、ドイツポストバンク、そしてドイツポストでした。
 まさに日本が辿った道そのままというか、そのお手本となった事例です。脱原発といい、発送電分離といい、日本人は「ドイツがこうやった」というのに極度に弱いみたいですね(苦笑)。

 ドイツポストは民営化以降、絶好調にみえました。
 まず、97年に民間文房具店のマックペイパーを買収し、02年に国際宅急便会社として世界的ネットを持つDHLまでを100%子会社にしたときには、得意の絶頂だったと思います。
 その勢いは止まることなく、EU統合を追い風にして、その恩恵を目一杯受けて米国、オランダ、イタリアなどの大手企業を次々にM&A攻勢をかけて傘下に納めていきます。
 しかし08年、その行き足がパタリと止まり、一気に崖を転げ落ちるようにして経営悪化が始まり、巨額の赤字転落を計上するようになります。
 その引き金となったのは、最初に巨額の資金で買い込んだ米国DHLの業績不振でした。
 JPエクスプレス(JPEX・宅急便事業)で巨大赤字を作った日本郵政会社とそっくりなことを、ドイツもやったようです。

 そもそもドイツ連邦郵便は、郵便事業が中心でした。
 ドイツ連邦郵便の営業利益の比率は以下です。

・郵便事業(ドイツポストへ民営化)   ・・・65%
・金融(ドイツバンクへ)        ・・・21%
・宅急便や輸送業務(DHLなどを買収) ・・・それぞれ7%

 一見して分るように、連邦郵便の本体は郵便事業であったにもかかわらず、本業以外の宅急便などの買収に巨額の資金投下をしたために経営が圧迫されたのでした。
 そしてこの「本業」の郵便事業は民営化によって著しくサービスが低下し、国民のドイツポスト離れをもたらすことになります。
 民営化前の90年当時、2万9000あった郵便局は03年末には1万3千と半数以下にまで激減しました。
 地方で郵便局の多くが廃止され、配達回数すら半減し遅配が恒常化しました。まさしくわが国が民営化でやたことをドイツもしっかりと繰り返しているのが分かります。

 ただ違うのはわが国が、米国の年次要求書に沿った金融開放の中で、民営化を決断した受け身の開放だったのに対して、ドイツはむしろ自国が主導したEU統合の流れの中でのグローバル化であったことです。
 しかし、本質において、グローバリズムの中で、「国の骨格」のひとつである郵政事業を手放してしまえば、どのようなことになるのかがお分かりになるだろうと思います
 そして、ドイツにおいては2月には、ドイツ・ポストを黒字転換したことで英雄とまで言われたドイツポスト前会長のクラウス・ツムヴィンケルが、巨額の脱税容疑で逮捕されるという事件にまで至っています。
 そして今、経営再建のためにもともと連邦郵便の頃には同じ事業体だったドイツバンク株を売却するという自らタコの足を食べるようなことをするまでに至っています。

 ところで、世界各国で郵政民営化の成功例は皆無に等しいとすら言われるようになっています。各国事例をざっと見てみましょう。

・フランス・・・国営郵便「ラ・ポスト」が「郵政の自由化に備える」として、一部地域で実験的にコスト削減、不採算局の縮小・整理統合を進めた結果、たとえばロワールアトランティック県では26の郵便局が9に減らされた。現在、全国で地方を中心に、約5千の自治体首長が連盟で反対署名。

・スウェーデン・・・93年に「郵政自由化・規制緩和実施」して以来、約10年で郵便局数は5分の1、郵便料金は2倍になる。経営も赤字に転落。02年の赤字額は8千700万ユーロ(約116.6億円)。資産の大半を解体して売却。切り売りされました。

・英国・・・英国郵便「ロイヤルメール」が02年年、自由化に向けて全国9千の郵便局のうちその3分の1にあたる3千の閉鎖。しかし、地方からの猛反対で地方では局数を維持。

・ニュージーランド・・・87年に、郵政民営化で三分割され、郵貯はオーストラリアの銀行に売却。しかし国民からは極めて不評で、小口口座の運営、低利融資などかつての便利な郵貯の復活を求める世論が高まり、02年、郵便貯金の「キウイ銀行」が誕生し拡大している。

・米国・・・ブッシュ大統領命令で設置された郵便改革のための委員会が、03年報告でこれまでどおり政府機関のままとし、民営化を退ける答申を提出。
 米国郵政民営化検討委員会報告書には「ユニバーサルサービスの品質を維持しながら、郵便利用者の負担と納税者の負担を最小限に止めるように努力しなければならない」と述べられている。

 このように世界各国は、ことごとく郵政民営化や「規制緩和」は失敗するか、それを学んで民営化を中止する方向に動いています。
 この失敗事例に我が国はもう一頁汚点の章を付け加えたことになります。
 実はこれらの各国民営化事情は、日本の郵政民営化以前から知られていたものです。
 しかし、小泉首相と竹中平蔵郵政民営化担当大臣はそれを無視し、ニュージーランドの事例すら成功といいくるめて国民を煽ったのです。その罪は重いと言えます。

 それにしても、米国は自分の国では「納税者の負担を最小限にするためにユニバーサルサービスを維持しろ」と正論を言っておきながら、我が国には郵政民営化を押しつけてくるとは、いい度胸ですな。
 自分の国でやらないひどい政策を外国にやらせて、ガタガタにしておいて火事場泥棒のように自国金融の餌に巻き上げてしまう、これが正しいグローバリズムのあり方なのです。

 TPPもまったく同じ文脈でやってきます。気をつけよう。甘い言葉と「改革」の二文字。

※参考文献 東谷暁『郵政崩壊とTPP』

 (筆者は茨城県・行方市在住・農業者)


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