~減反・この日本農業の宿痾(その2)~

■ 農業は死の床か。再生の時か。

~減反・この日本農業の宿痾 (その2)~        濱田 幸生

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「日本への輸入農産物は、9割が低関税、1割だけが超高関税の謎」

 よくこのような非難を私たち日本農業は浴びています。
「日本への輸入農産物には一部の農家を保護するために米のように高関税がか
けられている。そのために日本の消費者はクソ高い農産物を買わされて著しい
不利益を被っている。日本の農産物を自由化せよ!」・・とまぁこんな感じで
しょうか。

 そこでひとつのデーターをご覧頂きたいと思います。出典は「現代の食糧・農
業問題」(鈴木宣弘 創森社)です。データーは2000年のウルグアイラウンド終
了時のもので、やや古いのですが、まぁ現在も大きな差異はないと思います。
  日本の農産物にかけられる関税の平均は11.7%。EU平均は19.5%で
す。韓国も62.2%の関税をかけています。
 
面白いのは、発展途上国の関税ガードが高いことです。インドネシア47.2
%、フィリピン35.3%、インドなど124.3%(!)です。
  これを見れば一目で、お分かりいただけると思います。日本が輸入農産物にか
けている11.7%など世界で希なる低関税だということが。

 日本は好むと好まざるとにかかわらず、WTOの優等生であることがわかりま
すね。そりゃそうでしょうとも、日本の国是は戦後一貫して貿易立国、つまりは
輸出依存でした。そのような体質の国が自分の国の関税ガードを高くしておいて、
輸出攻勢もないもんだからです。

ん、なんですと?輝け世界一の低関税国は米国の5.5%だろう、って?まぁ確
かに。しかし、米国と日本を比べることのほうがおかしい。米国のような世界中
からドル決済の輸入品を吸い上げることで、ドルという基軸通貨を吸引ポンプの
ように世界に循環させていたという特異な構造の「ドル帝国」(これの危険性が
去年末にバレたわけですが)だからです。もしどうしても比べるのなら、国の面
積や生活レベル、工業化水準が近いEUでしょう。

 EUは、19.5%、日本は11.7%です。ノルウエーなど127%です。
これでも日本の関税が高いというなら、なにを見て、どの部分でそう言っている
のか論拠のデーターをみたいものです。
でなければ、スーパーにあんなに外国産農産物が溢れますか?牛肉や豚肉(*肉
類は関税ではなく輸入量制限)の半分は米国や豪州でしょう。果汁の大部分は外
国産です。日本のリンゴ農家はミツバチがない、売れないなどの大変な危機に陥
っていますが、その原因は、この果汁にシフトできなくなったことにあります。

 輸入農産物にかけられる関税の大部分、いや9割は平均3%以下で、これを超
えるのは乳製品、コンニャクや落花生、エンドウマメです。消費者が買う主要な
農産物である青菜類やキャベツ、カボチャ類などの野菜は関税ゼロ、ないしは低
関税なのです。

 今、国産の野菜が盛り返してるのは、関税のガード故にではありません。あま
りに度はずれて輸入農産物の斬り込み隊長だった中国産農産物がハチャメチャだ
ったためです。自業自得、自爆チュド~ン!のケースです。
  そしてその揺れ戻しとして、安全安心の「国産プレミアム」が認知されてきま
した。またこの「国産プレミアム」の浸透には、地域の農産物の直販所の浸透拡
大も大きかったと思います。

 さて、このようにコメ以外の農産物にほとんど関税がゼロ、平均3%。たった
1割の輸入関税が他の国に例を見ないほど高く、一方9割はないに等しい、とい
うことをわかっていただけましたでしょうか。日本の農産物は関税なんかで守ら
れちゃいないんです。その味の良さと作りの良さ、そして国産であることの安心
感という「国産プレミアム」という自分自身の力で守っているのです。

その部分を抜かして、コメの超高関税を一事が万事と言わんばかりの、なにも
調べてこないで「国産は自由化されていないから高い」などと書き散らす経済
評論家、たとえば長谷川某氏、竹村某氏など、まだまだいる有象無象などの輩
に私は心底腹を立てているのです。こんな奴らはみなまとめて野ツボにはまっ
て、嫌気性発酵してしまえ!(市民語訳「クソツボにはまってコヤシになって
しまえ!」)

 さて、こんな悪態をついていたら紙幅がなくなってきました。減反は一般的に
「農家のためでしょう」とスラっと思われているようです。さてそうなんですか
ね。半分は正解、半分は大ハズレ。兼業農家が今や米作りの大勢になります。そ
のような兼業農家、いわばパートタイム農家の利害のために減反という生産制限
トラストが作られているのです。

 簡単に「農家」とひとくくりにできるほど、日本の農業構造は簡単じゃないん
です。一年に1週間も畑や田んぼに出ない人まで、「農家」でカウントしている
のが、今の日本なのです。この問題こそが日本農業の宿痾ですので、別稿にまわ
しますが、それを理解しないでベタで「農家のためでしょう」って安直に言われ
ましてもねぇ、私ら主業農家(専業農家)は困りますよ。

 じゃあ、輸入関税を廃止し、減反を止めたら安くなるのかといえば、さてどう
でしょうか。なるほど普通の自由競争ははじまるでしょう。しかし、競争=安く
なるという現象になるかどうかは分かりません。一時は確かに60キロ1万円(
現在の相場は60キロ13000~14000円)を切ると予想されています。
農水省は「半値になる」とまでのシミュレーションを出して煽っています(「日
本農業新聞」4月23日)。
 
私はそんな簡単なことにはならないと思っています。なぜなら、競争は単純な
安値化ではないからです。価格競争は他の産地を潰すか、自分が潰れるかのチキ
ンレースにすぎません。本来の競争とは、価格だけではなく、その質と価格によ
る相関関係こそ問われるべきだからです。

 今ですら既に質による大きな価格差がでてきています。コメがうまくないと揶
揄されているわが茨城でも筑波山麓や奥久慈などでは地域ブランド化がうまくい
っていますし、ガス乾燥によらない天日干し米、さらには私の友人たちなどが努
力しているアイガモ農法のコメなどは目を見張るほど美味しいわけです。

 美味しい、そして安全である。さらには、コメの美味しさの源である里山の湧
き水の清浄さ、つまりは地域の水や土などの環境の素晴らしさをトータルに評価
されていく「競争」でなければなりません。競争は価格だけではないのです。質
や安全性、さらには環境との関わりまで含めてあるのです。
 
ですから私は、自由競争が価格の低落につながるとだけは思っていません。む
しろ価格の分化がすすむと思っています。皆がお国の音頭のもとに減反という生
産制限カルテルで価格統制をするのは、完全な間違いですが、かといって安価の
みを狙った競争もまたメダルの裏面でしかありません。
「そんなこと関係ないや、ただひたすら安ければいいのさ」と言うなら、MA
米のシャリで寿司をお食べになったら?それはそれは安いですよ。

           (筆者は茨城県在住・農業者)

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