~民主党政権誕生で沖縄はどう変わるか~

■A Voice from Okinawa (2)

~民主党政権誕生で沖縄はどう変わるか~  

                           吉田 健正
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 衆議院議員選挙で民主党が圧勝、鳩山由紀夫氏を首相とする連立内閣が誕生し
た。政権発足直前の段階では、官僚主導政治からの脱却、家計支援、医療、財源
、人事などが主な話題になっていたが、本稿では、政権交代が沖縄にどのような
変化をもたらし得るかについて、民主党のマニフェスト、「憲法提言」、「沖縄
ビジョン」、在沖米軍基地に関する鳩山氏の発言、連立合意などをもとに、米軍
基地と経済の問題を中心に検討してみたい。

 沖縄では、自由民主党はもっていた3議席(1議席は比例)をすべて失い、民
主党が初めて議席(一挙に2議席)を獲得したほか、民主と連立を組む国民新党
と社民党が各1議席、共産党も1議席(九州比例ブロック)を守った。県民は沖
縄が抱える課題について自民党政権に不信任をつきつけ、その解決を新政権に託
したのである。県出身の衆参議員は、結束して沖縄の課題を新政権に発信し、解
決を迫る「うるの会」を発足させた。

 沖縄は、1945年の沖縄戦このかた、米軍基地の重圧(強制的土地接収、米軍関
連の事故や事件、数々の人権侵害、生物化学兵器や劣化ウラン弾を含む弾薬の保
管・演習使用・積み出し、爆音、国外への進撃等)と、市街地に及ぶ広大な基地
面積(本島全体のおよそ15%)、日本本土との地理的距離(→製造業不振、割高
な流通コスト)や島嶼性(小さい市場)、少ない資源などによる経済不振に苦し
められてきた。本土復帰後も住民より米軍優先の日米地位協定が、それを改定し
ようとしない日本政府への大きな不満を生んだ。経済は、復帰前後以来、国庫支
出金や地方交付税、基地を抱える市町村への基地周辺整備費や基地交付金に対す
る依存度が高いが、産業促進にはつながらず、失業率は全都道府県の中で最大、
県民所得は全国平均の7割でありながら、年間1千万円以上の高額所得者比率は全
国9位というひずみもある。


◇沖縄ビジョンとマニフェスト


  さて、民主党は2005年8月、「沖縄ビジョン(改訂)」を発表している。同党
は、菅直人氏と鳩山氏が中心になって結成してまもない1999年に「沖縄政策」、
翌2000年には「日米地位協定の見直し案」を提示、02年には那覇市で「21世紀沖
縄ビジョン」を発表しており、新しい「沖縄ビジョン」はその改訂版だ。
 
改訂版「沖縄ビジョン」は、沖縄戦やその後の米国統治、本土復帰、中国・朝
鮮半島・東南アジアとの歴史的交流などを踏まえて、いくつかの提案を行ってい
る。
その第一は、
(1)「航空管制権及び基地管理権の日本への全面的返還を視野に入れた日米地
位協定の「大幅な……改訂」の早期実現、(2)普天間航空基地の返還や在沖米
軍基地の整理・統合・縮小を決めた「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」
合意(96年12月)の着実な実施と「更なる整理縮小を検討する「SACO2」の設
置、(3)「SACO2」による兵站施設、通信基地、遊休地の返還と海兵隊の海外移
転、(4)普天間基地の即時使用停止と海外移転、(5)思いやり予算の削減、(6)基
地縮小後の跡地利用支援、(7)在沖米軍問題協議への沖縄県の参加、(8)騒音被害の
解消、といった米軍基地対策。第二は従来の補助金・優遇措置依存型ではなく、
沖縄の「魅力や特性」を活かした「自立型経済の構築」、第三は「東アジア、更
には世界の知性が集まり交流する「学問・研究の沖縄」への整備、第四は自然環
境の保護……など。

 民主党が7月27日に発表した「マニフェスト」は、「沖縄ビジョン」の米軍基
地に関する文言をかなりトーンダウンし、普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を国
外、国内県外、県内に移設するのかにも触れなかったが、「日米地位協定の改定
を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」と
約束した。民主党が、「日米同盟」重視という名のもと、在沖米軍基地の問題や
在日基地の再編を米国主導にまかせ、日米地位協定も「運用改善で済ます」とい
う自民党政権との違いを見せたことには、注目したい。

 9月9日には民社、国民新党と、このマニフェストの文言をそのまま踏襲した政
策合意が成立した。連立合意は、普天間基地の県外移設という具体策にまでは踏
み出せなかったが、鳩山氏は選挙運動で「普天間飛行場移設は国外、最低でも県
外」と言明している。日米間の県内移設合意の解約・再交渉に米国が応じるかど
うか、という不確定要素がある。しかも、普天間基地を国内他府県に移設すると
なれば、これまでのように移設候補地の強い抵抗に遭遇するだろう。しかし、連
立合意の「沖縄県民の負担軽減」という大前提をくずせば、自民党政権との違い
が消えてしまう。


◇平和国家、国連憲章に基づく集団安保体制


  民主党が、改訂版「沖縄ビジョン」の2か月後に発表した「憲法提言」は、日
本のあるべき憲法の姿を、「国民主権」の基本に立って「国家権力の恣意的行使
」を抑制し、「国家権力からの国民の自由を確保」するとともに、「国際社会と
共存し、平和国家としてのメッセージを率先して発信するものでなくてはならな
い」と規定している。「国際社会との積極的な協調」や「世界やアジア諸国」と
の信頼構築、憲法9条に基づく「徹底した平和主義」と「国連憲章に基づく集団
安全体制」を唱え、対米従属的でない、日本としての主体的な姿勢を鮮明にした
。過剰なポピュリズム(大衆迎合主義)とは異なる国民主権も、原点に立ち返っ
て実施し、日本に真の民主主義を根付かせて欲しいものだ。選挙結果は、多くの
国民が近年の右翼的・国粋主義的潮流に「ノー」をつきつけたものと解したい。

 鳩山氏の「私の政治哲学――祖父・一郎に学んだ「友愛」という戦いの旗印」
が、PHP研究所発行のVoice9月号に掲載された。英訳の一部が8月26日付の「
ニューヨーク・タイムズ電子版」に転載されて、「冷戦後の日本は、アメリカ発
のグローバリズムという名の市場原理主義に翻弄されつづけた」「『自由の経済
的形式』である資本主義が原理的に追求されていくとき、人間は目的ではなく手
段におとしめられ、その尊厳を失う」「日米安保体制は、今後も日本外交の基軸
でありつづける(が)(中略)、同時にわれわれは、アジアに位置する国家とし
てのアイデンティティを忘れてはならない……」といった文言が米国のメディア
や日本の保守派を刺激し、オバマ政権内には日米関係の冷却化を懸念する声が出
ているという。

 しかし、対米「自立」による関係悪化を懸念する向きには、米国と地理的・経
済的にほぼ一体化しているカナダが、ブッシュ前大統領の「単独行動主義」に異
を唱え、対イラク攻撃に参加しなかった事例を想起していただきたい。カナダ国
民の大多数は政府決定を支持した。ブッシュ大統領も「もっとも近しい友人でも
ときには意見が違うこともある」と述べ、カナダに対して報復措置を講じること
もなかった(拙著『カナダはなぜイラク戦争に参戦しなかったのか』高文研、20
05)。

 日本が主権国家として、米国との関係を「対等」なものにするのは、過去60数
年間の大きな課題であったはずである。冷戦の最悪期に結ばれた日米安全保障条
約が締結50周年(2010年)を迎えようとする今、日本が日米安全保障体制を「日米
外交の基軸」にしつつも平和主義や「アジア太平洋地域に恒久的で普遍的な経済
社会協力及び集団安全保障の制度の確立」を目指すのは、沖縄にとっても大きな
転換になるだろう。こうした憲法観・安全保障観に基づいて「基地管理権の全面
的管理」や普天間基地の閉鎖を含む米軍基地の「大幅縮小」を盛り込んだ「沖縄
ビジョン」が実現すれば、日本だけでなく、沖縄の「戦後」もようやく終焉に向
かうことになる。自民党政権が隠してきたさまざまな「密約」も明らかにされる
だろう。


◇選挙が示した沖縄の民意


  普天間基地について、仲井真沖縄県知事は、「県外移設がベスト」と言いつつ
も同基地の早期「危険除去」を理由に、日米合意された県内移設案の遂行に拘っ
ている。しかし、1996年12月の日米合意から13年近く経ったが、危険は除去され
ていない。名護市長も地元・辺野古への移設を容認している。おそらく過疎地の
経済救済が理由だ。対米交渉にも困難が予想される。

 しかし、沖縄選出のすべての議員は、同基地の閉鎖、基地縮小、日米地位協
定の改定を掲げて選挙戦を闘い、沖縄の民意を背景に当選した。沖縄は、県知
事、自公が制する県議会、名護市長を含め、民主党連立政権誕生を基地問題解
決→沖縄再生の千載一隅の好機ととらえ、沖縄ビジョン、憲法提言、マニフェ
スト、選挙中の党首脳の発言、連立合意を実施させるべく、一丸となって政府
に迫るべきだろう。そうでなければ、嘉手納町の82・5%、金武(きん)町59
・3%、北谷(ちゃたん)町の52・9%、宜野座村の50・7%、沖縄市の34・5
%、宜野湾市の32.4%に及ぶ、日米地位協定に守られた米海兵隊・空軍・海軍
・陸軍基地の現状は変わらない。
 
同時に、「沖縄ビジョン」や地元の意見にさらに知恵を結集して、東アジア諸
国に近い沖縄の地理的・気候的・文化的魅力を活かした自立産業の発展と、基地
整理縮小に伴う跡地の有効利用や雇用対策にぜひ力を入れて欲しい。
  沖縄はようやく「戦後」から脱却し、日本の政治・外交・経済・社会も、強力
な執行部のもと、革命的再生を遂げ得るか。期待を込めて、公約実現を働きかけ
ることにしよう。

               (筆者は沖縄在住・元桜美林大学教授)

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