~有機農業新予算、取得せず!-有機農業推進法の精神からの大きな後退-~

■ 農業は死の床か。再生の時か。 濱田 幸生

~有機農業新予算、取得せず! -有機農業推進法の精神からの大きな後退-~

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■春の長雨は農家殺しです


  毎日雨が続き、春の農作業が思うに任せません。村じゅういらいらしているか
んじです。ともかく、掘らねばならないにんじんなどがあっても、かんじんの畑
にはいれないですから、イヤになります。
  グチグチャになっているのはとりあえずガマンするとして、弱るのは日照不足
でした。困った天候というのは数ありますが、日照りは灌水をすればしのげます
し、台風はそもそも人為的抵抗の方法がないのだから、はなからあきらめです。

 弱るのはだらだら続く長雨です。これは露地作物にはてきめんで、根腐れ病な
どの細菌系の病気が蔓延したりします。長雨で作物が日照不足で弱っているとこ
ろに、土壌も水を排水しきれずにいます。そこへ翌朝の快晴と高温が来ると、グ
ワッと病気が出たりします。
  まぁ今日はなんとかいい天気のようで、今度はいきなり20℃などというバカ
な高温にならないでほとほどにしてほしいもんです。しかし、天気は思うように
ならないんだな、これが。


■新予算(有機農業収益向上事業)は拒否します


 さて、気が抜けてしまいました。いえね、有機農業支援予算を取らないと決まっ
たら、なんかがっくりきました。財政的にどーたらということではなく、また一
からこの長い道のりを出直しかといった気分です。

 先日書店で見るともなく「アエラ」なんぞをペラペラはぐっていたらあの我等
が有機農業界の宿敵、レンポー女史が人物ルポで載っているのに出くわしました。
思わず、カーペっと唾でも吐いてやろうかと思ったのですが、まだ買ってなか
った。
  斜め読みしたら、彼女もあの宗教裁判長をしたときには、拒食症になったそう
な。まぁあの有機農業支援予算の時には眼もうつろ、肌はカサカサだったもんな。
それなりにすさまじい重圧だったんでしょう。ちっとも同情しないけど。目も
虚ろな者に切られたくはない。切られて血を流したのはこちらだ。泣きたいのは
ここまでの努力と、それにかけた夢を一瞬にして潰されたこちらのほうだ!

 このチョウチン記事には彼女のおかげで涙を呑んだ人たちのことは一行も出て
きません。「有機農業」の「ゆ」の字もなし。新聞にもスパコンばかりで、有機
農業支援が切られたなんてちっとも報道されなかったので、彼女の脳裏からも完
全に消えているのでしょうかね。というよりも、彼女にとって有機農業はおろか、
農業の知識や思いのひとかけらもなかったと思います。加害者は常にそんなも
んです。平気で足を踏みつけて気がつきもしない。

 この切られた予算の前提であった有機農業推進法を作り上げるまで大変な努力
が注がれました。そもそも「エコ」の声は世間に満ち満ちているものの、現実に
環境と農業の接点にいる有機農業に対しての支援は、今に至るまでまったくあり
ませんでした。
 
このような遅れた現状ではまずいと、国にしっかりとした有機農業に対する指
針をつくらせるべきだとして、有機農業者や学識経験者、有機流通団体、そして
少数の議員が立ち上がりました。

 しかし悲劇的なことには、国に有機農業の支援を要求していく運動の過程で、
大きな内部亀裂が生まれました。それはおおざっぱに言って、個人の小規模営農
をする農家と、それなりの規模をもった法人経営、あるいはJAの有機部会など
との体質の差に起因します。
 
長い間、在野で活動をすることを余儀なくされた有機農業の世界は、仲間が横
につながっていくことを苦手としている体質をもっていました。お恥ずかしい話
ですが、同じ町の有機農家とも交流をしたことがないというのも珍しくなかった
のです。実を言うと今でもわが地域はそうです。率直に言って、私たちの有機農
業界は他の農業分野よりも「つながる」、「拡がる」という点で大きくたち遅れ
ていたのです。


■有機農業推進法の限界


  このような根深い有機農業界の分裂を抱えながら、2004年に国会の全会一
致で有機農業推進法の制定をみます。奇跡のような成立でした。しかし案件の狭
間で、与野党の審議もないままに通過したというのが実態でした。
 
この法律は問題点を多数持って生まれました。まず、5年間という時限立法で
あり、また、地方自治体に推進法の成立を求めるという内容だったために、具体
性を大きく欠いた議員立法だったからです。

 具体的な予算措置もなく、具体的な行政のアクション・プログラムもない、総
論賛成的な法律だったのです。そのために現実には、各地の有機農業者が、こん
どは各自治体を相手に具体的な支援法を作れという要請行動をせねばならないと
いう二重底のような構造になっていたのでした。
 
つまるところ、実体的内容は各地の有機農業者が自分で作れと、国から投げ返
されるという実に奇怪な支援法だったのです。今になって考えてみれば、こんな
無責任な法律ってありでしょうかね?


■新予算のあきれ果てた内容


  わが国で最初に誕生した旧予算「有機農業モデルタウン事業」は、この有機農
業推進法に農水省の側から答えようとする意欲的なものでした。
  農水省は、いままでばくぜんとしていた有機農業推進法を、各県や市レベルま
で浸透させるために、国の直接採択事業としての支援モデルを作るつもりであっ
たと思われます。

 したがってそれなりによく考えられた予算でした。しかし、あえなく5年間継
続の予算がわずか2年目で、かの無知蒙昧の事業仕け人どもによって潰されてし
まいました。
  そして出てきたのが、真逆の性格を持つ「産地収益力向上事業」です。これは、
仕分人の指摘が、「収益性がみられない」と言ってきたからです。

 この有機農業支援新予算は、名称を「産地収益力向上支援事業のうち有機農業
推進」といいますが、なんか名前からしてして変に長いでしょう。そう、これは
「産地収益力向上支援事業」という既存の別枠事業に、コケてしまった有機農業
モデルタウン事業を無理やり押し込んだ結果の苦肉の策なのです。

 もともと産地収益力向上なんじゃら予算には、有機農業なんて分野なんかなか
ったのです。ところが、有機農業向け予算が、バッサリやられたので急遽、既存
の枠組みに突っ込んだだけです。ですから、旧予算、つまり有機農業モデルタウ
ン事業にあった理念の部分が完全に欠落しています。

 では費用対効果というこの新予算の概念に有機農業が乗れるのでしょうか。農
業を評価するパラメータを費用に対しての効果とした場合、当然この新予算のよ
うに産出額、つまり生産量となります。
  ならばお聞きしたい、私たち有機農業は単純に「産出額」というものさしだけ
で計れるようなしろものなのですか?

 実はこのエコノミーか、エコロジーかという問題は、古典的なテーマでした。
農業は、自分の生産基盤の土や水を一代で収奪してしまうわけではなく、次代に
更に豊かにして手渡さねばならない義務があります。さもないと縮小再生産にな
るからです。
 
農家は一代で終わる仕事ではありません。アメリカのようにこの土地がダメに
なったから別の土地に行こうなんてできるはずもありません。だから、自分の世
代に自分の土と水を痛めないようにと思って生きています。
 
ですから、農業がエコロジーを考えて農業をするのは当然で、この何十年かの
化学肥料と農薬に頼りきった農業のあり方のほうが異常だったのです。有機農業
というとなにか特殊な資材を使ったりすると思われている人もいますが,そうで
はなくごくあたりまえの農業に戻していこうとするありかたでした。

 つまりエコノミーを続けるためには、エコロジーが必要ですし、逆にエコノミ
ーなきエコロジーでは農業が趣味の菜園と同じになってしまいます。互いに互い
を条件にしている関係で、二者択一的なものではないのです。

 今回の新予算は、エコノミーとエコロジーを二項対立させて見ているようです。
ですから、目先のエコノミーの部分のみに焦点をあてて、その「産出額の増大
」だけを指標にしています。まったく有機農業の持つ長い視野、いいかえれば冗
長性を根本的に理解していないのです。いままで幾多の有機農業に対する理解を
聞いてきましたが、もっとも陳腐なタダモノ的理解と言っていいでしょう。
 
  民主党の「コンクリートから人へ」という戯れ言を信じた私たちが馬鹿でし
た。きれいごとはもうたくさんです。今彼らがやっていることはその正反対で
はありませんか!


■新予算をなぜ取得できないのか、具体的に見てみよう


  具体的にみていくと、農水省が新予算が採択の前提としている「地域協議会の
エリアの生産額」ひとつにしても、JA一本で米の単作というわけでもない私た
ちに、簡単に出せる数値ではありません。しかも、品目と単価まで出せ、という
に至っては現実の産地というものをまるで知らない官僚の作文です。
 
はっきり言って、わが行方地域は40数名もの有機農業者、5団体ものグルー
プがおり、それぞれが50品目近い作物を両手の数ほどの取引先と、これまたそ
れぞれに応じた価格で販売している行方地域の「地域産出額」とやらなど出すこ
とは不可能に近いと言っていいでしょう。
 
仮にそれを出せたとして、産出額を5年後に5%増し(*必ずしも5%にはこ
だわらないともいう)にしろなどとは空論もはなはだしい。私たちの地域はたぶ
ん産出額が地域のトータルで10億円規模あります。それをこんな年間400万
円規模のチャチな予算で、年間5%増しの5千万円伸ばせと・・・ご冗談もほど
ほどに。

 ほかにも、人材育成も隣町に新規就農してはダメで、協議会エリアに限るだと
か、協議会メンバーには人件費コストを支出しないとか、食育活動の生き物観察
などは販売効果を見るとか、もう話にもなりません。エコノミーとエコロジーが
一体化して出来ている有機農業を、エコノミーだけで裁断するとこうなるという
見本のような予算です。
 
説明会に出席した各地の有機農業推進協議会とも話を交わしましたが、皆ボー
ゼン、アゼン、怒る元気もなしの様子でした。こんな何に使ったらいいのかわか
らない、というより何にも使えない有機農業支援新予算、どうしたものでしょう
か?
 
で、よしんばこの新予算を取得(採択というそうですが)しても、次の年末の
事業仕分けに引っかかって廃止の可能性もあるとか・・・もうあきれ果ててしま
いました。

 こうして不毛な有機農業支援予算騒動は終わりつつあります。残ったのは、私
たちが元より根強く持っていた国家不信と、政治不信です。

        (筆者は茨城県在住・農業者)

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