~沖縄の海兵隊はグアムへ移転する~

■ A Voice from Okinawa (15)   吉田 健正

~沖縄の海兵隊はグアムへ移転する

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  『米軍のグアム統合計画 沖縄の海兵隊はグアムへ行く』(高文研)を上梓し
てから10か月がたった。今年7月、米軍は「環境影響評価案」に対するさまざま
な意見を採り入れた「最終報告書」を、そして9月にはそれに基づく「決定書」
を公表した。これにより、グアムにおける基地建設にいよいよゴーサインが下っ
たことになる。


◆「決定書」はほぼ当初案通り


  基地建設計画については、「評価(アセスメント)案」と「決定書」の間に大
きな違いはない。海兵隊基地については、先住民チャモロのパガット村遺跡があ
るグアム北東岸における実弾演習場建設計画を見直すこと、の一点だけで、フィ
ネガヤン地区での司令部施設や家族住宅などの整備、アンダーセン空軍基地(北
東飛行場)の海兵隊飛行場としての整備、その他の訓練施設については、原案通
りとされた。
 
  実弾射撃演習場については、グアム政府関係者がグアム内の既存軍用地かテニ
アン島に建設するよう国防総省に要請しているが、同省はいずれの案にも否定的
で、打開策として基地内に遺跡に通じる道路の新設をグアム政府に提案している
という。
 
  また、海兵隊員と家族、島外基地労働者と家族、海兵隊員と家族の急速な増加
によるインフラ(上下水道、電力、ゴミ処理場など)への圧力を減らすため、工
事と海兵隊移転の期間を拡大し、その完了を二〇一四年から一七年までずらす可
能性も視野に入れることにした。
 
  他には、サンゴ礁への影響を避けるため、「評価案」に寄せられた意見を下
に、アプラ港で予定されていた原子力空母埠頭の建設予定地を港内の別のところ
に移す、陸軍ミサイル隊の移駐は戦略的な理由で再検討する、といった程度だ。
  基本的には、海軍や国防総省のほぼ原案通り、在沖海兵隊の8600人と家族9000
人がグアムに移転する、そのために日米共同でグアムに受け入れ施設とインフラ
を整備することには変わりない。


◆日米の予算


  日本政府と米国政府はそのための予算措置も講じている。
  防衛省サイト「在沖米海兵隊のグアム移転について」によれば、日本政府は海
兵隊の司令部庁舎、教場、隊舎、学校等生活関連施設に上限28.0億ドルの財政
支出、家族住宅に25.5億ドルの出資・融資・効率化(「効率化」により、4.2億
ドルを減額できるという)、電力・上下水道・廃棄物処理のインフラに7.4億ド
ルの融資を、米側はヘリ発着場、通信施設、訓練支援施設、燃料・弾薬保管施設
などの基地施設に31.8億ドルの財政支出、道路に10億ドルの融資または財政支
出を行うことで合意している。
 
  こうした事業を執行するため、日本の防衛省は、平成21年度予算に総額353億
円の工事費と設計費、平成22年度予算に479億円のほか日本政策金融公庫向けの
交付金4億円、グアム移転事業室経費として7億円を計上した。
  日本政策金融公庫の国際協力銀行(JBIC)を通じて行われる、「民活事業」を対
象とした日本の出資や融資は、「米国が支払う家賃や使用料により将来回収され
る」という。
 
  一方の米国政府は2010会計年度(2009・10~09年9月)国防予算に約3億ドル
(約309億円)の工事費、2011会計年度の予算教書に約4.52億ドル(約425億
円)の工事費・設計等経費を計上した。


◆日本は海軍施設整備費、民活事業経費も負担


 
  ところで、日米「ロードマップ」合意も防衛省サイトも、上記の予算措置は「
在沖米海兵隊のグアム移転関連経費」だと言う。ところが、ここには、海兵隊用
の司令部施設、家族住宅、体育施設、消防署、食堂などだけでなく、海軍が使用
しているアプラ港湾地区での港湾運用司令部庁舎の診療所の設計や建設工事も入
っている。
 
  加えて、日本政府は日本政策金融公庫を通じて、米国政府が手当てと米軍人に
提供する家族住宅の整備に出資・融資する。融資の返済については協定等に明記
されていない。防衛省サイトによれば、融資は「家賃」として日本政府が選んだ
事業体に返済されるというが、「出融資等が償還されるよう、然るべく日米間で
検討・協議中」ともあり、はっきりしない。
 
  もうひとつの民間活力(民活)事業であるインフラ整備も、あいまいだ。防衛省
によれば、日米間で検討されているのは、海兵隊のインフラ需要に加えて、海軍
や空軍などの需要、そして「軍需及び民需を含むグアム島全体」の需要だとい
う。米国の領土でアメリカ市民が住むグアムで、日本政府が国民の税金で「軍需
及び民需を含むグアム全体」のインフラ整備を行う、というのである。


◆政府はなぜ説明しない?


 
  こうした事実は防衛省サイトで公表されているが、初めて知る方も多いだろう。
  第一に、日本の日米同盟を中心とする対外関係、軍事、財政に深く関わること
でありながら、自民党政権と同様、鳩山首相および管首相下の民主党政権が、20
06年の日米同盟でコミットしたグアム基地建設計画の進展について、国民に一切
報告していない。
 
  普天間航空基地の航空部隊が海兵隊司令部とともにグアムに移転すれば、日本
防衛の「抑止力」が失われると強調するだけで、それではなぜ米国がグアムの軍
事拠点化に踏み切り、なぜ日本がグアム基地の施設・インフラ整備費に61億ドル
も支出するのか、計画は今どういう段階にあるのか、融資への返済はどうなるの
か、沖縄に残留する海兵隊はどのような任務を負うのか、なぜ沖縄県内に普天間
の代替施設が必要なのか、ワシントンから伝わってくる「遅れ」はほんとうなの
か、説明しない。 
 
  野党議員も質問しない。そもそも米国と「ロードマップ」合意に応じた旧自民
党と自民党系の少数政党だけでなく、他の野党も問い質そうとしない。安保に関
しては、沖縄を除いてほぼ翼賛体制が成立しているようだ。


◆なぜメディアは検証しない?


  第二に共同通信を含む主要メディアが、日本政府が経費の6割以上も負担する
海兵隊グアム移転や、それを契機とする米国のグアム軍事拠点化計画について、
例えば防衛省や内閣官房に質問・検証してこなかった。安保をめぐる「翼賛態
勢」も容認している。
 
  メディアから伝わってくるのは、インフラの不整備や、上記射撃訓練場を予定
より早めに組んだことを理由に、議会の委員会や小委員会が予算を削減し、結果
的に海兵隊移転が遅れるというワシントンの「関係筋」からの情報ばかりだ。中
でもワシンントン情報筋の操作ターゲットにされているらしい共同通信は、まる
でこれら匿名情報源の代弁者のごとしである。
 
  しかも、9月22日のワシントン発共同電が「グアムの基地拡張に伴う基盤整備
の資金計画の決定は、日本側による追加負担の検討を待つために見送られた」と
報じたように、遅れの原因を日本側の責任にする記事が多い。

 国民の税金から出される上記の融資については、「読売新聞」のワシントン特
派員が、グアム水道事業庁は「利用料収入の低迷などで多額の負債を抱えてい
る」と述べた上で「環境影響評価書(最終版)」も「借金はおそらく返済不能だ
ろう」「もし日本政府からの必要な資金の獲得に失敗したら、資金拠出が行われ
るまで事業の発注を延期する必要がある」と明記していると書く(電子版、8月
7日)。しかし、米側の「返済不能」を追究することなく、発注の「延期」を日
本のせいにする米側の主張をそのまま伝えるだけである。いったい、この新聞は
どこを向いているのだろうか。


◆海兵隊はグアムへ移転する


  あたかも移転が遅れて、在沖海兵隊のグアム移転計画は消滅、という印象さえ
与えるが、計画は着々と進んでいるのである。上記の共同記事は、最終決定書は
「2014年の移転完了の先送りを明記」と伝えているが、決定書にはそのようなこ
とは「明記」されていない。議会による予算カットはあったものの、まだ最終的
なものではない。「環境影響評価書」が懸念する日本の融資7億4000万ドルにし
ても、日本政府は明確に約束している。米国が返済を確証しさえすれば、ただち
に融資されるはずである。
 
  国防総省やグアム統合基地化計画を統括する海軍「統合グアム計画室」は、工
事完了と海兵隊移転の完了目標タ-ゲット(目標)が2014年であることに変わり
はない、と繰り返し主張している。少なくとも、工事の進行に従って、在沖海兵
隊員とその家族がグアムに移転することには間違いない。


◆進む事業契約 


  防衛省サイトを見れば、すでに多くの事業が進行中だということが一目瞭然で
ある。例えば診療所の設計は今年2月、診療所以外の設計は1月に米海軍エンジニ
アリング本部を通じて契約済み。日本政府が財政負担する他の事業(海兵隊司令
部地区の整備など)についても、米国で入札公告中だという。
 
  今年10月には、米海軍が、アプラ港施設内での軍用作業犬舎移設の契約を交わ
したほか、アプラ港埠頭の整備に関する設計・工事についても米国企業と総額1
億8600万ドルの契約を交わした。


◆沖縄の民意を代弁しない日本政府


  沖縄では、危険な普天間航空隊基地の早期閉鎖・返還を求め,沖縄県内への移
設に反対する声が強い。しかし、日本政府は、1兆円とも言われる建設費を負担
してまで県内移設を容認し、垂直離着陸機オスプレイの配備も認める意向だ。在
沖米軍基地に関する限り、日本政府が米国に住民の要請・要求を伝えることはほ
とんどない。米国がその都合で海兵隊グアム移転計画を変更しても、あるいは費
用負担の増額を求めても、異議申し立てはしないだろう。日本はまるで軍事超大
国・米国の国際戦略の応援隊になったようである。

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