~低調だった欧州議会選挙の問題点~

■ 海外論潮短評【番外編】            初岡 昌一郎


◇◇低調だった欧州議会選挙の問題点◇◇


  『エコノミスト』6月6日号が、月初めに行なわれた欧州議会選挙を論説欄、欧
州面での記事およびコラムで取り上げている。「ストラスブール(注。欧州議会
所在地)より無関心をこめて」という、論説の見出しが問題の所在を端的に示し
ている。そして、最近着の6月13日号が最終結果の分析を載せている。

 欧州議会時はほとんど権限がなく、加盟国政府代表によって構成される執行機
関である欧州委員会の諮問機関的なものであった。政治的決定権は、EU閣僚会議
の手中にあった。しかし、EU議会の権限は次第に拡大されており、立法、人事、
予算承認の分野で権限を共有するようになっている。しかし、それに反比例する
ように、EU議会にたいする有権者の関心は長期低落の一途を辿っている。EUの超
国家的機関としての権限強化に批判的で、連邦的な共同体を目指す意見が強いイ
ギリスの立場に立つ『エコノミスト』らしい、揶揄混じりの辛口トーンが目立つ

 EU議員選挙は加盟国に割り当てられた定数に従い、各国別に比例代表制で行な
われる。投票率は最初の1979年が最高で約63%であったが、5年毎に行なわれ
るこの選挙の投票率は回を重ねるごとに着実に下がり、今回は45%を僅かに上
回るだけにとどまった。この傾向は、EU議会の活動が各国でほとんど報道されな
いこと、主要政党が引退ないし国政選挙で落選した政治家を候補者とする傾向な
どが、有権者の無関心を助長している。特に投票率が前回の国内選挙と比較して
30%以上低下したのは、オランダ、チェコ、ドイツである。

 今回の選挙には合計100以上の政党が候補者を立てて参入したが、有権者は
それぞれの政党の欧州政策を判断するよりも、国内政治的観点から投票している
。したがって、現政権にたいする信認投票的な色彩が強く現れる。また、国家主
義的な主張やEU官僚主義批判が、極右や極左の反EU政党に票を分散させた。無所
属の当選者が93人と3倍増した。

 選挙結果は、全体としては左右のEU支持派が依然として安定的な多数を占めて
いる。過半数にはいずれの会派も遠かったが、最大会派は中道右派政党グループ
に変わりなかった。躍進したイギリス保守党が、連邦主義的な新保守会派の結成
を表明してこのグルーから離脱したが、ベルルスコーニ率いるイタリア保守政党
の加盟によって相殺された。かつては最大会派であった欧州社会党グルプは第二
会派を維持したものの、議席が200から161に大幅減となった。これはイギ
リス労働党が惨敗した事や、フランス社会党とドイツ社民党の不振が主たる要因
である。
  
  今回の選挙の特徴は、エコノミスト誌によれば、
(1)経済不況による反政府抗議投票の傾向
(2)反EU票の増加にくわえて、
(3)比例代表制では過半数を占める政党は生まれないことを重ねて立証したこ
とである。


◇◇経営者の高給に高まる批判◇◇


  『エコノミスト』5月30日号は、「企業の旨い汁を吸うやつらに攻撃」とい
う長文の解説記事を掲載し、グローバルな不況が企業幹部の法外な報酬にたいす
る怒りに火をつけたと報じている。

 代表的な多国籍企業、ロイヤル・ダッチ・シェル社の5月19日の株主総会は
、上級幹部の報酬を59%の反対で否決した。イギリス鉄道持株会社最高経営者
は、今年のボーナスを自発的に返上すると発表した。

 一般の労働者の所得が停滞ないし低下したのに反し、ここ10年で倍増した企
業幹部所得が強い批判を浴びるようになっている。好況時に好業績を理由に引き
上げた報酬を業績が悪化した時に引き下げる経営者は稀である。著名なアメリカ
の投資家、ウオーレン・バフェットは、こうした経営者のモラルの低さを「企業
資産の横領行為」として痛烈に批判している。

 近年導入されたストック・オプション(自社株の優遇的な割り当て)は、企業
の長期的な持続力を犠牲にして短期的な業績を意図的に上げ、それによって企業
幹部が株を高値で売り抜けることにより莫大な利益を得るインセンティブになっ
ているとの批判が高まっている。アメリカでも批判の的になっているこの制度は
、最近日本企業で相次いで導入されているが、これにたいする批判は日本のメデ
ィアやエコノミストの間でほとんど見られないのは不思議だし、労動組合も沈黙
している。

 新自由主義経済政策による所得減税が高所得層をこれまで以上に優遇し、免税
の幅を大きく拡大した。それに反し、一般庶民はほとんど恩恵に浴さないばかり
か、社会保障と社会サーヴィスの切り下げによって生活を直撃された。こうした
大衆的な怒りが、不況でも依然として高給を享受している企業幹部に向かうのは
当然だろう。

 しかし、現下の不況の主犯である金融機関において経営者報酬の引き上げが今
尚続々と行なわれているとエコノミスト誌は伝えている。批判を受けて、アメリ
カ財務長官は、「問題資産救済計画」によって支援されている企業の給与にたい
するガイドラインを発表することになっている。ドイツ政府はそれよりも数歩進
んでおり、あらゆる上場株式会社を対象とする報酬規制法案を提出している。そ
れには、ストック・オプションによる株式には現行年の保有期間を延長し、4年
以上保有することを義務付けている。また、取締役以上の全役員の給与を署名入
りで記録することを義務付ける条項が法案に含まれている。

            (評者はソシアルアジア研究会代表)
 

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