~日本はドイツの轍を踏んではならない~

■ 脱原発の扉は慎重に開けねばならない 
 ~日本はドイツの轍を踏んではならない~          濱田 幸生

 
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  ■太陽光発電固定価格買取制(FIT)は
   手放しで喜べるだろうか?
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 今回やはりこのことに触れないわけにはいかないでしょう。
  本日5日、北海道泊原発3号機が定期検査に入り、これでわが国の全原発50
基がすべて停止しました。
  平凡な感慨ですが、時代の流れの轟音が聞こえるようです。去年の正月には誰
しも想像だにしなかったことです。

 またほぼ同時に、資源エネルギー庁・全国地方経済産業局では、「再生可能エ
ネルギーの固定価格買取制度」についての制度説明会を5月24日から全国各地
で開催します。

・資源エネルギー庁
http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/meeting.html

 現在、わが国は原発に重きを置いて、再生可能エネルギーを軽視していたツケ
として1945kWh以下ていどの発電量しか持っていません。

 今回資源エネルギー庁が公表した固定価格買い取り制(フィードインタリフ、
以下FIT)は、太陽光発電協会ものけぞったような高価格での初年度となりま
した。
  事前の憶測では40円以下、いや30円半ばだろうという見方が強かったので
すが、実に太陽光発電は42円/kWhということになりました。(*エネルギ
ー源で異なります)いや、大盤振る舞いをしましたね。

 そして太陽光は補助金として、12年度から1kWhあたり3.5万円加算さ
れますから、実質48円kWhという驚きの価格となります。これで世界でもド
イツに肩を並べるような優遇の仕組みとなりました。
  買い取り価格は、毎年見直しとなりますから来年度もこのような価格になると
は限りませんが、少なくとも巨大打ち上げブースターであることは間違いありま
せん。

 ただ手放しで喜んでいいのか、やや疑問が残るところです。
  実はこの42円というFIT価格そのものが、太陽光発電協会が経済産業省に
申し入れた言い値でした。この価格は、国産太陽光パネルの価格設定を根拠にし
ています。

 国際的に太陽光パネルの値崩れは凄まじく、ドイツ大手の太陽光発電パネル製
造会社ゾロンやソーラーミレニアムが相次いで倒産し、世界最大手のQセルズは
企業再建まで追い詰められています。

 原因は、中国のダンピング的な投げ売りによる太陽光パネル価格相場の崩壊で
す。ドイツ政府が補助金を出し、高額固定買い取りをしても、税金は国内に還流
せず、電気料金は上がり続け、潤うのは中国企業だけだったのです。

*)文末資料
  シュピーゲル誌「太陽光はドイツの環境政策の歴史で最も高価な誤り?」参照

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  ■各国で進行するグリーン革命の挫折
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 ドイツのみならず米国でも同様な事態が進行しています。

 オバマ大統領が、信用危機・気候変動・原油価格高騰の3大危機を解決するた
めに打ち出したグリーン・ニューディール政策の中心であった再生可能エネルギ
ー政策もまた危機に立たされています。
  太陽光発電パネルの大手ソリンドラを始め、続々と太陽光関連の会社が破綻し、
米国パネル業界は総潰れの様相を呈しています。

 つまり、FIT制も、再生可能エネルギー(Renewable energy)という呼称を
生み出した米国とEUが実は大きく揺らいでいるのです。

 このような理由です。まずFIT制を導入し、買い取り価格を高くつり上げた
ために、EU全域で太陽光発電バブルが生じました。結果、われもわれもと太陽
光発電業界に参入を開始しはじめました。

 スペイン、イタリアなどの太陽光に恵まれた国を中心としてメガメーラー発電
所が多く建設されました。今、ソフトバンクの孫正義社長が群馬県榛東村に26
8万kWhのメガソーラー発電所を作っていますが、あのような規模のものが雨
後の筍のように出来たと思えばいいでしょう。

 結果、買い取り価格が膨らみすぎて、FIT制そのものが維持できなくなりま
した。スペインなどは、国全体の財政危機とも連動して多額の債務を背負い込ん
でしまい、経済危機に拍車をかけてしまいました。

 原発廃止を選択したイタリアでも同様で、電気料金の上乗せ額が上昇しすぎた
上に、負債の膨張で、遂に買い取り額の引き下げと、買い取りの上限枠を設定す
ることになってしまいました。

 イギリスも買い取り価格を大幅に引き下げています。日本が導入を決めたFI
T制は欧米では崩壊の危機にあるのです。マスコミはEU、特にドイツの脱原発
政策を礼賛しますが、このことにも触れないと公平ではありません。

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  ■EU各国のグリーン革命の展開推移とは
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 EUはこのような経過を辿りました。

1)初期参入を促すために高くつり上げた高額固定買い取りにより、太陽光発電
パブルが生まれる。

2)ついで、このバブル市場に中国製の半値以下のパネルが雪崩的に参入し、パ
ネル市場相場が崩壊し、国内自然エネルギー産業は育たず、国内製造会社が続々
と倒産する。

3)一方、FIT制と補助金は、太陽光バブルのために瞬く間に負債が膨らんで
維持が困難になり、買い取り枠の助言設定や、買い取り価格の切り下げが行われ
る。

 ドイツの場合、過去2年で買い取り価格が40%引き下げられました。そして
今年は更に家庭用で20%、事業用で30%の引き下げとなります。

 さて、経済産業省のFIT制は、太陽光パネルの製造国の限定はありません。
どこの国のものでもかまわないのです。

 となると、この制度の未来は読めてしまいます。間違いなく太陽光発電バブル
がわが国でも発生します。メガソーラー発電所が続々と建設されます。
  それも太陽光に集中します。それはバイオマス発電の買い取り価格が17.8
5円と安く、地熱発電は近隣温泉組合との話し合いが難航を予想されるからです。

 風力は立地を選ぶ上に、設備投資が高額です。海上風力発電所は有力なアイデ
アですが、陸地までの送電が困難です。
  したがって、再生可能エネルギー市場への投資は、場所を選ばず、設備投資が
安価で、買い取り価格がもっとも高い太陽光に絞られるでしょう。

 これで一時的に、シャープや京セラの国内自然エネルギー産業は潤うでしょう
が、残念ですが長続きしません。
  たちまち、中国の世界最大のパネル会社であるサンテックパワーなどが参入を
開始します。それも呆れるような安値で。そして発電業者の多くは中国製に走る
でしょう。

 同時に一挙に膨張した買い取り価格と、発電量の増大にFIT制度が揺らぎ始
めます。またFIT制の煽りを受けて電気料金は相当な値上がりをします。

 私は再生エネルギーに可能性を感じていますし、またFIT制そのものにも必
ずしも反対ではありません。
  しかし、日本がFIT制を導入するにあたって、もう少し欧米の現実を分析し、
議論してからでもよかったのではないかと危惧します。

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  ■ドイツはなにに躓いたのか?
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 もう少し再生可能エネルギー固定価格買い取り制(フィードインタリフ、以下
FIT制)について考えてみましょう。

 FIT制は、再生可能エネルギー法のキモのように言われた制度です。
  まだ出来上がっていない自然エネルギー市場を、安定した価格で買い上げるこ
とによって急速にその普及をめざすというのが目的です。そのために、今まで以
上の固定額で電気を買い取ります。

 孫正義社長はたいそう満足だったようです。孫氏は「世界的な相場に近い」と
言っているようですが、ほんとうにそうなのか調べてみましょう。

 では、今までもっとも高額買い取りを実施していたドイツの太陽光買い取り価
格を見てみましょう。

・経済産業省 調達価格算定委員会第1回資料
http://www.meti.go.jp/committee/chotatsu_kakaku/001_06_00.pdf

 これを見ると、2012年現在で18.8ユーロセント、約29.7円です。
FIT制開始時の2005年には45.7ユーロセントで72.2円でした。7
年間で半分以下になりました。

 これは事業者の地上設置型太陽光発電所ですが、一般家庭用の屋上設置型の価
格推移は、初年度2005年は90.6円で、現在は38.5円です。これも半
分以下の買い取り価格に下落しているのがわかります。

 この下落速度は近年になるにしたがって深刻なものになり、2012年は1月
に改訂されたばかりの買い取り価格が、その3カ月後の4月にはまた引き下げら
れるという状況になっています。

 ドイツはFIT制導入時には超高額の買い取りをした結果として、たちまち7
年で制度が持たなくなったのがわかります。今年のめまぐるしい改訂ぶりをみる
と、次年度は大幅に下落するか、制度そのものが廃止を迎えると予想されます。

 つまり、孫氏の「世界的相場に近い」という言い方は、初年度のことだとする
とほんとうで、現時点ならウソだと言うことになります。

 再生可能エネルギー先進国のEU諸国では、このようなメカニズムが起きまし
た。

1)初年度参入を優遇するために高額買い取り価格を実施した結果、大量の新規
参入者が殺到した。特に太陽光発電に集中した。その理由は
・立地条件を選ばない
・設備投資が安価である
・技術的に簡単である
・再生可能エネルギー中でもっとも買い取り価格が高い
・利潤の優遇措置が取られた

2)以上の理由で、太陽光発電の初期参入は、事業リスクがなく、いわば濡れ手
に粟状態となった。EUでは太陽光バブルが生じ、異業種からの大量参入が続出
した。

3)FIT制による買い取り費用は、電力料金として需要家に転化されるため、
当初の予測より導入量が多くなり、政府に想定以上の負担をかけた。

4)発電導入量の増加により、電力料金がスライドしてハネ上がった。

・EU各国の電気料金がハネ上がった。日本の家庭用電気料金は、だいたい1k
Whあたり21円前後で推移しているのに対して、デンマークは1.5倍、ドイ
ツは1.4倍ほどとなっています。いずれも脱原発宣言国です。

*)EU各国の電気料金とわが国の電気料金比較
2011年4月現在、1kWhあたりの電気料金(1ユーロ=110円で換算)
○EU 事業用(年間7500kWh向け)  ・イタリア  25.40ユーロ
セント(27.9円)
  ・デンマーク 24.81ユーロセント(27.2円)
  ・ドイツ   24.33ユーロセント(26.8円)
○日本 事業者向け(中部電力21年度) 13.77円

5)発電量が予測を下回り、不安定な電源であることが実証される結果となった。

「(ドイツでは)ここ数週間、国内の太陽光発電設備がまったくといっていいほ
ど発電していないこと、太陽光発電設備のオーナーたちが80億ユーロ(824
0億円)を超える補助金を受け取ったにもかかわらず、全体の3%程度の、しか
もいつどれくらいの量かが予見不能な電力を生み出すに過ぎない」。
(ドイツ「シュピーゲル」誌記事参照)

6)多額の補助金(ドイツでは8240億円)を投下したにもかかわらず、国内
の自然エネルギー産業が育たなかった。パネルメーカーは軒並み倒産したか、そ
の危機にある。原因は中国製の低価格パネルの大量参入のため。

「これだけ補助金を出しても、国内に還流され、産業が育つのであれば国民の理
解も得られるだろう。しかし、現実はそうはなっていない。」
(同)

7)電力料金の高騰で、国内産業が海外逃避を開始した。

「ドイツ商工会議所がドイツ産業界の1520社を対象に行なったアンケートに
よると、エネルギーコストと供給不安を理由に、5分の1の会社が国外に出て行
ったか、出て行くことを考えている」。
(同)
  このようにドイツでは、「太陽光はドイツの環境政策の歴史で最も高価な誤り」
とまで言われるようになってしまいました。

 わが国はドイツのFIT制度の経験をまったく学んでいません。むしろ輪をか
けているふしすらあります。

 再生可能エネルギー法では、呼び水として最初の3年間は利潤に配慮する、と
銘記されており、高額買い取りと相まって初期参入が一気に増大するでしょう。

 しかし、ドイツの例をみるまでもなく、条文に3年間優遇とある以上、3年後
には収益率の低下がはっきりしているために、それ以降の投資は警戒されてしぼ
むことになります。

 しかも他の自然エネルギーより倍以上の買い取り価格を太陽光に設定したため
に、太陽光のみに過度に投資が集中し、3年後に弾けます。

 なんとまぁ、すごい制度設計だこと・・・。これだと、初期投資家のみが莫大
な収益をあげることがわかりきっています。

 FIT制は、ドイツ、イタリア、フランスの例でも2年もたたずに制度改訂を
繰り返し、5年から7年めには、固定買い取り制からの離脱を考えています。

 脱原発は間違っていない国の選択だと私も思います。しかし、だからと言って
欧米で明らかに失敗が宣告されたFIT制度をカーボンコピーすることはないの
ではないかと思います。

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  ■ドイツ・早すぎる喝采 ドイツ電力責任者は語る
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 ドイツは日本の合わせ鏡のような部分があって、お互いに影響されあっている
ところがあります。

 今回の福島第1原発事故のとき、もっともセンセーショナルに事故を煽った国
はドイツでした。私もドイツの媒体は英米と比較して、どうしてここまで事実を
歪めるのか、と憤りすら感じたものです。

 そして日本側にも、ヨーロッパ発のプロパガンディスト・グループの主張を丸
のまま鵜呑みにする人たちが大量に生れました。

 するとドイツもまた、自らの過激報道に自ら煽られるようにして、脱原発を宣
言し、グリーンエネルギーにシフトすると宣言しました。

 今度はこれを日本のマスメディアは過剰に礼賛し、日本はドイツに見習えとい
う報道が繰り返しなされ、とうとう高額の全量・固定価格買い取り制までスター
トしました。

 まさに日独がお互いに煽り合い、一緒になって極端に走るという図式です。
  ついでながら、極端に走るという国民性は熱しやすく冷めやすいわけで、いま
ドイツの脱原発派は苦境にたたされています。

 さて、脱原発宣言を実行に移し、再生可能エネルギーにシフトしたドイツ人自
身は、これをどのように評価しているのでしょうか。

 「早すぎる喝采」と題された興味深いインタビューがあります。語るのはドイ
ツ連邦ネットワーク庁所長のマティアス・クルト氏です。

 原文フランクフルター・アルゲマイネ紙で、ドイツの中道左派の新聞で、緑の
党などを支持してきた媒体です。
http://www.faz.net/aktuell/wirtschaft/energiewende-es-wird-zu-frueh-hurr
a-gerufen-11655191.html

 このネットワーク庁とはインターネットではなく、電力を統括する責任官庁で
す。
  クルト氏はこう語ります。

 「エネルギーシフトにのぞむにあたり、ドイツはここまでとてもよく対処して
います。しかし、だから大丈夫と考えるのは早計です。厳しい冬を乗り越えた今
だからこそ油断大敵で、気を引き締めてかからなければなければなりません。

 エネルギーシフトの成功を喜ぶのは少し早すぎます。まだドイツの電力のおよ
そ6分の1は原発によるものです。エネルギーシフトの本当の試練は、これらの
原発を稼働停止しはじめてから始まるのです。われわれは、今後10年かけて大
変な問題に取り組んでいかなくてはなりません。

 自然エネルギー施設の拡充方針に反対する人はいません。しかし問題は建設地
の確保で、特に南ドイツでは不足しています。現在建設中の発電所では不十分な
のです。すべての関係者には、この冬の経験を通じて新規建設の必要性を認識し
て欲しいと思います。

 今多くの人は、ドイツが数週間フランスに電力を輸出したと喜んでいます。し
かし2011年全体でみれば、ドイツはフランスに対してかつての電力輸出国か
ら輸入国へと転落しています。都合のいい数字ばかりではなく、事実を見つめる
べきです。

 極度の寒波とガス輸送の停滞により、予想を超えた困難に直面しました。・・・
非常に逼迫した状況で、数日間は予備電力に頼らねばなりませんでした。万が一
の場合もう後がないわけで、極めて異例な措置でした。」

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  ■ドイツ一般市民の声
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 この記事にはドイツの読者のコメントが寄せられています。繰り返しますが、
このフランクフルター・アルゲマイネ紙は、日本でいえば朝日新聞のような媒体
です。
  そのコメントはエネルギーシフト政策に対して激しい怒りが叩きつけられてい
ます。ある意味、こちらのほうもたいへんに面白い。

●エネルギーシフトの失敗は日毎に明らかになるばかりだ。ドイツの電力は限界
で、電気代の値上がりもひどい。なにより雄弁に失敗を物語るのは、プロパガン
ディストがほんの小さな成功に大騒ぎして、プロジェクトの成功を声高に語ると
ころだ。たまたま天気に恵まれて、ほんの少しフランスに輸出しただけだという
のに。

●私の知る限り、2011年にフランスから輸入した電力は約18000GWh
で、輸出は140GWhだ。これは輸入超過なんてレベルではなく、130倍も
の差だ。だがドイツの政治家とメディアは、エネルギーシフトに疑いを持たせる
数字は語ろうとしない。

●バイエルンではすでにエネルギーシフトは破綻している。原発の半分を停止し
たため、電力はチェコとオーストリアからの輸入頼み。州政府はガス発電所を建
設しようとしているが、自然エネルギー優先政策のせいで採算が合わないとドイ
ツ企業は撤退し、今はロシアのガスプロムと交渉中。外国頼りで不安だ。しかも
新規発電所の稼働は残りの原発の稼働停止に間に合わないとくる。

●エネルギーシフトなんていうのは、素人をその気にさせるためのコピーにすぎ
ない。ドイツは輸出工業立国であり、安くて安定した電力はその命綱だ。ドイツ
の存亡に関わる重大な問題をエコロビーに任せるべきではない。プロの判断を仰
ぐべきだ。

●かつてのドイツは一流の電力産業と一流の原発を有し、安くて安全な電力を生
み出していた。だが政治家のゲームに滅茶苦茶にされてしまった。本当の悪夢は
これからだ。

●つい最近までエネルギーシフトを熱く語っていたやつらはどこに隠れたんだ?
天候次第では停電してたんだから仕方ないか。巨額の税金をつぎこんだのに風力
と太陽光発電は見込みの2割しか発電せず、そのくせ電気代は去年から2割増し
だ。そろそろバカなことはやめるべき時だ。

 日本のマスメディアは、ドイツの脱原発・グリーンエネルギーの光と影を客観
的に報道しません。

 このコメントにも出ている、「ドイツが原発を止められたのは電気をフランス
から買っているからだ、などというのは間違いだ。今は電力輸出国にさえなって
いる」、という報道も大分聞かされた記憶があります。
  事実はクルト氏が正直に言うように「数週間売ったことがある」ていどの話で、
実態は絶対的輸入超過です。

 グリーン産業が伸びたというのも間違いで、巨額の税金を投入して大儲けをし
たのは中国企業だけでした。税金で中国の太陽光産業を育成したようなものでし
た。
  日本が高い電気料金だというのもウソで、ドイツは日本の2倍の電気料金です。

 このように光の当たる部分のみ取り上げて、実情を伝えようとはしませんでし
た。その結果、ドイツが陥っている問題点の洗い出しができず、回避できるはず
の失敗の道を歩もうとしているように見えます。

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  ■脱原発は漸進的に慎重にせねばならない
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 英国の19世紀の経済学者アルフレッド・マーシャルがこんなことを書いてい
たのを思い出しました。

 「進歩は思想と実践で加速するかもしれない。しかし、どんなに加速しても、
それは漸進的で、比較的ゆっくりとしたものでなくてはならない。」

 「というのも、制度は急激に変化するかもしれないが、しかし制度が確かなも
のとなるためには、人間にとって適度なものでなくてはならない。
  制度は、もし人間の変化以上に早く変化させられたら安定しない。(略)大規
模で急激な変革の企ては、これまで同様に失敗するか、反動を引き起こす可能性
がある。」

 この言葉は、そのまま現在の脱原発の動きに当てはまります。

 原発問題をエネルギーとして考えるなら、それは万国共通ではありません。と
いうのは、エネルギー問題が、経済構造の要であり、深くその国それぞれのシス
テムに埋め込まれているからです。

 他の国で成功したからと言って、異質な制度を簡単に移殖できません。それを
無理にしようとすると、必ずその国の経済・社会システムが不安定になり、社会
そのものが破綻する可能性すらあるからです。

 私は脱原発、すなわちエネルギーシフトを、EUのグリーン革命の軌跡を見な
がら考えています。

 わが国ではいま、福島第1原発事故を背景にした原発への恐怖心を背景として、
一挙に原発の即時停止、自然エネルギーへの全面転換を叫ぶ主張が花盛りです。

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  ■ドイツの全量・固定額買い取り制を「成功した」という人たち
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 いま、この時を逃したら脱原発の扉は開かれないかのような焦りの色すら感じ
ます。ドイツやスペインの失敗を、成功だといいくるめる人たちまで現れました。
  それが、一市民ならいいのですが、調達価格算定委員だとなると話は違ってき
ます。

 再生可能エネルギーの買取条件を決める調達価格等算定委員でも、ドイツやス
ペインが全量・固定価格買い取り制度(FIT)の補助金を削減し、上限をもう
け、事実上のFIT制からの離脱宣言したことをまったく無視するわけにもいか
ず、渋々議題に取り上げたことがありました。

 その記録はなかなかスゴイものがあります。

・経済産業省調達価格算定委員会第1回 議事録要旨
http://www.meti.go.jp/committee/chotatsu_kakaku/001_giji.html

「委員  ドイツが全量買取制度を廃止したという報道があったが誤りである。
太陽光のみを対象とした部分的な修正というべきもの。」

 この委員とは、日本環境学会会長の和田武氏ですが、無茶言うなぁ。太陽光に
もっとも高い42円という、廃棄物系バイオマス17.85円の2倍以上の買い
取り価格を設定し、太陽光への露骨な政策誘導しようとしたのはいったい誰だっ
たのですか。

 また調達委員会第3回ではこんなこともおっしゃっています。

「委員  制度として、負担をしながら利益を生じる仕組みにする必要性がある。
コストカットは色々なやり方がある。コスト低減の取組を産業界でも行っていた
だきたい。ドイツの例は失敗ではない。むしろ成功して予想外に導入が進んだの
で、価格を下げただけである。」

 この和田氏は古いタイプの環境主義者のようですね。経済と環境、エコノミー
とエコロジーを対立概念で考えています。
  新しいエコロジストたちは、エコロジーはエコノミーの裏付けなくして持続不
可能だと考え始めています。この私もそう思っています。

 古いエコロジストは、ドイツやスペインは、経済的にグリーンエネルギー政策
がうまくいかなかったからFIT制から離脱したのだ、と思いたくないのです。
  この和田氏にかかると、この両国のFIT制離脱も、「成功して予想外に導入
が進んだ」結果だとしています。

 その「成功」とは、FIT制により、初期参入を狙った太陽光バブルが生じて、
政府の想定を軽々と超えた買い取り量になったからです。

 買い取り量が青天井などという馬鹿な話が世の中にありますか? それをドイ
ツはやってしまったのです。買い取り量が定まらないのですから、財政的裏付け
を与えることすらほんとうは無理なはずです。

 結果、予定した財源がショートして、全量買い取りが不可能になった、ただそ
れだけです。これを「成功」と言いくるめるのはいかがなものでしょうか。

 脱原発宣言以降、ドイツ社会には昨日触れたようにさまざまな障害がでました。
  電力供給は不安定となり、電力輸入国への転落し(*)、電力料金の高騰には
歯止めがかからず、「成功」した導入にもかかわらず国内グリーンエネルギー産
業は相次いで倒産に追い込まれました。

*)ドイツがグリーン革命以後電力輸出国になったというのは、諸条件が偶然に
揃ったわずか数週間にすぎません。すぐに輸入過超国に転落しました。

 つまり、買い取り量と供給量というFITの2大支柱が共に不安定なために、
FIT制は崩壊したのです。

 とどのつまり、ドイツ国民は原発の恐怖から逃れられたものの、社会・経済の
大きな不安定を味わいました。
  いやその安心すら、国境のすぐ隣には世界一の原発大国フランスがあるのです
から、原発事故が起きればドイツも一蓮托生であって、狭いヨーロッパには逃げ
場はありません。

 本来なら、EUレベルで共通認識を持つべきだったのにもかかわらず、ドイツ
のみが突出したためにこのようなことになってしまいました。

 メルケル首相の次期はないといわれるのは、EU危機を救うための巨額な財政
負担だけではなく、この性急すぎた脱原発政策の失敗もあると言われています。

 この数年同時にドイツで起きたことを真摯に総括しないで、それを「成功」と
呼ぶ、この姿勢からはしゃにむに現在の日本の脱原発の空気を利用しようとして、
みずからの主張を実現しようとする野心すら感じられます。

 電力輸入が容易にできる地域であるヨーロッパの「成功例」を、それが不可能
な上に、東西の電力融通すらできないわが国に模倣的移殖をする発想自体が間違
っているのです。

 過激な脱原発は短期間で終わり、その後に来るのはマーシャルの言う「反動」
です。


*資料


シュピーゲル「太陽光はドイツの環境政策の歴史で最も高価な誤り?」

 ドイツの雑誌シュピーゲルは、冬のドイツではよくあることながら、ここ数週
間、国内の太陽光発電設備がまったくといっていいほど発電していないこと、太
陽光発電設備のオーナーたちが80億ユーロ(8240億円)を超える補助金を
受け取ったにもかかわらず、全体の3%程度の、しかもいつどれくらいの量かが
予見不能な電力を生み出すに過ぎないと断じ、再生可能エネルギーに対する補助
金制度を見直す動きが活発化していると伝えている。

「補助金が引き下げになる前に」と、2011年に駆けこみで設置されたパネル
の発電量買い上げだけでも、今後20年間で180億ユーロ(1兆8500億円)
にもなるとの試算もあり、消費者が負担するサーチャージは間もなく1kWhあ
たり4.7ユーロセント(4.8円)、平均的な家庭で年間200ユーロ(2万
600円)もの負担増となる見込みだという。

 これだけ補助金を出しても、国内に還流され、産業が育つのであれば国民の理
解も得られるだろう。しかし、現実はそうはなっていない。ドイツに本拠を置く
世界最大手の太陽光発電メーカーQセルズ社の2011年売上高は、前年比で3
1%減少し(1~9月、3四半期間累計)、3億6600万ユーロ(377億円)
もの損失を計上している。2007年末には100ユーロ(1万300円)近か
った株価も、現在0.35ユーロ(36円)まで落ち込んでおり、早急な経営再
建が求められている。

 さらに言えば、ドイツ商工会議所(German Chamber of Industry and
Commerce)がドイツ産業界の1520社を対象に行なったアンケートによると、
エネルギーコストと供給不安を理由に、5分の1の会社が国外へ出て行くか、出
ていこうとしている。

 ドイツでは太陽光をどう位置づけるかが政権の基盤を揺るがしかねない問題に
なっている。野党だけでなく与党からも連携して、環境大臣に対し、今後の補助
金制度に対する見解を問う質問書を出したほか、連立を組む自由民主党(FDP)
のレスラー党首は、これまで太陽光補助金に反対してきたことを「売り」にする
など大きな争点となっている。

 電力インフラの整備には非常に長い時間を要するうえ、経済活動に与える影響
が大きいことから、高速道路の無料化のような社会実験はできない。それだけに、
諸外国の先行事例はその結果をよくよく分析すべきだろう。「欧米で導入してい
る」で突き進むと、同じ轍を踏む。「欧米で導入した結果どうなったか」が重要
である。

 「太陽光はドイツの環境政策の歴史で最も高価な誤りになる可能性がある」と
いうシュピーゲル誌の見解は、少なくとも日本でも広く共有されるべき認識であ
ろう。

出典 http://www.spiegel.de/international/germany/0,1518,809439,00.html

  (筆者は茨城県・行方市在住・農業者)

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