~峰崎直樹内閣官房参与に聞く~

■ 困難に直面する日本財政の現状と課題―

   峰崎直樹内閣官房参与に聞く            編 集 部
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【編集部】困難に直面する「日本財政の現状と課題」について伺います。

【峰崎直樹】今、日本の財政が抱える課題は、第一に長い間苦しめられている
「デフレ」から脱却できていないこと、第二に財政が厳しく危機的状況にあり、
第三に社会保障にも綻びが出てきていることです。特に医療の世界は、子育ても
含めてなかなかうまくいってない。そして若者の貧困の問題というか、雇用の問
題は、湯浅誠さんなんかが言われるように、一旦首を切られると、滑り台のよう
に生活保護まで落ちてしまうという厳しい実態にあり、大変深刻な状況にある。
そして第四に、今回新たに震災復興が加わったということです。

 これらをどう考えるのか。デフレの問題は、需給ギャップで、明らかに需要が
少なく供給が過剰の状態がずっと続いている。もちろん、価格が低迷する、ある
いは低下するということには、中国を始めとする途上国がグローバリゼーション
の下で、いわゆる低賃金を武器にしてくるという海外の要因が働いている。基本
的には、そういう中で日本の産業が途上国と同じ競争レベルで戦おうとして、あ
るいは追い上げられて、それに代わる新しい産業構造への転換ができていないこ
とです。

 そのために、雇用を守ろうとすると、どうしても賃金を下げる。あるいは低賃
金の不安定雇用労働者を増やすから、名目賃金がどんどん下がる。その結果単位
あたり労働コスト「ユニットレーバーコスト」は、非常に低迷し、低下してい
る。デフレの現象、CPIの動きと、そのユニットレーバーコストの動きは、ほ
ぼパラレルに動くから、明らかに働いている人の賃金を含めて上がっていかなく
てはならないということが非常に大きい問題としてある。

 問題はデフレからどう脱却したらいいのか。それには、産業構造を大きく変え
るほかない。例えばスウェーデンなどは、これから成長する産業にシフトするの
ですが、日本の場合は、産業構造の転換がなかなか進まない。もちろん「ものづ
くり大国日本」という長所を失ってはならないが、物の生産という点では、私達
の生活環境を見ても、もう電化製品とか、自動車といった物的なものは比較的満
ち足りていて、やや過剰なぐらいある。

 だから、そういう産業は、高品質あるいは、高付加価値なものを作るようにす
る。ものづくりというのはこれからも非常に重要なのですが我々の内需を見たと
きに、一番不足しているのは「サービス」の分野です。これは間違いなく不足し
ている。そのサービス分野をどのように高めていくかというときに、実は医療・
介護・子育・教育というサービス分野が手付かずで残っている。そこをどのよう
に開拓し、需要を掘り起こしていくかということが大切になる。

 これらの分野は多くの場合、大体公的なセクター、あるいは準公的なセクター
なのですが、そこは資本の論理の民間だけに任せておけないのです。教育が典型
的ですが、階層消費となって、金持ちは良い教育を受けられるが、貧乏人は良い
教育が受けられない。それによる学歴格差が職業の格差を生み、年収の格差にな
り、それが世代間に引きつがれる仕組みになる。ムーア監督が、映画「シッコ」
の世界でアメリカの実態を映したが、同じ現象が日本でも起こってしまう。

 混合診療解禁と言う人もいるが、それは日本の医療を教育と同じように、平等
消費から階層消費に移してしまうことになる。どうしたら良いかといえば、公的
セクターの充実を図るしかない。医者の仕事ぶりを見ると、あまりにも過酷なの
で低い診療報酬を上げ医療費の改定をして、付加価値を高める。付加価値という
のは売り上げから仕入れを引きますが、その大半は人件費です。そうするとお医
者さんが今どれだけの患者数を診ているかというと、EUやアメリカに比べると
ものすごい量で物的生産性からするとすごく高いのです。

 ただし、その医療費の基準が低いために、付加価値生産性っていうことになる
と極端に低い。ですからこういう分野にもっと財源をつぎ込む必要がある。財源
をどうするかといえば、保険料か税金しかない。私的な負担を増やせば、高額所
得者しか医者にかかれなくなる。デフレからの脱却を考えるとき国民の多くが貯
蓄に回している財源から、それを税や社会保険料として医療の分野に調達して、
平等消費に回す。言い換えれば貯蓄性向の高い人から貯蓄性向の低い人。逆に言
えば消費性向の低い人から消費性向の高い人へ、所得を再分配するのだから内需
の拡大へ確実に繋がる。

 将来の医療や介護、子育てが充実すれば、自分たちが将来の不安のために貯蓄
していたものが初めて消費に回ってくる。ですから財政政策としては国民の皆さ
んからの負担を医療、介護、子育て、あるいは社会保障分野に使うことが、実は
デフレ脱却になり、内需の拡大に非常に重要な役割を果たすことになる。

 民間の企業は投資先が無くて困っている状況ですから意識的にこういう分野に
投資を向けていかなくてはならない。税や社会保険料が高くなれば政府の規模は
大きくなるが、政府規模の大小で、経済成長が影響を受けることはほとんど実証
されていない。積極的財政政策というか、昔のケインズの経済政策を取り組んで
いく必要がある。もちろん民間部門のイノベーションがなければ、経済は発展し
ないが、そういうイノベーションを起こすためにも、教育・医療・介護・子育て
という分野は、共有地のように皆がこれを使えるような状態にしておくことが、
絶対に必要なのです。

 その上で、マーケットメカニズムの中で大いに創造的破壊をやって貰う。ソニ
ーがウォークマンまでは発明できたけど、「ipad」は完全にやられている。だか
らといって、政府官僚がこの産業が伸びるだろうとかいうのは、分かるはずがな
いので、それはもう民間の企業が、積極的な設備投資へ移るようなイノベーショ
ンを起こして貰う他ない。

 それを起こすときにやはり大きなモデルというか、21世紀の夢は、たぶん環
境や、健康問題だと思います。特に原発事故などに遭ってみて、環境負荷の低い
自然エネルギーの太陽光発電などは、かつて日本が最先端を行っていたのに、い
つの間にか遅れてしまったのは、明らかに政府の取り組みの弱さです。ですか
ら、イノベーションが起きるには、大きな展望や夢が必要なのです。

 デフレからの脱却は非常に重要なのですが、財政再建のほうはもっと深刻で
す。デフレも深刻ですが、ただ、金融をもっと緩和すれば経済がなんとかデフレ
から脱却できるというのは、ちょっと問題です。財政再建のほうは、今もう
GDPの200%近くまで赤字が膨らんでしまっていて、どんどん増え続けてい
る。しかし、幸いにもというか、とにかく日本はその国債を95%国内で持ってい
るのです。しかし、これも時間の問題だと思っています。

 郵貯や生保。それから地銀、第二地銀、信金信組などは、いわゆる安全な資産
としてみんなこの国債・地方債を持っているが預貸率が非常に低い。BISの規
制で言えば、この国債・地方債を持つことは、リスクウェイトがゼロですから、
それを持ち続ける。非常に低い金利でも、確実に利ざやが稼げるが、1%そこそ
この利ざやでは、コストを除くとほとんど業務利益が上がらないような構造にな
っている。そういう中で、もし金利が1%、2%上がり始めるとどういうことが起
きるのか。金利が上がり始めると持っている資産の価値が低下する。たぶん不良
債権ということで時価会計で評価されると非常に価値が下がってしまうので、含
み損を抱えてはいけないということで投売りをするような状況にならなければい
いなと思っています。

 民間部門がデフレから脱却して、その貯蓄が投資に移り、それの足りない部分
を民間が金貸してくれという話になるわけですが、そのときに、やっぱり国債を
売らないと現金が入ってこない、貸せないということになる可能性がないとは言
えない。ですから、財政再建の問題とデフレからの脱却というのは、本当に綱渡
りみたいなところがあって、そうとうナーバスで進めていかないと、なかなか難
しい。

 国債もGDP比200%の赤字ストックを持っているのですが、それをやっぱり
EU並みの6割ぐらいまで、下げるということを見通していかないと、健全な財
政とは言えない。今、フローの借金をどう減らすかに汲々としていますが、やは
り、GDPの100%以上になっているのは異常ですから、やがては安定的な水準
としては、EU並みに抑えることをやらなければいけない。そういうことを考える
と消費税を毎年2%ぐらいずつ上げても十年で20%ですから、ほとんどスウェー
デン並みの25%ぐらいまでいかざるをえなくなってくる。

 これからの社会保障の自然増というのが、毎年一兆円を超すわけで、それを入
れて毎年何10兆円単位で財源が足りなくなるのですが、ただ、これ全部消費税を
上げて賄うわけではない。所得税、その他の税、あるいは保険料などを上げてい
くことになる。効率化を図りながらも、ほころびがでている医療や介護や子育て
といったものは、しっかりと強化しなくてはいけない。この三つをどうやってう
まくやっていくかというのは、本当に考えただけでも非常に狭い道です。

 本当にしんどい話ですが、国民の皆さんに相当丁寧に話す必要がある。よく経
済成長で、名目で4%以上あれば財政再建しなくてすむという話が出ますが、政
府見通しの慎重なケースで名目2%ぐらい。高いケースで3.8%ぐらいまでです。
確か経済見通しをこの一月に策定していますが、われわれが財政再建のことを考
えるときには、あまり高すぎる名目成長を求めて、成長率を見誤ると財政再建に
失敗する。経済見通しは慎重で保守的に考えないと財政再建はうまくいかない。

 経済成長がそれ以上になれば、まさにボーナスが増えた、すこし早めに実現で
きると考える必要がある。デフレから脱却するときに、毎年消費税を1%ずつ、
十年かけて10%まで上げていくというやり方は、一つの方法かなと私は思ってい
ます。三年に一回ぐらいずつ、3%や5%上げるというやり方を取ると直前に駆け
込み需要がでたりして、景気変動に大きな影響を与えることになる。長期的には
あまり変わらないのですが、消費税の上げ方も刻みを1%にするか、2%にするか
別にしてもその必要な財源というのを、毎年のように国民の皆さんにお願いをし
ていくというのが消費税の場合は良いのかなと考えます。

 所得税の場合は、本当に課税ベースがどんどん狭くなっていますから、これを
どうやって広げていくかということと並んで、最高税率の方を少し上げていくと
いうのも考えられます。しかし税収として考えると、あまり期待はできない。今
最高税率が国税で40%ですけども、40%の人が45%になっても、増収額はよく見
積もって約2000億円弱です。低い税率の方々も含めて上げていかないとなかなか
この局面を打開できるだけの財源が出てこないと思っています。

○【復興財源について】
  震災復興については、一時的なので財源的に見たときにはそれほど心配はいら
ない。例えば、30兆円かかっても、これは30年間で返えすとすれば、一年に約一
兆円ですから、その財源をうんぬんするとか、すぐ消費税とかいうことではない。
私は、地震や台風などいろいろ震災がどんどん起きるという意味で、日本は「震
災大国」と云えますが、この点をやや保険的に考えると、国税として固定資産税
付加税という地価に税をかけてそれを土地・家屋を所有する人で負担することを
考えています。

 そうすると低所得の人は、あまり家や土地を持っていないから、その人々は負
担することはない。ただ、中堅層も家や土地を持っているのですが、そういう人
にはちょっと申し訳ないが、自分がもし同じように被害を受けたときには、いつ
でもこの国税としての固定資産税付加税というものが、被災した人に対して支給
する。例えば300万円と言っていますが、住宅が新しいと500万円出るので大きい
のです。こういう補償財源として、持っている人がそれを負担するのは、合理的
だと思います。
 
  これは阪神淡路大震災のときに、住宅の被害を受けた人に、国がなんとか面倒
を見られないか、ということから始まった労働界から出たアイデアです。最初は
国が駄目だと言っていたのを片山善博鳥取県知事が、地震で300万円をみんなに
支給した。それ以降、300万円が一つの基準になっていきます。財源や発動の要
件をきちんとして、何か大災害が起きたとき全国の皆さん方の支援でやるのは、
よい方法だと思っています。

 今度の復旧財源のところで問題だと思ったのは基礎年金2分の1の財源、鉄道運
輸機構の余剰金をあてたことで、これが1.2兆円ぐらい、そのほか余剰財源から
引っ張って2兆5千億円あった。これを復旧に当てたのは正しいと思います。ただ、
恒久的に財源として負担をしなくてはいけない基礎年金の2分の1財源を、一時的
なものでこの3年間立て替えてきましたが、このやり方は間違いだと私は思って
います。2.5兆円を復興復旧のほうに回したのなら、国債を1年間発行しても良い
から、消費税1%で簡単に戻りますので、消費税1%分を償還して、対応すること
で良いのではないか。

 消費税1%上げると毎年ずっと、2分の1財源を確保されたことになります。そ
ういう方向で解決されれば一番良いと思っています。原発の補償問題はなかなか
大変です。今補償の問題が、いろいろと議論されていますが政府も今度の災害
は、何が問題だったのかという事実の究明をやるでしょうが、私は国会もきちん
とやったほうが良いと思います。
 
  国政調査権を発動して、官僚には「無謬神話」や、「セクショナリズム」があ
るので、そういうものを外すためには、本当のことをしゃべれば罪を問わないと
いう免責を入れて国会の場できちんと、今度の災害は何故こんなことが起きたの
か。元々福島の原発も含めて原子力政策の中で、こういう大きな津波が起きるこ
とを想定してなかったのか、どういう議論があったのか。正確に掴んで、その上
でこの責任を問うことをしなくてはいけない。

 補償の財源をどうするかについては、電力で起きた以上は、どうやって電力を
中心にしたエネルギー関係の税で対応していくかが必要になってきている。原子
力の補償問題は、軽々しく東電を救済することなどではなく、日本の9電力は、
発電送電配電全部が一貫して地域独占だが、あらためて電力の供給体制はいかに
あるべきか。が論じられなくてはならない。

 ただ、この議論を進めるときに、発電送電配電を分離し、それで競争させれば
良いと短絡しやすいのですが、アメリカのカルフォルニアの電力危機というのが
あり、エンロンも含めて大問題になった。あれも発電送電配電とそれぞれ分け
て、発電では問題も無いのに実はその市場メカニズムを使ったために、大停電が
起きてしまった。国がしっかりとそういうことも踏まえ、企業システムを含めた
電力産業の組織形態・供給体制を見直すのがポイントで、これこそ本当に国策です。

 結論的に云って財政問題で何が一番心配かというと金利の上昇です。しかし金
利が上がらないと経済はまさに正常に戻らない。今は低金利、ゼロ金利で、そし
て低成長でデフレなので赤字国債も非常に安い値段で出せる。国民は、いつ増税
が来るかわからない将来の生活不安ということで貯蓄に励むという悪循環で、デ
フレの罠に陥っているからどこかで変わらなくてはならない。しかし、国民に負
担を求め、社会保障の充実を軸にするとしても、増税の大部分は財政再建のほう
に当てるとなると、これは政治的に大変難しい課題です。

【編集部】長時間有難うございました。

【峰崎直樹氏略歴】
  1944年生まれ。一橋大卒。同大学院修了。北海道選挙区前参議院議員(3期)
  前財務副大臣・現内閣官房参与・政府与党社会保障改革検討本部事務局長。

注 この記事は2011年4月27日に編集部加藤宣幸が峰崎直樹氏にインタービュー
をして校閲を受けたものですが文責は編集部にあります。

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