~ゆっくりと燃えている導火線―人口高齢化~

■ 海外論潮短評(26)

~ゆっくりと燃えている導火線 ― 人口高齢化~    初岡 昌一郎 

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 お馴染みのロンドン『エコノミスト』誌は2009年6月27日号に掲載した
、16ページにわたる長文の中綴じの特別報告「高齢化人口特別報告」が上記の
見出しをつけている。この週刊誌は、発行元のイギリス本国よりも海外での購読
部数がはるかに多いので、おそらく郵送料を節約するためと思われるが、ページ
数を圧縮するために活字を非常に小さくしている。情報がぎっしりと詰まってい
るのは良いのだが、私にとっては拡大鏡の助けなしにはとても読めないのが辛い

 日本でも高齢化社会の進行は危機感を持った議論の的になっている折から、問
題を世界的観点から考察した議論は興味を引くので、提起されている主な論点を
やや詳しく紹介する。報告要旨の忠実な要約というよりも、評者の視点から選択
的に内容をピックアップしたことをあらかじめお断りしておく。しかし、特別報
告の大意が害われていないように留意した。


◇進行する高齢化の影響予測に慄然


 深刻な不況、巨額な救済のための財政支出、増大する失業という当面する喫緊
の課題から視野を広げ、低成長、低生産性向上、公共支出増大、労働力不足とい
う中期的な問題に目を向けると、人口の高齢化に突き当たる。国際通貨基金(I
MF)の計算では、現在の金融危機対策向け巨額財政支出はG20諸国の公的債
務をGDPの8%にまで押し上げる。しかし、これも2050年までの高齢化関
連コスト予測に比較すると10分の1に過ぎず、ささやかなものと映る。高齢化
コストの90%は、年金、保健医療、長期的ケア向けの支出である。

 先進世界の人口は急速に高齢化しており、後進世界も僅か数十年遅れているに
すぎない。国連の最新世界人口予測によると、2050年までに中間年齢が現在
の29歳から38歳に上昇する。現在、69億人の世界人口の中で60歳以上は
10%以下にすぎないが、国連予測では、2050年(世界人口90億以上)ま
でにこの割合が22%に達し、先進国では33%になる。換言すれば、先進国で
は3人に1人が年金生活者となり、9人のうち1人が80歳以上になる。しかし
、こうした予測可能な将来に本格的対策を講じつつある国はあまり見当たらない


◇高齢化社会化の原因は何か


 二つの長期的な理由と、向こう2,30年間に現れる特殊要因がある。最初の長期
的要因は、各地で寿命が延びていることだ。1900年当時に生まれた人の平均寿命
は世界的に30歳で、富裕国でも50歳以下であった。その数字は現在では、それぞ
れ67歳と78歳になっている。第二のより大きな要因は、各地で子どもの数が減り
、人口構成のバランスが崩れていることだ。この傾向は先ず先進国で現れ、今や
途上国でも顕著になっている。1970年代には女性一人あたり4.3人の子どもがい
たが、今では世界的に2.6人、富裕国では1.6人にすぎない。2050年には全体の平
均的数字が2人に下がり、世界人口は頭打ちとなると国連は予測している。

 特殊要因は、先進国における長寿化が戦後ベビーブーム世代の引退と現役世代
の少子化に重なっていることだ。向こう20年間、先進国では年金生活者が急増し
、労働人口の割合が急減する。アジアでも日本、韓国、台湾において既にこの傾
向が進んでいるが、今後さらに拍車がかかる。ヨーロッパでは、ドイツ、イタリ
ア、スペインで今や家族が小さくなっており、高齢化が進行している。他方、フ
ランス、イギリス、北欧では子どもがより多く、若さを保っている。東欧と特に
ロシアでは出生率が低く、しかも寿命は伸びていない。

 ほとんどの開発途上国はまだ高齢化に悩んでおらず、エイズが多くの成人を失
わせているものの、人口は依然として若く、今後数十年はその状態が続くであろ
う。しかし、長期的には先進国と同じ傾向が必ず出る。その前にも高齢者の絶対
数が激増するのは、これらの諸国は既に人口過剰となっているからだ。

 中国では既に高齢化が急速に進んでいる。この理由は過去30年にわたって人口
を厳しく抑制してきたからだ。一人子政策と呼ばれているが、実際の平均は2人
弱。人口は2030年に14.6億人でピークに達し、その後は減少に転ずる。


◇労働者減少による負担増


 労働人口と被扶養者人口のバランスがドラマティックに悪化する。一例を挙げ
ると、高齢化の最も進行している国の一つである日本では、現在3人の労働者に
たいし年金生活者1人であるが、2050年には2対1となる。社会にとっては、子ど
もよりも高齢者の負担が大きくなる。OECD予測によると、先進国の労働力減
少が、今後30年間の経済成長率を過去30年に比較して3分の1引き下げる。

 公共財政にとっては、税収が減り、支出の増える高齢化は頭痛の種だ。高齢者
の政治意識は若者よりも概して高く、投票率も高いので、政治家はその要求を無
視できず、年金や医療の支出を容易には減らせない。不況時には政府の施策にた
いする期待はむしろ高まる。

 年金収入が減り、労動力需要がタイトになると、高齢者が労動を続ける傾向が
高まる。ほとんどの先進国は働く意欲と能力のある高齢者を上手く活用していな
い。現状では、高齢者の雇用機会は限られている。


◇ほとんどの先進国は少子化


 女性に子どもを増やすのを薦めることは政治的な危険を伴なう。ラジカルなフ
ェミニストは‘産めよ、増やせよ'に反対だ。ドイツ、ポルトガル、スペインで
はファシストの主張を想起させる。しかし時代は変化し、現在ではいくつかの国
で積極的に大家族が奨励されている。

 富裕国では、晩婚と高齢での初産がかなり一般化している。これは女性が高学
歴となり、その後に有給の仕事につくことの結果であると考えられている。しか
し、最近では高学歴化と出産率向上は両立すると見られるようになった。

 近代社会では、子どもは財産ではなく、負債とみなされる。食べさせ、着させ
、面倒を見、学校に行かせ、遊ばせなければならない。子ども一人を持つ家族が
子どものない家族と同じ生活水準をたもつためには、30%以上の収入が必要とエ
コノミストはみている。解決法は、母親が外に働きに出ることなのは明白だ。

 人口若返りを図ろうとする政府にとって選択可能な道が明示されている。OE
CD加盟16ヶ国における調査は、女性の高い就業率と政府による母親向け現金給
付の間に密接な連関性があることを示している。有利なパートタイム職、有給育
児休暇、フォーマルな育児ケアの充実している国では出生率が上がっている。フ
ランスと北欧諸国がそのような政策を採っており、人口維持に必要なレベルに出
産が増えている。これは安上がりなものではなく、GDPの4-5%が直接的な家
族給付に向けられている。日本や南欧諸国はこれよりはるかに低く、出生率も応
じて低下している。

 このような政策を採用していないアメリカの人口が代替可能レベルにあるのは
この法則の例外で、若い移民の流入や10代女性の婚外出産率が高いことによる。

 国連予測では、先進国の出生率は現在の努力が実を結び、先進国の特殊出生率
は、2050年までに女性一人当たり1.8人に回復するとみている。国連の専門家た
ちは、経済的先進国に達すると人口が減少するのは必然ではなく、政府の政策次
第だという結論を下している。しかし、究極的には個人の判断によるので、子ど
もがいらないという人に政府の打つ手はない。


◇長寿のメリットとコスト


 旧約聖書の創世記によると、ノアの洪水以前のユダヤの族長メトセラは969歳
まで生きたとされている。神話や伝説の登場人物には長命者が多いが、記録され
ている歴史では3桁の歳を重ねた人は稀だ。経済史家は、西暦1000年までの最初
のミレニアムでは、平均寿命は25歳であった。これは幼児や子どもの死亡率が高
かったことによる。

 産業革命以後に大きな変化が生じ、衛生状態の改善、栄養の向上、疫病の抑制
により、幼児死亡率が激減した。その後も、20世紀を通じて寿命は延び続けた。
国連予測では、2050年までに世界的に平均年齢が現在の68歳から76に、富裕国で
は77から83に延びる。女性は男性よりも5-6年長生きするが、その理由はまだ十
分解明されていない。

 長寿化はまだまだ続くと見られているが、その原因は医療と技術の進歩だけで
はない。過去数百年に体位が向上し、環境と生活条件の制御がすすんだからであ
る。西欧人の平均体格はここ250年間に50%大きくなった。

 だが、長寿化は無限ではなく、その趨勢はスローダウンすると見られる。現在
の主な死因は、癌、心臓疾患、糖尿など完治困難な慢性病である。加えて、エイ
ズ、SARS,鳥・豚インフルエンザなどの新大型流行病の脅威がある。また、
政治的人災や環境的大災害の危険もある。

 現代生活には寿命引き下げの要因がある。その代表的なものがストレスと肥満
。多くの富裕国では人口の20%、アメリカでは30%が肥満だ。そのような要因が
長命の要因を相殺するかどうかはまだ不明である。
過去数十年、全てのOECD諸国で保健医療支出が経済よりも速く伸びている。

 この傾向は今後も変わらず、今世紀半ばまでにこの支出にGDP3.5%の付加
的増加があるとOECD専門家は予測している。OECD諸国の長期ケア支出は
保健医療支出総額の15%になっており、急増中である。高齢化の進行や女性の労
働力化の拡大が高齢者ケアのニーズに拍車をかける。

 ほとんどの先進国で65歳以上の僅か3-6%が施設で暮らしている。養老施設
は高額な費用を要し、スタッフが不足しいている。また、ほとんどの人が自宅で
介護されることを好む。多くの国が現在は自宅での介護に従事する家族にも手当
てを支給している。他人に介護を頼むよりも効果と満足度が高い。


◇けちけち節約 ― 年金支給額の低下


 最近まで年金生活者はそれほどお金に不自由せず、快適な生活を享受できた。
OECD加盟国の強制加入制年金の給付は平均して以前の所得の70%以上、低所
得者にとっては80%以上であった。ほとんどの国で65歳が退職年齢の基準だが、
平均すると59歳で満額年金資格を取得して退職生活に入っている。退職後に長生
きする人が増加するにつれて、年金原資は逼迫している。

 先進国において年金生活者20人にたいして100人が働いていた1980年代には、
年金生活者に気前よく給付をだすことが出来た。年金受給者の割合が既に25%と
なり、2050年までに45%に達する。いくつかの国にでは事態がさらに深刻で、日
本はその間に70%にも達しそうだ。

 先進国では、たいてい公的年金が退職者の主要な収入源である。その一般的な
原則は基金積み立て方式ではなく、年間国家予算からの支払いである。つまり、
今日の労働者が今日の年金を負担する。積み立てた原資から支払うのは民間年金
の方式である。

 多くの西欧諸国は既にGDPの8%程度を年金に支出している。ドイツ、イタ
リア、フランスはそれよりもかなり高い。このまま推移すれば、いま7.7%の国
は2050年には15%になる。高齢化の深刻な日本や一部西欧諸国は20%以上となる
。現状維持のシナリオでは、医療の公的支出も急上昇し、この2項目だけでGD
Pの約25%になる。

 ここ数十年間、かなりの西欧諸国政府は労働者に早期退職を勧奨してきた。若
年者に雇用機会を譲る目的のためだ。これは労使双方から歓迎され、早期退職者
が増えた。若年者雇用の効果は疑わしいが、西欧における退職者の年齢を公式な
定年よりはるかに引き下げられた。2004年には、OECD諸国全体で50-64歳年
代の僅か60%が働いていた。

 年金支出の増大によって、早期退職制度の解体が政治的抵抗を押し切って始ま
らざるを得なくなっており、今後はもっと多くの労働者が公式定年まで働くよう
になるだろう。かなりの国で、年金支給年齢の引き上げや年金減額も俎上に上っ
てきているが、これにたいする政治的抵抗は強い。イタリアのように現在既に行
き詰まっているところでも、2017年からようやく高額所得者のみ年金が減額され
ることになった。他の国でも年金減額は検討されているが、いずれも高所得者を
対象としており、低所得者の年金を下げることには慎重である。


◇倒れるまで働く ― 定年が野放しに


 定年退職の本来の考え方は、長い労働生活の後に少しの休息を享受すべきとい
うことだった。しかし、その休息が4半世紀にまで及ぶとは誰も想定していなか
った。いくつかの国は既に公的定年を延長しており、定年自体に意味があるかを
論議している国もある。かなり広く提唱されている構想は、定年を何年かにわた
って段階的に実施することだ。突然定年退職するまでフルタイムで働くのではな
く、徐々に労動の負担を減らしながら退職を迎えるように設計し、定年を延長す
る。

 経済的な観点からすると、数年多く働かせることで高齢化に伴う多くの問題を
解決できる。年金を節約できるだけでなく、税金や社会保障掛け金の納入を継続
させるので、二重の効果がある。

 深刻な不況下で失業が増加している時に、高齢化による労働力不足を想定する
ことは場違いと思われそうだが、一部の国と若干のセクターでは既にこの必要性
が現れている。ドイツでは、2007年に約7万人のエンジニア不足が確認されてお
り、これは前年比5割増であった。ギャップを埋めるために、企業は50歳以上の
技術者の再雇用に乗り出している。

 多くの国で年齢を根拠とする差別を禁止する法律がある。その先鞭は、1967年
にアメリカが雇用年齢差別禁止法を制定したことにある。この法律はその後数回
の改正を経て、ほとんどの仕事にたいし年齢を理由とする強制退職を禁止してい
る。2000年のEU指令は、年齢などいくつかの理由による雇用上の差別を禁止し
た。

 ほとんどの国で熟練度がますにつれて賃金が上がる。フランス、ドイツ、スペ
インなどでは、定年まで賃金が上がってゆく。そこに若い労働者の雇用を進める
理由がある。使用者は高齢者の適性に懐疑的だ。広範な調査が、多くの仕事で中
年以降に生産性が低下することを示している。さらに、人手不足が著しい“3K
”(きつい、汚い、危険)労動は、元気な高齢者にも忌避される。使用者が、高
齢者による新技術、特にIT関連技術の習熟を疑問視しているのは理由なしとし
ない。

 しかし、高齢者に対する留保には個人差がおおきい。現代産業における生産性
は個人よりもチームワークに依存しているので、老壮青の組み合わせが最上と見
る専門家がいる。企業における経験と知識が担当者の引退共に失われるのを防ぎ
、それを継承するのに高齢者雇用が役立つことは実証されている。

 反面、高齢者をフォーマル経済に長く留めておくことは、彼らが現在無償で行
なっている活動を阻害することになる。多くの定年退職者は様々な社会的ボラン
ティア活動を行っているし、孫や老齢の親の面倒をみて、様々な家事をこなして
いる。経済指標に現れないこれらの活動は、高齢者が経済活動を継続するように
なれば、有給労動による代替を余儀なくされるか、まったく行なわれなくなる。


◇中国的苦境 ― 豊かになる前に高齢化


 中国には老人ホームは稀で、65歳以上の僅か1%をケアしているにすぎない。
圧倒的多数の老人は家族と暮らしている。家族による老人のケアは、年長者と経
験を尊重する儒教文化に基づくだけではなく、1996年に制定された法律による義
務である。この法的義務を家族が怠った場合には、老人はそれを訴えることが出
来る。現在のところ、制度的ケアは身寄りのない老人の究極的な避難場である。
収容者の多くは身体的もしくは精神的障害者である。

 しかし、以前よりも働き手が流動化して、居住地が変わるようになると事情も
変化する。中国はまだ相対的に若い国で、中間年齢は30歳である。だが、開発途
上国としては異例の高齢化が加速化している。2050年には中間年齢が45歳に上昇
し、勤労年齢層に依存する高齢人口は現在の10%から40%に急増する。この傾向
は近隣東アジア諸国でも既に顕著であり、中国に特殊的なものではないが、違い
は中国人がまだそれほど豊かにならない前に高齢化していることにある。

 20年前までは、都市労働者には国営企業という“鉄の大鍋”のなかで基礎的な
セーフティーネットが提供されていた。だが、開放経済下ではこれが失われ、そ
れに代わる社会的な保護はまだ初歩的な段階にある。

 主たる関心は年金と医療に向けられているが、保健医療制度はつぎはぎで、農
村では事実上存在しない。健康保険の権利は一般的に移転不可能で、他の地域に
移ると適用されなくなる.適用される場合でも自己負担額が大きく、高年層や難
病者には負担しきれない。中国の高齢者問題シンクタンクが行った調査では、60
台以上の人の医療費は半分以上が自己負担であり、残りは家族が負担している。

 今年4月、中国政府は「安全、効果的、便利かつ負担しうる」保健医療制度を20
20年までに創設すると発表した。2011年には人口の90%が対象になるとされてい
る。農村では患者としての治療費だけがカバーされ、払い戻し額は低いレベルに
とどまっている。

 年金制度も流動的だ。1990年代に政府が公表した3層システムでは、(1)労使
の拠出制による普遍的年金、(2)労使拠出による個人年金、(3)個人貯蓄と
なっている。しかし、制度はたびたび改正されており、これまで何らかの年金制
度によってカバーされているのは人口の3分の1にすぎない。個人年金基金の運用
には制約があり、積み立ては捗っていない。

 中国人の平均寿命は50年前からみると、25歳延びて74歳となった。労働者は50
台で引退する慣行になれており、使用者はこれまで若者を思うように雇用できた
。しかし、状況は将来急速に変化し、若年労働者の不足がまもなく到来し、定年
延長が日程に上らざるを得なくなる。

 昨年緊急経済対策として発表された40億元の包括策は、公共インフラから福祉
に再配分されている。中国の財政状態は国際的基準から見て良好なので、唱道さ
れている「調和社会」の実現にもっと投資できるはずだ。


◇未知の世界に突入


 1990年代初めまでに、高齢化社会について考えた人はほとんどいなかった。国
連は先見の明を示し、1982年に早くも高齢化に関する世界会議を開催した。1994
年には世界銀行が「高齢化危機を回避するために」と題する報告を発表したので
、重大な事態が発生しつつあることに注目が集まるようになった。

 しかし、関心が行動に移された形跡はあまりない。富裕国の政府は今や年金と
医療の現行制度を維持できなくなることを認識しているが、改革はおずおずした
ものにすぎない。目前に総選挙を控えた政治家は、はるか先に成果を生む改革に
は及び腰だ。

 必要な改革のアウトラインは明白になっている。財政破綻を回避するためには
、公的年金と医療給付を厳しく引き締め、税金を引き上げなければならない。年
金支出を抑制するもっとも効果的な方法は、働く機会を延長することである。そ
れによって税収が増え、社会保障掛け金が入る。

 もう一つの道は、若年人口が増えている開発途上国から労働力を受け入れるこ
とである。既に多くの先進国がこの道を選び、これによって労働市場だけではな
く、年金や社会保障制度の維持を図っている。既に先進国の労働市場に流入する
若者が国内的に激減することが予想されているので、これまでよりもはるかに多
くの移民労働者を受け入れざるを得なくなる。これが政治的社会的に許容される
かという別の問題が立ちふさがる。

 2025年までにはアメリカとほとんどの西欧諸国の有権者の過半数が50歳以上と
なり、彼らが政治を左右する。よく言われる世代間戦争の兆候はないし、そのよ
うな対立は主要なものとならいだろう。それは高齢者もその子どもや孫のことを
忘れないからだ。しかし、先進国は次第に老い、革新を失い、リスクをとらない
ようになるだろう。

 高齢化社会は国内的な政治や経済にインパクトを与えるだけでなく、世界政治
や安全保障にも影響せざるを得ない。若者の減る先進国はこれまでのような規模
で軍隊を維持できなくなっている。アメリカだけが軍事力で突出する世界はこの
面からも当分続きそうだ。

 高齢化は阻止できないので、世界はそれと共生するほかない。だが、適切な政
策で悪影響は緩和でき、破滅的な状況は回避できるはずだ。ほとんどの国は事態
を認識しており、行動を取り始めている。もとより、その成功は保障されていな
い。現在の事態は歴史的に前代未聞のことであり、見取り図は存在しない。


◇コメント


  論点をかなり詳細に紹介し、通常の紙数をオーバーしているので、長いコメン
トを差し控える。ただ、高齢化は自然現象のように必然的なものではなく、人間
的な行動と政策でかなりの程度制御できるものという指摘を再度強調しておきた
い。この特別報告の指摘は適切な点が多いものの、全体的にみるとかなり悲観的
なトーンが気になる。分析と認識が説得的なのに反して、この報告が提起してい
る解決策は、今次の経済危機で決定的な不信任を突きつけられた新自由主義的経
済学の枠組みの中にとどまっている。
 
経済的な観点だけからこの人間的問題を論じるべきではない。仮に経済的な観
点で論ずる場合にも、どのような将来社会と人間生活を望ましいと見るかによっ
て、対応は大きく変化する。物質的にやや倹しくとも,自由な時間を多く持ち、
それによって生活の質を高める人生設計を追及すべき時代に入った。

 社会的不公正と不平等を放置したままで、年金や医療の削減を提起することや
、年金財源を消費税によることを提案しても受け入れられるものではない。政治
的経済的エリートが率先垂範して自らに犠牲を強いるならば、初めてあらゆる緊
縮策が説得力を持つ。こうした観点から、軍事を含めて財政支出全体を根本的に
見直し、優先順位を組み替えることを選挙後の新政府に期待したい。

             (筆者はソシアルアジア研究会代表)

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